コントラクト・ガーディアン─Over the World─ 作:tea4
「ジグ────いつまでリゼの手を握っている」
レド様が、べし、と私の手を握っていたジグの手を叩き落とす。
あれ───立ち上がったジグが舌打ちしたのは気のせい?
<やれやれ、ガルファルリエムの小僧は本当に心が狭いな。まあ、だが、解らんでもない>
レド様と白炎様って、相性が悪いのではなく、ただの同族嫌悪なだけな気がしなくもない…。
「つ、次───次にまいりましょう!」
私がそう言うと、レナスが私の前に歩み出た。レナスも片膝をついて私の右手をとる。
「あの…、レナス?別にその体勢にならなくても、加護は授けられると思いますよ?」
「いえ、リゼラ様。改めて、誓いを立てさせてください」
レナスの申し出に、私は眼を瞬かせた。
「この光が降り注ぐ中で────純白の礼服に身を包んだリゼラ様に、もう一度誓いを立てたいのです」
レナスは何だかネロのように瞳をキラキラと煌かせて、懇願する。
<良いではないか───我が神子よ。“儀式”にした方が、加護も祝福も授けやすい>
なるほど、そうかもしれない────とは思うものの…、先程ととは違い、意識して改めてするとなると、これは少し恥ずかしいかもしれない。
でも、真剣なレナスにそんなことは言えないので、私は諦めて受け入れた。
「では、その…、改めて────レナス、最期まで、レド様と私の傍にいてください」
「この命尽きるまで───ルガレド様を…、リゼラ様を───傍でお護り致します」
レナスのその誓いは二度目だったけど────それでも、籠められた決意が強く感じられて、また胸が熱くならずにいられなかった。
ジグのときのように、私の中から熱くなった感情がそのまま溢れ出したような感覚がして、足元に魔術式が展開して光が迸る。
【亜神の恩寵】の発動を認識───【
【境界の神子】リゼラ=アン・ファルリエム───【聖騎士】レナス───契約完了
【亜神の恩寵】───【寵愛クラス】と断定
【聖騎士】レナスに固有能力【絶禍】───授けました
【聖騎士】レナスの固有魔力量───【Aクラス】と認定
【聖騎士】レナスに【
【
【聖騎士】レナスの使用可能神聖術を選出───完了
【聖騎士】レナス、上級神聖術【覚醒】───会得しました
<ふむ。今度もちゃんと加護を授けられたな。能力もか。さすが、我が神子>
「ありがとうございます、リゼラ様」
「いえ。改めて────これからも、よろしくお願いします、レナス」
レナスは、私の右手を握ったまま、口元を綻ばせて嬉しそうに頷く。
私もまた嬉しくなって、笑みを返した。
「レナス、次が
意外なことに、私の右手を放そうとしないレナスにそう言ったのは、レド様でなくラムルだった。
渋々私の手を放して立ち上がるレナスを急かし、ラムルが私の前に片膝をついた。
何か───ラムル、ワクワクしてない?
まあ、何はともあれ、ラムルに加護を授けるために私は口を開いた。
「ラムル────どうか、最期まで…、レド様と私の傍にいてください」
ラムルは表情を引き締めると、ジグとレナスに倣って、私の右手の甲を額に当てて誓いの言葉を口にする。
「この命尽きるまで────我が主、ルガレド様とリゼラ様のお傍に侍り…、御身をお支えすることを誓いましょう」
それは、“騎士の誓い”の文言とはかなり違ってしまっているし、淡々とした口調だったけれど────ラムルの忠心が如実に表れていて、胸を打たれた。
私の心が───熱くなった感情が溢れ出し、魔術式が展開する。
【亜神の恩寵】の発動を認識───魂魄の【位階】が昇格します…
───────完了
【
【境界の神子】リゼラ=アン・ファルリエム───【聖使徒】ラムル───契約完了
【亜神の恩寵】───【寵愛クラス】と断定
【聖使徒】ラムルに固有能力【回帰】───授けました
【聖使徒】ラムルの固有魔力量───【Bクラス】と認定
【聖使徒】ラムルに【
【
【聖使徒】ラムルの使用可能神聖術を選出───完了
【聖使徒】ラムル、下級神聖術【施療】───会得しました
ノルンのアナウンスで、ラムルの魂魄はまだ昇格していなかったことを思い出す。
「おお…、これで、私も古代魔術帝国の魔導機構を取り扱えるのか…!」
………ラムルさん?
