「ふざけないでよ!」
ホシノの独白が終わり、暫くしてようやっと理解が追い付いてきたセリカの怒声が響く。前々から自分達が必死こいて
「化け物が何よ!そんなの私達が頑張れば……」
しかしホシノは愛用のベレッタ1301『Eye of Horus』でセリカの眉間を撃ち抜き、その叫びを遮る。
「あのさぁ私の話聞いてた?怪物にしろ借金にしろ、そんな郷土愛だか根性論だかで私達が頑張ればどうにかなるようなもんじゃないって言ったでしょ?特にセリカちゃん、勝手に変なとこ突っ走って、自滅ばっかしてるって自覚ないの?この前もゲルマニウムのブレスレットだったっけ?マルチ商法に引っかかって痛い目見てたけど、あれ何度目よ?」
「先輩たるもの学校のため後輩を牽引してしかるべき」とばかりのセリカに対し、打ち所が悪かったのか倒れて起きる気配がないのをいいことに、むしろ全く学習しない後輩を半ば見放す様な物言いのホシノは、続けてアヤネにも怒りを向ける。
「それからアヤネちゃんも、定例会じゃ毎度司会気取ってるけど、誰が何言ってもダメだダメだって否定してばっかで、自分から何か提案したことないじゃん。さすがにシロコちゃんの銀行強盗やらセリカちゃんのマルチ商法やらは当然にしても、私が
「あ……うぐ……」
ユメがこの場にいれば、「ひぃん、私がアビドスにいた頃のホシノちゃんに戻っちゃった……」と腰を抜かしたであろう、背丈に反した気迫で睨みつけたアヤネを呻かせるホシノに、ウォルターはシッテムの箱の中で慌てるアロナとは対照的に「これが『黒服』とやらが目を付けた小鳥遊の神秘か……」と黙して眺めていたところ、ノノミが動く。
「もぉ~ホシノ先輩。今日はちょっとご機嫌斜め過ぎですよ☆落ち着いて~落ち着いて~」
「ムヘェ~、ノノミ
その豊満な双丘を頭上に乗せられ、頬を揉まれて上手く喋れないホシノの抗議を聞き、多少落ち着いたことを確認したノノミは体を離すが、また暴れる前に対処できるようにと、隣に座っていたパイプ椅子を並べて座ると共に、話を仕切り直す。
「ですけど実際、砂嵐の元凶たる怪物を如何こうする以前に、アビドスは
「それ以上に在籍生徒が僅か5人じゃねぇ……ぶっちゃけ連邦生徒会はとっくに潰れてると思って放置してたんだろうけど、むしろそのお陰でお目溢しもらって今まで存続できてた訳で、下手するとウォルター先生が来た際『これでは
結局何をするにしても何もかも足りな過ぎるとあって、目を覚ましたセリカと落ち着いたアヤネも迂闊な根拠なき希望論では先の二の舞を見る羽目になることを分かって黙り込み静まり返るが、ならばとばかりに引き続きノノミが提案する。
「それでしたら、ブラックマーケットに行ってみませんか?そこなら状況の打破とまではいかなくても、何かしら気を紛らわせるものが見つかるかもしれませんよ?」
「ブラックマーケットかぁ……ノノミちゃんの口から出るとは思わなかったけど、まぁ銀行強盗なんて言い出すシロコちゃんなら黙って通っててもおかしくないとか勝手に考えてたし、気分転換がてら、このままアビドスに執着してたらどうなるかの見本にはなるかな。ウォルター先生はどうする?」
不服そうな視線を向けるシロコを無視して訪ねてくるホシノに対し、ウォルターはしばし目を伏せ考えた後、ため息と共に答える。
「情報収集にはなるか。ならば小鳥遊と十六夜、砂狼はハウンズと共に来い。近くまでチヌークを飛ばし、多少離れたところに降ろしてから徒歩で向かう。奥空と黒見は念のため残って警戒を。さすがに昨日の今日で攻め込んでは来ないだろうが、何かあればこちらに連絡しろ」
そのまま準備のため席を立ったウォルターの手元、シッテムの箱の中では、この流れに安堵したかの如く胸に手を置き、椅子に座るアロナの姿があったことは知らない。
「ここがブラックマーケット……」
「わぁ☆すっごい賑わってますね?」
到着早々目を輝かせるシロコに続き、予想よりも活気に溢れる現場を眺め、ノノミも声をあげる。
「あんまり浮かれちゃダメだよぉ?普段私達はアビドスにばっかいるけど、こういうところは気を抜いたらカモにされるのがセオリーなんだから、そうやってお上りさん全開だと、すぐ喰い付かれるからねぇ?」
そんな隙だらけの後輩達に気を引き締めるよう注意するホシノは、早くも舐められまいと『Eye of Horus』を肩に担いで、先程よりはマシな程度に殺気を漂わせ、慣れた様子で踏み込んでいくウォルターとハウンズに続いていく。そこに置いて行かれまいと続くシロコが尋ねる。
「ホシノ先輩、ここに来たことがあるの?」
