本読んで、ご飯食べて   作:恵の鷹

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おおばかやろう


Episode of スイープトウショウ

 

「本がない...」

 

学園での業務がない、ある木曜日の昼下がり。今しがた読み終えた長編のミステリー小説の余韻に浸って目を閉じていると、大量に買い溜めていた書籍のストックがなくなっていることに気が付いた。

 

そういえば今まで読んできた書籍ももう2000冊くらいは超えるのではないだろうか。

 

町の本屋で本を買ったり、図書館に通って過ごしているうちに、この町に存在する小説も読みたいと思ったものに関しては全て読めた気がする。

 

これでも一応制限はしている。

 

私は『速読』の恩恵のおかげで読書にかける時間をかなり短縮できているが、調子に乗って読みまくっていると読みたい本がすぐ尽きてしまうことは容易に想像できたため、多くても一日に3冊までと決めている。

 

 

困ったな、、、

 

電子書籍はあまり好きではない。

 

いくつもの書籍へ気軽にアクセスできること自体はすごいと思うのだが、普段から慣れ親しんでいる紙の本でないと、どこか味気ないというか、没入感に欠けるのだ。

 

しかし、これから本を買うにしてももうこの町では難しいだろう。

 

うん。新規市場を開拓するか。

 

 

学園での業務の方も最近はだいぶ慣れた気がする。

 

始めは挙動のおかしかった学園の生徒や職員も、今では普通に話せるくらいにはなっている。

 

まあウマ娘というのは元々大半が善性だ。今回が少しイレギュラーな出来事だっただけで。

 

ただ聞いてもいない(クズです)のに延々と自分語りを始めたり、腕を引っ張って(強制的に)買い物に連れまわすのはやめてほしい。

 

学園には基本的に年上の子が多いので、お姉さんぶりたいのかもしれない。でも私が前世の記憶を有しているからまだ気楽に構えていられるが、はたから見たら中高生男子が中学1年生の少女を複数人で連れまわしているわけだから、、、

 

なるほど、あの職質の多さにも納得だ。

 

でも一緒に連れまわされている驚愕くんはいろんなことが新鮮で楽しいみたいで、最近は笑っていることが増えた気がする。

 

私が近くにいないとプルプル震えていたり、緊張しているときは無意識に袖をつかんできたりしているけれど。

血はつながっていなくても、今世での弟のような存在だからこれからも支えてあげたい。

 

 

そういえば、あれから小暮トレセン学園理事長の鷹の目さんにはあらためてお礼を言われた。

 

依然として学園の老朽化したトレーニング設備や学生向けの娯楽施設の少なさといった課題は残っているものの、暗い顔をしている子は格段に減ったらしい(他にも最近は東京のトレセン学園の理事長からの電話がうるさいって愚痴を言っていた)。

 

あの覇気のない、松葉杖をついていたサイドテールさんも、あれから家族そろってわざわざ私の家まで訪ねてきてくれた。

 

急に足が治ったこととか詮索されると思っていたが、本当にただ感謝を伝えたかっただけみたいで、優し気な雰囲気の母親と一緒に、ありがとうってお礼を繰り返していた。

 

サイドテールさんの後ろに引っ付いていた妹さんも、はじめは緊張していたみたいなのだけれど、帰り際には私の腰に引っ付いてきてなかなか放してくれなかった。

 

最後はサイドテールさんと母親がなんとか引き放してくれたけど、私の腰にはくっきりとあざが残っていて驚いた。

 

小さくてもウマ娘か...。

 

まあ子供のしたことだ。気にしない。

 

 

残っている課題に対しても、私に何が協力できるかは分からないが、まあ何事も急ぎすぎは良くない。焦らず、ゆっくりと考えていけたらと思う。

 

 

今はとにかく本のストックを確保することが先決だ。

 

たくさんの本があるところ、、そうだな、東京の方にでも行ってみるか。

 

思い返せばこの世界に転生して初めての遠出になるのかもしれない。前世でもよく休みを利用して他県の蔵書を買い漁っていたな。

 

この世界での移動はそう簡単でもないだろうが、まあ気持ちは固まっている。

 

とりあえず両親に相談だな。

 

 

 

「いいんじゃない? 恵はたまに不用心な所もあるけどしっかりしてるし。」

 

