本読んで、ご飯食べて   作:恵の鷹

6 / 22
ばかやろうだよ、どいつもこいつも。


Episode of アドマイヤベガ

 

新月の夜には、あの子の存在を近くに感じる。

 

生まれてくるのことのなかった、私の妹を。

 

 

 

夜空に広がる満天の星々の下、私は目を閉じ、追憶する。

 

思い出すのはレースの光景。

 

肌に感じる観客の熱気や興奮、走っているときの息苦しさや高揚感。

 

そして、レースに懸ける、ウマ娘たちの、、、。

 

 

 

『皐月賞』

 

大事なクラシックの1冠目。

 

万全で臨んだつもりだった。

 

けれど、レースの終盤で足を痛めてしまって、結果は6着。

 

不甲斐なかった。

 

レースに勝つことでしか、償えないのに。

 

絶対に勝つって、そう、星に誓ったのに。

 

 

 

『日本ダービー』

 

その世代で一番強いウマ娘を決める、クラシックの2冠目。

 

全力を、出せた。

 

トップロードさんやオペラオーに負けたくなくて。

 

楽しかった。

 

私のことをライバルだと言ってくれた2人の気持ちに応えたくて。

 

ラストスパート、最終直線、私の全部、出し切って。

 

結果は1着。

 

嬉しかった。あの2人に勝てたことが、そして、、、。

 

あなたのことを、一瞬、ほんの一瞬だけ、忘れてしまって、、、。

 

 

『私のことを忘れるくらい、たのしかったの?おねえちゃん』

 

 

ごめんなさい。

 

今度は、もう、絶対に、、絶対に、忘れたりなんてしないから。

 

 

 

『菊花賞』

 

クラシックの3冠目。

 

漠然と、これが最後のレースだということは理解していた。

 

病院で検査をしてもらっても、異常はみられなくて、それでも、日に日に足の痛みは増していって。

 

これは「罰」なんだと。

 

そう思ったら、気が楽になった。

 

私の勝利はあなたのもの。

 

最後のレース、すべて、あなたに、、、。

 

 

『私、アヤベさんの一番のライバルになりたいんです!』

 

 

そう、思っていたのに。

 

決意、していたのに。

 

眩しいくらいに前向きなあなたは、私を放っておいてくれなくて。

 

 

そして、レース当日。

 

奇跡は、起きて。

 

 

『私もね、すっっっごく、たのしかったよ!』

 

 

まって、いかないで。

 

 

『だからお姉ちゃんは、前だけをみて、振り返らずに走って!』

 

 

去っていくあなたを、止めることなど、できなくて。

 

 

気付けば、辺りには満天の星々が散っていて。

 

 

水面にうつる、たくさんの星の海を、駆け抜けて。

 

 

そして、私は、いま。

 

 

 

 

目を、開ける。

 

辺りはすっかり明るくなってる。

 

どうやら、いつのまにか眠っていたみたいだ。

 

・・・そろそろ寮に戻ろう。

 

 

私はふと、痛みのだいぶ引いた足に触れる。

 

菊花賞の後、それまでの無茶なトレーニングが原因で、私はレースの世界から引退した。

 

これ以上足を酷使しなければ、普通に歩くこと自体は問題ない。

 

トップロードさんやオペラオーはすごい心配してくれて、けれど、私はこの結果に満足していて。

 

 

それでも、こうして1人でいると、時々、考えてしまう。

 

もし、また走ることができたなら。

 

彼女たちと、また、一緒に。なんて。

 

まあ、そんなこと考えても、どうしようもないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、タラコとツナマヨ」

 

「ああ、ありがとう。

それにしてもすごいな。おにぎりを作る手の動きがはやすぎて私でも追いきれない。」

 

「・・・・・・」

 

「ああ、タマちゃんっ、そんなところで寝てたらだめですよ!

