本当は1話に収めたかったのですが気づいたら1万字を超えていたので諦めました。
次回には必ず・・・。
違和感に気付いたのは・・・どのタイミングだったのだろうか。
「・・・・・・いない。」
最後に彼と会ったのは昨日のお昼。
変わらない日常。
その日彼は1人先にキッチンで私達を待っていて・・・。
いつものように、彼に作って頂いた料理を皆で食べた。
その日のメニューはおにぎりとホットケーキ。
彼の作る料理はどれも美味しいのだけれど、おにぎりは特別。
初めて出会った時の事を思い出すから。
美味しいだけじゃない・・・料理に込められた愛情は、私の心まで満たしてくれるようで・・・。
・・・けれど・・・そうだ、その日はなぜだか胸騒ぎが止まなかった。
「・・・・・ここにもいない。」
きっかけはウララさんだった。
昨日、彼に出会ったウララさんはいつにもまして終始落ち着きがなかった。
いつもはどんなことがあっても笑顔なのに・・・レースで負けたときだって・・・。
天真爛漫なウララさんが笑顔でなくなることなどないと、そう・・思っていたのに・・・。
「・・・・・・・どこですか。」
・・・その日、ウララさんはとうとう笑わなかった。
だから、なのかもしれない。
料理を食べ終えた後も・・・学園へ戻る気にはなれなくて。
それは、あの場にいた全員がそうだった。
いつもの日常だったのだ。
私達のそばに・・・彼がいる。
書斎の扉を開けると、静かに本を読んでいる。
書斎へと押し掛けて、料理をせがむ私たちを・・・それでも、無表情な彼は断る事なんてしなくて。
あの日・・・"ありがとう"と言ってくれた。
彼の笑う顔を初めて見た。
私達の前で・・・窓から差し込む光に照らされて・・・。
優しい笑顔だった。
中学生になったばかりの男の子。
普通なら、たくさんの女性に囲まれれば・・・怯えてしまうはずなのに。
優しい人だった。
運命に苦しむ私を救ってくれた。
美術館で・・・私の特別な場所で・・・指切りをしてくれた。
「・・・・・・・お願いです・・・返事をしてください。」
あの時、彼が見せてくれた笑顔に思わず見惚れてしまった。
私の大切な人。
笑顔を向けられた私は・・・それでも・・・なぜだろう・・・
嬉しくなるはずなのに・・・
胸が・・・締め付けられるようで・・・・
心が安らぐはずなのに・・・
どうしようもなく・・・悲しくなって・・・
ねえ、どこにいるのですか。
また・・・いつものように、私達にご飯を作ってください。
たくさん作るのが大変なら、私がお手伝いしますから。
私、貴方の隣に立ちたくて・・・ひそかに練習していたんですよ。
・・・お恥ずかしながら、貴方が作るおにぎりには・・・とても敵わないのですけれど。
応えては、くれないのですか。
何度も・・・お誘いしたではないですか・・・。
また・・・美術館に行きたいです。
『親愛なるあなたへ』
貴方にとっても特別な場所になってほしいと・・・そう思って・・・。
貴方と2人で・・・また・・・一緒に・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「・・・・・・・・。」
私が立っているのは、メジロ家の書斎。
今日だけで、何十回と確認した。
けれど・・・いつもの場所で、いつもの椅子に腰かけて本を読む貴方はいない。
屋敷にいた頃は気にすることなんてなかったのに・・・貴方のいない書斎は、ひどく物足りなく感じる。
まるでそこに貴方がいたことが嘘だったかのように・・・今はただ、静寂だけが広がっている。
・・・・いえ、嘘なんかじゃない。
夢なんかじゃ・・・・決してない。
貴方は確かにここにいた。
いつものように、無表情でも・・・熱心に本を読む貴方はいた。
「・・・・・でなければ」
凍えてしまいそうになるから・・・。