「その間恵のごはんが食べられないことが難点ではあるが...」

 

意外なことに、両親からの許可はあっさりと出た。

 

まあ、これまで問題らしい問題も起こしていない(そんなことはないです)ので信用してくれているのだろう。

 

昔から過干渉気味だった母も、最近はいい距離感で接してくれている。

 

流石に驚愕くんの母親の伝手で黒服さんを数人手配してもらうことや、滞在先は男性専用のホテルに泊まる事、毎日一回は連絡することなどを言われたが、当然だろう。

 

私もこの齢でトラウマを抱えたくなので素直に了承する。

 

 

そうと決まれば早速準備だ。

 

今回のように遠出する機会はなかなかないだろうし、思い切って1週間滞在することにした。

 

学園の仕事は申し訳ないが、お休みをいただくことにする。

 

鷹の目さんや生徒の子たちも分かってくれるだろう(無理です)。

 

驚愕くんには早めに連絡したが、彼も休んで溜まっている課題を消化するみたいだ。

 

軽く雑談してから話を切り上げる。

 

東京までの道のりは飛行機に乗っていくことになっている。

 

当日の出発は朝早い。

 

明日はまだ学園での業務が残っている。寝坊するわけにはいかない。今日はもう眠ることにする。

 

東京ではどんな本に巡り合えるのだろうか。

 

まだ見ぬ本への期待に胸を膨らませながら、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

「着いた」

 

北海道から東京まで、およそ4時間ほどの旅程を満喫した私は、無事現地に到着した。

 

道中特にトラブルもなく着けたことを母に連絡しながら、昨日の学園でのことを思い出す。

 

 

 

東京へ1週間遠征することを伝えたときは多くの生徒や職員さんに引き留められた。

 

 

「考え直してくださいっっっ!!!!!!!!!!!!!」

 

「私たちに死ねって言うんですかっ!」

 

「そうよね、私達が勝手に夢をみていただけだものね.................」

 

「え、どこにいくのかって?

 大丈夫大丈夫! ちょっと近くの山で首吊ってくるだけだから。」

 

「あらあら~♪」

 

「・・・・・・・・|д゚)」

 

「(/ω\)」

 

「(/ω\)」

 

「(/ω\)」

 

 

大変、、、、、だったな、、、。

 

 

「はあっっ??

アンタふっっっっざけんじゃないわよ!!!!!!!

私に相談もせずに行くなんて頭沸いてるんじゃないのっ?!!

私たちは将来結婚するんだから報連相は大事にってあgwaljgあwljがんl(聞くに堪えないので省略)」

 

「ほわ~(´▽`)」

 

「うん。大丈夫。わかってる(全然わかってないです)。

私を試してるんだよね?君が私以外の子と結ばれるなんてありえないんだし、、あ、そういえば、結婚式の予定ってどうなってたっけ?私は、、(聞くに堪えないので省略)。」

 

「っっく!!!!!

本来なら地の果てまででも護衛すべきなのに!!!!

妹が!!!!妹との予定さえなければっっっっっ!!!!!!」

 

「恵君、あんた東京のトレセン学園へは近寄るんじゃないよ、、

特に肩に猫を乗せたオレンジ頭の子供には気をつけな。あれの近くには緑の化け物(化け物、、、、、うん、化け物だね)もいる。十分に注意しな。」

 

 

やめよう。今日から1週間もあるのだ。今から帰った後のことを気にしていてもしょうがない(現実逃避)。

 

気を取り直して小暮町とは違い、まるで壁のように連なっている建物の下を歩いていく。

 

人も多いな、、。すれ違う女性たちはこちらをちらちらみてきているけど話しかけたりはしてこない。

 

男が一人で歩いているとはいえ、15歳にも満たないような少年に白昼堂々話しかけたら思いっきり事案だしな。

 

黒服の皆さんにも離れたところで待機してもらっている。

 

余程のことがない限りは動かなくて大丈夫だと伝えているが、、、起こらないことを願いたい。

 

 

東京都にはおよそ1000店にものぼる書店が存在する。

 

流石に全店回ることなどはできないができる限り見てみたいと思う。

 

最初は、、、、あ、見えた。

 

まずはあそこの店にいってみよう。

 

私は1人、全身から楽し気な雰囲気を振りまきながら観光を始めた。

 

 

 

 

「ねえねえ、キミひとり?