はい♪ママのお膝でねんねしましょうね~♪」

 

 

東京での遠征4日目、私は商店街のとある一角にスペースを借りて、無心でおにぎりを握っていた。

 

もちろんこれには理由がある。

 

まあ、当たり前と言えばそうなのだが。

 

昨日、グランマさんに連れられて(強制)スイープさんのレースを観に行った。

 

そんなことより(こいつはカスです)本を買いに行きたくて、「エリクシールキャンディの材料を集め隊」の活動で奪われた時間を取り戻すためにも、レースが終わったのを確認してから爆速で書店を周った。

 

その時の私はタガが外れてしまっていて、表紙が良さそうとか、あらすじが面白そうだとか、とにかく片っ端から気になる本を購入していき、全て梱包してから小暮町に発送してもらって、そして気づいたのだ。

 

ああ、資金が尽きた(当たり前です)。

 

今思えばまだ数日は残っているのだから、そう焦ることもなかった(当たり前です)。

 

まあ過ぎたことは気にしてもしょうがないので、とりあえず急ぎ資金を獲得したかったのだが、すでに両親からは十分なお金をもらっている手前、これ以上借りるなんてことはできない。

 

でもお金はほしい。

 

どうにかできないものかと考えていたところで私は思い出した。

 

ああ、そういえばここは男女比1:10だと。

 

そして私は精神年齢は別にして肉体的にはまだ中学1年生。

 

神様からいただいた「料理」スキルもある。

 

ここまでくれば答えは1つだ。

 

私の料理をぼったくり価格で喪女に売りつけ、お金をせしめる(殴ってもいいですよ)。

 

前世の世界風にいうと、中学1年生の少女が料理をつくり、それにむさい男どもが群がる。

 

・・・やめよう。

 

お客様は畜生(神様です)だって母が言ってた。

 

とりあえず、いろいろ準備をするために私は近くの商店街に向かったのだった。

 

 

 

商店街に着いてからは早いもので、とりあえず近くの閑古鳥が鳴いていたお寿司屋さんに突撃した。

 

お店には大将のおばあさん1人で、どうやら最近お寿司を食べたお客さんの中に食中毒を起こした人がいたらしい。その人は結局、前日の夜に家で食べた生牡蠣にあたっただけみたいなのだが、悪い噂は広がるもので、気づけばお客さんはいなくなってしまったらしい。

 

おばあさんはもともとお店をたたむつもりだったようで、悲しそうな顔をしながらも「しょうがないからね」と、あきらめた顔をしていた。

 

それでも、こんな形の最後になるのは本意ではないだろう。

 

私の事情もある。

 

私はとりあえずこのお店で簡単な料理を作りたいこと、それをあほみたいな価格で売りつけたいことをおばあさんに説明し、売り上げの半分を渡すことを条件にお店を借りた。

 

おばあさんは最初は戸惑っていたものの、私がその場で簡単に塩むすびをつくって食べさせてあげると安らかな顔で逝った(眠っているだけです)。

 

ちなみにこの「料理」スキル。

 

最近はいろいろ調整もできるようになっていて、今まで作っていたくっっっっそうまい料理が全力のレベル10で作ったものだとすると、今回私が作るのはレベル2程度のものだ。

 

レベル2といっても痙攣しないだけで十分においしいので問題はないだろう。

 

お店にあるものは好きに使っていいと(寝言で)言われてある。

 

お米が大量にあるので、そうだな、おにぎりでも作ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、現在に至るわけだが。

 

簡単なおにぎりの具を用意し、さあいよいよ開店だと意気込んでいたところまではいい、、、

 

 

「む、もう注文してもいいのだろうか。

そうだな、とりあえずメニューに書いてあるおにぎりをすべて10個ずつたのむ。」

 

「っっっっって、オグリィィっ!!!

