「・・・・そろそろ時間になります。我々も移動しましょう。・・・貴方達は引き続き周囲の警戒を。」
「「了解」」
「・・・・・。」
時刻は午前6時頃。
早朝、まだ夜も明けきらない時間に私と黒服さん達はメジロ家のお屋敷を後にした。
てっきり私は窓から飛び出るのかなと思っていたのだが、扉の外には使用人の姿は見えなかった。
当主さんが手配してくれたらしい。
彼女とは最後に挨拶をしたかったのだが、あまりぐずぐずもしていられない。
私達は道中誰にも見つかることなく、現在は無事空港にいる。
「・・・・・。」
時間になった。
私は周囲を黒服さん達に護衛されながら、改めて昨日のことを思い出す。
・・・あれから、昼食を食べ終えた皆はなぜかその日に限ってなかなか帰らなかった。
授業があるのではと思ったのだが、その足取りは重い。ウララさんがその筆頭だったのだが、彼女曰く「わかんない、でもへんな感じー?・・・」らしい。
ドトウさんもなんだか終始不安げな顔をしていた。
彼女たちウマ娘には何か第六感みたいなものが備わっているのかもしれない。
まあ結局私が帰郷することは伝えることなく彼女達には帰ってもらった。
幼女組達もその日の夜には別の場所で親の集まりがあったみたいなので夜は静かだったな。
・・・正直、こんな形で分かれることに関して罪悪感は消えない。
数カ月とはいえ何度も一緒にご飯を食べた仲なのだ。本当はちゃんとお別れをしたかった。
けれど男女比の偏りがそうさせない。難儀なものだ。
私は先ほどから手に持っていたスマホの画面を確認する。
まだこんなに朝早いのにアルダンさんからはもうおはようの連絡がきている。
・・・他にも数人。
そう、この連絡先も消さないといけない。
やるなら徹底的に、だ。黒服さん達からそうすべきだと言われた。
もう二度と会うことがないのに連絡手段があるのは残酷なことらしい。
幸い、私は基本的に返信をしないのですぐにばれることはないだろう。日頃の行いに感謝だな。
私はその場で東京で知り合った人たちの連絡先を全て削除して空港を後にした。
・・・・少し、後ろを振り返る。
「・・・・・・。」
空港にあった書店、もう少し見たかったな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「遅い。」
それが、北海道の空港にてわざわざ私を待っていた驚愕君が放った第一声であった。
・・・まあ、言い訳もない。実際その通りなのだし。
そこから無言で私の手を握ってきた彼は放置して、他にも私を迎えに来てくれた人達を確認する。
どうやらここに来ているのはうちの両親と驚愕君、そして鷹の目さんだけみたいだ。
てっきり小暮トレセン学園の皆もいると思ったのだが・・・
「あぁ、あの娘達は誰が一番にあんたを出迎えるかで元気に喧嘩してるよ。まだ学園にいるだろうね。・・・・それよりも、恵君には言いたいことが山ほどあるんだが。・・・・はぁ、まあ無事に帰ってきてくれたんだ。それだけで十分だよ。・・・お帰り、恵君。」
うん、やっぱりだいぶ心配させたみたいだな。
今回鷹の目さんには一番負担を強いてしまった。素直にただいまと伝える。
学園の皆も喧嘩するくらい元気なら大丈夫そうだな。もう少し遅かったら危なかったかも。
さて、挨拶も終わったことだし、積もる話もあるだろうがまずは家に帰るか。
「ちょっと、母親に挨拶するのを忘れてるわよ!」
「・・・・・・。」
・・・・いや、忘れていたわけではない。
ただしきりに少し出たお腹をさする母にどう反応していいのか困っていただけだ。
父は先ほどから立ったまま気絶している。
お疲れなのに息子のために頑張ってここまで来たんだな・・・泣ける。
「喜びなさい、あんたに弟妹が出来るわよ。」
「・・・。」
正直それは素直に喜ばしい。
出来れば前世と同様に弟がいいのだが、この世界でそんな奇跡は起こらないだろうな。
「あと、みんなあんたの料理を食べたくて仕方がないの。早速で悪いけど帰ったらよろしくね!」
「・・・。」
帰ったばかりなのだけれど・・・
・・・まあいいか。なんだかんだ言ってやはり故郷の空気は落ち着く。
私の居場所はここなのだと分かる。
悲しんでばかりもいられない、これからは小暮町の皆と元気に生きていこう。
けど、ご飯か・・・。
・・・簡単におにぎりでも作るかな。
「は、早く行こう・・・僕も楽しみなんだ!」
