昨年末に投稿するつもりだったのが、手に着かんままズルズルとこんな時期に・・・
「それじゃ新たな仲間の加入を祝って、乾杯~~!」
『乾杯~~!』
アビドス旧校舎を爆破した晩、旧カタカタヘルメット団員を回収したアトラ率いる部隊は、彼女の提案通り、トリニティにあるスイーツビュッフェ店でその音頭に合わせ、各々飲み物を注いだコップを掲げ、歓喜の声をあげる。すでにカタカタヘルメット団員達は『S.H.A.R.K.S』の制服に着替えており、元々象徴たるヘルメットで顔を隠していたこともあって、元団員と言われなければ気付かれない程度には場に馴染んでいる。
「す、すげぇ、本当にトリニティのスイーツビュッフェ貸し切っちまいやがった……」
「しかもまるでトリニティ生みたいにいても違和感ない立ち振る舞いに反して……」
とはいえまだ装いに反して場慣れしてないとあって、緊張で体を固くしながらも、好きなケーキや果物などの甘味を皿に取り、チマチマと口にする新人達の視線の先では、生粋のトリニティ生と比べても違和感がないほどに優雅な身振りとは対照的に、目につく品物を手当たり次第皿に乗せては、席に着くやパクパクと頬張り、互いだけでなく時に仲間も交えて談話しながらとは思えない早さで平らげ、また新たな菓子を求めて席を立ったと思いきや、今度はケーキをホールで持ってきて食べ始めた那須昂姉妹の姿だった。
「あの2人は基準にしない方がいいわよ。どこから持ってきたか知らないけど、武器からして重量はもちろん、弾代まで文字通り桁違いだし、トウニなんてこの前、ミレニアムで人間ホームランかましたって話題になってんだから……」
「「に、人間ホームラン!?」」
そこに甘味への舌休めや、生徒以外への客層向けとして用意されていたシーフードスパゲッティを頬張っていたミナトが、呆れた目を向けながら割り込んできた。そんな彼女から発せられたトンデモワードに新入り達が驚く半面、既存の隊員達は、「あぁ、あのこと……」とばかりに気まずそうな顔を浮かべる中、当のトウニはフルーツタルトを並べられた皿ごともらった
「ほら、振っといてなんだけど、あれ見習えってわけでもないとはいえ、呆けてる暇があったら折角の食べ放題なんだし、もっと食べなさいな。そのついでに話したげるから」
予期せぬ話題で硬直している面々を見たミナトは、中央に盛られたエビを1つフォークに刺して摘まむと、決して安くなかった元手を少しでも取らんとばかりに手と口を動かし続けながら促し、それぞれ新しく料理や甘味を持ってきたことを確認してから、今度はシーフードカレーを食べ始めながら話始める。
「んじゃ、簡単に経緯説明しましょうか。さっき会った
「あ~、あのゲヘナっぽそうな角とか翼生えた人……」
早速ミナトの放った質問に、1人がタイガの特徴を答える。実はここへ来る前に顔見せがてら合流した際、アトラは彼女達も誘ったのだが、『
「そうそう、その人ね。
ホシノとの戦いの余韻で酩酊し、恍惚の表情を見せていた姿からは、そこまで危険に思えなかったタイガだが、その実各所ではぐれ者達に恐れられる最強クラス相手に牙を向け、しかもその1人たるネルを相手に勝っていると聞いて、その実力と戦果に慄く新人達の姿に、止まっていた手を「早く進めろ」とばかりに睨みつつ、逆に自分は掬うスプーンを止めることがなかったカレーを食べ終え、新たにスパゲッティとカレーのお代りを取るべく席を立ち、ついでに適当な甘味を持ち帰り、聞きながら食べるよう配ってから、話を再開する。
「まぁエンジニア部の暴走怪兵器を早急に潰したり、機工開発室の新兵器のテスターしたりで、結構好印象稼いでるつもりだけど、そんな訳で、彼女からは敵視されててねぇ……。で、彼女がリベンジ目当てで