もっと、こう、なんか、いろいろツッコムところあるやろがいいィィッ!!!!!!」

 

「あらあら~♪」

 

 

・・・。

 

なんかいる。

 

いつから席に座っていたのだろうか。

 

というかまだ暖簾を掲げていないのだが。

 

「いや、すまない。私にもよくわからないんだが、いつものように道に迷って歩いていたらな、足が勝手にこのお店の方へと向かっていったんだ。」

 

どうやらそういうことらしい。

 

「こっちはオグリを待っとったちゅうのに・・・。

待ち合わせ場所にはこないわ、なんかえらいべっぴんさんがおにぎり握ってるわ・・・、というか、なんでこんなところでまだ学生くらいの男が店構えてんねん!!!おかしいやろがっっ!!!!」

 

「まあまあ、いいじゃないですかタマちゃん。そんなに急ぎの用事でもなかったですし、、。

それよりもボク、お母さんはいないのかな♪もし寂しかったら私のことをママって呼んでもいいんでちゅよ♪」

 

「捕まるわアホォっ!!!!」

 

 

なんだか騒がしい人たちだ。

 

まあいいいや、割高に設定したおにぎりを大量に買ってくれるのだ。いい客じゃないか。

 

暖簾は、、、、、うん、ちょっと怖いからとりあえずこの子たちがさばけてから掲げよう。というかそんなにおにぎりを食べられるのかな、お持ち帰り用も含めているのか、、。

 

 

それから30分後・・・

 

「んぐっ。ふぅ~、、、。

うん。イクラおにぎりもとてもおいしかった。次はおかかおにぎりをもう5、、、いや10個もらおうか」

 

「食べすぎやオグリっ!!!!

もうひとりで軽く100個以上くっとるでっっっ!!!!!!!

って、アンタもきかんでええわっ!!」

 

「あらあら~♪」

 

1時間後・・・

 

「もぐもぐもぐもぐ・・・・、っごく。

次は鮭と鯖をそれぞれ30個ずつたのむ。いくらでもたべられそうだ。」

 

「たのむっ!とまってくれオグリィッ!!!

腹がっっっ!!!腹がもう破裂しそうやっっっっ!!!!!!!!

っ、だからアンタももうつくらんでええっちゅうねんっっ!!オグリを殺す気かっっ!!!!!」

 

「あらあら~♪」

 

2時間後・・・

 

「はぁ~。大満足だ。こんなにおいしいおにぎりはいままで食べたことがない。またこよう。」

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

「わぁ~♪おなかがパンパンですね♪」

 

 

結局2時間食べ通しだったった彼女は、そう言って満足げに帰っていった。

 

すごいな、1人で300個以上のおにぎりをたいらげたのではないだろうか。

 

ウマ娘だということを加味しても彼女ほどの大食漢ははじめてみる。

 

在庫もほとんど食べられてしまったな、、。

 

うん、すこし予定外だが店仕舞いだな。結局暖簾は下げたままだったが。

 

まあ、彼女のおかげで資金にもだいぶ余裕ができた。おばあさんにあげる分を引いてもかなり残るな。

 

さて、じゃあさっそく書店巡りを再開しようか。

 

 

ガラッ、、、

 

「えっ!お店閉めちゃうんですか!!」

 

「だからいったじゃない、スぺちゃん。暖簾も下げていたみたいだし、、。」

 

「ううぅ~。でもずっとおいしそうなにおいがしてて、、、。

食べてみたかったですぅ~。」

 

 

なんかいた×2。

 

 

「ら、ライスのせいだ、、。ライスが悪い子だから、、、、、。」

 

「そんなことないよライスちゃん!

またお店があいてるときにいっしょにいこう!!」

 

 

なんかいた×3。

 

どうやらお店の前で開店をずっと待っていたらしい。

 

だがつくろうにももう材料がない。

 

彼女たちには申し訳ないが今日はもう閉店だ(開いてないが)。

 

未練がましい視線を向ける彼女たちに若干後ろ髪を引かれながらも、私は気を取り直して書店巡りに出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ。いや、よかった。

 

本当は4店舗目を出たところでホテルに帰るつもりだったのだが、帰りがけに小さな書店を見つけたのだ。

 

遠くからは一瞬喫茶店みたいにみえたが、ガラス張りの窓からたくさんの本棚がみえて、つい入ってしまった。

 

なかは40代くらいの優し気なウマ娘さんが営む古書店みたいで、興味を惹かれる本がたくさん置いてあった。

 

