「カタカタヘルメット団の前哨基地が壊滅。おまけに物資も根こそぎ奪われていた、と。まぁ、所詮格下のチンピラ如きでは、数と武装を揃えたところで、あの程度が限界か……」
ウォルターがハウンズやホシノ達を連れ、カタカタヘルメット団の前哨基地を襲撃してから数時間後。とある高層ビルの夜間にも関わらず明かりがない一室にて、その中央に置かれたデスクを占拠する大柄なロボットが、対面で直立する部下の報告を聞いていた。
「はい。幸いすでに相手は引き揚げてましたが、おかげで折角持参した兵器類を持ち帰る羽目に……」
「まぁ今回は違法機種も用意していたが、その出番がなかったことは、我々の支援をかぎつかれる事態を避けれたと考えておこう。ご苦労だった、下がっていいぞ」
横長の楕円型で、中央に液晶状の顔がコロコロ表情を変える量産品の頭部をした部下とは対照的に、どっしりした体躯と、角ばったワンオフモデルの顔をした上司は、報告を終えた相手を下がらせると、ため息とともに席を立ち、しばし一面ガラス張りの窓際から、街の明かりが輝く眼下の夜景を眺めながら、手元の端末で通信を入れる。
『はい、どんな事でも解決します。便利屋
「仕事を頼みたい、便利屋」
やがて連絡先――『便利屋68』とのやり取りを終え、席に戻るべく振り返った矢先、新たに正面の扉を開け、複数の人影が入ってくる。
「ちぃと間が悪くて聞き耳たてたみたくなっちまったが、俺達を温存して余所に声かけるってこたぁ、まだ余裕ありそうだな、オッサン」
「振舞いはともかく、貴様らの実力は確かなことは、既にその身で証明していよう。不満はあるだろうが、こちらとしてもそう易々と切れる札ではないことを、自覚しておけよ」
その先頭を切り、相手の判断を否定こそせずも、自分達の出番がこないことに口を挟むのは、セナの警告をどこ吹く風と聞き流し、すっかりトレードマークと化した葉巻を吹かすマコ。部屋の主も馴れ馴れしい物言いに対し注意こそすれど、彼女達の戦力的価値自体はしっかりと認めている辺り、良好な関係を有しているようだ。
「しかしアビドスねぇ。てっきりとうに砂に埋もれて、地図から消えたもんだと思ってたが……」
「それより問題は『S.C.H.A.L.E』だ。アビドスも、連中が手を貸したからこそ攻めに転じてきたようなもんだが、なかなか強そうじゃないか。まぁこれ以上面倒なことにならなきゃいいんだが……」
マコに続いて入ってきたアギトは、同様に煙管を銜え、まだアビドスが自治区として現存していたことを驚くのに対し、横のシロナは、介入してきた『S.C.H.A.L.E』と早くも対峙するとあって、億劫そうに髪をかき上げる。
「あれれ~?まさかビビっちゃったぁ?アタシは今から楽しみでたまんないなぁ、アッハハハハ!」
「まぁ所詮寂れた僻地の野良仕事は向こうも乗り気じゃないみたいだし、やってみようぜ?理事様の望むままに、さ」
「ええ、私達は負ける勝負はしません。例え『S.C.H.A.L.E』を相手するとしても、そのつもりですから」
更にその後ろに続いていたタイガが、消極的なシロナを煽る様に笑い、ヨシキは眼前の相手――カイザーコーポレーションの傭兵業を担う『カイザーPMC』の理事も巻き込んだ毒を紫煙と共に吐くと、オセアも余裕気に愛用のパイプに口をつけ、自信を宣告する。
「相変わらず凄まじい自信だな。SRTの書類を持って押しかけてきたかと思えば、各地で戦果を挙げると共に、下した現地のスケバンやヘルメット団連中を傘下に取り込んで、着々と勢力を拡充する抜け目なさを持つだけある」
『S.H.A.R.K.S』の戦力に対し、カイザーが仕事と報酬をそれぞれ提供し合う現状、互いに利用し合うことを承知の上と言え、頼もしいと同時に、最も――それこそ現在進行形で対峙しているアビドスや、『S.C.H.A.L.E』以上に警戒すべき相手と認識し、警戒する理事に対し、気にせず馴れ馴れしく振舞う『S.H.A.R.K.S』面々の姿は、その気になれば容易く居心地の良さや好待遇を捨て、パワーバランスを傾けることを躊躇しない彼女等の心情を現しているようにも見える。
本来SRT関連は、別の幹部、『ジェネラル』が連邦生徒会の幹部との協力の一環として担当していたのだが、『S.H.A.R.K.S』が閉鎖にかこつけ、校内にあるものは備え付けの物さえ配線が接続などされてなければ取り外し、定例会で「戦車やヘリから弾丸1つまで備品の類を根こそぎ奪われ、校舎の中を寒風が吹いていた」と報告される程に全てを持ち去っていったことで、管理や引継ぎに必要な書類も校内に残っていたものは
それから間もなく『S.H.A.R.K.S』が
「それで、どうせ逃げ出したカタカタヘルメット団の残党も囲い込んでいるんだろ?先の相手にも、それを前提に『先任は壊滅した』と伝えている」
「察してるじゃねぇか。今頃ドルフィン2が接触してるだろうよ」
そうした営業活動の裏で、送り込まれた先のはぐれ者達を下しては配下に取り入れ、訓練を施すことで戦力の増強を繰り返しており、今回もすでにカタカタヘルメット団の残党を狙い、那須昂姉妹率いるドルフィン2を送りつけている。