元々タイガに負けず劣らず好戦的なネルだが、結果問わず戦うことそのものを楽しむ分、発する狂気に反してどれほど不利に追い込まれても精神の余裕を崩さず、むしろ勝利の確信を嘲る様に挑発さえ放ってみせるタイガに対し、性分と『約束された勝利の象徴』としての意地で勝利へのこだわりから視野狭窄になったところを、体格差に物を言わせたごり押しで圧倒されていたことに鬱憤が蓄積していたため、似た様な身長でより重装備なトウニを、『鈍重でまだ勝機を見込める奴』と認識し、その発散相手に選んだはよかったが、一見抜けた様子に反し、姉と並んで部隊でも「最優」と評されることを知らなかったにしても、ある意味タイガ以上に相手が悪かった。
「結局弾代持ちで釣れたとこを相手したはいいんだけど、如何せん相手がトウニだったのがねぇ……。キッツく財布の紐縛ってるから全然撃てなかったのもあって、久々の銃撃にハイテンションで乱射したのはいいけど、小回り利く相手に全然当たらないから機嫌損ねて、不用意に接近したとこをフルスイングでお空の旅にご案内したって訳。ちなみにその後捜索されたけど、確か見つかった時、
内容的にネルの自業自得とは言え、尾鰭が付いたわけでもないトウニのエピソードに、掬ったケーキを口に運ぶことも忘れて、皿に落としてしまう者もいたのを見たミナトは、再度空になったカレー皿にわざとスプーンを投げ入れ、音を立てて注目を集める。
「さ、これで与太話はお終い!ガッツリ元とるんだから、皆呆然とする暇があったら、その開けた口に詰め込んで食べなさい!後あの2人、わざと試す様なことでもしなきゃ怒んないから、ビビんなくていいの!アタシのやり取り見て、接し方学んでいきなさい!」
すでにミナト自身は先の分を含め、スパゲッティとカレーを何度もお代りしていたのに加え、ケーキや果物も合間にいくつも食べており、軽い休憩とばかりに紅茶を飲みながら、話を聞いていた仲間達に促すと、今度はフライドポテトを取りに席を立つ。その間も那須昂姉妹は多種多様な食べ物に舌鼓を打ち続けており、今はミートボールがいくつも混ざった山盛りのナポリタンスパゲッティをテーブルに乗せ、揃って崩しながら食べているところだが、話しながらも食べ進めており、2人のヘソ付近にあたるテーブルからその頭頂辺りの高さまで盛られていたパゲッティは、早々に胸の下ほどまで減っている。
「今回は、楽に済んでよかったわね」
「まぁ、そもそも廃校寸前で、在校生が全学年合わせて5人じゃあね。ミレニアムみたいに警備が発達してるわけでもないから、いくら小鳥遊ホシノが群を抜いた実力者だって、
「ミレニアムと言えば、貴女何しでかしたのよトウニ。この前早瀬さんに呼ばれて行ったら、勘違いした野球部名乗る子にメッチャ誘われたんだけど……」
実力に反し、その経費的打撃を理由に実戦での出番は恵まれない2人だが、両者は戦力だけでなく、事務処理能力も優れている。それを活かし、各所で書類整理や入力などの業務で『S.H.A.R.K.S』の懐事情に貢献しているのだが、特にミレニアムでは、ある日巧妙に偽装された横領を見破って以来、度々その経理を担うユウカに同類の好としてアドバイスを送ったり、相談に乗ったりするミナト共々重用され呼ばれており、その日も呼ばれたアトラは、帰り道で『ミレニアム野球部』所属を名乗る『
「ん~?なんか、タイガさんに躍起なオレンジのノミがピョンピョン飛び回って鬱陶しかったから、払い除けただけよ?」
「ブ!の、ノミって……もしかして美甘ちゃんのこと……?」
妹の予期せぬ回答を聞き、ここに来て初めて食べる手が止まったアトラは、暫くむせた後、やっとの様子で尋ねる。確かに小柄で、ことある毎に感情を爆発させては跳ねまわるネルの姿は、どことなく威嚇する小動物を思わせるからこそ、アトラも年上なはずの彼女を「美甘ちゃん」と呼んで可愛がり、身長差のまま撫でまわしては怒らせることも多々あったが、まさかその様をノミに例えてくるとは思わなかった。
「あ~、確かそう名乗ってた気がするな。弾代持つって言うから相手したげたのにチョロチョロ動き回って全然当たらなかったから、腹立って銃振ったら、うまいこと当たったみたいでどっか飛んでっちゃった」
当のトウニはすっかりネルへの興味関心を失っており、飛んで行った先でどうなったかも、知ったことかとばかりにミートボールを頬張る。