お母さんとかは一緒じゃないの?」

 

「ちょっっ、テイオーさん!!!

いきなり話しかけるなんて失礼ですわっっっ!!!」

 

「え~、いいじゃん♪

こんなところで年下の男の子に会えるなんてめったにないんだよ?

ねね、ここら辺を観光してるならオネーさんが案内してあげようか。」

 

「無理に決まっているでしょうっ!

こういうのはちゃんと節度を保って、、、」

 

「そんなこといって~♪

ボク知ってるんだよ、マックイーンがベットの下にお宝を隠し持ってること!」

 

「はあっ?!!!

なぜあなたが知っていますの?!!!!!!!!

あれは厳重に保管しt、、、」

 

「『〇〇〇の〇〇〇〇〇〇』だっけ?

いや~、マックイーンも以外にむっつりだよね~w

そんなんじゃずっとモテないままだよ♪」

 

「なるほど、、、、どうやら戦争をしたいようですわね。

いいですわっ!メジロのウマ娘は売られた喧嘩は言い値で買いますのっっ!!!!!!!!」

 

 (●`・ω・)=O)`-д゜)

 

 

道中、近隣の学校の生徒さんだろうか、いきなり話しかけられたと思ったら喧嘩を始めてしまった。

 

なんだかどこかで見たような気もするが、、、、

 

まあいいや。喧嘩はまだ続きそうだし、私はお暇するとしよう。

 

 

 

 

 

時計を確認するともう夕方の16時を過ぎていた。

 

5店舗目の書店でどうしても気になる表紙の本を見つけてしまい、気づいたら読み込んでしまっていたみたいだ。

 

私は読みかけの本を閉じ、購入するためにレジへ向かおうとしたのだが、、、、、、

 

 

「じーーーーーっ」

 

 

なんだがものっっっっつすごい見られている。

 

いつからいたのだろうか。

 

つばの大きな帽子をかぶっている鹿毛の少女が、あと数歩にも満たない距離で私をじっとみつめていた。

 

これは、、、魔女のぼうし、、、、だろうか。

 

背は私と同じくらいで、お昼ごろに出会ったウマ娘さんたちと同じ制服を着ている。

 

「あんた、、魔法に興味があるの?」

 

私が沈黙していると、女の子は焦れたように話しかけてきた。

 

なんで魔法、、、

 

ああ、読んでいた小説のことか。

 

 

『レースの魔法』

 

 

表紙にはきれいな白髪の少女が、どこか幻想的な森の中で動物といっしょにレースをしているところが描かれている。

 

やわらかなタッチの絵で、どこか目が離せなくてつい手に取っていたのだ。

 

私がこの本を読んでいたことが、彼女の興味を引いたらしい。

 

しかし魔法か、まあ興味はある、、のかな。

 

この世界は前世とだいぶ似ているが、それでもウマ娘という摩訶不思議な存在がいる。

 

この世界について私が積極的に知ろうとしていないだけで、ひょっとしたら魔法が使えたり、、、なんてこともあるのかもしれない。

 

興味は、、ないことも、ないかも。

 

私は曖昧に返答したのだけれど、どうやら彼女のお気に召したらしい。

 

一瞬花が咲くような笑顔を浮かべた後に、すぐにしかめっ面になってしまったが、私に

 

「そういうことならしょうがないわね!

特別に私の使い魔にしてあげる、感謝しなさいっ!」

 

と、一方的に告げていった。

 

使い魔って、、まあ彼女はまだ私と同い年くらいなのだ。

 

そういったことに興味をもっていても不思議ではない。

 

正直、もう会うこともないだろうし、そろそろ宿泊先のホテルへ戻らなければいけなかったため私は適当に頷いてしまったのだが、

 

「じゃあ、明日から早速はじめるわよっ!

