校舎から聞こえた爆発音に、ウォルターのチヌークに乗って慌てて駆け付けた対策委員会の面々が目にしたのは、爆破解体された旧校舎の残骸。日陰部分に残され、日焼けせずに残ったアルバムなどは校舎裏に寄せられ無事だったが、布団代わりに残していたマットなどの備品は、留置していたカタカタヘルメット団員達ごと持ち去られている。
「まさか2面攻撃を仕掛けてくるなんて……」
「油断したねぇ。ここ最近、数に任せて真正面から攻めてきたヘルメット団ばっか相手してたから、学校を空けても大丈夫と思ってたところを突かれちゃったかぁ……」
本校舎側の被害確認を理由に、ハウンズを連れて一足早く現校舎に戻ったウォルターと別れ、予期せぬ攻撃の被害に呆然とする中、真っ先に口を開いたアヤネに、ホシノもここ最近の事情を思い返しながら賛同すると共に、それを悔いる。
「ところで、何故わざわざ中の物を運び出したんでしょうか?二束三文にでもなればと売却目的だったなら分かりますけど、わざわざ売るつもりもない品々まで、こうも丁寧に扱われるのは、却って不気味に感じます……」
一方、相手の不可解な行動に疑問を唱えるノノミの前では、ユメが残された物品を確認していたところ、何やら1枚のポスターを手に取り、立ち上がる。
「うわぁ!見て見てホシノちゃん!アビドス砂祭りのポスター、まだ残ってたよ!」
「うへぇ懐かしいものが……
見せられたホシノは、どこか頬を引き攣らせながらユメが突き出したポスターを慎重に受け取ると、しばし過去に思いを馳せるが、再度ユメが物品を漁りだす音を耳にし、自身も並ぶ。
「とりあえず、砂で傷まないうちに校舎内に運び込みましょう。ノノミちゃん、シロコちゃん、運ぶの手伝って。セリカちゃんとアヤネちゃんは、被害を確認したら、後で何がどれだけあったかまとめるのお願い」
「そうだね。って、そんなに持って、大丈夫!?」
ホシノに指摘され、さすがにいつまでも外にいる訳にもいかないと思い直したユメが向き直った先には、大きめの段ボール箱を2つ重ねて持ち上げるホシノ。足腰にふらつきはないため重量は問題なさそうだが、上半身は上の段ボール箱に隠れ、視界は一切ないようだ。
「うへ~、重くなさそうだからって、ちょっと調子乗りましたね……全然前見えませんよこれ……」
いくら軽くとも、前方が見えなくては危ないとあって、1度降ろしてから、上の箱に多少小物を積み、再度持ち上げると、先に戻り始めた後輩に続いて進んでいく。無理してそのまま行こうとしなかったことに安堵したユメも、ホシノが残した段ボール箱を抱えると、残るセリカとアヤネに「それじゃ、また後で!」と声をかけ、去って行く。
『先生、襲撃してきた生徒さん達の照合が完了しました。まずホシノさん以外のアビドスの皆さんと対峙したのは、ゲヘナ学園の部活、便利屋68の皆さんです。そしてもう1つ、戦車で支援射撃をしながら、ハウンズの皆さんやホシノさんを相手していたのは、SRT特殊学園の多目的支援独立遊撃部隊、『S.H.A.R.K.S』の隊長格の皆さんだったのですが……』
一通り校内に被害がないかを確認し、普段間借りしている一室に戻ったウォルターは、早速アロナに今回の襲撃者を調べさせたところ、今後の脅威足り得ると認識していた後者に関し、何やら言葉を詰まらせる。
「どうした?」
『それが、SRT特殊学園は、先日管理している連邦生徒会長の不在を理由に閉鎖が決定されたのですが、それに伴い所属していた生徒さん達のヴァルキューレ警察学校への編入措置が決まる前に、戦車やヘリから銃器にその弾薬、果ては机や保管されていた書類の類の様な備品まで、校内に保管されていた物品を根こそぎ盗み出されたと共に、彼女達率いる『S.H.A.R.K.S』が失踪したとあって、目下その犯人と推測されているんです』
「つまり奴等は今、首輪無き怪物、か……」