黙ったままの私の手を引く驚愕君に従って空港を後にする。
それから学園に用事がある鷹の目さんとは一旦分かれて、私は久しぶりに実家に帰省した。
「・・・・。」
・・・ご飯を食べたら、本を読もう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『帰ってからのいろいろ』
『ep.1 買いすぎ』
本、本、本、本、本・・・・・・
「・・・・。」
今、私の目の前には天井まで積み上げられた本の山がそびえている。
いや、まあこれは自業自得なのだ。
東京にて馬鹿みたいに本を買っていたことは当然覚えているのだが、買ったそばから郵送で実家に届けていたので実際にどれくらい買ったのかは把握していなかった。
部屋は完全に本で埋まっていて、もはや一歩も入れない。
父があらかじめダンボールから出してくれていたのが唯一の救いか。
しかし、どうすべきかな。
まさか収納場所に困るとは・・・。
リビングに置くにしても妊娠中の母がいる所で本を積み上げておくのは危ない。
「・・・・。」
・・・そこで私はふと、妙案を思いついた。
あそこがいいかもしれない。
「・・・・・で、その大量の本をこの学園に置いてほしいと。」
「・・・・。」
鷹の目さんからの確認に軽く頷く。
ここは小暮トレセン学園の理事長室。
いちいち騒がれては面倒なのでいつもの黒服さん達に護衛してもらいながらこっそりと侵入した。
「・・・・いや、まあいいんだけどね。恵君の頼みでもあるんだし。」
うん、ここ以外思いつかなかった。この学園なら使われていない教室も沢山ある事は知っている。
「・・・けど限度ってものがあるだろう。あんたどんだけ買ったのさ・・・もはや図書館がつくれるよ・・。」
ああ、そういえばこの学園には意外なことに図書館がない。
いや、図書館もどきみたいな中途半端に古書が収められている場所ならあるのだが・・・もはや誰にも使われていない。
「・・・まあ幸い資金には余裕があるからね、いっそのこと新しく図書館をつくってしまうかね。」
「・・・・。」
異存はない。というかいっそのこと私の本も寄贈という形で学園に届けたい。
私が読めさえすればいいのだ。さらにこの学園の生徒にも本を好きになってくれる子が出来たらうれしい。
・・・あと鷹の目さんから"資金がある"と言われたが、これには驚愕君が大きく関係している。
どうやら彼、私がいない間に株に興味を持ってしまったらしく、経験もないくせになぜか馬鹿みたいに稼いでいるらしい。
関係があるのかは分からないが、驚愕君は昔から金運があるとは思っていた。
彼と一緒に道を歩いているとよく1万円札が落ちているし、彼が迷子の猫を拾ったときにその飼い主がたまたま小暮町に来ていた富豪で、謝礼として多額のお金を頂いたこととかあった。
「・・・・。」
他にもいろいろ・・・思えば彼も存外チートだな。
まあそのことは置いておいて・・・そうした事から若干中学生にして巨万の富を築いている彼は前々から学園の厨房をもっと新しい器具でそろえたいと考えていたみたいだ。
・・・で、厨房を新しく改装するならいっそのこと学園全体を新しくしようと考えて小暮トレセン学園に多額の寄付をした。
当然鷹の目さんは一切もらおうとしなかったのだけれど、学園に懸ける驚愕君の気持ちは思いのほか強く、最後には折れた。
驚愕君にしても使い切れないほどのお金を手元で腐らせておくのは良くないことだとずっと思っていたらしい。
本人は今回の事でたくさんお金を使えて喜んでいた。
・・・というわけで。
「あんたが腰を抜かすようなとびっきりの図書館にしてやるから、楽しみにしてな。」
「っ!!!・・・。」
そう言って忙しそうに業務に戻った鷹の目さんにお礼を言って、その日は学園を後にした。
帰り道、光り続ける私を町の人は不思議そうに見ていたけれど、やがて気にしなくなった。
「・・・・♪」
いつかできる素敵な図書館に思いを募らせ、そうして小暮町の平和な一日は終わったのだった。
『ep.2 禁断症状』
「・・・・ひ、久しぶりだから・・・なんだか緊張するね・・。」
「・・・・。」
私が東京から帰郷した翌日。鷹の目さんからお願いされて早速学園での業務を再開することになった。
学園の生徒達はすでに限界を超えていて、中には禁断症状に目覚めている子もいると聞いた。