・・・この胸に残る暖かさを・・・貴方がくれた温もりを、否定してしまうことになるのだから。
「っあ、アルダンさん!・・・ここに居たんですね・・・その、彼はやっぱり・・・」
私を見つけて駆け寄ってきてくれたチヨノオーさんからの問いに小さく頭を横に振って応える。
「・・・あの・・・・大丈夫、ですよね・・・?」
「それは・・・・。」
彼女からの漠然とした問いかけに、それでも・・・私は言葉に詰まってしまう。
だって、こんなこと全く想像していなかった。
彼が何も言わずに私たちの前からいなくなるなんて・・・考えもしなかった。
「やっぱり・・・私達が毎日押し掛けたのがいけなかったんでしょうか・・・。本当は・・・迷惑だって思われてて・・・。」
「チヨノオーさん・・・。」
「私、謝らないと・・・。あの子にはずっと迷惑をかけてばかりだから・・・・・そうしたら・・・帰ってきてくれますよね?」
・・・それは勿論私も考えた。
けれど、本当にそれが理由なのだろうか・・・。少なくとも、私達の前で料理を作る彼からは迷惑な感情なんて感じなかった。
それに・・・それなら彼は直接言葉で伝えるはずだ。
何も言わずに消えるなんて・・・余程の・・・。
「・・・アルダンさん・・・私、怖いです。さっきから嫌な想像ばかりしてしまって・・。・・・あの子と、もう二度と会えない気がして・・・。」
沈黙してしまった私の前でチヨノオーさんが静かに泣き出してしまった。
「・・・・大丈夫ですよ、きっと。」
彼女を優しく抱きしめる。
私もひどく動揺しているのに・・・素直に泣ける彼女が羨ましい。
「・・・大丈夫ですから。」
投げかけた言葉は・・・果たして私の本音だろうか・・・。
大丈夫だと・・・本当にそう思っているのだろうか。
分からない・・・。
ただ・・・少なくとも。
「・・・・・寒いです・・・アルダンさん。」
「・・・・えぇ、私もです。」
少なくとも・・・彼がいなくなってから、私の身体の震えは止まってくれない。
・・・私が彼の不在を知ったのは、カフェテリアで食事をしている時だった。
チヨノオーさんとヤエノさん、昨日の昼食に参加した私達は今日は学園でお留守番だ。
お昼の混雑する時間帯に何とか席を確保した私達は、昨日の事について話し合っていた。
「・・・それにしても、昨日のおにぎりは美味しかったですね!私また食べすぎちゃったみたいで・・・ううぅ・・・体重計に乗るのが憂鬱ですうぅ・・・。」
「・・・お恥ずかしながら私もです。自分の体重管理には自信があったのですが・・・っく、不覚です!」
「・・・それも、仕方がないのかもしれませんね。少なくとも、彼の料理を口にされた方々は私を含め全員が同じ悩みを抱えてしまっているのですから。」
「えええぇぇぇ!!!!アルダンさんもですかっ?!・・・なんだか意外です!」
「ふふ、私だって美味しい料理を前に食べ過ぎてしまうこともありますよ。・・・まあ、彼の作って下さる料理が特別美味しいというのも・・・あるのですけれど。」
「・・・はい、正直私もこの学園での食事に思うところなどなかったはずなのですが・・・。最近、どうにも物足りなく感じてしまいます。」
「分かります!!!・・・でもなんでなんでしょう?彼が使う食材はいつも至って普通のものなのに・・・。・・・お2人は分かりますか?」
「・・・いえ、私にもさっぱり。」
「あら、ご存じなかったのですか?」
「アルダンさんは知っているんですか?!・・・良ければ教えてください!!!」
「私も気になりますね。・・・差し支えなければ是非お聞きしたいです。」
「ええ、勿論です。答えは簡単・・・・"愛"です。」
「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!!!」」
私から答えを聞いたお2人はお顔を真っ赤にされて驚いていた。
