本読んで、ご飯食べて   作:恵の鷹

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脳死でかろうじて読める小説


第3話

 

〇月×日 火曜日 AM 06:30

 

窓から差し込むあたたかな太陽の光を頬にうけ、私の意識は覚醒した。

 

私は寝起きはいい方だ。手早くラフな格好に着替え朝の準備を始める。

 

今までは朝昼晩と両親が分担して料理を作っていたのだが、私のスキルが発覚してからは基本的に時間があれば私が作ることになっている。

 

手早く調理を進める。

 

今日のメニューは「炊き込みごはん」、「油揚げと豆腐の味噌汁」、「ほうれん草のおひたし」、「焼き鮭」

 

食材を用意してから3分で作り終わり(ごはんは3分で炊けない)、テーブルに並べる。

 

ここらへんで両親は起きてくる。

 

母は一時的に料理屋を営業停止にして悠々自適に暮らしている(店の前の人混みがうざいらしい)。それまで休みらしい休みもなかったし、貯金がたまるばかりだったそうだ。

 

休みの影響かは知らないが最近の母は妙に肌がつやつやしているし、なんか幸せオーラが出まくっている。代わりに父は朝はミイラみたいにやつれている。でも私の料理を食べれば簡単に回復するみたいなので大丈夫だろう(父が最近私に冷たいが、多分原稿に行き詰っているからだと予想している)。

 

3人での朝食が終われば私は早速本を読む。

 

学校から課題は出されているものの教科書が届いたその日にすべて読破し、歴史の内容に若干苦戦したものの「速読」のおかげか内容が頭に定着するのが早いので数日のうちに大体終わらせている。

 

 

ページをめくる。

 

表紙に惹かれ買ったのだが内容はいまいちだった。

 

ページをめくる。

 

家族愛を主題にした本だった。感動した。

 

ページをめくる。

 

記憶喪失の少女が周囲の助けを得ながら成長する物語。いいね。

 

一気に3冊を読み一度目を閉じる。

 

頭の中には先ほど読んだ小説の内容がおぼろげな映像として再生される。私はこの時間が嫌いじゃない。

 

そのまま目を閉じ、じっとしていると記憶の中で強烈な映像が再生される。

 

いや、だめだ。

 

それはもう忘れようと決めたじゃないか。

 

彼女たちは私とそう年の変わらない学生じゃないか。きっとなにかの間違いだったんだ。

 

再び目を閉じる。

 

思い出されるのは先ほどの・・・

 

 

やめよう。

 

ちゃんと現実を見つめよう。兄さんはよく現実逃避するよねと生前弟にも注意されていた。

 

明日も変わらず学園で仕事があるんだ。

 

鷹の目さんの期待に応えると決意したじゃないか。

 

今日はしっかりと自分をいたわり明日に備える。そうしよう。

 

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

 

私の眼前には死屍累々の屍が横たわっている(死んでないです)。

 

彼女たちは最後に何を思い、何を考え散っていったのか(死んでないです)。

 

その瞳に映るのは絶望か、後悔か、比較的幸せそうにくたばっている子も多い(断じて死んでないです)。

 

 

私は思う。

 

なぜこうなってしまったのだろうか。

 

 

話しは私がハンバーグをつくり始めたところまで遡る。

 

その時の私はとにかくこの学園のためになればとめちゃくちゃ張り切っていた。相変わらず無表情ではあるのだがとにかく張り切っていた(隣で驚愕くんが肩を震わせながらがんばれーっと小声で応援してくれたのも大きい)。

 

私の握る包丁も心なし輝いていた。

 

私は頑張った。

 

この学園には中高合わせて600人近い生徒が在籍している。

 

他の調理師さんが作るおかずのことも考え、私はハンバーグをきりよく100個もつくった(ばかです)。100個もつくったのだ(少ないです)。

 

調理も10分くらいで完了し(意味が分からないです)、驚愕くんと一緒に大皿にのせて運んだ。

 

この時すでに早めに食堂に来ていた、この学園の生徒と思われる女の子たちは50人くらいいた。

 

私がハンバーグをつくっているときから来ていた子もいたのだが、なぜか全員入り口で10秒くらいフリーズし、目をごしごししてから壁に頭をぶつけたり、隣の友達と頬を(文字通り)ちぎれるくらいひっぱりあったりして、私は変だなと思っていた(ばかです)。

 

たまに私たちを指さしながら

 

「ようせいしゃん?」

 

「ようせいしゃんがいう~!!!」

 

「きゃっきゃっ!!」

 

「だ~!う~!!!!」

 

なんて言っている子もいたが、近所にいる3歳の女の子みたいだ(現実逃避)。

 

