※本編16話、主人公と当主さんが会話しているタイミングで、normal end で生涯を終えた東京のウマ娘達が記憶だけタイムスリップしてきたらどうなるのか。
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ペラ・・・・・・・・・・・ペラ・・・・・・・・・・
「・・・。」
いつもの書斎、いつもの椅子に腰かけて、今日も今日とて本を読む。
東京に来てから、変わらない日常。
ここはレース界の重鎮、メジロ家のお屋敷。
学校と言われても信じてしまう程の豪邸に、いくつものトレーニング施設や広大な土地を所有するメジロ家では、当然のようにその書斎も広々とした、居心地のいい空間になっている。
「・・・・。」
ふと、窓の外を見る。
今日は朝から雨が降り続けている。
学園の生徒達は外での練習が大変だろうな・・・いや、流石に室内トレーニングになるのかな。
しかし基本書斎に籠っている私には関係ない。
平日の午前中ということもあり、ここでは静かに時間が過ぎていく。
一昨日に行われたアルダンさんの衝撃的なレースの事で一時的に騒がしくはあったものの、当主さんのおかげでそれもすぐに落ち着きを取り戻した。
「・・・・・。」
ということで、相も変わらず私はメジロ家の書斎で本を読んでいる。
・・・そんなときの事だった。
静かに書斎へとやってきた当主さん。
彼女はアルダンさんの事についてお礼を伝えると、その後少し雑談をした後、私にこう告げた。
「・・・今日の夜、私の執務室に来てください。貴方に大事な話がありますので。」
先程の穏やかな表情とは一変して、どこか緊張している風の当主さん・・・。
話の内容は気になったが、どうせ今夜分かるのだ・・・私はそれから読みかけの本へと視線を戻し・・・。
「・・・・・・っっ?!!!!!」
突然、視界の隅で当主さんの身体が震えるのが見えた。
「・・・・。」
何かあったのだろうかと再び当主さんの方を見たのだが・・・私に背を向け、書斎の扉に手をかけたまま一切動かない。
その後ろ姿からは何かとても困惑している様子を感じ、思わず声を掛けようとしたのも束の間・・・
ドアノブから手を放し、ゆっくりと私の方へと振り返った当主さん。
「・・・・・・どう・・して・・・。」
呆然と私を見つめる彼女の瞳は瞬きもなく、口は驚きで塞がらないようだった。
そして・・・そのまま再び固まってしまった。
「「・・・・・。」」
無言が続く。
お互いに見つめ合ったまま・・・窓の外の雨音がやけに大きく響いている気がする。
当主さんと私、2人だけの書斎の中で、私の方はただただ困惑していた。
・・・当主さんは、本当にどうしたのだろうか。
つい先ほどまでは私と普通に会話をしていたはずだ。
それまで特に変わった様子は見られなかった。
身体をどこかにぶつけたわけでもない、ただ一瞬大きく震えて・・・
「・・・。」
・・・・うん。分からないことだらけだな、使用人さんでも呼ぼ「貴方は―――。」・・・ん?
「・・・貴方は、そこに・・・いるのですか。」
「・・・?」
・・・んん?
急に何を言っているんだ。
いや、ひょっとして私は実は幽霊だったり・・・しないよね。ちゃんと実体なのだし。
「・・・・これは・・・夢、なのですか?」
「・・・。」
いや、夢ではないと思う。
・・・・一応、確認として自分の頬をつねってみる。・・・はい、痛いです。
そんな私を見つめたままの当主さんは、それでも、徐々に言葉を紡ぎ出した。
「・・・・私は・・貴方達の為を思って・・それなのに・・・どうして・・・。」
「・・・・・・。」
言っていることはまったく理解できないが、事ここに至って彼女がかなり不安定な状態である事は理解できた。
・・・仕方がない。
病気やけがの類ではないのだろうけど、当主さんのためにポケットからきび団子を取り出す。
なぜかは分からないが急におかしくなった当主さん。
このまま放置するよりはマシになるはず。
手元にある分で一番レベルの低い・・・・あった、レベル5のきび団子でいいだろう。
急いで彼女の下へ向かう。
「・・・」
はい、お食べ。
差し出された当主さんは私の手のひらにのっているきび団子を見てはっとした表情になった。
まあ、それも当然だろう。
・・・なぜなら、彼女は知っているから。
「・・・・・それは、あの時の・・・。」
そう、きっと落ち着くと思う。
「・・・・私が・・・。」
ん?
「私が・・・頂いても・・・・よろしいのですか?」
うん。
「私は・・・間違えてしまったのに・・・。」
「・・・・・。」
「・・・私のせいで。」
「・・・。」
・・・仕方がないので食べさせてあげる事にした。
なぜか誰かに謝り続ける彼女は、それでも、私が食べさせたきび団子を抵抗することなく咀嚼してくれた。
よし、これで一件落着だな。
神様に感謝しておこう。
効果は語るまでもないな、目の前の当主さんはいつの間にかだいぶ落ち着いたようだ。
身体の震えもすっかりなくなっていた。
「・・・ええ、ありがとうございます。・・・・また、貴方に助けられてしまいましたね。」
「・・・・。」
気にしないでほしい、私の方こそこの書斎に巡り合えたことに日々感謝している。
「ふふ、貴方ならそうおっしゃいますよね。・・・相変わらず・・・懐かしいです。」
懐かしい?
・・・まあいいや。それで、さっきは一体どうしたんだろうか。
「それは・・・・いえ、何でもないのです。」
明かに普通じゃなかったはず・・・。
「本当に、何でもないのです。」
・・・でも。
「仕事のし過ぎなのかしらね・・・。もう大丈夫ですから。」
・・・・泣いているのは。
「・・・・。」
言われて、頬に手をのばした当主さんはようやく・・・自分が涙を流していることに気付いたらしい。
それは本人でも不思議なようで、何度も袖で拭うのに。
拭ったそばから溢れてしまって。
何度も・・・何度も・・・
拭って、溢れて・・・。
遂には・・・止めることを諦めたようだった。
やがて、彼女は涙を流したまま・・・静かに語りだした。
「・・・・・私は、選択を間違えてしまったのです。」
「・・・。」
「・・・今でも・・・答えは分かりません。」
「・・・。」
「ただ・・・多くの子達が悲しんで・・・。」
ドガアァァン!!!!!!
「・・・?」
「・・・多くの子が、傷ついて・・・。」
ゴシャッ!!!!!ガガガガガガ!!!!!!
・・・・いや、なんかすごい音が聞こえるんだけど。
当主さんは語ることに夢中で全く気付いている様子はない・・・なんだ、賊か?!
直後、私のポケットのスマホがけたたましく鳴り響いた。
黒服さん?
・・・電話に出た直後、いつもの冷静な彼女達からは考えられないような声量で―――
「今すぐここから逃げて下さい!!!!!!!!」
・・・・・・ん?
行き当たりばったり。