「間違いありません。まあ・・・そう言う私も姉様から教えてもらったのですが・・・。」
「え、え、え・・・・それって、あの子が・・その、私達の事をす・・・す・・好き・・・と、いうことですか?」
「・・・え?」
・・・ああ、それで驚いていたのですか。
「一口に"愛"・・・と言っても、その形は様々ですよ。愛情の他にも親愛、友愛、敬愛、慈愛・・・あとは、恵愛・・・というのもありますね。なんにせよ、彼が料理にたくさんの愛を込めている・・・ということには違いありませんが。」
まあ・・・彼から本物の"純愛"を頂いているのは、私だけなのですけれどね。
「あ、あああ!・・・そ、そうですよね!・・・私てっきり・・・。いえ!全然・・・私が好意を持たれていたなんて勘違いはしてないですよ!・・・・ですよね?!ヤエノさん!・・・・ヤエノさん?」
「―――――。」
「気を・・・失っていますね・・・。」
「ヤエノさ―――ん!!!!!!」
・・・それから何とかヤエノさんが目を覚まして、再び食事を始めたときの事だった・・・。
「――。」
「―――?」
不意に・・・私達の後ろの席でお食事をされていたウララさんとライスさん、キングさんの会話が聞こえてきた。
「うーん・・・・・・・。」
「・・・ウララさん本当に大丈夫?昨日からずっと元気がないじゃない。」
「・・・ウララちゃん、何かあったの?」
「わかんない・・・・わかんないんだけど、昨日からずっと胸がモヤモヤするんだー・・・。」
「「・・・モヤモヤ?」」
・・・ウララさん。・・・私は昨日の昼食時の事を思い出す。
そうだ・・・そういえば昨日は少しおかしなところがあった。
昨日・・・屋敷に着いた私達はいつも通り、彼のいる書斎へと足を向けた。
・・・けれど、その日はなぜか書斎には誰もいなくて。不審に思った私達は手分けして屋敷を捜索した。・・・結局、彼は一足早くキッチンで私達を待ってくれていただけだったのだけれど・・・。
今まで、そんなことは一度もなかったのに・・・。
「・・・・そういえば。」
彼が初めて私達に笑いかけてくれたのも昨日だった。
出会った時からいつも無表情だった彼。
一瞬の事だったのだけれど、優しさに溢れた彼の笑顔を今でも鮮明に思い出すことができる。
・・・ですが。
「・・・ああ、思い出しました!そういえば私も昨日はなぜか帰りにとても悲しい気持ちになったんですよね。・・・だからでしょうか、昨日はなかなか帰りたいと思えなくて・・・。なんででしょう・・・すっかり忘れていました。」
「・・・言われてみれば確かに、私もそうでした。・・・不思議と、足が動かなかったんです。」
チヨノオーさんとヤエノさんにも聞こえていたみたいで、私と同じように表情が曇っている。
「・・・・。」
なぜだろう・・・昨日の事を思い起こすたびに・・・何か言いようのない不安が押し寄せてくる。
「・・・・あの、アルダンさんはあの子と連絡を取り合ってましたよね?・・・返信とかって・・・。」
「・・・いえ、彼は基本的に返事を返してはくれませんので。今日も朝の挨拶を伝えたきり・・・」
彼が返信を返してくれることは稀だ。
既読はつくので見て下さっていることは分かるのだが・・・。
そう思いながら私がポケットの中のスマホを取り出した時、まるで計ったかのようなタイミングで姉様から電話がかかってきた。
「・・・・姉様?」
屋敷で彼の料理を食べる順番・・・確か今日は姉様がその組にいたはず。
今頃は、いつものように彼の料理を食べている時間のはずなのに・・・。
「・・・・・。」
「あの、アルダンさん。」
「・・・へ?」
「・・・スマホ、出ないんですか?」
「・・・っあ、ああ、すみません。少し呆けていました・・・。」
なぜか動けないでいる私を不思議そうに見つめるチヨノオーさんの声ではっと我に返る。
なぜだろう・・・すごく嫌な予感がする。
