本読んで、ご飯食べて   作:恵の鷹

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normal end 本当の意味で最後の話になります。


normal end (√小暮町帰郷編・裏) See you in my dream

 

 

「・・・。」

 

 

時刻は既に19時を回っている。

 

窓の外には暗闇が広がり、辺りは異常なほどの静けさに包まれている。

 

外を捜索していた生徒の中にはかなり遠くの方まで行かれている方もいて、気づけばこんな時間になっていた。

 

場所はメジロ家の書斎。

 

彼がこの屋敷に来られて以降・・・私自身、何度も訪れた場所。

 

・・・いえ、私だけではないですね。

 

頻繁にご飯の催促に伺っていた方、お話をしようと伺っていた方、悩みを相談するために伺っていた方・・・この場にいる学生の方々は、皆一様に複雑な思いでいることでしょう。

 

私も・・・覚悟を決めた今に至ってもなお・・・この場所にいるだけでどうしようもないくらいの悲しみが襲ってくる。

 

 

バタン!!!

 

「・・・・ハア、ハア・・・か、彼が見つかったというのは本当なのか?!」

 

「は、早く会いに行こうよ!!!・・・ライスはまだ全然動けるから!」

 

「はい、私も今すぐ動けますよ!!・・・・・彼はどこに?!!!」

 

そうした思いを抱えている内に、書斎の扉からは最後の待ち人であるオグリさん、ライスさん、スペシャルウィークさんが到着した。

 

「・・・3人共、ここまで急いで来たことは容易に察することができるが、まずは落ち着け。・・・そしてオグリキャップ、私は彼が見つかったとは一言も言っていない。」

 

「っな・・・・だが!」

 

「私は、彼がいなくなった理由を聞けると言ったんだ。」

 

「急にいなくなったんだぞ!彼に何かあったらどうするんだ!!!」

 

「・・・きっと今もライス達がいなくて寂しがってるはず・・・早く迎えに行かなきゃ。」

 

「そうです!会長さんは彼が心配じゃないんですか?!・・・もう私1人だけでも―――」

 

 

瞬間・・・会長を中心に異様な緊張感が襲ってきた。

 

「「「っ・・・・」」」

 

・・・あまりの威圧に流石の3人も言葉を詰まらせる。

 

けれど、それも一瞬のこと。

 

すぐに気を緩めた会長は、一転して穏やかな表情で3人に言った。

 

「・・・安心してほしい、気持ちは同じだ。だが今は衝動的な行動に出るべきではない。・・・全ては、話を聞いてからだ。」

 

そう言って視線をおばあ様に向けた会長は腕を組み再び沈黙した。

 

「・・・・おばあ様。」

 

そして、この場にいる全員の視線がおばあ様に向けられる。

 

書斎と言っても人が優に100人は収容できるこの部屋も、今や集まった学生や屋敷の使用人の方々でかつてないほどの密度になっている。

 

・・・これだけの方々に見つめられているというのに、流石におばあ様からは一切動揺している様子が見られない。

 

それまで静かに目を閉じていたおばあ様は、それからゆっくりと目を開けた。

 

 

「・・・・さて、ようやく全員が集まったみたいですね。」

 

 

「ええ、早く聞かせて頂戴。」

 

「そうです!!彼はどこにいるんですか!!!」

 

おばあ様は逸る私達をなぜか憐憫の眼差しで見つめている。

 

 

「・・・まずはじめに言っておきますが、今回私は・・・私自身の口から彼の居場所を言うつもりはありません。」

 

 

「「「「「っ・・・・・・」」」」

 

「急に何言ってんのよ?!!話が違うじゃない!!!」

 

 

「話をするとは言いましたが、"全て"をお話するとは一言も言っていませんよ。」

 

 

何人かの生徒が興奮して立ち上がる中、生徒会の方々や姉様、その他にも冷静な方は静かに何かを考えているようだった。

 

タキオンさんもその一人・・・

 

 