「……失礼致しました。────ご加護をありがとうございます、リゼラ様」
「ふふ…、あ───ごめんなさい。これからも、どうかよろしくお願いします、ラムル」
年配のラムルに失礼かなと思いながらも、何だか“お兄ちゃん”を彷彿とさせて、ちょっと微笑ましくなってしまった。
そんなに魔導機構が好きなら、また何か創ってあげよう。それとも、一緒に創る方がいいかな?
ラムルは口元を緩めて私の言葉に頷いてから、私の右手をそっと放して立ち上がると、カデアに場所を譲る。
カデアは両膝をついて、私の右手をとった。
「カデア────どうか…、最期のそのときまで、レド様と私の傍にいてください」
「この命尽きるまで────ルガレド様とリゼラ様のお傍で…、お支えすると誓います。────坊ちゃまが、もし何かやらかしたら、いつでも私が叱ってあげますから、ご安心くださいね」
カデアは誓いの後に、いたずらっぽく、そんな言葉を付け足す。
それがお邸の中を案内してくれたときのレド様の表情そっくりで────私は笑みを零して頷く。カデアがいてくれれば、安心だ。
【亜神の恩寵】の発動を認識───魂魄の【位階】が昇格します…
───────完了
【
【境界の神子】リゼラ=アン・ファルリエム───【聖女】カデア───契約完了
【亜神の恩寵】───【寵愛クラス】と断定
【聖女】カデアに固有能力【聖光】───授けました
【聖女】カデアの固有魔力量───【Aクラス】と認定
【聖女】カデアに【
【
【聖女】カデアの使用可能神聖術を選出───完了
【聖女】カデア、中級神聖術【治癒】───会得しました
【聖女】カデア、中級神聖術【解毒】───会得しました
【聖女】カデア、中級神聖術【向上】───会得しました
ノルンのアナウンスが終わって、私たちを包んでいた光も収まる。
「ありがとうございます、リゼラ様」
「いえ、当然のことです。これからも、よろしくお願いします、カデア」
これでカデアもずっと傍にいてくれる────そう考えると嬉しくて、また笑みが零れた。
嬉しそうに笑ってくれたカデアと笑みを交わしてから皆の方を振り向くと、レド様とジグとレナスは、何故か一様に唖然とした表情をしていた。
「あの…、どうしたんですか?三人とも」
どうして、そんな表情をしているのか解らず、私は首を傾げる。
「……聖女?────カデアが?」
呆然と呟いたのは、レド様だ。
「聖女って───もっと若くて、清楚な人がなるもんじゃないか…?」
続いて、レナスが呟く。
「ああ、そうだよな。もっと…、こう───リゼラ様のような…」
ジグも、あの微妙な表情で頷く。
「………坊ちゃま?レナス?ジグ?────今、何て…?」
「い、いや、何でもない…!」
「何も言っていない…!」
「別に似合っていないとか思っていない」
「あ、バカ!何口走ってんだ、ジグ!」
「三人とも…、そこにお座りなさい」
………今回は庇えないです、レド様。
三人がカデアに叱られているのを
「アーシャには、もう祝福を授けてあるから────身体が成長し切って私の眷属となった後で、加護を授けるね」
「やっぱり、まだ駄目?」
「アーシャ、約束したでしょう?アーシャは、まだ成長の途中だから、成長し切ってからって」
「でも…、ラナ姉さんは眷属になったんでしょ?」
「ラナ姉さんは、もう成人していて────成長し切った後だから」
「でも、同じくらいだよ?」
あ、言ってしまった…。
小柄でちょっと痩せ気味なラナ姉さんと、おそらく肉付き良く成長すると予想されるアーシャは、今ちょうど背丈や体型が同じくらいなのだ。
「……アーシャ?わたしはね────もうこれ以上は成長しないの。ずっと、このままなの。いい子だから、言うことを聴きましょうね…?」
表情はにこやかだが、ラナ姉さんの地を這う冷気のような声音から何かを感じ取ったのか────アーシャは、いつかのようにカクカクと頷く。
<それでは、これで終わりか?>
「はい。ご助言ありがとうございました、白炎様。おかげで、まだ何となくですが───加護と祝福の与え方が解りました」