あのひとはすごくセンスがいい。きっと本が大好きなんだろう。

 

嬉しくなって気づいたら長居をしてしまった。

 

 

辺りはすっかり暗くなっている。

 

離れたところで黒服さんが見守っているといっても、夜に男が1人で出歩くことは危険だ。

 

さっさと帰ろうと思っていたのだが、、

 

 

「ちょっと、あなた。

こんなに暗いのに1人で出歩くなんて危ないじゃない。まったく、母親はなにをしてるのよ。」

 

 

 

振り返ると、きれいな黒髪のウマ娘さんがいた。、、耳がちょっとだけ大きい。

 

買い物帰りみたいで、大きな袋を両手に持っている。なんかふわふわしてる、、クッションかな?が、飛び出している。

 

私が1人で歩いているのを見かけて、声をかけてくれたみたいだ。

 

 

「ちょっと、きいてるの?

あなたみたいに若い男の子が1人で歩いてると危ないわよ、すぐに家に帰りなさい。

必要ならタクシーでもよんであげるから。」

 

 

一見冷たそうな印象なのに、その実すごく心配してくれるのが伝わる。

 

優しい人なのだろう。

 

まあ、それはいい。

 

いいのだが。

 

 

『ちょっと、だめだよ~お姉ちゃん!

そういう時は私が家まで送ってあげようか( ・`ω・´)キリッ くらい言わないとー!。』

 

 

「・・・・・・・・。」

 

 

「あなた、具合でも悪いの?

さっきから私の隣の方を凝視して、なんだか顔色が悪いわよ。」

 

 

『あれ、もしかして私のことみえてる????

え、ほんとにっ?!きみ私のことみえてるの!!!!』

 

 

「・・・・・・・・。」

 

 

『おーーーい!もしも~し!(^O^)/

あ~、ひょっとして私に惚れちゃった?いや~、霊体の状態で男の子の初恋を奪うなんて、我ながら罪な女ですな~(嬉〃∀〃)ゞエヘ♪。』

 

 

うん、なんか私に声をかけてくれたウマ娘さんの隣にやたら元気な半透明の幽霊っぽいのがみえる。というかお姉ちゃんって、瓜二つなんだが。

 

幽霊って普通もっとおどろおどろしいものでは、、、。

 

いや、考えても仕方がない。

 

ウマ娘のお姉さんも無言の私を前にだいぶ困惑してしまっている。

 

厄介ごとには関わりたくないので、私はお姉さんにちゃんとお礼をいってから気にせず帰ることにした。

 

ホテルはここから歩いてもすぐにつく。問題はない。

 

どうせもう会うこともないだろうと思い、私は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『へぇ~、こんなところに泊まってるんだ!

男の子1人で外泊なんてやりますな~(^v^)』

 

 

はああぁぁぁぁぁぁぁ~~(くそでかため息)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

『ねぇねぇ、キミにはなんで私のことがみえてるの?』

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

『あれっ、むし?

いいのかな~、そんな態度だとお姉さん大泣きしちゃうけど( `ー´)ノ』

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

『あれ、冗談だと思われてる???

いっとくけど私ほんとに泣くからね??マジだよ!本気とかいてマジだよ!!!!』

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

『๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐ <ヮー』

 

『๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐ <ヮー』

 

『๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐ <ヮー』

 

 

流石にうるさくなったので大人しく現実を受け止めることにする。

 

あの後、幽霊の彼女は私についてきてしまったらしい。

 

余程自分を視認されたことがうれしかったのか、、、。

 

まあ私も同じ立場なら同じような気持ちになるのかもしれない。

 

気が済めばすぐに帰っていくだろう。

 

とりあえず今日はもう夜も遅いことを伝え、就寝することにした。

 

面倒くさいことは明日の自分に丸投げだ(n回目)。

 

今日はもうおやすみなさい。

 

 

『あ、もう寝るの?偉いね~(*´▽`*)

おやすみなさい~( 。•ᴗ• )੭⁾⁾』

 

 

うるさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明けて、翌日。

 

目を覚ますと幽霊さんは消えていt、、、、

 

 

『あっ!起きた?おはよ~〜(*´∀`*)ノ"♡』

 

 

なんてことはなく、普通に空いているベットの上でゴロゴロしていた。

 

日の光が苦手とかないのだろうか。

 

幽霊と言えば、それらはたいてい現世にて未練を残していることが定番だ。

 

であれば、彼女も明るく振舞ってはいるが、何かこの世界で心残りややり残したことがあるのかもしれない。

 

 

『ん~、ちょっと違うかな。そもそも私生まれてないし。』

 

 

違うらしい。

 

なんでも、彼女とお姉さん(アドマイヤベガ、アヤベさんと呼ばれているらしい)は双子で、出産の際にどちらか1人しか生きられないと分かって、結果、アヤベさんが選ばれたらしい。

 

じゃあ、自分が選ばれなかったことに未練を残して、もしくは選ばれたアヤベさんを恨んで、、と思ったが、それも違うようだ。

 

 

『違うよっ!私は全然お姉ちゃんを恨んでなんてないからっ!!!

そもそも、私が霊体としてこの世界にいるのは多分お姉ちゃんのほうに理由があると思うんだけどな~。』

 

 

アヤベさんは自分が選ばれたことにずっと引け目を感じていたらしい。

 

自分には本来双子の妹がいるのだと母親から聞かされて以来、生まれることのできなかった妹の分まで走るのだと。レースに勝って、勝利を妹に捧げることが、せめてもの償いになると考えていると。最後の方では過酷なトレーニングで自分を追い込んで、どこか破滅的な思考になっていて、、、。

 

 

『でもね、お姉ちゃんの最後のレース。

菊花賞で、私たちに奇跡が起きたの。

辺り一面を覆いつくす、眩しいくらいの星空の中で、私はお姉ちゃんと出会った。』

 

 

『ずっと、伝えたかった。

私のことは気にしないでって、お姉ちゃんは自分のために走ってって。』

 

 

「・・・。」

 

 

『お姉ちゃんのことをライバルだって言ってくれる素敵な友達もいる。

ずっと気にかけてくれているルームメイトの子も、、、。

だから、私は最後にちゃんと伝えたの、私は楽しかったって、お姉ちゃんの妹でよかったって。』

 

 

そして、アヤベさんは菊花賞という大舞台で初めて、本当の意味で自分のために走ることができた。

 

これからだったのだ。

 

やっと救われたと思われた彼女は、それでも、、再びレースで走る事は叶わない。

 

すでに酷使されてしまった足はもとには戻らない。

 

だからだろか。

 

 

『私がまだここにいるってことは、きっと、お姉ちゃんはまだ未練を残してる。

だから、私はお姉ちゃんを救いたいの。実体のない私だけど、声なんて届かないけど、それでも、、、それが、私がここにいる理由だと思うから。』

 

 

彼女は今までのおちゃらけた雰囲気とは違って、真剣な顔で私にそう告げた。

 

アヤベさんのことが大好きなんだな、、。

 

 

はぁ、スイープさんの時といい、今回といい、、

 

これはもしかして、神様からの啓示みたいなものなのだろうか。

 

彼女たちを救ってほしいという。

 

まあ、こんなことを聞いてしまった以上もはや見て見ぬふりはできない。

 

本当は今日も書店を巡りたかったのだけれど、、、しょうがない。

 

 

 

 

・・ひょっとしたら、お姉さんの足を治せるかもしれない。

 

 

『え、え、えっ!ほんとにっ?!

ほんとにそんなことができるの!どうすればっ?!』

 

 

 

そうして、『エリクシールキャンディの材料を集め隊』改め、私達、『アヤベさんを救い隊』の活動は、ひっそりと始まったのであった。

 

 

 

 

以下、しょうもないのでダイジェストで流したいと思います。

 

 

 

『あれっ?おっかしいな~、この時間帯ならお姉ちゃんはデパートにいると思ったんだけど、、、あ、ねぇ、みてみて!この服ちょーカワイイっ!ねえ、どうかな、似合う?』

 

「・・・・・・・・。」

 

 

 

『あ、あそこっ!!!お姉ちゃんのぱかプチがあるっ!!!