「・・・ずっと、気にはなっていたんだよ。まだ中学1年生という若さの少年が1人、屈強な護衛を伴っているとはいえ長期間この屋敷に滞在していた。・・・彼の親はどうして放っているんだろうとね。」

 

 

そう、男女比が極端に偏っている現代では絶対にありえない。

 

タキオンさんが口にした疑問・・・私達が一様に感じていながらも、彼を詮索することが憚られたため・・・誰も口にできないでいたこと。

 

 

「今は彼もいないので堂々と質問するよ。・・・ひょっとして、彼の両親、もしくは母親は既に他界している。あるいは・・・彼はそもそも東京都の出身ではないんじゃないかな?」

 

 

彼と出会ってから今まで、彼の母親らしき人物とは会ったことがない。・・・けれど、最初の疑問はすぐに姉様によって否定された。

 

 

「・・・家族はいるわよ。」

 

「ん、どうして確信しているんだい?・・・ひょっとして既に会ったことがあるのかな?」

 

「いいえ、けれど本人の口から話を聞いたことがある。・・・懐かしいわね、私が初めて彼をこの屋敷に招いた日の事・・・その日の夜に一晩中語り合ったわ、お互いの家族の事をね。・・・既に亡くなっているのなら、あんなに楽しそうに語る事なんてありえないわよ。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・アルダン、そんなに睨まないで頂戴。悲しくなるわ。・・・・他の子も目が怖くなっているわよ。今は話し合いをしているのではなくて?」

 

 

・・・ふふ、いけませんね。つい姉様の事を睨んでしまいました。反省です。

 

 

「・・・・とすると、まさか本当に彼はここの出身ではなく・・・他の地域からわずかな護衛を連れて1人で東京に来たとでも言うのかい?・・・自分から言ったこととはいえ、こっちの可能性はかなり低いと考えていたんだが。」

 

「そんな可能性計算するまでもねぇ。ゼロだゼロ!・・・一体どこの国に中学生の男を1人で旅させる母親がいるんだよ。」

 

「え~、シャカールは意外としそうじゃない♪」

 

「しねぇよ!」

 

「まあ、本当なら恐ろしく肝が据わっている人物であることに違いはないだろうねぇ。それとも・・・それほどまでに少年の事を信頼している・・・とかね。」

 

 

・・・と、そこまで言ったところで唐突におばあ様が微笑んだ。・・・まるで生徒が問題に正解した時の先生のように、穏やかな表情で。

 

 

「信頼、ですか。・・・あながち、それも間違いではないのかもしれませんね。」

 

 

「・・・ということは。」

 

「ええ、貴方の考えは概ね間違っていないと思いますよ、アグネスタキオン。・・・彼が東京都の生まれでないという疑問には、はいと返答します。」

 

この時ばかりは全員に少なくない動揺が走る。

 

若い男の子はその地域に生きる人々にとって文字通り宝だ。

 

どれほどお金を積まれても、遠くの地域へ行かせることなどありえない。

 

同じ女性だから分かる、もし私にそんな子供がいたならば、少なくとも20歳を超えるまではそばに置いておく。

 

「・・・・ですが。」

 

・・・それなら彼はどうして。

 

「・・・でも、この考えには明らかに致命的な欠陥があるんだよ。・・・どうして彼は1人で東京に来たんだい?一体何のために・・・。」

 

そう、そうなのだ。

 

「・・・彼がこのお屋敷にいた時にはずっと読書に勤しんでいるかお料理をされているかでした。・・・とても彼がこの東京で何かをしに来たようには見えないのですが・・・。」

 

 

「・・・言っていますよ。」

 

 

・・・・・・へ。

 

「・・・ですからアルダン、貴方は既に正解を言っていますよ。」

 

「・・・正解と言われましても。・・・私は彼がこのお屋敷で読書と料理をされていたと言っただけで・・・。」

 

「はい、なので日々非常に充実されたお顔をされていましたね。」

 

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

 

私に限らず、その場にいる方々が沈黙してしまいました。

 

どういうことでしょう。

 

・・・私は先程正解を言っていた?