いまアタシはとっっても忙しくて、モタモタなんてしてられないんだから!」

 

 

「栗東寮の前に集合ね!」と、彼女は返答する暇も与えずに去って行った。

 

栗東寮ってなに、どこのこと・・・。

 

時間も告げずに勝手に約束されてしまった。

 

どうしよう、全く行きたくない。というか一方的に告げられただけで言う通りにする義理はないのだが、でもあの子は無視するという選択肢が一番悪手な気がする。私の感がそういっている。

 

明日も書店を巡るつもりだったのだが、、

 

まあ、しょうがない。

 

一日付き合えばすぐに飽きるだろう。

 

今日は初日ということで張り切って歩きすぎてしまった。

 

ホテルに戻ったらすぐに寝よう。

 

面倒なことは全て明日の自分に押し付けることに決めて、私は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっっっっそーーーーーーーーーい!!!!!!!」

 

あけて翌日。

 

ホテルに帰ってから栗東寮について調べ、とりあえず迷惑のかからない10時ごろに向かおうと思い、着いたのはいいのだが、開口一番顔を真っ赤にした魔女の子に怒鳴られてしまった。

 

いや、うん。

 

私も言いたいことはいろいろあるのだが、こういう時は言い返すのが一番いけない。

 

絶対に余計面倒なことになる。

 

私は素直に謝ることにして、はやめに切り上げようと思っていたのだが、、、、

 

 

「あなたが噂の使い魔さんですか!!!

スイープさんから話を聞いたときは驚いちゃいました!ほんとに男の子なんですねっ!」

 

 

なんかでっかいのが増えていた。

 

さも当然のようにこの場に登場した彼女はキタサンブラックというらしい。

 

高校生の人なのかと思ったが、私と同じ中学1年生と聞いて驚いた。

 

というか魔女の子はスイープさんって名前なのか。お互いに名乗らなかったからな。

 

キタサンはスイープさんの弟子なんだそうだ。

 

先輩としてすごく尊敬しているらしくて、スイープさんの武勇伝を楽しそうに教えてくれた。

 

「って、それは今はどうでもいいのよ!!

忙しいっていってるでしょ!!!!!!」

 

途中でしびれを切らしたスイープさんが会話をぶった切り、話をつづけた。

 

「今日から2人には『エリクシールキャンディ』の材料集めを手伝ってもらうから!

時間は限られてるの!はやくいくわよっ!!」

 

「おーーーー!」

 

そういえば何をするのか聞いていなかった。

 

エリクシールキャンディって何だろうか、まあついていけば分かるかな。

 

面倒だなと思いながらも、それでも私は少しだけ、読書では得られないリアルでの非日常をほんの少しだけ、わくわくしながら受け止めていた。

 

 

 

 

なんだかよくわからないままに始まったスイープさん、キタサン、私の「エリクシールキャンディの材料を集め隊」の活動は困難を極めた。

 

 

例えばとある交差点で・・・

 

「あっ!!

あんなところに困っているおばあさんが!!今行きます!!!」

 

「えっ?ちょっとっっ!!!

キタサンっ!!どこいくのよーーーーー!!!!!!!!!!」

 

 

例えばとある山中で・・・

 

「いたわっ!!あそこにいるのがチュパカブラスよ!!!

キタサン!捕まえてっ!!!!」

 

「任せてくださいっ!!

『お助け大将』キタサンブラック、参りますっ!!!!!てやあぁぁぁぁぁぁ!!あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!」

 

「ちょっと!!!!

なんで、なんにもないところでこけてんのよ!!てっ、きてるっっ!!!チュパカブラスがきてるからっ!!!キタサン逃げてっ!!て、アンタはなに冷静に一人で逃げてんのよっ!!!!!!」

 

 

例えばとある海中で・・・

 

「もガッ!もgggっがががががggんgっっっっつ!!!!」

 

「モっgが、ガぼボぼボボっっっっつ!!!」

 

「ゴバっ、、、、ゴほつっっつgっがっがあんが!!」

 

「オエっ!おぼれっっがらあlがgんらがl!!!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

例えばとある地下迷宮で・・・

 

「えっと、ここの暗号はこうだから、、ここ?いや、ここをこうして、、、、」

 

「スイープさん!スイープさん!

みてくださいこのどくろマークの大きなボタン!これって押していいんですかっ?!!

私押してみたいですっ!!!・・・・あっ。」

 

「キタサンのばかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

果ては彼方の惑星で・・・

 

「ちょっと!!!!

なんで商店街の脇道に入ったらへんな惑星にいきつくことになるのよっっ!!!!!

ばっっっっっっっかじゃないのっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「スイープさん!スイープさん!

みてくださいこの紫色のどくろマークみたいな果実(毒です)!!絶対この惑星の珍味ですよ(毒です)!