「『最強』を名乗るお前達が、『最優』と称するあの姉妹か。聞く限りでは、器用貧乏もいいところではないのか?」
「ハッ!アイツ等が器用貧乏じゃ、オタク等含めてキヴォトスはそれ以下の凡愚ばっかだぜ?それこそトンズラこいた
とうにSRT閉鎖で根無し草にされた件は吹っ切っていると語りつつも、仲間の称賛のために、躊躇なくキヴォトスの統治者たる連邦生徒会を無能と蔑むマコに、「そこまで言うか……」と呆れ果てる理事。
「とにかく、お前達の出番はもうしばらく先だ。後始末については予見していたし、他に用件がないのなら、さっさと戻れ」
「あいよ、じゃあなオッサン」
結局悪戯に煽るだけ煽ってきたマコに手を払うと、マコも言いたいことは言って満足したからとばかりに、アギト達を連れてあっさり引き下がっていく。それを見送った理事は、席に着くと天井を眺め、ふう、と一息ついてぼやく。
「全く。まぁ、万が一便利屋連中が、奴らの評に釣られて雇うようなことでもあれば、話は別だがな。尤も、ハリボテもいいところと聞く連中に、そんな余裕など到底あるとは思えんが……」
マコ達が理事を煽っていた頃、彼女の予見通り、那須昂アトラ率いるドルフィン2は、アビドスとゲヘナの自治区境界付近にある倉庫街に身を潜めていた、カタカタヘルメット団の残党達の元を訪れていた。
「あぁ、いたいた。よかった見つかって」
「な、何だアンタ等!私達を始末しに来たのか!?」
後方を一括りのポニーテールに束ね、前髪の1房に水色のメッシュを入れた濃紫の髪と、同じ色のシャツの上に黒のジャケット、そして紺色のスラックスを履いたアトラが話しかけると、彼女が両手に持つ、ノノミが使用する『リトルマシンガンⅤ』以上に重厚なガトリングガン――ウォルター達が元居た世界とは異なる地で、『AM/GGA-206』の型番が付いていたAC用のサイズダウン版たる『キラトゥム』の厳つさに体を強張らせたカタカタヘルメット団の残党が、思わず声を荒げる。
「あぁ、警戒しないで大丈夫。むしろ余所行ってトラブル起こす前に
依頼に失敗し逃げ出したとあって、気が立っているのも仕方ないと思いながら宥めるのは、装備と衣装こそアトラと同じだが、色が薄い髪の末端を水色に染めたトウニ。姉のそれと色違いの武器、『ファルジネス』を手にしたまま、乗ってきたピックアップトラックの荷台に軽々飛び乗ると、降ろした得物の代わりにビニール袋を持って降り、中から道中のコンビニで買ってきた弁当を1つ取り出し、差し出す。
「い、いいのか食べて?毒とか入ってないだろうな?」
「入れるか!アタシ達だってひもじい思いしてきたし、うちの
予期せぬ待遇に余計警戒され、折角の善意を無碍にされたとばかりに、思わずトラックの運転席から身を乗り出し、笑っているようにも見える口角とは対照的な怒声を放ったのは、計算能力の高さを活かし、『S.H.A.R.K.S』の会計を担当する『
「まぁ、今でこそ名が知れてあちこちからお呼びがかかってるけど、出せるメンバーは多い方がいいし、SRT時代からのメンバーは、教育方針の都合で戦闘できても後方支援はイマイチな具合も多いから、そっち方面に割く人員もほしくて、あちこちからアナタ達ヘルメット団みたいな面々に声かけてるの。とりあえず安全か気になるなら毒味してもいいから、これ食べながらでも話聞いてちょうだい?」
このままでは話が進まないと思ったアトラは、トウニが置いた袋から唐揚げの弁当を取り出すと、「いただきます」と2人で分け合いながら食べ始め、食べても問題ないことを確認したカタカタヘルメット団の残党達も、各々弁当を選び手に取ると、輪ゴムで巻かれていた割り箸で食べ始めるが、暫くすると、箸で弁当をかき込む音に、嗚咽が混ざり始める。
「ちょっ、どうしたの急に泣き出して!?もしかして、揚げ物ばっかはキツかった!?」
てっきり購入してからしばらく経ち、多少冷めてはいるものの、久々の温かい食事に感極まったのかと思いきや、それとは違いそうなヘルメット団残党達の様子に困惑するトウニ。実際彼女達が買ってきたのは、2人で食べている唐揚げ弁当を始め、チキンカツやトンカツ、魚のフライと、大半のおかずが揚げ物ばかりで、豚の生姜焼きやチャーハンなどの例外もあるが、どれも脂っこいものとあって、口に合わない者もいたかと浅慮を悔いていたところに、黒いフルフェイスヘルメットの一般団員とは異なる、赤いヘルメットにフルフェイスマスクの隊長格の1人が、「いや、違うんだ……」と口を開く。
「わざわざ探してきたなら知ってると思うが、私等は前哨基地を潰されて、その際仲間が多くやられたんだ。先にアビドスを攻めていた連中に関しては、勝手に動いてたソイツ等の自業自得で仕方ないにしても、基地にいた仲間の方は、できれば助けて一緒に逃げたかったけど、間に合わなくて置いてかざるをえなくて……」
アビドス生徒の反撃を受けた際、置いてきてしまった仲間達を思い涙していたと聞いたアトラとトウニは、分け合った弁当を頬張り食べ終え、立ち上がり声を挙げる。
「大丈夫!貴方達の後任が近いうちに攻めるわ!その時に捕まった仲間を見つけて、助けてあげる!」