 

おばあ様の言っていたこと・・・・正解・・・・読書と料理・・・・

 

「・・・・っは!」

 

思い出すのは最後の日、彼が私達に一瞬見せて下さった笑顔。

 

出会った時の事、カウンター越しでおにぎりを握る貴方は・・・・

 

点と点が繋がり、線となる。

 

 

「・・・・なるほど、そう言うことだったのか。」

 

「ら、ライスも分かっちゃったかも。」

 

「当然です!」

 

オグリさん、ライスさん、スペシャルウィークさん・・・いえ、それ以外の方々も私と同様の答えを導いたようでした。

 

そう、つまり彼は・・・

 

 

「「「「「「「愛する私(あたし・ボク・わたくし・オレ)に料理を作りたくて来た。ということですね(だよね・だね・ですわね・だな)。」」」」」」

 

 

・。

 

 

・・・。

 

 

・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「・・・・・・・ん?」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

あら・・・

 

あらあらあら、皆さん何を勘違いなさっているのでしょうか。

 

彼が私を愛していたことは明白だというのに。

 

ひょっとして私が彼と抱擁している所を見られていない方もいたのでしょうか?

 

お可哀そうに・・・

 

 

なるほど・・・やっと理解できました。

 

恐らく彼は幼い頃にテレビ越しで見た私に一目ぼれをしてしまい、一度でもいいから自分の作った料理を食べてほしいと両親の反対を振り切り、はるばる東京に。

 

本来であればそれだけで帰るはずだったのに、私に未練を抱いた彼はメジロ家に滞在。

 

・・・私と過ごす幸せな日々の中で、とうとう彼の両親の我慢の限界が来てしまい、彼は私にお別れを告げることなく帰ってしまわれた。(ここまですべて妄想です)

 

 

なんていじらしいのでしょうか!

 

お互いに愛し合う私と彼・・・けれど残酷な運命が2人の恋を許さない。

 

そういうことなら言ってくだされば良かったのに・・・。

 

いえ、ですがこれは彼の優しさ。

 

彼と私が結ばれてしまえば彼のご両親や故郷に住んでいる方々からは大層恨まれてしまうことでしょう。

 

それを危惧した彼は敢えて私に何も告げなかった。

 

 

「・・・・・ですが大丈夫です。」

 

 

貴方と結ばれる為ならば・・・私、世界を敵に回せます!

 

数々の苦難を乗り越えて結ばれる私達・・・ふふ、少し気持ちが昂ってしまいますね。

 

 

「・・・・ちょっと待ってほしい。ひとまず私の意見を聞いてもらえないだろうか。・・・ああ、思い出す。彼とはじめて出会った時の事、おいしそうにおにぎりを頬張る私を穏やかに見つめていた彼は―――」

 

「ちょい待ちオグリ!!アイツはどう考えてもウチのことみとったやろがい!!!!!」

 

「あらあら~・・・落ち着いてください2人共。・・・実を言うと、彼は母性に飢えていたんですよ。彼が私を見つめる瞳には、言葉にせずとも伝わる思いがあります・・・あぁ、本来ならママとして何も言われずとも応えるべきだったのに・・・・待っていてください、すぐにママが迎えに行きます!!!」

 

 

「・・・あの時脱いだのはやっぱりそういうことだったんだね!ライスが意気地無しなせいでキミがいなくなっちゃうなんて・・・。・・・・でももう大丈夫、誰からも祝福されなくても、キミさえいてくれたらライスは(ハイライトオフ)。」

 

「ピピー・・・ステータス"恋心"を獲得。オペレーション"結婚"を直ちに実行します。」

 

 

「わあ!わたしも大好きだよ!!!えへへ、いつかいっしょに料理ができたらいいな~♪」

 

「ウ゛ラ゛ラ゛ざあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!」

 

「もちろんトレーナーも一緒だよ!」

 

「ウ゛ラ゛ラ゛ざあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああん!!!!!」

 

 