その後は全員(職員含む)がトレイを手に持ったまま、しかしすでに並べられている料理には見向きもせず、ひたすらに私と驚愕くんを凝視し、また私たちの運ぶハンバーグを凝視していた。瞬きはなかった。

 

この時点で私はこの後に起こりうる最悪を想定し(遅いです)、お皿を置いたらとりあえず驚愕くんを担いで帰るかなんてのんきなことを考えていた。

 

そして私たちはお皿を置いた。

 

置いてしまったのだ。

 

そして始まった。

 

聖戦が(もう全員〇んだほうがいいと思います)。

 

 

 

 

はじまりはポニーテールの快活そうな女の子だった。

 

彼女は素早いフットワークで置かれた皿に飛び込みトングを手にしようとした。が、横に現れた小柄な短髪の女の子の突進をくらい派手に吹っ飛んでいった。

 

きれいな深緑色の髪をしたどこかの令嬢のような優し気な雰囲気の女の子が「あら、あら~♪」なんていいながら周りにいるウマ娘たちを手刀で仕留めていた。

 

混沌とした状況の中、匍匐前進でハンバーグへと突き進むおさげの女の子がいた。背中を派手に踏まれてた。

 

調理師のお姉さんたちが

 

「そんなんだからあんたはいままで処lじゃgljらwんg!!!!!!!!(放送禁止用語)」

 

「あんただって近所のあjwrんごあrgなrg!!!!!!!!(放送禁止用語)」

 

なんて取っ組み合いながらバトっていた。

 

 

途中から現れたつり目ちゃん、金髪ちゃん、貧乳ちゃんは一瞬で私のことを視認し現場の状況を把握すると、この混沌の中に飛び込んでいった。戸惑いすら見せなかった。

 

昔母が「女ってのはね、男の為なら笑顔で死地に飛び込むようなやつばっかなのさ、親友なんて、友情なんて、、、、儚いものよ」なんて語っていたのを思い出す。

 

被害が増え続ける中、当然学園にいる他の生徒も続々と食堂にやってくる。

 

始めは困惑が大きかったようだが、同じ女性として何か感じることでもあったのだろうか。

 

混沌の果ての、地獄の先の希望(ハンバーグ)へと、1人、また1人と突き進む。

 

言葉なんていらない。

 

情をみせたら喰われるだけ。

 

友情なんて知らない。

 

自分以外等しく敵だと認識できていればそれでいい。

 

食堂の入り口に鷹の目さんが様子を見に来たのを確認できたが、彼女は逃げることにしたようだ。

 

それがいい。老い先短いとはいえ死に場所くらいは自分で決めたいだろう。

 

 

もはやこの場で冷静なのは私と側に控える黒服さんたちだけだった。

 

驚愕くんは早々に気絶した。

 

 

永遠に続くと思われた聖戦は、それでも、いくつもの屍を残して、終焉へと近づく。

 

いくつもの障害を乗り越えて、いくつもの禍根を残して、それでも勇者(喪女)は立ち上がる。

 

生き残った約80名ほどのウマ娘は次々にハンバーグを食らいつくす。

 

皆痙攣しながら、涙をこらえ、ただ食に没頭する。

 

ああ、物語がここで終わるのならよかったのだろう。

 

 

 

 

だが私は知っている。

 

これは終わりじゃない。はじまりなんだ。

 

私の料理を食べ終えた直後、走り出した母を思い出す。

 

私の料理を食べ終えた直後、彼方へと消えた喪女さんを思い出す。

 

私の料理を食べ終えた直後、富士山へと駆け抜けた3人の母を思い出す。

 

私の料理を食べ終えた直後、死闘を始めた同級生を思い出す。

 

どうやら私の作るくっそうまい料理を初めて食べたウマ娘は体から湧き出るエネルギーを発散するために暴走するらしい。

 

もともと走ることが大好きな彼女たちは、通常の人間とは違い私の料理の効果が過剰にあらわれるようだ。

 

ハンバーグを食べ終えた選ばれしウマ娘たちが数瞬の沈黙の後、突然窓へと駆け出す。

 

そこは出口じゃない、出口は左です(冷静)。

 

彼女たちは出口?そこに青空が広がっているじゃないかとばかりにガラスを突き破り青空へと羽ばたく。(ちなみにここ4階です)

 

外には飛び出ず、代わりに私と驚愕くんを血走った目で見つめる子たちもいる。

 

うん。わかってる。

 

彼女たちは止まらない。止まれない。

 

今彼女たちの中にあるのは、いかに目の前の極上の雄を喰らうかと、それだけだろう。

 

だが、そうやすやすと体を許す私ではない。

 

生前でも整った顔立ちであった私と弟をつけ狙うストーカ女に対してドロップキックをかましてやったこともある。(当時8歳の弟は私に引っ付いてぎゃん泣きしてた)