姉様からの連絡、いつもはすぐに出るのに。・・・気づけば手のひらはじっとりと汗ばんでいた。
「・・・・ふぅ。」
少し、息を整える。
大丈夫。
・・・大丈夫・・の、はずだ。
このタイミングで姉様から連絡が来るのはきっと・・・そう、例えば今日彼が作って下さった料理がとても美味しかったから・・・私にそのことを伝えてくれるために・・・。
「・・・・よし。」
鳴り続ける姉様からの着信に・・・私は身体の内側から溢れる不安感に必死に押し殺し、意を決して出る。
「・・・・・・・もしもし、姉様。・・・どうされたのですか?」
スマホ越しから・・・なぜか、誰かが言い争っている声が聞こえる。
『・・・・・アルダン、今は1人かしら?』
「・・・・いえ、チヨノオーさんとヤエノさんと・・・カフェテリアに・・・。」
そんな状況でも、いつものように淡々と私に語り掛ける姉様は・・・けれどひどく憔悴しているようで・・・
「あの・・・姉様、大丈夫ですか?・・・その・・・後ろから言い争う声が聞こえてきて・・・彼は・・・。」
『・・・・アルダン、今から私が言うこと・・落ち着いて聞いてちょうだい。』
「っ・・・・・。」
ああ・・・聞きたくない。姉様から発せられる声音から・・・嫌でも良くないことが起きていると分かる。
「・・・・姉様・・・・彼は、無事なのですか?」
『・・・・・・・・ないの。』
聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない・・・。
「・・・っえ?」
『だから・・・彼が、見当たらないの。・・・客間にもキッチンにも・・・書斎にも。綺麗さっぱり・・・まるで初めから居なかったみたいに、痕跡すらも消えているのよ。』
「ひっ・・・・・・・」
思わず引きつるような悲鳴が漏れてしまった。
・・・・姉様から伝えられる内容を・・徐々に頭が理解していく。
「はぁ・・・はぁ・・・・。」
頭で咀嚼された内容は・・・それでも、本能が理解することを拒んでいるようで・・・。
「はぁ・・っは、は・・・・」
「・・・・・・・・・アルダンさん?」
「アルダンさん、様子がおかしいですよ?」
呼吸の早くなる私を、チヨノオーさんとヤエノさんが心配そうに見つめている。
「・・・っは・・・は、は、っは・・・・」
『今は私達も屋敷や周辺を手分けして探しているのだけれど、成果はなくてね・・・うちの数人の使用人が何かを知っているみたいなのだけれど、いくら問いただしても口を閉ざしたままで・・・・・アルダン・・聞いているの?』
電話越しに私に話しかけてくれる姉様の声が・・・遠くなっていく・・・。
『・・・とにかく貴方達もできれば彼の捜索に協力してほしいの。あのお寿司屋や近くの書店とか、とにかく彼が行きそうな所を・・・』
・・・とうとう頭がぼんやりとしてきた。その場で椅子から崩れ落ちる私の下へ・・・ヤエノさんが素早く駆け寄ってくるのをどこか他人事のように観察している自分がいる。
「アルダンさんっ?!しっかりしてください!!・・・・・っ!、チヨノオーさん!!!直ぐに近くの先生を連れてきて下さい!」
「・・え、・・・・あ、分かりました!」
カフェテリアが騒々しくなっていく・・・。
・・・ああ、私のせいなのか。
穏やかに食事を楽しんでいる子達もいるのに・・・申し訳ない気持ちになる。
・・・けれど。
「・・・・ご・・・め・・・・・・さい。」
そのまま、謝罪の言葉さえ満足に言えずに・・・私の意識は暗い闇の底へと落ちていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『・・・いよいよ明日はレースですね。』
『・・・。』
『私、今すごくドキドキしています。』
『・・・。』
『・・・緊張・・ではないのです。不思議な気持ちなのですが・・・明日、私にとって・・とても特別なレースになる気がしていて・・・。』