「っふん、なによ。使い魔のくせに生意気なんだから!」

 

「う゛あ゛ああああぁぁぁぁぁぁぁあああわ゛だし勘違いばかりじでえぇぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

「ふふ、お母様には良いご報告が出来そうです♪」

 

 

「・・・まあ、貴方がどうしてもって言うのなら私もやぶさかではないっていうか・・・・はぁ、そういうことはもっと早く言いなさいよ。」

 

「ううぅぅぅぅ・・・・。アヤベさん、私じゃだめですか?」

 

「・・・・・・言わせないでよ。」

 

「・・・・え、」

 

「・・・だから、貴方の事も大好きに決まっているでしょう!」

 

「ア゛ヤ゛べざああああぁぁぁぁぁぁあん!!!!!!!」ダキッ!!!

 

「ちょ、ちょっと・・トップロードさん、、近い。」

 

 

・・・・いけませんね、ここにいる皆さんが彼とのありもしない幻想を見ているようです。

 

と、そこで・・・今まで静かに事の成り行きを見守っていたおばあ様が口を開かれた。

 

 

「・・・・皆さん落ち着いてください。すみません、私が曖昧な伝え方をしたせいで何か盛大な勘違いをしていらっしゃるみたい。」

 

 

「・・・ん?勘違いとはどういうことだい?・・・ああ、私以外が彼とのくだらない妄想を考えていることかな。」

 

「タキオンさんには言われたくないです。」

 

 

 

額に手を当てて頭痛を耐えるような仕草のおばあ様・・・大丈夫でしょうか。

 

 

「・・・そうではありません。第一に、料理の方ではないですよ。」

 

 

「・・・・・え」

 

料理の方ではない?

 

それはつまり・・・

 

 

「彼は・・・あの子は本が好きなのです。」

 

 

「・・・それは・・ええ、当然承知しています。・・・ここは、彼のお気に入りの場所なのですから。」

 

「いいえ分かっていません。・・・アルダンはじめ、貴方がたがどのような勘違いをされているのかは分かりませんが・・・一つ確かなことは、彼が貴方達を愛してはいないということです。」

 

・・・彼が、愛していない?・・・そんなの

 

「嘘です!」

 

「嘘ではありません。・・・けれど、あの子は貴方達の事を大切に思っている。それは間違いではないですよ。」

 

「そんな・・・・・・。」

 

 

そんな言葉が聞きたいんじゃない。

 

彼は私の事を愛してくれているはず・・・そうでなければ。

 

・・・・そうでなければ・・・。

 

 

「・・・・アルダン、そして貴方達も。・・・・いい加減に現実を見つめなさい。」

 

「私は・・・・。」

 

「安易に希望に縋る事はお止めなさい。痛々しくて・・・見ていられません。」

 

「・・・・・・。」

 

「そのような顔で・・・希望を語らないでください。・・・貴方達は、悲しんでいるではないですか。」

 

言わないでください。

 

「・・・・本当はもうとっくに、気づいているのでしょう。」

 

希望を・・・夢を見させてください。

 

「・・・・顔を上げなさい。」

 

「・・・お願いです。・・・どうか。」

 

「受け止めなさい。」

 

 

―――どうか。

 

 

 

・・・先程の喧騒から一変して、再び書斎は静寂に包まれる。

 

冷静なのはおばあ様ただ一人・・・・答えを知っているのも・・・・おばあ様・・・だけ。

 

 

 

「・・・もう一度、説明をします。・・・お話します、あの子の事。」

 

 

 

 

 

・・・いいではないですか、希望に縋っても。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

それから、おばあ様は語ってくれた。

 

 

彼は本当に本が大好きなこと。

 

故郷で本を読み尽くし、新しい本に出会う為に東京にやってきたこと。

 

そこで私達と出会ったこと。

 

本来は1週間で帰るはずだったが、偶然メジロ家の書斎を見て、帰郷を遅らせたこと。

 

彼の故郷には既に、彼の大切な人達が大勢いること。

 

私達の事も大切に思っていたこと。

 

