コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第十四章―再生と創造―#3

 

「ラムル、カデア───お待たせしました」

 

「お疲れ様です、リゼラ様。もう終えられたのですか?」

「ええ、孤児院の方は。残すは、中心の塔と───私たちの拠点となる北棟だけです。ですが、その前に、このダイニングを借りてお昼にしましょう」

「かしこまりました」

 

 

 朝、作っておいたお弁当を、アイテムボックスから取り寄せる。

 

 今日のお弁当は────色んな種類のサンドウィッチである。

 

 レド様に初めてご馳走したベイクドサンドウィッチに始まり、この間好評だったハンバーガー、モナおばさん特製の白パンで作った卵サンドとジャムサンド。それから────皆には初のお目見えとなる“ホットドッグ”。

 

 あれ、作り過ぎたかな。

 

 それと、“フライドチキン”と“唐揚げ”。どちらも以前出したとき好評だったので、たくさん用意した。

 

 勿論、フライドポテトもある。細切型、三日月型、薄く削いだポテトチップもどきの三種類だ。ディップ用のケチャップも用意してある。

 

 スープは、ミネストローネと“クラムチャウダー”の二種類。

 

 飲み物は、この世界のお茶とハーブティー、加えて紅茶と“コーヒー”だ。

 

 コーヒーは、私が記憶から創り出したらレド様が大変気に入ってしまい、最近よくお出ししている。

 

 当然、この昼食の材料費は私が持つ。皆に手伝ってもらっているのだから。……レド様には渋られたけれど。

 

 

「皆さん、昼食が遅くなってしまってごめんなさい。今日は、手伝ってくださって本当にありがとうございます。たくさん作ってきたので、お好きなものを召し上がってください」

 

 真っ先に歓声を上げたのは、レナスだ。何だか、ジグの双眸も輝いている気がする。

 

 ジグもレナスも、長い間粗食に耐えていたせいか────食事を出すと、本当に嬉しそうにしてくれる。

 

 用意しておいた取り皿を配っていると、レド様に声をかけられた。

 

「ありがとう、リゼ。こんなに作るのは大変だったのではないか?」

「いえ、皆で食べることを考えながら作ったので、楽しかったです。こうして総出で出かけるのは初めてですから」

「ああ───そういえば、そうだな」

 

 レド様はそのことに初めて思い当たったようで、目を瞬いてから、嬉しそうに微笑んだ。私も嬉しくなって笑みが零れる。

 

 

 レド様と笑い合っていると、アーシャが恐る恐る、口を開いた。

 

「あの…、リゼ姉さん。これ…、わたしも食べてもいいの…?」

「勿論。アーシャも手伝ってくれたんだから、遠慮なく食べて」

 

「でも、わたしもこの孤児院の子なんだから、キレイにしてもらうのに手伝うのは、当たり前でしょう…?」

 

 アーシャの言葉に、私は眼を見開く。

 

 そうか───この子にとっては、この孤児院は“家”なんだ。そう思ってくれているんだ…。

 

 ああ、何だか───私がお邸で心から寛いでいると知ったとき、レド様が喜んでいた気持ちが、よく解る気がした。

 

「ありがとう、アーシャ。確かにアーシャはこの孤児院の子だもの。遠慮はいらなかったよね。でもね、アーシャ───それでも、私はアーシャが手伝ってくれたことを感謝したいの。だから、そんな風に思わないで、食べて欲しいな」

 

 言葉を選んで、アーシャに伝える。アーシャは、満面に笑みを浮かべて、頷いてくれた。

 

 

 早々に食べ終わったラムルとカデアが出来上がった孤児院を見たいと言い出し、やはり早めに食べ終えたアーシャが案内をすると言い出して、三人が退出し────今はレド様とジグとレナスの四人で食べている。

 

「それにしても────リゼの“能力”は凄いものだな。あっという間に、物を創り上げてしまう」

 

 レド様が、ベーコンエッグとレタスを挟んだベイクドサンドウィッチを食べながら、呟く。

 

 さっきから、レド様はこればかり食べている。サンドウィッチの中では、これが一番お好きなんだとか。理由は────レド様のために、私が初めて作ったサンドウィッチだからなのだそうだ…。

 

「本当に。────リゼラ様、あれは、どういった“能力”なんですか?」

 

 三日月型のフライドポテトを摘まみながら、レナスが訊いてくる。

 

 レナスは、初めてフライドポテトを出したときから、これが大のお気に入りだ。おやつのリクエストを聞くと、必ずこれを答える。

 

「そうですね…。基本は、記憶を元に魔力で状態を再現する【顕在化(セットアップ)】の能力と一緒です」

 

「ですが、実在しないものを形にするというのは、難しいのではないですか?」

 

 その仕組みが想像できないからか、ジグが首を傾げた。

 

 ジグはマイペースに色々なものを少しずつ食べていて────今はポテトチップを摘んでいる。

 

 前世の料理が好みのようで、私が作るものならすべて美味しい───と、先程お礼と共に言ってくれた。それが気障(きざ)ったらしく聞こえたのか、レド様とレナスにどつかれていたけど。

 

「それが、まったく実在しないもの、というわけではないんです。たとえば、元待合室の窓型ライト。あの格子の模様、どこかで見たことがあると思いませんでしたか?」

 

「言われてみれば────お邸の外側の窓に施された格子に似てますね」

 

 さすが、ジグ。職業柄か、よく記憶している。

 

「そうすると────やはり、リゼの記憶から創られているということか?だが、あの外光を浴びて光を発光する仕掛けはどうなんだ?」

 

「多分、あれはお邸に施された技術の応用なのではないかと思います。おそらく、サンルームの蝶の発光する仕組みと、お邸の外壁に施された陽光を浴びると汚れを分解する仕組みあたりを、組み合わせたのではないか───と」