ルビコンの情勢で例えるなら、封鎖機構の実働部隊が、管理システムの機能が停止した隙を突いて離脱し、持ち逃げした装備を元手に、独立傭兵部隊として旗揚げした様なものだろうか。便利屋68の方は、同校の治安組織に所属するチナツが、『S.C.H.A.L.E』オフィスまでの護衛にいたことから、彼女経由の伝手で行動傾向や活動経歴などの情報が引き出せそうな点と比べても、すでに連邦生徒会の手を離れ、独自に活動を始めた分、それらが当てにならない可能性もある以上、行動が読めない『S.H.A.R.K.S』に対しては、引き続き警戒するに越したことはないだろう。
「『S.H.A.R.K.S』に関しては、引き続き情報を収集しておけ。奴らのどれ程があの域にいるかは不明の様だが、話を聞くに、本腰を入れれば最悪先日のカタカタヘルメット団どころじゃない物量に任せて、
ウォルターの懸念を察し、『か、かしこまりましたー!』と慌てたアロナが画面から姿を消し、シッテムの箱の画面が暗くなると同時に、対策委員会の面々が部屋に入ってくる。
「先生お疲れ~。ひとまず残された物品の片付けと確認終わったけど、
「とりあえず、明日は借金の利息を返済する日でして……色々と準備があるので、先程の方々の情報に関しては、その後に報告しましょう」
「それじゃ先生、また明日」
翌日、集金に来たカイザーローンの現金輸送車が校門前に停まり、乗ってきた銀行員がアヤネから現金を受け取る。
「お待たせしました。変動金利等諸々適用し、利息は788万3250円となります。全て現金でお支払い頂きました、以上となります。カイザーローンとお取引頂き、毎度ありがとうございます。来月も宜しくお願いいたします」
そのまま現金輸送車がそそくさと去って行くのを見届けた対策委員会の面々は、存在を隠すためチヌークを校舎裏に移動させ、定例会議に利用している教室で待機しているウォルターの元に向かいながらも、思い思いに不満を口にする。
「……完済まで後、どれくらい?」
「309年返済なので、今までの分を入れると……」
「言わなくていいわよ、正確な数字なんて知りたくない……さらにストレス溜まりそう」
「はぁ、そこまで嫌なら今からでも余所に転入すればいいのに~。ハイランダー辺りなら、ノノミちゃんの実家に頼れば、一緒に入れてもらえるんじゃない?」
そこに空気を読まないような発言をするホシノに、直前の発言を取り消す様な様相でセリカが襟元を掴んで食って掛かる。
「いい加減にしてよホシノ先輩!ヘルメット団の連中を受け入れようとするわ、借金返済に消極的だわ、アビドスが無くなってもいいっていうの!?」
しかしその返答は、あまりにも冷たいものだった。
「むしろそのつもりだよ?ぶっちゃけちゃうと、シロコちゃんはどうかわかんないけど、皆みたいな愛着ないどころか、むしろ憎んでさえいるってとこかな」
間延びした口調こそ鳴りを潜めたが、まるで普段の会話と同じノリで予期せぬ発言をされ、硬直するセリカ。その止まった手を掴まれていた襟から離し、同じく固まった後輩達の先頭に進んだホシノは、クルリと振り返って微笑み、何もなかったように進みだす。
「まぁ色々聞きたいだろうけど、とりあえず、先生のとこ行こっか~。多分同じ事話すことになると思うから、一緒に聞いてもらう方が効率いいしね~」
おそらく揃うまで話さないだろうと察した4人が、多少ぎこちなく後を追う頃には、ホシノは教室に着いており、ウォルター共々席に座って、会議が開催できるように待機していた。それを見て、司会を務めるアヤネがホワイトボードの前に進み、残りの面々は席に座る。
「それでは全員揃ったので、昨日の襲撃に関する報告を始めます。最初に、主導として動いていたのは『便利屋68』と呼ばれる部活です。ゲヘナではかなり危険で素行の悪い生徒達として知られているようです。便利屋とは頼まれた事は何でもこなすサービス業者で、部長は陸八魔アルさん、自らを社長と称しているようです。彼女の下に3人の部員がいて、それぞれ室長、課長、平社員の肩書を持っています」
説明に合わせ、アヤネが昨晩柴大将に事情を話し、店の防犯カメラからウォルターが持つシッテムの箱に読み込んで印刷した4人の顔写真を、ホワイトボードに張り付けていく。
「社長さんだったんですね☆すごいです!」
「名実としては、大手の令嬢なノノミちゃんの方がすごいんじゃない?」