ダイヤちゃんへのお土産にいくつか持って帰ろうかな(毒です)」

 

「あれ、なんでお前らゴルゴル星にいるんだ、、、、

ゴルシちゃん以外入ってこれないはずなんだけどな?おっかしいな?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

沢山傷ついた(主にキタサンが)。

 

沢山転んで(主にキタサンが)、たくさん泣いた(主にスイープさんが)。

 

1人じゃ絶対できなかった(そんなこともないです)。

 

共に頑張る仲間がいたからここまでこれた(ひとりの方が楽でした)。

 

冒険は困難の連続(大体キタサンのせいです)で、簡単なことなんて一つもなくて(大体キタサンのせいです)、それでも、冒険の終わりにはちょっとだけ寂しさもあったりして(主人公はそんなことなかったです)。

 

 

そして、ついに私達「エリクシールキャンディの材料を集め隊」は、見事すべての材料を集めたのであった。

 

 

 

 

気付けば日はすっかり暮れていて、真っ赤に染まった夕焼けを背に、私とキタサンは歩いていた。

 

スイープさんは途中で電池が切れたみたいに眠ってしまっていて、いまはキタサンがしっかりと背中に抱えている。

 

「いや~、今日は大変でしたね。」

 

大変という言葉だけでは片付かないような目にあった気がするが、野暮なことは言わないでおく。

 

「あなたがいてくれてよかったです。

スイープさん、ここ最近ぜんぜん元気がないみたいで、大事なレースも近いのに、、、。」

 

私は相変わらず無言のままだったのに、キタサンは勝手(こいつには心がないです)に話し出す。

 

「スイープさんのおばあさん、、スイープさんはグランマってよんでるんですけど。

普段はめったに遠出とかしない人なのに、スイープさんが大事なレースに出るって聞いて、東京まで駆けつけてくれたらしくて。でも、、東京に来る途中で事故にあっちゃって、、、、命とかは全然大丈夫なんですけど、、」

 

どうやらそのときに腰を強く痛めてしまったらしく、明後日のレース(明後日なんかい)にはとても見に行けない状態だそうだ。

 

スイープさんは当然、連絡がきてからひどく落ち込んでしまって、練習を休んでずっとグランマさんのお見舞いにいっていたらしい。

 

最近はもはやレースを棄権する勢いで、さすがにそれは周りが説得したらしいが、依然として練習に身は入らずに、、と、そんなときに彼女は昔グランマさんに教わったという魔法のことを思い出したらしい。

 

 

「それがエリクシールキャンディだったんです。」

 

 

どうやらそのキャンディはなめたら元気になる不思議なアメらしい。

 

スイープさんは何とかグランマさんに元気になってほしくて、材料を集めようと今日までがんばっていたみたいだ。

 

 

、、、そういう重要なことならもう少し早く聞かせてほしかった。

 

でも、そうか。

 

小生意気な娘だと思っていたけど、人は見かけによらないらしい。

 

「普段はとっても元気で優しい子なので、自分に正直で、、だから私はスイープさんが大好きなんです!」

 

聞いてないが(こいつはごみかす野郎です)。

 

でも、うーん。しょうがない。

 

差し支えなければグランマさんが入院している病院を教えてもらえないだろうか。

 

「え、それは大丈夫だと思いますけど。

でも一応、スイープさんが起きてから確認してもいいですか。わかったら連絡しますので!」

 

そう言って、互いの連絡先を交換した後、私たちは別れた。

 

 

 

はあ。それにしても、濃い一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レースの魔法』

 

 

色とりどりの花が咲き誇るあたたかなお庭で、グランマが教えてくれた。

 

 

トレセン学園に入学してからこれまで、何回もレースをしてもそれがどんな魔法なのか分からなくて。

 

 

周りの大人たちはアタシにあーしろこーしろって口うるさく言ってくるんだけど、絶対きかないっ。

 

 

アタシはアタシの力で、『レースの魔法』にたどり着きたい。

 

 

今はその答えがどこにあるのか、少しだけわかる気がするから。

 

 

大きなレース場で一生懸命に走るウマ娘を見た。

 

 

沢山の人であふれるレース場の中央で、勝ったらめいっぱいに喜んで、負けたら声が枯れるまで泣いて。

 