「う~、ちょっと食べ過ぎたかも……」
「体重計が怖いなぁ……明日の朝まで食べなくてよさそう……」
制限時間を終え、店から出てきた隊員達は、普段食することのない量を腹に収めたとあって、調子を崩し口元を押さえる者も多々いるが、那須昂姉妹やミナトの様なドルフィンメンバーは、それ以上を食しながらも、一切問題ない様子で、暢気に伸びをしている。
「んー!美味しかった!」
「そうね、それじゃ明日からこの分もしっかり稼いどいてよ?」
「わかってるってば……おっと、ごめんなさい」
ジト目で睨みつけてくるミナトに思わず後ずさってしまったアトラは、その拍子に誰かとぶつかってしまう。慌てて振り返り誤った先にいたのは、先程ミナトがトリニティでタイガが
「あ、いえ、お気になさらず……」
ぶつかった相手よりも、それが出てきた先に驚いた様子で、アトラの謝罪もそこそこに背後のスイーツビュッフェ店を眺めていたハスミだが、意を決したように軽く目を閉じ、開いてから続ける。
「あの、貴女達は最近、ティーパーティーの方々と交友ある『S.H.A.R.K.S』とお見受けしますが、ここのお店にはよく訪れるので……?」
「え?まぁ、これほど大人数ではないですけど、個人でなら、最近は妹と一緒に月何度かくらいの頻度で……」
予期せぬハスミの質問に、意図は読めないながらもアトラが律儀に答えると、続けて食い気味に、おそらく本命の質問が飛んでくる。
「で、では!どのように体重の維持を!?何かダイエットの秘訣は!?」
「落ち着け、校外の相手だからって無遠慮が過ぎる」
ハスミが何かと体重を気にする反面、自制心が弱く、度々枷が外れては後々悩んでいることを知っていると言え、流石に初対面の相手にする振舞いではないとツルギが制止するが、アトラは圧しの強さに驚きはしたものの、特に気にした様子はなく、上を向いて多少考えていたかと思えば、両手に持った得物たるキラトゥムを手近な隊員達に預け、「ちょっと失礼」とハスミの両脇に手を伸ばし、そのまま軽々と掲げて見せた後、今度は同じくファルジネスを隊員達に預けたトウニに差し出せば、膝裏と肩に手を当てた、いわゆる「お姫様抱っこ」の体勢で受け取られる。
「え!?ちょ!?」
「ファハー!」
自身も十分同類に入るものの、多少の差とは言え高身長の同性に抱えられたハスミが困惑する反面、不気味がられる風貌に反し、内心乙女趣味なツルギが眼福とばかりに奇声を発するのも気にしないトウニが降ろし、得物を受け取ったのを見て、先に済ませたアトラは、思ったことを伝える。
「少なくとも私達の感覚としては、そこまで気にするほどの重量でもないと思いますよ?えっと……」
「あ、そう言えば名乗ってませんでしたね。正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミです」
「あぁ、丁寧にどうも。ドルフィン2リーダーの、那須昂アトラと申します。こっちは、妹のトウニ。そちらの委員長については、
「あぁ、アイツか。向こうは同類認識してるみたいだが……いや、今はそれより
が、その矢先あろうことか相手の名を知らなかったことを思い出し、どう呼ぶか悩んだところに名乗られ、続けて自分も妹と合わせ自己紹介に入る。その際ツルギは
「と、そうですね。羽川さんが何を基準にしてるかは分かりませんが、『
「そ、そうですか……食事についてはそこまで気にしてなかったとは……」
予期せぬ返答にハスミが衝撃を受けていると、ミナトがキラトゥムの片方を叩きながら割り込む。
「言うてこの2人はあんまりアテにはならないけどね、
「だってあんな
「