「いえ、あくまでも『自称』なので……現在はアビドス内のどこかに入り込んでいるようです。今朝もその1人、室長の浅黄ムツキと遭いましたし……」
説明を聞き、アルの肩書に歓喜するノノミに対し、ホシノは冷静にツッコミを入れ、アヤネは疲れた様に報告する。どうやら遭遇したムツキにウザ絡みされた様で、その理由でもある眼鏡を外し、しばし物思いにふけるかのごとく眺めてから、かけ直して説明を再会する。
「そして問題なのが、彼女達が連れてきた、戦車の傭兵達です。彼女達は傭兵部隊、『S.H.A.R.K.S』。元々はSRT特殊学園の多目的支援独立遊撃部隊でしたが、その閉鎖に伴い在野へ飛び出し、傭兵として各地で活動しています。実際便利屋の皆さんの母校であるゲヘナでは、彼女達以上の問題児扱いされている温泉開発部を、プロモーションとして隊長の蒼海マコさんが単身撃破し、部長の鬼怒川カスミさんに至っては、全身火傷で再起不能とまで噂されています。加えてあちこちでスケバンやヘルメット団を倒しては、そのまま傘下に取り込んで規模を拡大しているとあって、その気になれば今回相手した赤狩場シロナさんと瑠璃伊達タイガさんだけでなく、より多くの人員を導入してくるかもしれません」
「ってことは、旧校舎を爆破破壊したのも、留置されてたカタカタヘルメット団の連中を取り込みがてら、アビドスへの宣戦布告が目的か……その割には大分丁寧に残した品もあったけど、それだけできる人員がいるって余裕の表れ?」
同じくアヤネがマコとシロナ、タイガの写真をホワイトボードに張り付けながらする『S.H.A.R.K.S』の説明を聞きながら、戦いの裏でやられた旧校舎への被害についてセリカが考えていると、先程の続きとばかりにホシノが野次の様なボヤキを放つ。
「そんだけいるんなら、この校舎も有効活用してくれるんじゃないかな~。プールみたいにあちこち人手不足で碌な整備できないとこもあるけど、周囲は砂漠でご近所トラブルを気にしなくていいから、大規模な訓練も思う存分できて、戦力増強には困らなそうだね」
「ホシノ先輩、その……」
「あぁ、ハイハイ。さっきの話ね」
まさか1番の年長たるホシノが、学校の存続を願うどころか、その歴史を畳もうとしていたことを受け入れきれず、アヤネは言葉を詰まらせながらも、先程の意図を問うべく促すと、それを汲んだホシノは、ゆっくり立ち上がり、アヤネと入れ替わり前に出る。
「んじゃちょっと長くなるけど、少し昔話をしようか。多分アビドスが1番過疎だった頃の話。奇しくも昨日皆と会ったユメ先輩も関わるから、ちょうどよかったんじゃないかな?」
そしてホシノは語り始める。如何にして自分が、アビドスを憎むに至ったかを。
ホシノが入学した頃、アビドスはまだ3学年に十分な生徒がおり、全盛期には遠く及ばずとも、今よりもずっと活気はあった。しかし砂漠化に多額の借金と、既に衰退の一途を辿るばかりと察した生徒達は、故郷に見切りをつけ、次々に他校学区へと旅立っていき、最早アビドス生徒会にそれを止める術はなかった。
「まぁ生徒会なんて言っても、当時はもうユメ先輩が名ばかりの会長職と共に責任を押し付けられたような有様で、とうに組織として機能なんてしてなかったけどね」
事実前任達は、ユメを任命後纏めて失踪しており、ユメも当時のホシノに「もうまともな状態ではなかった」とまで話すような有様で、仕事と言えば、専らカイザーローンへの利子返済。これでは到底人が集まる訳もなく、むしろ離れる一方なのは、当時のホシノも嫌というほど理解も納得もできた。
「おまけに返済できなかった分として、アビドス生徒会は何代も前から学区の土地を切り崩して、カイザーに売り出してたらしくてさ。多分今じゃこの校舎周辺と、辛うじて市街地部分を何とか維持できてるくらいじゃないかな~」
「学校の土地を売る?それもカイザーコーポレーションなんかに!?学校の主体は生徒でしょ!?どうしてそんなこと……っ!」
自分達のずっと前の先輩達がしてきた、ある種の裏切りも同然の行為に声を荒げるセリカを「まぁまぁ」と落ち着かせ、ホシノは話を続ける。