帰郷を決断された際には、とても悲しんでいたこと。

 

 

 

 

「・・・彼の事を大切に思っているのは私も同じ気持ちです。」

 

 

「・・・・。」

 

 

「・・・私の独断でメジロ家に勧誘もしました。・・・結果断られてしまいましたが、彼が突然帰郷を決断したのはそのせいです。・・・恨むのならどうか私を。」

 

 

そう言って説明を終えたおばあ様は、内容をゆっくりと理解する私達を静かに待ってくれていた。

 

 

本当は理解なんてしたくない。

 

 

でも・・・彼はもういない。

 

 

どれだけ願っても・・・帰ってはこない。

 

 

もう・・・・二度と。

 

 

 

「・・・・彼は、私達を選んではくれなかったのですか」

 

 

「・・・・そうです。」

 

 

「・・・・彼は・・悩んでいましたか」

 

 

「・・・はい、とても。」

 

 

「・・・・たくさん、悲しんでくれましたか。」

 

 

「・・・・はい、この目で見ました。」

 

 

「・・・・お別れは・・・」

 

 

「・・・・できません、貴方達が悲しむから。」

 

 

「・・・・もう・・・会えないのですか」

 

 

「・・・・はい、貴方達が大切だから。」

 

 

「・・・・・そうですか。」

 

 

 

そうですか・・・これで、お別れですか・・・。

 

・・・こんな

 

こんな、最後なのですか・・・。

 

こんな・・・呆気ない。

 

 

「・・・・・・・ふっざけんじゃないわよ」

 

 

・・・・そう言って、泣き出したスイープさんがきっかけだった。

 

 

それを見たキタさんも、ライスさんも、ウララさんも・・・

 

 

1人、また1人と泣き出して・・・

 

 

そうでない人も・・・今は静かに目を閉じて・・・

 

 

そして姉様は・・・

 

 

「・・・・どこに行くのですかラモーヌ。」

 

 

「決まっているわ、彼の所よ。」

 

 

「・・・場所も、分からないのにですか。」

 

 

「関係ないわ・・・見つけるまで探すだけだもの。」

 

 

「・・・・ラモーヌ。」

 

 

「・・・私は行くわよ。・・・こんな最後、認められるわけないでしょう。」

 

 

「ラモーヌ」

 

 

「・・・私は」

 

 

「貴方のことを大切に思っています。」

 

 

「っ・・・・。」

 

 

「・・・だから、行かないでください。」

 

 

「・・・・こんな・・時だけ。」

 

 

「貴方にこれ以上傷ついてほしくはないのです。・・・だから」

 

 

「・・・・卑怯よ。」

 

 

「・・・はい、知っています。」

 

 

「・・・・・私が・・・恨んでも。」

 

 

「・・・はい、全て受け止めます。」

 

 

「・・・・・・・そう。」

 

 

そう言って、とうとう姉様も足を止めた。

 

 

「・・・・・・。」

 

私はそんな光景をただ1人、ぼんやりと眺めている。

 

お話を聞いてから、頭がうまく働かない。

 

自分が許容できる感情を明らかに超えている。

 

全てを受け入れるには、あまりにも辛すぎて・・・悲しすぎて・・・。

 

もう何も分からない。

 

 

「・・・・アルダン。」

 

 

「・・・どうしたのですか、おばあ様」

 

 

「っ・・・・。」

 

 

「すみません、なんだか不思議な気分で・・・」

 

 

「・・・アルダン・・・お願い。」

 

 

「・・・何も、感じないんです。・・・今私はどんな表情をしているのでしょうか?」

 

 

「・・・恨むのは・・・私に。」

 

 

「・・・そんな不毛なことはしませんよ。」

 

 

「・・・アルダン、貴方が一番心配です。」

 

 

「すみません・・・・やはり今は何も感じないんです。」

 

 

そうだ、きっと少しでも睡眠をとれば落ち着くはず。

 

受け止められるはず。

 

今は少し・・・眠たくて。

 

 

