コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第十四章―再生と創造―#1

 

「リゼ───訊きたいことがあるんだが?」

「はい、何でしょう、レド様」

 

 ジグとレナスと手合わせをするために二人の許へ向かおうとしたところで、レド様に声を掛けられ、私は足を止めた。

 

「その格好は?────何で…、今その格好に替えたんだ?」

 

 今の私の格好は、ラナ姉さんに“失敗作”で作ってもらった巻きスカート風のワンピース姿で、それに特注で作ってもらった魔玄のストラップ付パンプスを履いている。

 

「あ、これですか?このワンピースは、ラナ姉さんが作ってくれた補佐官用の服なんです。この格好で戦うこともあるかもしれないですから、慣らしておこうと思いまして」

「そうなのか…。────さすがラナだ。リゼはそういう格好も似合うな。とても綺麗だ」

「…っありがとうございます」

 

 レド様に綺麗だと言われると、やっぱり嬉しくなってしまう。

 

「だが、何故、俺との手合わせの後で────しかも、ジグとレナスとの手合わせでなんだ…?」

「この格好で戦うとしたら、得物は小刀で、相手は暗殺者の類になります。ジグとレナスの得物は暗器が主ですし────二人との手合わせは、人間相手の接近戦の習練にはもってこいですから」

 

「それ…、ラムルかカデアのときでは駄目なのか?」

「勿論、ラムルとカデアとも、この格好で手合わせしてもらうつもりです」

「………そうか」

 

 レド様が何を気にされているのか正直解らなかったが────レド様は諦めたようで、次の手合わせ相手であるラムルの許へと向かっていった。

 

 

「では────始めましょうか。よろしくお願いします、ジグ、レナス」

 

 私が、前世からの習いで二人に向かって一礼すると、二人も頭を下げてくれた。

 

 私は、まだ小刀を取り出さず────徒手のまま、両手を下げて佇んだ。ジグとレナスが、同時に動き出し、私を目指して(はし)る。

 

 ある程度近づいたところで、ジグが両腕を振るって、私に向かって6本ものナイフを一気に投げた。

 

 私は後ろ身頃に設けられている左右のポケットに手を入れ、それぞれ小刀を手に取る。

 

 両手の小刀で絡めとるようにして、私に接近しようとしているレナスの方へ、ジグのナイフを弾き飛ばした。

 

 それに気づいたジグが足を遅め、レナスに向かったナイフを【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で取り寄せる。

 

 足を止めることなく接近してきたレナスが、短剣を繰り出す。私はそれを小刀の峰に載せるようにして軌道を逸らし、体勢を崩したレナスの腹に向かって蹴りを放つ。

 

 レナスが蹴りを避け後ずさると、レナスを追おうとしていた私を阻むようにジグのナイフが襲ってきた。

 

 今度は、ジグとレナス────両方に向かうように、左右それぞれ弾く。

 

 私は地を蹴り、【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】でナイフを取り寄せようとしているジグへと奔った。ジグに向かっているナイフの追撃のように、持っている左右の小刀を投げる。

 

 そして、奔りながら新たな小刀をポケットから取り出した。ナイフと小刀を短剣で弾いたジグに、私は両手の小刀を振るった────

 

 

 しばらく、そうした攻防を繰り返し────切りのいいところで、武具を下ろす。

 

「ジグ、レナス────どうでしたか?」

 

 実は、ジグとレナスに、自動的に魔力を循環させる───自作のピアスを渡していた。

 

 これは、レド様に差し上げた【記念のピアス】の劣化版で────常時循環させるのでなく、キーワードで作動し、魔力を強制的に廻らせるようになっている────私が創った魔導機構もどきだ。

 

 ジグもレナスも、契約によって魔術の発動には私とレド様の魔力が使われるのだけど────二人とも、私やレド様には及ばないものの、それなりの魔力を持ってはいるのだ。これを使わない手はない。

 

 それで、二人の自前の魔力の方は、魔力循環で身体能力強化に使ったらどうかな────と思いついたというわけだ。

 

 手合わせをした感じ、かなり身体能力が向上していたと思うけど────

 

「見えそうで見えない────とても良いと思います」

「ええ、最高でした」

 

 ジグが真顔で答え、レナスが満足げに頷く。

 

「ええと…?」

 

 どういう意味?