「生徒だったから、じゃないかな。人生経験に乏しい分、目先を優先するあまり後先考えず、勢いに任せた結果だろうね。私も私で、ユメ先輩と最後まで残った同級生の3人でバカやってるのが、それで十分なくらい楽しくてしょうがなかったし……」
実際ホシノは、その同級生共々ユメに半ば強引に生徒会へ入れられ、振り回される日々に不満よりも充実を感じることが多かったし、その間はアビドスの荒廃や、去って行く級友達のことを考えずに過ごせた。そんな日々を過ごす中、転機が訪れる。ちょうど前日に宝探しと称して砂漠の穴掘りに興じていたホシノとユメは、骨折り損に終わった成果とは対照的に、ある種の興奮が疲労と掛け合わさった多幸感に満たされながら、筋肉痛で休んだ仲間への差し入れのついでに、備品の買い足しのため、ショッピングモールを訪れていた。
『あ、ユメ先輩見てください。リュック型水筒ですって』
『へぇ、ちゃんとリュックとしても使えるんだ。何だか面白いね』
『昨日みたいな砂漠で活動する時には便利そうですけど、お~結構なお値段……』
半ば働かない頭でフラフラ歩く途中、通りかかったアウトドアグッズコーナーでホシノが見かけたのは、収納機能が付いた、背負って運べる大容量の水筒。思わずおぼつかない足を止め、手に取ってみるが、まさにあれば便利な事態を経験したばかりとあって、購入意欲が湧くも、値札を見て、辛うじて働いていた理性が思わず待ったをかける。しかし手にしたリュック型水筒を棚に戻し、疲れが癒えない脚を動かしてこのまま立ち去るには至らず、そのまま閉じかけた目で眺める。
『1個くらいなら暫くおやつ我慢すれば何とかできそうだけど、さすがに2つ以上は厳しそうだね~……』
『2人以上で1個使ってもいいと思いますよ?ただその場合どっちが背負います?』
『だったら私が背負ってもいいよ。ホシノちゃんには大変そうだし』
『お?言いましたね?私だってこれくらい余裕ですよ~』
そうしてお互いフニャフニャと回らぬ呂律で言い争っていたところに、見かねた店員のロボットが話しかけてくる。
『あのー、よろしければテスターとしてご協力いただけますなら、貸し出しという形で無償提供させていただけますが……』
『え、いいんですか?』
『ちょ、ユメ先輩待った待った。そうやって何度騙されたんですか』
予期せぬ声掛けに驚き、思わず意識がハッキリしたとあって、言われるまま食いつきそうになるユメを、ホシノが店員との間に割り込んで止める。ユメは過去にも何度か様々なセールスに声をかけられては、人の好さに付け込まれ、ただ働きをさせられてきたのだが、店員は「一緒にするな」とばかりに、しゃがんでホシノに目線を合わせ、懐から取り出した名刺を見せて続ける。
『そこまで疑われたとあっては、こちらとしても信用ありきの商売ですから、身を削らせていただきましょうか!1~2週間おきにこちらのアドレスへご使用時のご感想を1年間お送りいただけましたら、その都度謝礼を支払いますし、期間が終われば、そのままお譲りさせていただきます!もちろんその間に破損された際は、お持ち込みいただければ無償で交換いたしましょう!これなら如何です?』
これまでユメを騙してきた連中とは違う押しの強さに、思わず水筒を抱えたままだった手の力を強めてしまい、思わず口から洩れた「は、はへ……」と曖昧過ぎる返答とも言えないホシノの呻き声を了承と捉えた店員は、ユメにもう1人分用意してほしいと言われ、裏から持ってきたそれを差し出し、理解が追い付かず呆然としたまま店を後にした2人を見送る。
『結局、タダでもらえちゃったね……』
『そうですね。気前がいいのか乗せられたのか……とりあえず条件通り、定期的に使って、色々意見を送りましょうか』
幸か不幸か、意図せず入手できたとあって、後程見舞いに向かったもう1人にも事情を説明し、各々リュック型水筒を背に度々砂漠に繰り出しては、その使い勝手について意見を送ることで、雀の涙と言え予期せぬ収入を得て過ごしていたが、結局広がりゆく砂漠にアビドスの抱える問題は解決の目処が立たないまま生徒会、ひいては学校をどんどんと追い詰めていき、遂に残ったのは、生徒会の3人だけになってしまう。