「・・・・・少し、仮眠を取ってきますね。」

 

 

そう言って立ち去る私を見送るおばあ様の顔には、なぜか靄がかかっていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ふと目が覚める。

 

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

今は何時なのでしょう。

 

 

「・・・・お嬢様。」

 

 

「ああ、すみません。今起きました。・・・・彼は・・・」

 

 

「・・・・・いません。・・・・帰られましたよ。」

 

 

「そうですか・・・また、夢をみていたのですね。」

 

 

「・・・お嬢様。」

 

 

「すみません、まだ少し・・・眠いので。」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「ふふ、そのような顔をなさらないでください。眠いのは、今だけですので。」

 

 

そう、彼に出会えるのは夢の中だけ。

 

いつかは必ず乗り越えますから、今は感傷に浸らせてほしいです。

 

 

そういえば、私が起きているときに聞いた話だと・・・あれから他の方々もお部屋に閉じこもってしまわれているのだとか・・・。

 

姉様や会長、オグリさんなどの一部活発な方々は遂には彼を探しに出かけたと聞いた。

 

分かっていたことですが。

 

・・・ですが、そんなことをしても傷つくだけです。

 

でも・・・夢の中でなら。

 

 

「ふふ・・・すぐに会いに行きますね。」

 

 

夢の中の彼ならば・・・私を選んでくれるから。

 

 

 

「おやすみなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・いよいよ明日はレースですね。』

 

『・・・。』

 

『私、今すごくドキドキしています。』

 

『・・・。』

 

『・・・緊張・・ではないのです。不思議な気持ちなのですが・・・明日、私にとって・・とても特別なレースになる気がしていて・・・。』

 

『・・・・。』

 

『貴方との約束・・・忘れていませんから。・・・貴方もちゃんと待っていてくださいね。・・・寝坊なんて絶対に許しませんから。」

 

『・・・・・。』

 

『・・・・・・・・・あの・・・少しは反応を返してほしいのですが・・・。』

 

『・・・・・。』

 

『・・・・・・・はぁ。・・・貴方は、本当に本がお好きなのですね。』

 

『・・・・。』

 

『・・・私が話しかけているのですから、少しは反応して下さってもよろしいではないですか。・・・大体ですね、貴方は普段から連絡を無視してばかりで―――』

 

『・・・・・。』

 

『っあ、今ため息をつきませんでしたか?!・・・酷いです!』

 

『―――――。』

 

『・・・え、要件・・・ですか。・・・え、ええ、当然ありますよ。当たり前ではないですか。』

 

『・・・・・。』

 

『ええと・・・そうですね。・・・・あ・・思い出しました!・・・・・指切りです!もう一度、私と指切りしましょう!』

 

『――――。』

 

『いいではないですか・・・貴方との約束がたくさん・・・素晴らしいことですね。・・・さあ、そうと決まれば早くやりましょう!』

 

 

『・・・。』

 

『・・・ふふ、あの時と同じ。・・・貴方の指先は少し冷たいですね。』

 

『・・・・。』

 

『・・・貴方は、今度はどんなことを約束して下さったのですか?』

 

 

『――――。』

 

『・・・・意外、ですね・・・貴方の口からそんな言葉が出るなんて・・・。』

 

『――――?』

 

『・・・へ・・・私、ですか?・・・私は・・・・』

 

『・・・・。』

 

『・・・ふふふ・・・いえ、すみません。・・・私は内緒にしておきます。』

 

『――――。』

 

『・・・そうですね・・・ではこうしましょう。・・・いつかは必ず教えます。・・・ですから、その時まで私のそばにいて下さいね?・・・大事なことなのですから。』

 

『・・・・。』

 

『・・・・・・あら、もうこんな時間になってしまいましたか。・・・それでは、私はこれで失礼しますね。』

 

『・・・・――。』

 

『・・・・っ!・・・ええ、行ってきます。』

 

 

 

 

 

 

ずっと・・・おそばに。

 

 

 

 

 

 




指切りげんまん
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