『・・・・。』
『貴方との約束・・・忘れていませんから。・・・貴方もちゃんと待っていてくださいね。・・・寝坊なんて絶対に許しませんから。」
『・・・・・。』
『・・・・・・・・・あの・・・少しは反応を返してほしいのですが・・・。』
『・・・・・。』
『・・・・・・・はぁ。・・・貴方は、本当に本がお好きなのですね。』
『・・・・。』
『・・・私が話しかけているのですから、少しは反応して下さってもよろしいではないですか。・・・大体ですね、貴方は普段から連絡を無視してばかりで―――』
『・・・・・。』
『っあ、今ため息をつきませんでしたか?!・・・酷いです!』
『―――――。』
『・・・え、要件・・・ですか。・・・え、ええ、当然ありますよ。当たり前ではないですか。』
『・・・・・。』
『ええと・・・そうですね。・・・・あ・・思い出しました!・・・・・指切りです!もう一度、私と指切りしましょう!』
『――――。』
『いいではないですか・・・貴方との約束がたくさん・・・素晴らしいことですね。・・・さあ、そうと決まれば早くやりましょう!』
『・・・。』
『・・・ふふ、あの時と同じ。・・・貴方の指先は少し冷たいですね。』
『・・・・。』
『・・・貴方は、今度はどんなことを約束して下さったのですか?』
『――――。』
『・・・・意外、ですね・・・貴方の口からそんな言葉が出るなんて・・・。』
『――――?』
『・・・へ・・・私、ですか?・・・私は・・・・』
『・・・・。』
『・・・ふふふ・・・いえ、すみません。・・・私は内緒にしておきます。』
『――――。』
『・・・そうですね・・・ではこうしましょう。・・・いつかは必ず教えます。・・・ですから、その時まで私のそばにいて下さいね?・・・大事なことなのですから。』
『・・・・。』
『・・・・・・あら、もうこんな時間になってしまいましたか。・・・それでは、私はこれで失礼しますね。』
『・・・・――。』
『・・・・っ!・・・ええ、行ってきます。』
・・・いつかの記憶。
大切なレースの前日・・・唐突に貴方に会いたくなった私は、いつものように貴方のいる書斎に向かった。
変わらずそこにいる貴方は、相変わらず素っ気ない態度でしたけれど・・・貴方と2人きりのあの空間は・・・私にとってかけがえのない、とても大切なもの。
こんな幸せがずっと続くといいなと・・・そう思っていたのに。
「っ・・・・。」
不意に意識が目覚める。
長い夢を見ていたせいか・・・頭がまだぼんやりとしている。
「・・・・ここは。」
私は何を・・・・確か、カフェテリアでチヨノオーさんとヤエノさんと食事をしていて・・・。
「・・・っあ!アルダンさん、気が付きましたか!!」
「・・・良かったです。存外早く目覚めましたね。・・・お身体は大丈夫ですか?」
いつの間にか、私は学園の保健室で横になっていた。
隣ではチヨノオーさんとヤエノさんが心配そうに私を見つめている。
・・・・ああ、そうだ。
思い出した。
「・・・・・彼がいない。」
・・・姉様からきた連絡。彼がいなくなったと伝えられた私は・・・その場でみっともなく取り乱してしまった。
「・・・あの、私も聞きました。あの子がいなくなったって・・・。」
「既に何人かの生徒は彼の捜索に向かったようです。・・・私達もこれから行こうと思っていたのですが・・。」
・・・ヤエノさんが言葉を区切る。私がどうするか聞きたいのでしょう。・・・ですが、私の答えは決まっている。
「・・・私も行きます。」
・・・少し心配されるかもと思ったけれど、私の大切な友人達の前では杞憂だった。
「はい、アルダンさんならきっとそう言うだろうと思っていました。」
「・・・必ず見つけ出しましょう!!」
「・・・ありがとうございます。」