「そんな時にね~、やらかしちゃったんだ……」
風前の灯と化して、なおアビドスの存続のため駆けまわって精神的余裕がなかったホシノは、栄華の残滓が如きかつてアビドスで開催されていた砂祭りのポスターを持ってきたユメに罵倒を浴びせ、奪い取ったそれをビリビリに破き捨ててしまった。当時を思い返すホシノの顔は、忌々し気に目元や口角を引き攣らせている。それだけ2年経った今でも、自身の行動を恨んでいるらしい。
「今でも思い返すと、ユメ先輩の申し訳なさげに落ち込んだ顔が浮かぶんだよね。トボトボ去ってく後ろ姿に声掛けとくんだったって」
そのまま喧嘩別れで会わずに迎えた翌日、ユメは学校に来なかった。今まで休むようなときは連絡を欠かさなかったユメが無断欠席とあって、同級生は酷く狼狽え心配していたのに対し、ホシノとしては気まずさもあって、「偶にはそんな時もあるか」と特に気にしなかったものの、流石に翌日も学校に現れず、更に心配して電話をかけてもつながらないとあっては、薄々自覚していた罪悪感に焦燥を駆られ、慌ててリュック型水筒を背に担ぐと、おぼろげな最後の会話を思い出しながら飛び出していった。
「『今は砂嵐に呑まれてとうに枯れ果てたが、アビドスの大砂漠にはかつて巨大なオアシスがあって、砂祭りは夜になると、そこで花火を打ち上げて締めた。その火薬には、とっても高価な金属が含まれていたらしい』。そう話してたのを思い出して、ユメ先輩はその花火が残ってないか探しに、オアシスの跡地を目指したんじゃないかって考えたら、もういてもたってもいられずに最低限の物資だけ持って、一目散に向かったね」
そのまま丸1日砂漠を駆けまわった末、砂に呑まれた廃墟の陰で、倒れ伏していたユメを発見したホシノは、持参した水筒から水を飲ませ、食べやすいよう1度口に含み、噛み砕いて唾液で柔らかくしたエナジーバーを口移しで摂取させると、朝になるまで泣きながら謝罪を繰り返し、落ち着いたところで事情を聞いた。
予想通りオアシスの跡地へと向かったユメは、その日の昼過ぎ頃砂嵐に遭遇した。已む無く手頃な瓦礫の陰でやり過ごそうとしたところ、突如砂嵐の中から現れた巨大な影に襲われ、何とか逃げることには成功するも、逃げる途中コンパスを落としてしまったことに気づく。それでも砂嵐が落ち着いた頃合いを見計らい、日光や星の配置を頼りに進んでいたものの、度重なる砂嵐に翌日はまともに進めず、前日襲ってきた影の件もあって、やり過ごさんとこの廃墟に逃げ込んだはいいものの、いつまでもやまない砂嵐に足止めを食らった結果、自前のリュック型水筒の水を使い尽くし、心身の疲労もあって立ち往生しているうちに、衰弱していたそうだ。
幸い廃墟から覗く外は、ユメの話が嘘の如く、普段ならウンザリするほど眩しいまでの快晴だったが、砂嵐と潜む影が来る前に戻るべく、ホシノは同級生にユメの発見と今からの帰還を手短に伝え、自身のリュック型水筒に抱き着いてもらう形でユメを背負うと、廃墟を後にした直後、早くも気付かれたかのように生じた砂嵐の中で、おそらく先程までいた廃墟の崩落音に思わず足を止め、振り返ったホシノは、その原因であろう巨大な影を目の当たりにした。
「そこからはも~必死になって走ったね。多分10年くらいは寿命が縮んだんじゃないかな?まぁ幸いにも、見つからずに
おそらく、そもそもカイザーに借金をするきっかけとなった一際大きな砂嵐も、話を聞いていたウォルターが、かつてルビコンで目にしたコーラルを動力源とする巨大兵器、『アイスワーム』を連想していたあの影が起こしたものだろう。今は既に制した縄張りで満足しているようだが、今後何かの気まぐれでそれを広げるか移す気になれば、いつ残った校舎や市街地まで砂嵐を差し向けてくるか分からない以上、もうここで暮らしてはいけない。そう判断したホシノは、アビドス高等学校の歴史に、幕を下ろす決断を下した。