 

 暇を見て、お邸のあちこちを【解析(アナライズ)】して回っていたから、記憶───というか知識として蓄積されているのではないかと考えている。

 

 ちなみに、あの蝶は魔導機構で、ただの彩りとしてだけでなく、花や木に栄養を与える役目も担っているらしい。

 

「なるほどな…。それでは、無制限に何でも創り出せるわけではないんだな?」

「おそらくは…」

 

 まあ、今のところ、創ろうと思ったもので出来なかった験しはないけれど────色々検証した結果、そういうことなのだと思っている。

 

 【夜天七星】の場合は、全体的なデザインは“アニメ”に出てきた武器が元で────装飾のディテールは、何処かで見た気がすると思っていたら、何とお邸の図書室の扉に施された彫刻がモデルだった。

 

 武具の特徴的意匠である“星”なんか、そのまんまだ。

 

 

「それでは、我々の魔剣やルガレド様とリゼラ様の霊剣については、どういうことなのですか?」

 

「色々、解析していて解ったんですが────神剣も聖剣も霊剣も魔剣も、込められた魔力量と魔力の質の違いで分類されているだけみたいなんです。ですから、基本的には創り方は同じだと考えていいようです。私が魔剣と霊剣を作製できたのは、聖剣を【解析(アナライズ)】していたからだと思います」

 

「ですが、オレたちの魔剣のときも、リゼラ様の霊剣のときも、まだ【解析(アナライズ)】していなかったのでは?」

 

「以前、レド様か私が【解析(アナライズ)】すれば、【現況確認(ステータス)】に記載されると話したことは覚えていますか?」

 

 この話は、ジグとレナスが姿を現す前に話したことだが、二人のことだから聞いていたはずだ。

 

「はい」

「覚えております」

 

「【聖騎士(グローリアス・ナイト)】の【聖剣】を、レド様が【解析(アナライズ)】してくださったことがあったでしょう?あのときの情報が、どうも共有されていたようなんです。

魔剣や霊剣を作製してしまったとき、私はあの【聖剣】を【解析(アナライズ)】しましたけれど────多分、しなくても【現況確認(ステータス)】を開けば情報が確認できたはずです」

 

 私は苺のジャムサンドを咀嚼してから、答える。────次は、ホイップクリームを使ったフルーツサンドも作りたいな。

 

「では、この“能力”は────能力というより“技能”ということですか?」

「そうですね。【能力】の欄には記載がないから、そうなのだと思います」

 

「それなら、使い続けていたら、【解体】や【採取】のようになってしまうんじゃないですか?」

 

 レナスが冗談交じりに言う。

 

「そうかもな。今日だけでも、かなり使用したし────もう【技能】に記載されているかもしれないぞ」

 

 今度は、レド様が冗談めかして笑う。

 

「確認してみた方がよろしいのでは?」

 

 ジグまでもが、冗談ぽくそんなことを言う。

 

「ふふ、そうですね…」

 

 笑いながら返した後────ふと我に返る。あれ、冗談事じゃなくない?

 

「「「「……………」」」」

 

 レド様もジグもレナスも我に返ったようで、無言になった。

 

「……リゼ、確認してみたらどうだ?」

「……そうですね」

 

 私は何となく嫌な予感しながらも、【現況確認(ステータス)】を投影する。

 

 【創造】────それが、この“技能”の名称らしいです…。そのまんまだね…。

 

 

◇◇◇

 

 

 建物の中心となる塔────ここは、南棟からしか入れない。

 

 西棟と東棟はこの塔にくっついて建てられてはいるが、出入り口となる扉がないのだ。

 

 私が【最適化(オプティマイズ)】する前まで、南棟の厨房の脇にある───塔への出入り口となる重厚な扉の鍵を、何代か前の建物の所有者が紛失してしまったようで、これまでは塔には入ることが出来なかった。

 

 だから、私が塔に入るのは、これが初めてとなる。

 

「ここが塔の内部……」

 

 塔は階層分けされておらず、天蓋まで吹き抜けとなっていた。3階相当の高さの吹き抜けだ。お邸のエントランスホールよりも、天蓋まで距離がある。

 

 ここは窓もなく外から覗くことすらできなかったのだが、窓がないというのは勘違いだったようだ。

 

 円い天蓋がステンドグラスになっていて、太陽の位置がずれているからか上空から斜めに光が降り注ぎ、影が床に複雑な模様を描いていた。

 

 

 塔の中へと踏み込んだ私は、何だか不思議な感覚に襲われた。

 

 この───すぅっと身体の内側から清浄なものが湧き出てくるような、懐かしい感覚。

 

 この感覚に、私は覚えがあった。

 

「これは────“神域”…?」

 

 そうだ…、“神域”だ。あの神社の裏山の中腹にあった────あの神聖というに相応しき場所。

 

 でも───あの場所より、何と言うか───弱々しい…?

 それに…、何だろう───この…、惹き付けられる感じ。

 

 ここではない───ここと繋がる何処かで、()()()()()…?

 

 

「リゼ?」

 

 レド様の心配そうな呼び声に、私は物思いを中断する。

 

「どうした?」

「いえ…、ここが古の神を祀った寺院だということを実感していただけです」

「そうなのか。────そういえば、リゼは【神子】だったな」

 

 レド様が、妙に納得したような表情で呟く。

 

「リゼ姉さ───リゼラ様、早く行こ───行きましょう!」

 

 先を進んでいるアーシャが、北棟へ続くドアの前で振り向いて、叫ぶ。

 

「行こうか、リゼ」

「はい、レド様」

 

 ここのことは、北棟を整えた後にじっくり検分しよう────そう考えて、後ろ髪を引かれながらも、私は塔を後にした。

 

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