きみ、今がチャンスだよ!!お姉ちゃんのぱかプチは人気がすごいんだから!!はやくはやくっ!』

 

「・・・・・・・・。」

 

 

 

『私男の子とプリクラに入ってみたかったんだよね~♪

え?幽霊は映らないじゃないかって、そんな細かいこと気にしてたらモテないぞ~♪』

 

「・・・・・・・・。」

 

 

 

『あれ、あそこの黒髪の女の子、なんかすっごいこっちみてない?

え、てゆうか同じ顔が2つ?あれ、ひょっとしてあの子って、、、、』

 

「・・・・・・・。」

 

 

 

『ごべん゛なさいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!

次ばち゛ゃんと探すからあぁぁぁぁ!!だからそのムシケラを見るような目をや゛め゛て゛ぇぇぇぇ!!!!』

 

「・・・・・・・。」

 

 

 

アヤベさんをみつけて私の作った料理を食べてもらう。それだけだ。

 

それだけなのに、くそ時間がかかった、、、、。

 

 

まあ、いまさら怒ったところで時間は返ってこない。

 

やっと見つけたアヤベさんに声をかけるべく、私は歩を進めたのだが、、

 

 

『ねぇ、やっぱりちょっとまってもらっていい?』

 

 

「・・・・・・。」

 

 

『いやっ、違うからっ!今のは真面目なやつだからっ!!

そうじゃなくて!君のつくる料理って、すごいんだよねっ?

お姉ちゃんの足をすぐに直せちゃうくらいに。だったらさ、その、私も・・・・』

 

 

そういって、彼女は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわよ・・・。」

 

 

 

辺りはすっかりと暗くなっている。

 

古ぼけたレース場を照らす外灯の光はどこか心許ない。

 

ここは、使われなくなって随分と経つのだろう。

 

管理のされていないレース場は雑草が好き放題に伸びていて、所々土がむき出しになっている。

 

それでも、辺鄙な場所にあるからだろうか、空を見上げると、いつになく星が近くに感じる。

 

 

こんな場所があったのか、、。

 

 

 

私は、どこか心が安らぐような、不思議な気持ちを胸に抱いたまま、静かに佇む、目の前の少年へと目を向けた。

 

 

 

今日のお昼頃のことだった。

 

学校からの課題を手早く終わらせ、いつものようにデパートへと足を向けた。

 

 

・・・レースを引退してから、ぼんやりすることが増えた気がする。

 

 

それまではずっとトレーニングをしているだけだったからだろうか。

 

どうにも時間を持て余す。

 

じっとしていると、どこか心が落ち着かない。

 

だから、だろうか。

 

 

「アヤベさん。」

 

 

私を呼び止めた、昨日出会った少年に、この場所でまっていると、そう告げられた。

 

この年くらいの男の子が1人で出歩いていることはとても珍しい。

 

普通はもっと不安げになったりするはずだ。

 

そういえば、彼に声をかけた時も夜だったはずなのに、いまと同じように無表情のままだった。

 

彼は私に要件を伝えた後は、振り返る事もなく去っていった。

 

どこか呆然としたまま立ち尽くしていた私は、それでも、行かないという選択肢は考えられなかった。

 

なにか予感めいたものがあったのかも知れない。

 

ただ、漠然と。

 

 

彼なら、私を救ってくれるのではないかと、、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アドマイヤベガ』

 

 

母が名付けてくれた。

 

 

私の、名前。

 

 

"ベガ"は7月7日、1年に1回だけ会うことができるという逸話で有名な、織姫星のこと、その、星の名前。

 

 

織姫星のように輝いてほしいと、そう願われて。

 

 

であれば。

 

 

もし。

 

 

もし、私に。

 

 

妹が生まれていたならば。

 

 

 