「そこからはもう頑張ったよ~。ユメ先輩をD.U.の病院に入院させがてら、同級生に後を託して、2人にはミレニアムへ転入してもらった。あれでもユメ先輩って、結構頭はいい方だったからね。無事迎え入れられて、そのまま卒業したの。で、半ば強引に生徒会長を引き継いで残った私は、あの化け物の話を住民にも伝えて、逃げるよう促したけど、柴大将みたいに『だったらこのまま骨を埋めたい』なんて人も多くて。その説得に苦労してたら……」
「私が来ちゃったと……」
濁していた部分を引き継いだノノミに、苦笑いを浮かべながら頷くホシノ。ノノミはアビドス由来の鉄道企業、『セイント・ネフティス』の令嬢で、本来ならキヴォトスの鉄道管理を担う『ハイランダー鉄道学園』との企業提携を機に、そちらへ入学する予定だったのだが、かつて押し進めた砂漠横断鉄道の建設が、アビドス衰退の要因となってしまったことに罪悪感を抱き、復興に協力したいと、強引にアビドスへの入学を進めてしまった。
当然ホシノとしてはそれを許すつもりなどなく、例の砂嵐の怪物の危険性を説き、「すでに入学希望は受け付けていない」と必死に思い直すよう促すも、「砂漠横断鉄道建設の際、幾度となく遭遇した」と聞いていたノノミの意思は変わらず、翌年押しかけ同然に無理矢理入学してきたばかりか、しばらくして今度は着の身着のままな有様だったシロコを拾ってしまう。当時のシロコは辛うじて覚えていた名前以外一切記憶がなく、扱いに困るも見捨てられなかったホシノが介抱し、已む無くユメと共にミレニアムへと送り出した同級生に頼ろうとしたところ、突如襲ってきたところを返り討ちにして以来、すっかり懐かれてしまい、更にノノミの入れ知恵でホシノが処分しようとしていたアビドスの制服を着せられ、ご満悦なところに入学の話を促され、行く当てもなかったこともあって、あっさり乗せられてしまい賛同してホシノの頭を悩ませた。
結局諦め同然にホシノも受け入れた裏で引き続き閉鎖の準備を進めるも、今度はアヤネとセリカが現れ、追い払おうとしたところをノノミとシロコに押し流されてしまい、再び受け入れざるを得なくなってしまった結果、現在に至っているとのことだ。
「だから私が私財で借金を帳消しにしようとしたら、断固拒絶されてたんですね」
「ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど、大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立とうとしてたのは、そんな事情があったんだ……」
「そうそう、ノノミちゃん個人の財力頼りじゃ、卒業されたら潰れました~、なんてことが容易に想像できちゃうし、シロコちゃんがよく言う銀行強盗だって、せめて余所への引っ越しに使うならまだしも、アビドスを残すなんて、砂漠に柄杓でバケツの水撒いてる様なもんだから、幾ら繰り返しても足りないしね~。あの化け物を追い払うこともできない以上、結局今ある借金を返済しきったところで、何かの拍子に砂嵐を起こされたら、またどっかから新しく借金しなきゃならないのもわかるでしょ。歯に衣着せずに言っちゃうと、今のアビドスは真面目に頑張ったところで、もう学校としても自治体としても成り立たないくらい終わってるんだよ……」
そう疲れ果てた様に締めるホシノの顔は、意図を無視して押しかけてきた後輩達への疎ましさは一切なく、むしろ先輩として、長きに渡って積み重なってきた絶つべき負の遺産を背負わせることへの申し訳なささえ覗かせるとあって、同じく
ミレニアムサイエンススクールにおいて、多々ある部活の1つ。扉に『機工開発室』と記載された立札がかかったそこは、良くも悪くも技術面において校内に名を馳せる『エンジニア部』に比べ下位互換のように扱われがちだが、彼女達に言わせれば「ロマンに欠ける」堅実で実直な設計は高い信頼を有し、実績で言えばむしろ上回っていると言える。その室内にて、1人ソファに寝転がり、天井を眺める生徒がいた。
元アビドス生徒会の一員にして、現在ここの部長を務める彼女の名は、『
「ハンドラー・ウォルターがストーリートレーラーで散ったはずのハウンズ連れて、『S.C.H.A.L.E』に就任したって聞いた時はビックリしたけど、大まかな流れはズレずに進んで安心してた矢先にユメ先輩が便利屋に遭遇するわ、旧校舎が吹っ飛ぶわ、バタフライエフェクトは大暴走してんなぁ……」