「いや、ここは初めてだけど、ユメ先輩達訪ねてD.U.やミレニアムに行ったことは何度かあるよ。他の学区はどうか分からないけど、結構
最早ホシノの中でアビドス廃校は確定事項の様だが、ノノミやシロコが反論する前に、ウォルターが制する。
「銃声だ。戦闘準備をしておけ」
既に済ませていたハウンズに続いて得物を構えたホシノ達の目に映ったのは、流れ着いただろうチンピラ達に追われる、白い制服を着た生徒の姿。
「わわわっ、そこどいてくださいー!!」
「あれ……あの制服は……」
その制服を見たノノミが相手の母校を思い出そうとする中、言われるままにウォルター達がどいたため、生徒はそのまま走り抜けるが、間もなく足をもつれさせ、頭から地面に転がって止まる。
「大丈夫……なわけないか。追われてるみたいだし……」
「何だお前らは、どけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある!」
「あ、あうう…わ、私の方は特に用はないのですけど…」
さすがに目の前で転ばれれば心配もするものだが、思わず憐れんで声をかけたシロコが気に入らなかったのか、チンピラ達は
「思い出しました、その制服……キヴォトスいちのマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園です!」
「トリニティ……羽川の
そこにチンピラの説明で生徒の制服がどこの物か思い出したノノミが声をあげるが、ウォルターは自身の記憶にあるトリニティの制服——『S.C.H.A.L.E』奪還の際指揮したハスミの髪や翼に合わせたような黒いそれを思い出し、真逆とも言える色合いに困惑していたところに、チンピラが話を進める。
「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある!だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」
「わざわざ説明どうも。で、先生どうする?私としてはトリニティの問題に首突っ込みたくないから、このまま突き出してお暇したいとこだけど……」
「そんな!?」
目的や相手校との規模差などを考慮したホシノは、早くも「触らぬ神に祟りなし」と道の端に寄り、トリニティの生徒をチンピラに差し出す選択をする。合わせてウォルターもハスミに迷惑をかけることにこそ罪悪感を認識すれど、危険を承知しブラックマーケットに来た相手の自業自得で、その対処が彼女の仕事と割り切り、同じく道を開ける。
「へっ、見ない顔だが話が分かるじゃねーか。しかしアンタ、噂の先生だったとはな。おたく等の活躍、
「え、ええええ!?ちょ、そこは助けてくださいよおおおぉぉぉ……」
予期せず衝突を避けた相手の正体に安堵し、称賛するチンピラのリーダー格に対し、その部下達に捕まり、叫びながら連れていかれるトリニティの生徒の姿に、ノノミとシロコは非情になれず助けようと動くが、ホシノが両者の袖を引いて止めたため、そのまま見送る。
「ノノミちゃんもシロコちゃんも、そうやって助けようと動こうとするのは私としても誇らしいし、普段ならそのまま任せるところだよ。でも
度々甘言に惑わされたユメの後始末やサポートをし、廃校のためと言え、1人で自治を取り仕切り立ち回っていた経験のあるホシノの含みある物言いは2人に刺さったようで、特にノノミは「自身の迂闊な行動が廃校の引き金になり得る」ともとれる警告に、言葉を失う。
「まぁ早々現実を突きつけられたけど、いったん先生のチヌークに戻って、制服から着替えない?さすがに素寒貧もいいところのアビドスに身代金請求する様な無知はいないと思うけど、『見慣れない制服の生徒』よりは襲われにくくなるでしょ」
「そうだな。今のお前達には、所属を隠すだけでも身の安全を高めるだろう。見張りはしておくから、私服に着替えておけ」
偶然にもアビドス滞在中、ウォルターはチヌークの空きスペースを、対策委員会の面々が巡回などの際に砂で汚れた服を着替える場として提供していたため、彼女達の着替えがいくつか積まれていた。ウォルターとハウンズの存在で多少は注意を惹くのは仕方ないにしても、『どこの生徒か』を示すだけでも目を付けられる実例を目の当たりにしたとあって、1度退いて装いを変えることに反論はなかった。
ことがことなんで見捨てられるヒフミン
しかし間に合わんかったが、折角のネコの日だったし「ネコザメ」モチーフのミナト出しときたかったな・・・