 

負けてすごく悔しいはずなのに、それでも一緒に競い合った相手に拍手を送る子もいて。

 

 

みんなみんな、すごく輝いて見えて。

 

 

だから、アタシも。

 

 

アタシも、あんな大きな世界で思いっきり走ってみたい。

 

 

いくつもの喜びを、いくつもの悲しみを受け止めてくれた大地の上を。

 

 

太陽に照らされた、光り輝くターフの上を。

 

 

だからみててね、グランマ。

 

 

答えはきっと、そこにある。

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァっ、ハァっ」

 

雲一つない青空。太陽が燦燦と輝く光の下で、芝を思いっきり踏みしめる。

 

「ハァっ、ハァっ」

 

息が苦しい。

 

「ハァっ、ハァっ」

 

直前まで真面目に練習ができていなかったせいだ。

 

でも後悔はしていない。グランマが事故にあったんだもん。駆けつけるにきまってる。

 

「ハァっ、、、、ハァ、、、、、ハァ」

 

グランマに元気になってほしくて作ったキャンディは、あの後無事に渡すことができた。

 

魔法はちゃんと効いたみたいだ。

 

翌日には何事もなかったみたいに元気になってて、お医者さんたちもすごく驚いていた。

 

当然でしょう、グランマが教えてくれた魔法なんだから。

 

キタサンにもお礼に1個あげた。

 

すごく喜んでくれて、元気になったって言ってた。

 

使い魔の分は、、

 

使い魔には結局あれから会えていない。

 

キタサンとはいつの間にか連絡先を交換していたみたいで、それでも全然返信を返してくれないってキタサンが落ち込んでた。

 

ていうか、なんでアタシより先にキタサンと連絡取り合ってんのよ。

 

次あったら一日中足の裏がかゆくなる魔法をかけてやる。

 

 

でも、、、一応、手伝ってくれたことは、感謝してなくもないから、まあ、あいつの分のアメも、1個残しておいてあげよう。

 

 

 

「ハァっ、ハァっ・・・・・・・・・・ハァっ・・」

 

ゴールまであともう少し。

 

アタシの前にはあと1人。あと1人抜ければ。

 

 

 

「ハァっ、ハァ・・」

 

力が出ない。あともうちょっとなのに。あともう少しなのに、、私は、、、、。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「________」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、声が、聞こえた気がした。

 

気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔をあげる。

 

ゴールの先。観客席の後ろの方に。グランマの隣に、使い魔がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらずの仏頂面で、せっかくきれいな顔してるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レースになんて、、全然興味なさそうにしているくせに。

 

それでもアタシのことを真剣に見つめてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえる。

 

 

決して大きな声じゃない。

 

 

あんな遠くにいて、、周りの大声にすぐにかき消されてしまうほどに小さな声なのに。

 

 

聞こえる。

 

 

「頑張れ」って、、あともう少しって。

 

 

聞こえる。

 

 

諦めそうになっているアタシの背中を押してくれる。優しく、前へ、前へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、息が軽くなる。

 

 

心はどこまでも穏やかで、まるで空でも飛んでいるみたいに、身体が軽い。

 

 

周りには誰もいない。

 

 

ただ、目の前。光り輝く道が見える。

 

 

アタシ1人。

 

 

光の道をひた走る。

 

 

このままどこまでもいけそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、その時間はそんなに長くは続かなくて、気づけば風景はもとに戻っていて。

 

 

辺りを見回す。

 

 

みんなが呆然とアタシを見ている。

 

 

いつの間にかレースは終わっていたらしい。

 

 

掲示板を、みる。

 

 

ゆっくりと、その事実を噛み締める。

 

 

観客が、友人が、グランマが、、、、、使い魔が、アタシをまっている。

 

 

腕を、あげる。

 

 

意識は朦朧としていて、気を抜いてしまったら倒れてしまいそうだけど、もう少しだけ、頑張ろう。

 

 

人差し指を、めいっぱい高く、高く、空へと向ける。

 

 

 

ちゃんと届いたかな。届くといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、割れんばかりの歓声がレース場に響き渡った。

 

喜びも、悲しみも、興奮も、全てを優しく包み込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第6回 エリザベス女王杯』

 

 

 

 

「1着 スイープトウショウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『レースの魔法』
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