彼女が知る限り、ウォルターは本来キヴォトスに縁のある存在ではない。増してや元来『先生』と呼ばれる存在とは真逆の思想や行動を見せる人物であり、実際各地の生徒よりも企業と仕事を通じた交際が多く知られ、万が一支払いを反故にすれば、ハウンズが徹底的に叩いて、本来提示した報酬額以上の財を奪っていく様は、キヴォトスでは『S.H.A.R.K.S』と共に『S.C.H.A.L.E』の名を『逆らわざるべき存在』として広める一因と化している。
「大体『S.H.A.R.K.S』って何だよ『S.H.A.R.K.S』って。知ってる限りSRTは詳しい設定語られてなかったけど、あんなトンでもない連中野放しにするとか、責任やら選択やら如何こう言ってるなら、自分が全うしろよ連邦生徒会長。ついでに言えば眼帯に葉巻って、どこの
特に彼女の頭を悩ませるのは、同じく元来登場しなかった『S.H.A.R.K.S』の存在。当たり前のように漂う硝煙の匂いや、引き金の軽さを始めとする社会の歪さを除けば、一見見た目麗しい女子高生が、キャッキャウフフと各々青春を謳歌するキヴォトスだが、その裏では、些細な過ちで滅亡に向かい得る、あまりにも綱渡り過ぎる緊張極まりない世界とあって、その一員として過ごすキホも、内心自らの行動がどう影響を及ぼすか、常に怯えながら過ごしている。そんな彼女からすれば、一切考えない様な振舞いを繰り返す『S.H.A.R.K.S』の存在は、頭痛の種
「ホシノがユメ先輩救えた時は『勝ったッ!アビドス編第3部突入前に完!』とか思ったけど、アビドス自体まで終わらそうとしだした時は、マジで焦ったっけなぁ……幸か不幸かその意に反して後輩が集まってくれるまで、肝が冷えっぱなしだったわ……」
中でも彼女にとってある意味最大の分岐点とも言えたのは、ユメの存命だろう。そもそも砂嵐の元凶たる影――巨大な機械蛇『ビナー』を始め、アビドス自体まるで厄災の詰め合わせセットじみた土地なのを抜きにしても、本来ホシノはユメの死体を見つけ、以来彼女を模した様な緩い振舞いの裏で、自罰的な行動を繰り返し独走して、後輩や学校のためにと動く度に、願いとは真逆の様々なトラブルを引き起こしていた。しかしユメが生き残ったことでアビドスに対する未練や愛着が失せ、むしろ『こんな危険過ぎる土地残すな』とばかりに「生徒会長を引き継いだので、ユメと自分がミレニアムに転校する手続きを済ませ、学校を畳むべき手続きを進める」と一方的に伝えてきた際は、記憶にある物語の起点とも言えるアビドスが存続の危機とあって、『始まる前に物語が終わる』と非常に動揺し、徒労に終わったものの、思いとどまるようホシノを必死に説得した。
「この後も脱線せず進んでもらいたいとこだけど……えっと、この後何があった……?」
すでにキヴォトスに生を受けて十数年とあって、そこまで熱心に記憶するほど思い入れもなかったとは言え、元来の展開がどうなっていたかは、所々抜けて覚えてない。一応過去に覚えていた限りをまとめてもいたが、所々整理の際に抜けて紛失してしまった部分もあり、それに気づいては「どこかで誰かに見られてないか」と、また別の不安要素にもなった。
「確かシロコの銀行強盗があったはずだけど、何がどうしたっけかなぁ……頼むぞホシノ~、止めるなよ~……」
ミレニアムもミレニアムで、何かと比較されるエンジニア部を始めトラブルの宝庫とあって、自身はそちらへの対処を優先せざるを得ない。アビドスのあれこれは、もどかしさを感じながらも、破滅の未来に進まぬことを願い、開き直って残ったホシノに任せることを決めたキホは、早速その対処に向かうべく、部屋を後にする。
唐突な登場になりましたが、雨の日さんに許可を得て、ブルーアーカイブ 転生者によって歪められた青春の記録(https://syosetu.org/novel/374277/)から、多少設定を調整して皇キホをお借りしました。
今後他のオリキャラもお借りする予定ですが、そっちもそっちで設定集的なの用意して載せる準備しときます