彼女はどんな名前を付けられたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が、聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが、私を呼んでいる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてっ、お姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

「あ、やっと起きた。お姉ちゃん、調子はどう?なにか気づいたこととかあるんじゃない?」

 

 

 

「あなたは、なんで、、、ここは」

 

 

 

「まあまあ、そういう細かいことはいいじゃないですかっ、ほらっ!感動の再会だよっ!」

 

 

 

「あなたは、、だって、あのときっ」

 

 

 

「う~ん、私もあれで最後のつもりだったんだけどね。でも、お姉ちゃんがまだ未練を残しているみたいだから」

 

 

 

「わ、私が、、」

 

 

 

「うん?」

 

 

 

「私が、、選ばれてしまったから、あなたは」

 

 

 

「あ~、そういう話はなしだよ、お姉ちゃん!私は全然気にしてないって!」

 

 

 

「でも、私は」

 

 

 

「そんなことよりっ!私、もう一度お姉ちゃんに会ったらお願いしたいことがあったんだよね。」

 

 

 

「えっ」

 

 

 

「興味ない?もし私が生まれていたら、私とお姉ちゃん、どっちが速かったのか。

私、お姉ちゃんとレースで勝負してみたい!冗談じゃないよ、本気の、真剣勝負!」

 

 

 

「でも、私はもう、レースが、、、」

 

 

 

「ま~だ気づいてないの?」

 

 

 

「え、、、、あれ、、足が、、、全然痛くない、、、なんで、、、」

 

 

 

「もたもたしてないでっ、ほら、早くいくよ!お姉ちゃん!」

 

 

 

「ちょ、ちょっとっ、まって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りが星に照らされて、どこか幻想的な雰囲気のレース場。

 

 

 

2人の少女がレースを始める。

 

 

 

双子同士の、真剣勝負。

 

 

 

完璧なスタートダッシュ、どちらも理想的なスタートをきって。

 

 

 

ターフを駆ける、2人の姿は、幼少期から、小学校へ。

 

 

 

妹が先頭を駆け抜けて、姉は後方で足を溜める。

 

 

 

小学校から、中学へ。

 

 

 

姉が仕掛ける、妹も負けじと、さらに速く、もっと先へ。

 

 

 

中学から、高校へ。

 

 

 

2人が並ぶ、全力を出して。息が、苦しいはずなのに。

 

 

 

けれど、2人は心底楽しそうで。

 

 

 

最終直線。ラスト、50m。

 

 

 

高校を卒業して、それから、、、

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんっ!」

 

 

 

 

 

 

「なにっ」

 

 

 

 

 

 

「約束してっ!」

 

 

 

 

 

 

「なにをっ」

 

 

 

 

 

 

「足が、、治ったんだからっ!これからは、自分のために走るって!」

 

 

 

 

 

 

「・・・わかってる!」

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんを待っている子たちはたくさんいるんだからっ!

私のことを思い出してくれるのはうれしいけどっ、お姉ちゃんのことを大切に思っている子たちには、ちゃんと向き合ってあげて!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・うんっ、約束する」

 

 

 

 

 

 

「絶対だよっ!破ったら今度は化けて出るからねっ!」

 

 

 

 

 

 

「うん、もう、大丈夫だから・・・・」

 

 

 

 

 

 

残り、30m。

 

 

 

 

 

 

「だからっ、あなたもっ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

20m。

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!私、お姉ちゃんの妹で幸せだったよ!

生まれてくることはできなかったけど、それでも、私は、すっっっごく、幸せだった!」

 

 

 

 

 

 

 

10m。

 

 

 

 

 

 

 

「私もっ、私の方こそっ!あなたのお姉ちゃんでよかった!」

 

 

 

 

 

 

 

1m。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好きだよっっ!本当に、世界で一番っ!あなたのことが好きっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠に続くかと思われた勝負は、それでも、静かに幕を閉じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜空に輝く星々は、確かに勝者を見届けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最初で最後の真剣勝負』

 

 

 

 

「1着 アドマイヤべガ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




世界は明るく色づいて。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。