 私が首を傾げていると、レド様がこちらにやって来た。

 

「ジグ、レナス────今度は俺と手合わせをしてくれるか?」

 

 レド様が、にこやかに言う。何故か、こめかみに血管が浮き上がっているけど…。

 

 

「では、リゼラ様、今度は私と手合わせ願えますか?」

 

 レド様が二人に猛攻を仕掛けるのを眺めていると、いつの間にかラムルが側に立っていた。

 

 ジグもレナスも対人戦ではかなりの実力を見せるが────ラムルとカデアはその上をいく。

 

 レド様や私のように、魔力で身体能力を強化しているわけではないからこその───本当に無駄のない最低限の動きと、長年の経験が高じての察知能力は、目を見張るものがあった。

 

 特に────カデアが、あのふくよかな体型が嘘のように軽やかに動くのは、見事としか言いようがない。

 

 以前、ジグとレナスが二人のことを『ファルリエム辺境伯家門でも屈指に入る実力者』と称したけど、そう言われるだけのことはある。

 

 ラムルやカデアほどの実力者との手合わせで得られる経験は、実戦にも勝ると言っていい。

 

「ええ、それではお願いします────ラムル」

 

 

◇◇◇

 

 

 今日は、孤児院を【拠点(セーフティベース)】に登録しに行くことになっている。

 

 国への手続きはとっくに終わっていたのだが、【最適化(オプティマイズ)】をすることを考えると────すべての子供たちに出かけてもらう必要があったので、その調整の関係で今日まで延びたのだ。

 

 子供たちには皇都近くの農村で、手伝いを兼ねた農場での職業体験をしてもらうことになっている。

 

 引率するのは院長先生と、年長の子供たち。勿論、年長の子供たちには仕事を休んで来てもらうので、ちゃんと手当てを払うつもりだ。

 

 どうやって孤児院を空けてもらうか、結構悩んだ。

 

 魔物や魔獣が出ることを考えるとピクニックなんて論外だし、ある程度育った子供たちはともかく、いつも孤児院で留守番しているような幼児たちは行く当てなどない。

 

 そこで思い出したのが────名作を元に作られた子供向けアニメのエピソードの、孤児たちが収穫期だけ農場で手伝いをさせてもらうという下りだ。

 

 これだ───と思い、知り合いの農家に頼み込んだ。

 

 その農家のご主人は、不愛想だけど、とても優しい人で────ギドさんのお店に野菜を卸していて、その余剰分を、いつも孤児院に安く卸してくれる。

 

 ギドさんの店に卸した後に孤児院の方へも持ってきてもらっていたが、最近は私が直接、農場へ買い出しに行っていた。

 

 持ってきてもらうと限られた量しか買えないし────農場に行けば、余剰分だけでなく、店には卸せないような傷んだものなども、かなり安く譲ってもらえるので本当に助かっている。

 

 今回の件も快く引き受けてくれ、感謝しかない。

 

 孤児院へはラムルとカデアも一緒に出向き、荷物の片付けなどの手伝いをしてくれることになっている。アーシャとも合流予定だ。

 

 そして────レド様も一緒に行くと申し出てくれた。そうすると、自動的にジグとレナスも一緒に向かうことになる。

 

 今日は初めての総出というわけで────何だかわくわくしてきて、お弁当作りもはりきってしまった。

 

 

「それでは行こうか、リゼ」

「はい、レド様」

 

 差し伸べられたレド様の大きな手を、そっと握る。私から手を握ったあのときから、レド様は手を繋ぐのが気に入ったようで、こうして事あるごとに手を繋ぎたがるようになった。

 

 私としては嬉しいけど、その少しひんやりとした手に包まれてドキドキするやら、周囲の生温かい視線にいたたまれないやらで、ちょっと複雑だ。

 

 

 

 【転移門(ゲート)】でロウェルダ公爵邸に跳ぶと、そこにはシェリアとカエラさん、アーシャが待っていた。

 

「おはようございます、殿下、リゼ」

「リゼねえ、ぁ────リゼラ様…、旦那様、おはようございます!」

 

 アーシャは、支給品の侍女服姿だ。

 

 ジグとレナスに渡したものと同じ素材の───漆黒に近いダークグレイの詰襟の膝下丈の簡素なワンピースに、フリルで縁取られた白いエプロン。

 

 肩につかないくらいで揃えられた───波打つピンクゴールドの髪を押さえるように頭に巻かれているのは、エプロンのフリルと似たような白いヘッドドレス。

 

 それに、編み上げの漆黒のショートブーツ。ちなみに、このブーツも支給品である。

 

 この───前世でいうところの“シックなメイド服”姿は、髪色以外は“白人”のような容貌のアーシャには似合っていた。

 