実際全長だけなら、シロナの『カーブルック』も十分並びうるが、束ねた銃身や付属する弾倉を加えれば、『S.H.A.R.K.S』に限らずキヴォトスでも類を見ない重量を誇るとあって、先程預けられた隊員達は、数人がかりで銃口を地面に付けながら持ち上げるのがやっとだった。当然相応の強度も相まってネルを殴り飛ばすなんて荒業もできるわけだし、1度その引き金を引けば、戦車やヘリに限らずパワーローダーの様な大型機動兵器さえ瞬殺できる反面、ほんの数秒で何百発もの弾丸を消耗するため、1回の戦闘で百数十人規模の大部隊と同等な弾薬費は、トウニの持論やアトラの思い出話を聞き流し、「まぁ、弾代に関しちゃアタシもそこまで言えんか」と横担ぎしていたPGMヘカートIIの『シェルクラッシャー』を右肩ごと持ち上げ、アピールするミナトの頭を悩ませる。そんな彼女の予期せぬカミングアウトに、思わずSRT入学前はどのような過去を送ってきたのかハスミが尋ねそうになったところに、新たな来訪者が現れる。
「ツルギ委員長!ハスミ副委員長!巡回お疲れ様です!あら?そちらは……?」
「あらバイラ、こちらは『S.H.A.R.K.S』の皆さんですよ。ほら、最近ティーパーティーの方々と何か話されてる」
「あぁ、何かとミカ様が
両者への呼称と、同じ黒い制服とツインテールにした髪の通り、相手も正義実現委員会の様だが、理由こそ周囲に隠しているものの、少々私情を晒し過ぎているミカからの優遇振りに、思うところがある様子を見せるも、すぐさま切り替え、自己紹介に入る。
「ンフン!初めまして、私はパテル派所属正義実現委員会2年、
「猫蒔ミナトよ。どっちかったら、すり寄って来てるのは聖園さんの方なんだけど……」
「そこは大丈夫だ、バイラ。むしろミカの方が彼女達の機嫌を取ろうとしてる。あぁ、
「え、そうなの?ごっごめんなさいアズサ。だとしても、本来なら私達正義実現委員会が対処すべきことを、同じくトリニティに属してる自警団の人達はまだしも、部外者たる『S.H.A.R.K.S』の面々に介入されるのは、色々と問題があるのよ……」
パテル派所属と名乗るだけあってか、そのトップたるミカが『S.H.A.R.K.S』と関係を深めることに不満をぶつけてくるバイラだが、実際は、アリウスとの橋渡しを期待するミカの方から何かと気を引いてこようとする状態と指摘するミナトに加え、同伴していた対照的な白い髪と翼の少女——『白洲アズサ』からも修正が入り、素直に非を認める。しかし、実際ゲヘナではマコトのヒナに対する対抗心を満たすため、風紀委員会よりも優遇されている状況を考えれば、結果としては仕事が回らなくなったヒナに十分な休養を取らせていることもあって、対立関係にあるトリニティで過剰に警戒されることは、仕方ないとも言える。
「まぁ、その件はよく話してる
「そう話す割には、カイザーと結託しているような行動も多々見られますが?」
「そこはしょうがないわよ。
傭兵として「広く浅く」を心掛けたいと話すミナトに対し、過剰な利益重視思想の行動で各校と衝突も絶えないカイザーとの関係を指摘するハスミだが、特に悪びれる様子もなくそこの雇われにあるとアッサリ明かすばかりか、元来握るべき手綱を離すまいと工面していた防衛室長、『
「それじゃ、そろそろお暇するわね。また今度」
そのまま駐車場に停めていた、隊員達が乗って待っていたマイクロバスに向かって去って行くミナト達を引き留められず見送った後、バイラはふと思い出したことを伝えるべく、同じく見送ったツルギとハスミに向き直る。
「あぁそうだ、お2人にお伝えしたいことが。実は
「また、ですか……相変わらずですね……」
バイラの報告に頭を抱えるハスミと、一瞬誰のことか思い出せず首をかしげた後、「ほら、あの狂人の……」と説明を聞いて、「あぁ、アイツ……」と認識する。話題に挙がった『阿慈谷ヒフミ』は、「ごく普通の生徒」を自称しつつも、その実キャラブランド『モモフレンズ』の熱烈を通り越してバイラの呼ぶ通り狂人の域にあるほどのファンで、度々危険地帯たる
「今回はあろうことか、テストを放棄して例のゲテモノ連中のゲリラライブを見に行ったそうで……