例として、食堂に入ると私の使っていた調理スペースの一角を見つめながら虚空に向かって「今日のおかずは何ですか♪」などと語りかけ、空のお皿と大量の白米を目の前に虚ろな目をしながら食事を始める子とか。
また学園の食糧庫から調理のされていない生の野菜を強奪し、食堂におかずが並べられているのにも関わらずそのまま野菜を齧りはじめる子とか。・・・彼女曰く「っえ・・・だってどれも同じ味じゃない?」らしい。
話を聞いた私もそれが真実であると知り、なんなら彼女達はまだマシな方だと聞かされて流石に危機感を覚えた。
ああ、ちなみに私とアルダンさんが抱き合っている所が放送された日・・・その日はなぜか小暮町で大量のテレビが廃棄に出されたらしい。学園へと続く道は損傷が激しく、学園の職員や多数の生徒が体調不良で欠席。出席していた子達もその日は食堂で水だけ飲んで出ていったと聞いた。
「・・・・。」
今日はおかずじゃない・・・おにぎりでも作ろうか。
「・・・うん!それなら僕にもできるよ!」
嬉しそうな驚愕君と共に学園へと急ぐ。
早く学園に行こう。
「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」
「・・・・・っひ!」
「・・・・・。」
食堂に着いて早々、扉を開けた私達を待っていたのは無言で席に着席する学園の生徒&職員の方々だった。
席に入りきらない者は地面にピクニックで使うようなレジャーシートを敷いていて、その上に正座で待機している。
全員瞳孔は完全に開いていて、瞬きもなくじっと私達を見つめている。
まるで一瞬でも瞬きをしてしまえば、その瞬間に夢から覚めてしまうと怯えている幼子のように。
入って早々そのような光景を目にした驚愕君は短く悲鳴を上げていた。当然だろう、彼も最近は耐性がついてきたとはいえ・・・根っこは臆病な気質なのだ。普通の男性なら気を失う。
「・・・・・。」
よく見ると彼女達は全員所々包帯を巻いている。
・・・昨日は結局学園の生徒には会わなかった。なるほど、突発的に行われたバトルロワイヤルの勝者はいなかったらしい。
黒服さん達は一様に警戒を露わにしたが、彼女たちは襲っては来ない。
ただ黙って私達を見ているだけ。
理性は・・・あるのか。
「・・・・。」
それならいい。まだ頭で物事を考えることの出来る段階なら間に合うはずだ。
私は怯える驚愕君の手を引いて・・・その一角だけなぜかめちゃくちゃきれいな調理スペースへと向かう。
「・・・うわぁ」
「・・・・。」
調理台の上にはいかにも好きに使ってくださいというように多種多様な食材が鎮座していた。
ここまでお膳立てされては私も手は抜けない。
おにぎりの具を作るところから始めなければ。
「・・・・よし。」
私は久しぶりに本気を出そうと意気込み、そして包丁を握った。
「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」」」」」」」」」」
・・・邪魔だから大人しく授業をしておいてほしい。
《10分後・・・》
「「「あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああああああ!!!!」」」
「沁゛み゛る゛ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」
「ぐあ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」
「・・・・っお゛!!!・・・・・・お・・・・・・・っあ・・・・・。」
「お゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
「ま゛ん゛ま゛っ!!!!ま゛ん゛ま゛っ!!!!!!!!」
「あ゛だあ゛あ゛あぁぁぁ!!!!!だあ゛ぶう゛う゛うぅぅぅぅぅううううう!!!!!」
「・・・・・・・。」
おにぎりを口に含んだ彼女達は次々に産声を上げる。
理性的な言葉を発する者など一人もいない。
ああ、ここに初めてきた時のことを思い出す。
そうだった、彼女達は生まれたときから獣(違います)だった。
まだ衝動的な行動に出ないだけマシか・・・これだけのカオスなのに黒服さん達が動いていないのは彼女たちの成長を感じる。
「・・・・・。」
けれど・・・なぜだろう
だから、ではないだろうが。