 ありていに言うと、物凄く可愛い“メイドさん”だ。“お兄ちゃん”がいたら、大興奮するに違いない。

 

「おはよう、シェリア。────おはよう、アーシャ」

 

 私が声をかけると、アーシャが嬉しそうに破顔して、駆け寄ってきた。

 

「もう、出かけられる?」

「うん────じゃなかった、はい…!」

 

 

 シェリアたちに挨拶してから、アーシャを連れて【転移(テレポーテーション)】で街中へと跳ぶ。

 

 レド様と二人だけならともかく、この集団では目立つことこの上ないので、【認識妨害(ジャミング)】を発動させながら孤児院へと歩いて向かった。

 

 一気に跳ばずに歩くのは、レド様たちに孤児院の場所を把握してもらうためだ。

 

 孤児院を拠点登録すると決めてすぐ、レド様を院長先生に引き合わせたのだけれど、そのときは時間もなく、孤児院の一室に【転移(テレポーテーション)】したので、レド様とジグとレナスが外から向かうのは、これが初めてなのだ。

 

 【転移門(ゲート)】が使えなくても自力でも辿り着けるように、場所を認識しておいてもらった方がいいと考えてのことだ。

 

 孤児院は、皇都の外れに位置していて────いつもの大通りを抜け、さらに平民街に入り、低所得者たちの住まうエリアを奥まで進んで行くと、皇都をぐるりと囲う高い城壁の手前にひっそりと建っている。

 

 

「……随分、街から離れているんだな」

 

 平民街を歩きながら、レド様は何か思案しているのか眉を寄せて呟いた。

 

「レド様?」

 

「リゼは…、6歳のときに────イルノラド公爵邸から出て、空腹でふらふらになりながら彷徨っていたのだろう?幼い脚で────しかも、ふらふらの状態で────貴族街から…、こんなところまで歩いて来たのか?」

 

 レド様の思ってもみない言葉に、私は眼を見開く。

 

「こちらとは逆方向の───大通りを抜けたところにも、孤児院があったはずだ。あそこなら、貴族街からも近い…。

リゼは、親切な者に連れてきてもらったと言っていたな?何処で、その人物に声をかけられたんだ?」

 

 何処で?────何処だったっけ…?

 

「貴族街を出て────商店街を歩いて…、それで────それで…、大通りから────そうだ、小道に入って────確か、そこで転んで…、立ち上がれなくて…、(うずくま)ったときだった────かと…」

 

 いつの間にか、レド様と私だけでなく────全員が足を止めていた。

 

 私たちの突然始まった問答に、アーシャが困惑気味に見ている。

 

「それなら、あちらの孤児院の方が圧倒的に近い。何故────こちらの孤児院だったんだ…?」

 

「…そちらは満員だったのでは?」

 

 ラムルが口を挟む。

 

「だが、それはこちらの孤児院でも同じだったのではないか?リゼは、だから仕方なく公爵邸へ戻っていたんだろう?」

「はい…」

 

「それなら────こちらの孤児院の関係者だったのでは?」

 

 今度はレナスが口を挟んだ。

 

「いいえ───それはないと思います。院長先生も知らない人だったと言っていましたし…」

 

 私は首を振る。

 

「どんな人だったんだ?」

「男の人でした…。確か…、背が高くて────小さい私では見上げないと顔が見えなくて…、頭がぼんやりしてたから────顔立ちとか…、髪の色とか…、どんなだったか、あまり覚えていないんです…」

 

 そうだ────だから、後でお礼をしたいと思い立ったとき、院長先生に私を連れて来てくれた人の人相を訊いたんだった。

 

 だけど、ぐったりしていた私に気を取られて、ちゃんと見ていなかったので詳しい人相は覚えていないって言われたんだっけ…。

 

 でも────レド様の疑問は(もっと)もだ。

 どうして、考えてもみなかったんだろう────

 

 

「悪い、リゼ。悩ませてしまって────」

「いえ…、言われてみれば、確かに疑問ですから…」

 

「とにかく、孤児院に向かおうか」

「はい…」

 

 レド様の言葉で、私たちは止めていた足を誰からともなく踏み出す。

 

「それにしても、レド様は何故、貴族街に近い────その孤児院のことをご存じなんですか?」

「ああ…、公務で慰問するはずだったんだ。────ファルリエム辺境伯領のことがあって、取りやめになってしまったんだけどな」

「…そうだったんですか」

 

 何だかレド様の声が寂しそうになった気がして、私は離してしまっていたレド様の手をまた握った。

 

 レド様はすぐに優しく力を込めて握り返してくれた─────

 

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