Chapter 0「招集」
(ここは……)
ふと目を覚ますと、そこは車両の中にある1席の様だった。時折車輪の弾む音だけが響くその空間で、自身の他にいるのは、向かいの長椅子に座る、負傷した少女のみ。
(お前は、いったい……それより、その傷は……)
咄嗟に立ち上がって駆け寄ろうにも体は動かず、声をかけようにも、まるで声帯を奪われたかの如く音が発せず、それどころか呼吸すらできている感覚もない。しかし眼前の少女が
「私のミスでした。私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」
(待て、何のことだ?俺とお前に、どのような接点が……)
一切の事情が分からず、混乱するこちらを気にする様子もなく、少女は続ける。
「……今更図々しいですが、お願いします。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々。」
(選択……友人たちの意を継ぎ、コーラルの根絶を決めた俺に、何を選べと……)
少女の示すそれが何を意味するかは不明だが、選択なら当にしていたと自負している。外宇宙へと進出した人類が、とある惑星で発見したエネルギー物質、『コーラル』。調査、研究の過程で、助手を務めていた己が父の過ちを背負う形で恩師が対処した際は、惑星どころか星系を飛び出し、宇宙規模まで爆発、燃焼を齎す、『アイビスの火』と呼ばれる厄災を空き起こした。やがて父の同僚を始めとした数少ない生き残り達と共に調査を続けるうちに、焼失しきらず残存したコーラルが、単細胞生物の分裂、増殖よろしく再度増加していることを確認すると、星外へ溢れ出る前に今度こそ根絶すべく、その中枢を叩かんと動いてきた。
その過程で、多くの犠牲が出た。自身の手駒とした強化人間達は最たる例で、父の実験から生じた理論は、数多の
そこを突く形で格安で入手した強化人間達——『ハウンズ』の
(そう言えば、621は無事脱出できただろうか。できることなら、残した言葉に殉じて、コーラルを焼き尽くしてくれていればいいが……)
直前までの状況に思いを馳せるうち、そこから全くつながらず、異常とも言える現状と、眼前で語り続ける少女から意識を反らしてしまっていたが、その間に話も進んでいたらしい。
「ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたになら、この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。だから先生、どうか……」
(待て、教えてくれ。お前は一体、俺に何を望んでいるんだ……!)
だがそれ以降を聞くより前に、意識が遠のいていくように視界が白く染まっていき、車輪の音も徐々に小さくなっていく。