モモフレンズ自体はキヴォトス全土で広く人気のコンテンツではあるものの、その代表のように扱われるペロロに関しては、バイラを始めとした正義実現委員会の場合はヒフミに対する苛立ちから、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」の精神で余計不快感が増して酷な物言いになっているが、明らかに正気を疑うようなデザインから嫌悪するものも多い。特に『S.H.A.R.K.S』ではその傾向が強く、中でもヨシキは普段のニヒルさが嘘の様に「バケモノ」呼びして怯え、「飯の中から出てきたゴキブリの方がずっとマシ」とまで言い切るほど毛嫌いしている。そんなヒフミと並んでドロップアウトした不良達以上に正義実現委員会の頭を悩ませているのは、奇行を繰り返す『浦和ハナコ』。進学してから、それまで賞賛されていた学績をかなぐり捨てるかのように淫猥な発言で場を凍らせ、下着や水着で徘徊しては、正義実現委員会に捕まっている。
「アイツの処遇は、ティーパーティーに任せるしかあるまい。尤もナギサ様も自覚されているなら、これまでの様に温情を与えても繰り返すだけと見做されて、手厳しい判断が下されようが……」
「そうですね。とりあえず、帰りましょうか。ところでツルギ。先程言われた
とはいえ他者の危害とならぬよう捕らえるのが役目の自分達には、いかに常習犯と言えど罰を下す権限はない以上、最終的な決断を出すべきティーパーティーに任すべきと締めたツルギに従い、途中で所属していないアズサが別れ、そのまま帰還する。後日ハスミはアトラの助言に従い、
その日の晩、ティーパーティー各員用セーフハウスの1つにいたセイアは、迫力の銃声と共に開く扉を見て、軽く目を見開いた。
「おや、まさか君達が来るとはね」
「その様子からするに、お得意の予知夢とやらは違う光景を見た様で?」
先陣を切って入ってきた相手――右手に握ったS&WM500、『マクヴェイ3』を口元に寄せ、銃口から漂う硝煙を吹き消したオセアは、来訪よりも来た相手に対する反応を見て、事前にミカから聞いていた彼女の持つ能力――予知夢のことを引き出すと、察した様に目を伏せる姿を見下ろす。
「ミカから聞いたね?その通り。私は今晩、襲撃されることを知っていた。しかし――」
「その相手に先駆けて、我々が来た、と」
最後まで言わせないオセアは、手にしていた『マクヴェイ3』上に放り投げ、左手に持ち替えると、空いた右手を携帯ベルトで肩にかけていたマクミランTAC-50、『インディアナポリス』の引き金に伸ばし、その銃口をセイアに向ける。
「生憎と、律儀に貴女の予言者ごっこを相手するほどこちらも暇はもて余しておりませんので、言いたいことがあれば後程お願いします」
「予言者ごっこだって?私がどれ程予知夢に苦しんできたか――」
その物言いに思わず席を立ち、反論しようとするセイアだが、感情のない冷めた目のオセアは『インディアナポリス』の銃口を喉元に押し付け、そのまま顎の下をなぞる様に持ち上げ、最後は顎先に引っ掛けて無理矢理見上げさせるような体制にして遮る。
「回りくどい物言いがお好きなようですが、分りやすいよう申しましょうか。そんなもの興味関心もなければ、分りもしませんし、分かるつもりも元からありません。己しか知らない未来で勝手に失望して、周囲に明かしもせず引っ掻き回すだけなら、永遠に目覚めることなく予知夢を見て過ごしなさい」
そのまま率いてきた隊員達に後ろ手に縛らせたセイアを連行させ、停めていたマイクロバスに乗り込むと、その間扉に取り付けさせていたC4爆弾を、発進し暫くしたところで爆破させ、錯乱工作も済ませ連れてきたのは、同じくミカに用意されたセーフハウスの1つ。ただし乱雑にソファへ寝転がせられたセイアに向けるミカの驚きに満ちた表情を見るに、彼女もオセアがここまでしてくるとは思っていなかったらしい。
「ぐうぅっ!予知夢で知ってはいたが、やはりミカが裏で手を引いていたか……」
「ワァオ、まさか本当にセイアちゃん連れてくるなんて……」