こんなに世紀末な現場なのに・・・・私はそれでも懐かしさを感じずにはいられなかった。
どうしようもない彼女達だけど、その心根は優しいことを知っている。
これから日常に戻れば、またいつものように・・・。
沢山話を聞きたいな。私がいなかった時の事とか、レースの事とか・・・。
「・・・・。」
・・・まあそれは明日以降の事だ。
今日は大人しく帰るとしよう。
黒服さん達が出口を確保してくれている。
帰り際に一応、挨拶だけはしておく。
「・・・・・ただいま。」
そして、私はそのまま気を失っている驚愕君をおんぶして帰路へと着いたのだった。
さて、明日は何を作ろうか。
『ep.3 幼馴染とサイドテール姉妹』
「・・・・・で、何か弁明はあるかしら?優しい私は言い訳くらいなら聞いてあげるわよ。・・・まあ絶対許さないけど。」
「・・・・。」
「・・・・聞いてあげるって言ってるじゃない!!!なんかしゃべりなさいよ!!!!大体なんであんたは勝手に東京なんてケダモノしかいないような魔界に行くのよ!!!!幼馴染の私に連絡もしないで!!もし襲われでもしたらどうするのっ?!私が守ってあげられないじゃない!!!!!」
「・・・・・。」
「・・・・・だ、か、ら・・・・・・なんかしゃべれ―――!!!!!!!!!」
「・・・。」
「ま、まあまあハーちゃん落ち着いて。・・・確かに勝手に東京に行ったことには驚いたけど、でもちゃんと戻ってきてくれたんだし・・・・。」
「・・・スーちゃん?一番怒ってたのスーちゃんじゃなかった???なに一人だけポイント稼ごうとしてるのよ!!!!」
「えー・・・なんのコトカナ?私はいつも通りだよ?」
「ほわ~・・・・とても動揺してましたね。」
「・・・・・・・・サンちゃん、戦争だよ?」
「ほわ~♪」
「・・・・・・。」
現在は朝7時半。
学園の業務が休みの日で、私が未だ部屋に鎮座している大量の書籍を読もうとしていた時の事だった。
唐突に玄関のチャイムが鳴り、これから学校へ行くものと思われる制服姿の幼馴染達は私に会うなり長々と文句を垂れてきた。
爽やかな早朝に気持ちのいい気分が台無しになるので私はその場を黙ってやり過ごす腹積もりだったのだが・・・・全然出て行ってくれない。
そのままぼーと見ているとなぜか3人が一触即発の雰囲気になったので止めようとしたのだが・・・
「・・・・・あったかい。」
「・・・・。」
「あのっ、妹が本当にすみません!!!いつもはもっと素直な子なんですが・・・・ちょっと、いい加減にしなさい!!!彼が困っているじゃないですか!!!」
「・・・・・・やっ!」
「っな!!・・・お姉ちゃんのいうことが聞けないっていうの?!」
「・・・・うあぁぁぁぁぁん、お姉ちゃんがこわいー!」
「はぁ?!!そんなの嘘泣きじゃない!!!!・・・騙されちゃだめですよ!!その子全然泣いてませんから!!!・・・・いいから離れなさいー!!!!!!」
「やだー!!!!!!」
「・・・・。」
幼馴染達の後に妹さんと共に現れたサイドテールさん。
妹さんを幼稚園へ送る途中だったらしい。
その妹さんは私に会うなり前回と同様速攻で腰に抱き着きそれから離れてくれない。
子供なので優しくしたいのだが流石に腰が折れそうなので離してほしい。
「・・・って、ちょっと待ちなさいよ!!!あんた子供だからってなに気軽に抱き着いてんのよ!!!そいつは私の彼氏なんだから私に許可を取ってからにしなさいよ!!!!」
「・・・・ハーちゃん?なに寝ぼけたこと言ってるの???」
「彼は~・・・・・私と結婚するんだよ?」
「サンちゃん?????」
「・・・・・・おばさん。」
「いくら妹でも言っていいことと悪いことがあるよ?諦めなさい、付き合うのはお姉ちゃんだから。」
「・・・・。」
それから再び争いを始めた彼女達は、その後騒音で起こされたうちの母に一発ずつ殴られて締め出された。
そんなどうでもいい日常の一コマ。
・・・・ちなみにその日から朝はうちの玄関先に集まるというのが彼女達のルーティーンになってしまった。
「・・・・。」
誠に遺憾であります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
早いもので、それから数年の月日が経った。
あれから変わったことの1つは小暮トレセン学園が大幅に改装されたことだろうか。