 

だが、相手は武力に秀でた(違います、走力です)ウマ娘だ。

 

今の私じゃなんの抵抗も無駄なだけ。

 

だから、だから私は希望の言葉を口にする。

 

生き恥はさらさない。

 

ただ一言。

 

 

 

 

「黒服さん、あとはお願いします」

 

 

 

 

言葉をかけられた彼女たちももちろん理解している。まだ年端も行かない少年たちを、あんな畜生(普段はかわいいウマ娘です)どもに渡してなるものかと。

 

だから彼女たちもただ一言。

 

 

 

 

「了解」

 

それだけでいい。

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

いや、はじめは良かった。

 

黒服さんたちは迫りくる化け物(普段はかわいい女の子です)どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げと獅子奮迅の活躍をしてくれた。

 

1人1人が一騎当千という言葉にふさわしい立ち回りを見せ、無表情ながら私も興奮していた。

 

すごいな、ウマ娘って影分身とかできるんだ(普通はできません。彼女たちは特別な訓練を受けています)。

 

すごいな、地面を粉砕して化け物どもを階下にたたき落としてる。(普通はできません。彼女たちは特別な訓練を受けています)

 

それだけならばよかったのだが(良くないです)、ここで1つ、問題が起きた。

 

それまで気絶していたと思っていた驚愕くんがいつの間にか起きていたのだ。

 

彼は目の前で繰り広げられる戦闘を興奮した面持ちで観戦していた。

 

そういえば昔から彼にはバトルもののゲームを勧められたな、結局しなかったけど。

 

黙ってみているだけならよかったのだが、黒服さんたちの活躍を目にし続けた彼はどうやらそれだけでは物足りなくなったらしい。

 

途中から

 

「やっちゃえーーー!!!」

 

とか

 

「がんばえーーー!!」

 

とか

 

「そこだー!!!!!」

 

とか、とにかく黒服さんたちを鼓舞し続けた。顔を真っ赤にしながら必死に応援していた。

 

冷静沈着な黒服さんたちも、さすがにきれいな少年から応援されるということには慣れていなかったらしく、彼の期待に応えようと、さらに動きを加速させた(もうみんな大ばかです)。

 

ただでさえウマ娘ということに加えて体格が良すぎたため男性から恐れられていた黒服さん。驚愕くんの応援にどれほど気持ちが昂ったか、私が察するに余りある。

 

結果、被害は増した。

 

もう食堂はめちゃくちゃです。

 

こんな時、父が側にいれば彼を現場に放り投げて一件落着とするのだが。父は家だ。前回とおなじ手は使えない。

 

私はこういった時こそ冷静であろうと心掛けている。

 

そう、私は冷静だ。

 

今自分がどうすればいいかなんて簡単に分かる。

 

目を閉じる。

 

息を大きく吸う。そのままゆっくりと吐き出す。

 

喧騒が小さくなっていく。

 

目を開ける。

 

うん、大丈夫。

 

 

 

 

そうして、私は努めて冷静に、興奮して疲れている驚愕くんと手をつないで家に帰った。

 

本を読みたいな。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

驚愕くんを家に帰して、無事に我が家に戻った私はそれからいつも通りに本を読み。いつも通りに就寝した。

 

そうして冒頭に巻き戻る。

 

夜になって鷹の目さんから連絡が来た。

 

受話器越しに聞こえる鷹の目さんの声はいささか憔悴していたが、まあ彼女なら大丈夫。

 

どうやら、あのあと学園の生徒と黒服さんとの戦いは夕方の17時まで続き、最後に立っていたのは黒服さんたちだったという。

 

黒服さんは私たちがすでにその場にいないことにその時気が付き、事の顛末を聞いた驚愕くんの母親にこっぴどく叱られたらしい。

 

倒れていた生徒たちもその後、続々と現世に帰還し(死んでないです)、損傷の激しかった勇者(喪女)たちが胃の中にたまっていた溢れんばかりのエネルギーを使い壊れた食堂を元通りにしたそうだ(ちょっと何言ってるかわからない)。

 

また、途中で窓から飛び出していった方の勇者(喪女)達も今日の夕方ごろにそれぞれの自宅に帰還したみたいだ。

彼女たちは自宅に帰るなりそれぞれの家族に「出かけた先で東京のトレセン学園の生徒と野良レースして負かしてやった!!!」とか「シンボリルドルフさんに接戦だったけど勝利した!!!」とか興奮気味に語っていたそうだが大丈夫だろうか。

 

まあ、結局全員無事だったのだからいいのだろう(全然良くないです)。

 

明日も仕事だ。

 

 

 

 

〇月×日 火曜日 PM 23:00

 

おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうみんなばかです。
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