2人とも、本当は早く捜索に加わりたかったのだろうに・・・。
・・・そうだ。
いつだって・・・私はその優しさに救われてきた。
彼女達だけではない。
母様や姉様、メジロ家の皆・・・・そして彼にも。
彼の優しさにも、私はたくさん救われた。・・・それに。
「返しきれないほどの恩も・・・ありますので。」
そうと決まれば早く行かなくては。
・・・早く、彼に会いたい。
「・・・・まずはメジロのお屋敷に行きましょうか。」
・・・・そうして、私達は学園を抜け出し、足早にメジロ家の屋敷へと向かったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――――捜索から3時間が経過した。
あれから、一度メジロ家の屋敷へと向かった私達はその場にいた他の生徒の方々と協力して再び屋敷を捜索した。
既に隣町まで探しに行っている方もいると聞いているが、彼が意図的にいなくなったのだとしたら屋敷に手がかりを残しているはず・・・。
・・・けれど、どこを探しても彼の痕跡が見当たらない。
姉様の言っていた通り・・・本当に、まるで彼の存在などはじめからなかったかのように・・・綺麗さっぱりと。
いつしか、町を捜索していた方々からも周辺すべての書店にいなかったとの連絡を受け・・・いよいよ打つ手がなくなった時の事だった。
「・・・流石に埒が明かないな。・・・ないとは思うが、やはり万が一彼が誘拐されたことも考えて警察に連絡するべきではないだろうか?」
会長、ルドルフさんが口を開いた。
・・・誘拐、確かに彼がいなくなったということでその可能性も当然考慮に入れていた。
彼に限らず、男性の少ないこの世界ではよく耳にする話でもある。
それゆえ、この世界の男性は成人を迎えるまでに外出なんて滅多にしない。
幼い頃、母親から危険を教わることの他に、インターネットの発達している現代では過去に起こった悲惨な事件のことなどで容易に学ぶことができるだろう。
・・・けれど彼の場合は。
「ええ、普通はそう考えるべきでしょうね。・・・でも彼には常に黒服の護衛がいたはず、加えて最近はメジロの者も護衛に参加していたのよ。誘拐なんてされていたらすでに警察に連絡しているでしょうね。」
「・・・・ラモーヌ・・・だが。」
「ええ、それがないということは・・・考えたくないことだけれど、この件にはメジロの者が深く関わっているということ。・・・そして事情を知っていそうな使用人は固く口を閉ざしたまま。・・・こんなの、もう答えは決まっているようなものではなくて?・・・・・・・ねえ、おばあ様。」
そう言って振り返った姉様の視線の先を向くと、いつの間にかそこにはおばあ様がいた。
「・・・・おばあ様。」
・・・そう。私も、屋敷を探している内に分かっていたことだった。
忽然と屋敷から消えた彼。
・・・今日、屋敷から消えていたのは彼だけではなかった。
彼の他にも・・・もう一人。
「私達にここまでなんの説明もなしに行動させて、ようやく姿を現してくださったということは・・・時間稼ぎはもう十分ということかしら?」
「・・・えぇ、彼の無事をこの目で見届けるまでは用心するに越したことはないので。・・・ふふ、珍しく優しいではないですか、ラモーヌ。」
「聞くまでもないことよ、おばあ様がそうなったらどうあっても話さないでしょう。問い詰めるだけ時間の無駄だわ。」
「・・・そうですね。」
「・・・ちょ、ちょっと待ちなさいよアンタたち!!!!なに勝手に解決したみたいな雰囲気になってんのよ!!・・・使い魔は無事ってことなの?!どこにいるのよっ!!!!!」
「・・・・私もさっぱりです。・・・ええと、誘拐とかではないんですよね?・・・居場所が分かっているなら早く会いに行きましょうよ!」
「・・・2人共落ち着いて。・・大丈夫、どうやらちゃんと話してくれるみたいですから。・・・ですよね?」