驚愕君の資産で札束ビンタされた建築業者の皆さんはそこから急ピッチで工事を進めてくれた。
食堂はおしゃれなカフェテリアとなり、学園のトレーニング設備はもはや全国でも上位に入るくらいに充実している。
中でも私がお勧めしたいのは何といっても図書館だ。
空き教室が集中していたエリアを丸ごとくり抜き、広大な図書館の半分はガラス張りだ。
読書スペースはもちろん、中央にはソファやクッションなどが置かれ、居心地のいい空間になっている。
だがこれでもまだ序の口だろう。
学園の各所には無料の自動販売機が置かれ、敷地の中にはアパレルショップや雑貨店、ドラッグストアやコンビニが数店舗も設置され、もはや何でもありの状態になっている。
学園を魔改造できる興奮を経験した驚愕君と鷹の目さんの暴走は凄まじく、工事が落ち着いた現在は職員用の仮眠スペースや専用のカプセルホテルなどに着手している。
あまりにも行き過ぎる場合は止めようと考えてはいるが、今のところ設備が充実している恩恵を私も受けているので文句は言えない。
変わったことの2つ目は私に妹ができたこと。
生まれてからそれなりに経ったのだが、今でも家にいるときは基本的に私に引っ付いている。
私と同じように本が好きなようで、よく私の部屋に入っているのを見かける。
あとはそうだな、サイドテールさんの妹さんとは滅茶苦茶仲が悪い。お互いに出会ったら「「フシャー!!!!」」って威嚇し合っている。
年が近いのだし、兄としてはもっと仲良くしてほしいと思う。
他には・・・・ああ、驚愕君の事かな。
あれから驚愕君はなぜか髪を伸ばし始めた。
元々中性的というか、女の子みたいな顔だったので髪を伸ばした今は男だとは分からない。
なぜかと本人に聞いてもはぐらかされるだけだが、あれは多分女性に襲われないための処世術なんじゃないかと思っている。
ああ、言ってなかったがこの春、私は晴れて高校3年生になった。
残念ながら身長はあまり伸びることはなく、身体も運動なんてしないので華奢なままだ。
まあそれは驚愕君も同じで、というかこの世界の男性の大半がそうなのだが・・・。
学園での業務は変わらず続けている。
中学生の頃に何度かテレビ局の人たちに取材されて、その影響か入学希望者が凄まじいことになったのでそれからは基本的に取材はNGだ。
同じように編入希望者も殺到していると聞いたが、それは鷹の目さんの英断で断固拒否している。
それでも小暮トレセン学園の人気は上がり続け、今年はついに中央の入学倍率を超えた。
海外からの入学希望者も多い。小暮トレセン学園の未来は明るいな。
「・・・・・。」
中央の事については・・・まあ、特に語ることはない。
彼女たちがこの町を訪れるのではという懸念はあった。
だが驚愕君のお母さんの指揮の下、私と驚愕君の警護には余念がない。
怪しいと思われる人物は小暮町に入るまでに捕らえられている。
特に私と東京へ遠征した黒服さん達からの情報は署内で共有されているみたいで、私を連れ去る可能性の高い東京のウマ娘達は要注意人物になっている。
小暮町へとたどり着ける可能性は万に一つもないだろう。
・・・正直、あれから大分経つので彼女たちの記憶も若干薄れている。
「・・・・。」
彼女達はどうしているのかな。
今頃はレースを引退してそれぞれの道を歩いているのだろうか。
・・・まあ元気でさえいてくれればいいか。
「・・・恵ー!!!驚愕君が来てるわよ!!!!」
「にいちゃーん!!!!!!」
ああ、もうそんな時間だったか。
今日も学園での仕事があるんだ。
私は開いていた本にしおりを挟んで閉じる。
今日は快晴。
開けた窓から入る風は気持ちのいい暖かさだ。
凝った体を少しほぐしてから玄関へと向かう。
階段を下りながら今日作るものについて考える。
「・・・・・ハンバーグ、唐揚げ、ポテトサラダ、サバの味噌煮、炊き込みご飯・・・・・」
ああ、そうだ。
「・・・・おにぎりでいいか。」
・・・決まりだ。
「・・・。」
いつもと変わらない小暮町の日常。
大切な家族と、かけがえのない友人達。
なんでもない、当たり前に続く幸せな時間を噛み締めて・・・「はやくー!!!」
「・・・いってきます。」
『本読んで、ご飯食べて』normal end (完)
というわけでnormal end 完結になります。
このルートではあと人物紹介と東京に残されたウマ娘達の物語を書いて終わりかな。
今回は小暮町の皆大勝利ですね。