<其方の力になれたのなら、我は嬉しいぞ>
そう仰って、いつものように私の頬に頭を擦りつける白炎様を微笑ましく思いつつ、私は改めて自分と繋がった仲間たちを見回して────込み上がる喜びそのままに笑みを浮かべた。
◇◇◇
ラナ姉さんは、引き続きロウェルダ公爵邸で預かってもらえるよう交渉することになった。
もう少し服の数が欲しいのと、侍女としての研修を受けさせてもらいたいというのもある。
だけど、一番の理由はお邸の使用人部屋が足りないからだ。
「まあ、辺境に赴任してしまえば、何処に赴任するにせよ───領主館では部屋数が足りないということにはならないと思いますから、それまで預かってもらえるよう交渉しましょう」
ラムルが、レド様にそう進言する。
「…そうだな」
レド様はすぐに頷いたが、一瞬だけ、何か言いたそうな───言いあぐねているような…、そんな表情になったのを私は見逃さなかった。
ラムルやカデアでさえ気づいている様子はないけど、気のせいではないはずだ。
「リゼラ様?」
「いえ、すみません。少しぼうっとしてしまったようです」
そう言い訳すると、皆が───レド様が心配そうな表情になる。
「リゼ、立て続けに加護を与えて疲れたのではないか?」
レド様は私の右側の頬にその大きな手を当て、私の顔を覗き込んだ。
「ご心配ありがとうございます、レド様。少しぼうっとしてしまっただけです。疲れているわけでないので、大丈夫ですよ」
「それなら、いいが……」
<本当か?我が神子よ───疲れているのなら、すぐに休むのだぞ?>
「はい、疲れたらちゃんと休むことにします。ありがとうございます、白炎様」
私の身を心配してくれる人たちがいることに幸せを感じながら、私は素直に頷く。
レド様が何か思い悩んでいるのかは、後で確認してみよう。皆には言い辛いことかもしれないし。
「すみません、話の腰を折ってしまって。それで…、話を戻しますが────赴任先が明らかになっていない以上、念のためラナ姉さんの作業部屋を“お城”に設えたいと思うのですが、どうでしょうか?」
“お城”とは、例の“原初エルフの遺跡”のことだ。実際はお城ではなかったけど、私たちの間では“お城”が通称となっている。
「そうだな。────リゼ、忙しいところ悪いが、任せてもいいか?」
「はい、お任せください」
この後、“お城”に行く予定だから、候補の部屋をいくつかピックアップしておいて────今度ラナ姉さんを連れて行って部屋を決めてもらって、内装を創り込むことにしよう。
「それから───リゼによって授けられた固有能力と新たな神聖術、それと特殊能力などの検証をすべきだな。これには、ラナも時間を見繕って参加してもらいたい」
「かしこまりました」
「後は────ああ、そうだ。ラナが侍女になって余裕ができたし、アーシャ、本来の目的であるリゼの護衛としての訓練も始めるか」
「私の護衛としての訓練───ですか?」
「ああ。勿論、これからもリゼにはジグかレナスのどちらかをつけるつもりだが────冒険者として活動するとき、やはり随行する者が必要だと思ってな。俺がいつも同行できればいいが、そうもいかないからな。
俺が行けないときは、アーシャに冒険者として随行してもらいたい」
「…っはい!」
アーシャはそれが嬉しいのか、勢い込んで応える。
「リゼ、アーシャの鍛練も任せても大丈夫か?」
「ええ、勿論です。私と共に活動するのなら、私が鍛練した方がいいですし」
「それなら、任せる。だが────くれぐれも、無理だけはしないでくれ」
「はい、解りました」
相変わらず、レド様は心配性だ。だけど────そのお気持ちが嬉しい。
「他に、何か話し合っておくべきことはあるか?」
レド様が私たちを見回したが、言い出す者はいない。
「リゼ、何かあるか?」
「いいえ、今のところはありません」
「それなら、ロウェルダ公爵邸へ戻るか。シェリア嬢にも話さないといけないな」
シェリアには後で説明すると、約束している。
「レド様、シェリアには私から説明します」
「そうか…。それでは、頼んだ」
レド様の言葉に、私は頷いた。