「『エデン条約締結阻止のため、暫く表に出れなくしてほしい』との注文でしたが、下手に痛めつけて今後の生活に支障が残るような負傷をさせるよりは、拘束して監視下に置くまでに留めた方が、遺恨も少なく済むでしょう。残る桐藤嬢ですが、同様に排除とあっては、パテル派のクーデターと宣告するも同然。であれば仲がよろしいとのことですし、ここは情に訴え、こちらへ引き込み芝居を打ってもらうのが得策かと」
そして2人を無視して、早くも第一段階の締めとばかりにナギサの対処について話すと、立場は違えど、どちらもそこまでスムーズに片付くのかと疑問の目を向ける。
「確かにナギちゃんのことは、なるべく穏便に済ませたいとは思ってたけど、そう上手くいくかなぁ……」
「むしろ私が見た予知夢じゃ、この一件でナギサは何としても締結せんと余計に拗らせ遺恨を残すぞ。それをどう対処する?」
「そこに関してはご安心を。そもそもこのエデン条約、根本たる前提から破綻したハリボテもいいところ。そこを突けば、容易に締結の放棄へと思想を誘導できます」
そんな不安と会議の眼差しを浴びてなお自信満々のオセアは、既に事態は己が思い通りとばかりに懐から取り出したパイプを銜え、スパスパと吹かす余裕さえ見せたかと思いきや、早速実行すべく「それではまた後程」と部隊を率いてセーフハウスを後にする。
「行っちゃったね……」
「全く、『S.H.A.R.K.S』は悉く予知夢を引っ掻き回してくれる。連中の勝手で破滅の未来を招かれてはたまらないと言うのに……」
早くもナギサのセーフハウスを訪れたオセアは、差し出された紅茶を口にしながら、エデン条約の問題点をまとめた書類を見せ、ゲヘナ嫌いなミカの感情論を抜きにしても、見せかけだけの有名無実な取り決めと突きつける。
「条約締結を実績にミカさんを説得できればと思ってましたが、まさか当の条約がこれほどまでに穴だらけだったなんて……」
「何より最大の穴は、肝心の提案者たる連邦生徒会長が雲隠れして、残る連邦生徒会も、好き勝手やれとばかりに我関せずのスタンスなせいで、ゲヘナとトリニティ双方にわざわざ締結する意義が消失したことですからね。全くどこで何やってるんだか」
元々連邦生徒会長が提案、進行してきたエデン条約だが、身も蓋もない話、本来なら失踪した連邦生徒会長の後を継ぎ、条約の効力を保障すべき連邦生徒会が、むしろその捜索に必死で完全に手を引いた状態とあって、実質両校間に宙吊り状態な条約を締結する必要性を欠いた現状では、むしろそれどころではない事情を無視してまで締結に固執する理由もない有様となっている。
実際マコトは面従腹背とばかりに、締結準備の裏でトリニティの寝首をかくべく、密かにアリウスと接触し協力して出し抜かんとしていることを『S.H.A.R.K.S』の諜報部隊が嗅ぎ付けているし、そのアリウスもミカとマコトにいい顔をしつつ、条約締結の場で双方を出し抜くばかりか、むしろ裏に潜む実質的支配者は、条約を利用し上位者として君臨せんとしていることを、アリウスからの手駒として送り込まれていたアズサ経由で掴んでいる。
「こうなると、長年の対立を理由にその犠牲者たるアリウスを焚きつけて、双方の勢力を削らんとでもしているのではと疑いたくもなってきますね……」
「トリニティ、ゲヘナと、砂嵐に呑まれ消えたアビドスに代わり、台頭したミレニアムを加えて三大自治区、とは言われますが、私が知る限り、双方の衝突が多発している事実はあれども、それを含めても早急にミレニアム1強とするまでには至らないかと。そうなると理由不明に変わりないと言え、むしろ不貞腐れて燻ぶり続けていたアリウスを表舞台に引っ張り出すことの方が狙いに思えてきますよ。まぁ理屈としては死人に口なし。体よく姿を晦ましている訳ですし、この期に及んでしらを切り続けるなら、連邦生徒会長以下の面々に、そのまま都合の悪いことを全て押し付けさせていただきましょうか」
事態が事態とあって、ティーカップに口をつけるどころではないあまり、手に書類を持ったまま頭を抱えるナギサに対し、持ち込んだオセアは賽は投げられたとばかりに動じることなく出された紅茶を飲み干すや、席を立ちナギサの丸まった背を撫でる。
「実際悪いのは丸投げしてきた