「っ・・・ダイヤちゃん、でも!」
「ええ、その子の言う通り。・・・彼の事、お話するつもりです。」
「まあ、当然私も分かっていたんだけどねぇ。説明の前に少年の声くらいは聞かせてくれてもいいんじゃないかな?・・・どうやら彼は既に私達の連絡先を全て消しているみたいだからね。」
「・・・は?・・・てことはいなくなったのはアイツの意志だったってことかよ?!・・・そんなわけねぇだろ!!!」
「ポッケさん、落ち着いてください。・・・まだそうと決まったわけではありません。」
「そうだよポッケ君。・・・で、どうなのかな?」
「・・・・・それは了承出来ません。」
「・・・ふっざけんじゃ―――」
おばあ様に掴みかかろうとするポケットさんをカフェさんが必死に止める。
彼女だけではない・・・いつの間にかこの場にいる数人が剣呑な雰囲気を帯びている。
彼が無事だと分かっていても、一向に私達の前に姿を現してくれない現状に・・・私の心もざわめき立つ。
けれど、そんな雰囲気の私達を前に・・・それでもおばあ様は冷静に佇んでいる。
「1度に説明した方が手間も省けます。外にいる子達にも連絡してあげなさい。・・・そうですね、どうせなら書斎で説明しましょうか。・・・・安心してください、私はもう逃げも隠れもしませんので。」
そう言って1人先に書斎へと向かうおばあ様の背中は、なぜかいつもより小さく見える。
「・・・。」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
つい昨日までは、いつものように幸せな日常が続いていたのに・・・。
・・・・果たして。
・・・果たして、おばあ様から話を聞いたら・・・全て元に戻るのだろうか。
彼は、帰ってくるのだろうか。
もし戻ってこないと分かったら・・・・私は。
「アルダンさん!」
「・・・・っ!」
・・・いけない、また悲観的になってしまっていた。
私を見つめるチヨノオーさんの目の端は、いまだ涙の痕が残っている。
「・・・アルダンさん、不安な気持ちになるのも分かります。・・・私もそうですから。話を聞いてすべてが元通りになるとは思っていません。・・ですが、それならその上でどう行動するのかを決めればいいだけです。」
「そうです!私ももう泣きません、あの子がどこにいるのかは分かりませんが・・・たとえどこにいようと迎えに行けばいいだけです!・・・だからアルダンさんも!」
「・・・2人とも。」
ヤエノさんもチヨノオーさんも、既に覚悟はできているみたいだった。
そして、それは他の方々も同様のようで・・・
「君達の言う通りだ。現状分からないことだらけだが・・・聞かされる話がどのような内容であろうとも、彼を連れ帰るという事実は変わらない。今はそれだけで十分だ。」
「・・・・会長。」
「・・・思えば、私達は彼がどこから来たのかすら知らないのよね。・・・ふふ、"恋は盲目"というけれど・・・私もそうだったみたいね。」
「・・姉様。」
そうだ、私達は彼の事について何も知らない。
彼の存在があまりにも特異に過ぎて・・・彼の事を詮索すれば、私達から離れていってしまうような気がして・・・。
・・・彼がいなくなった今では、今更な話ではあるのだけれど。
でも・・・そうだ。
もう逃げるのは止めよう。
「メジロアルダン、君も・・・覚悟は決まったようだね。」
「・・・はい。もう迷いません。」
彼に会ったら、今度こそ・・・たくさん話をしよう。
聞きたいことは山ほどある。
彼の生まれた場所。
家族のこと。
私達女性への捉え方も・・・一応。
だから・・・
「貴方がどこにいようとも・・・必ず会いに行きます。」
心に決めた。
ちなみにこの世界に一夫多妻制はないです。
なのでどのルートであったとしてもハーレムエンドみたいな甘ったれた展開はないので悪しからず。