「そんで?どうすんのよソイツ等。経理担当のアタシとしては、幾ら気に入ったからって筆頭たるアンタ達を安売りする訳にはいかないんだけど」
ホシノ達がウォルターのチヌークでブラックマーケットに向かっていた頃、『S.H.A.R.K.S』拠点の雑居ビルでは、自身の太腿より太いハムにナイフを突き刺して食らいつき、首を捻って引き千切ると、軽く上に振って宙に放ったそれを銜え直し、ペロリと平らげてみせたマコを始め、何人かが「遅い朝食」とも「早い昼食」とも言えない食事を摂っており、ミナトも二の腕ほどありそうなロブスターを真っ二つに折ると、頭の方から流れ出る汁を啜り、尻尾側の断面に殻ごとバリバリと噛み砕きながら食らいついていき、驚いて呆然とする周囲の目も気にせず、同様にハサミや脚もブチブチもいで食べ尽くすと、最後は頭の殻まで跡形もなく腹に収めてしまう。
「まぁ見栄張ってまた声かけてくるだろうとは思うが、そんな急がなくてもいいだろ。別に
僅かな共闘で『便利屋68』の高い連携能力ややり取りの気軽さなど、彼女達が有するポテンシャルを見抜いたマコは、「一流のアウトロー」などと漠然とした妄想に捕らわれ、それを発揮できてないことに口惜しささえ感じていたが、「それとこれは別」とばかりに次の襲撃にあたり声をかけられた際、変に値切ってこようものなら即刻切り捨てると決めている程度には、
「それ聞いて安心したわ。ソイツ等も変な意地張らないで、日雇いでもアタシ達みたいに傭兵である程度稼いでから名を挙げた方が、まだいい方に注目されたでしょうに。ぶっちゃけ現状
「確かにな。如何せんリーダーの
奇しくもオセアがセイアに言い放ったように、アルが何を思ってアウトローを目指し、何があって彼女の元に集ったかは知りもしなければ知るつもりもないが、間違いなく数段過酷と言えるアリウス暮らしから、そこを抜け出しSRTに入学するまでを経験したマコとしては、ゲヘナに在籍したまま自治区を離れ活動する『便利屋68』は、ただヒナを恐れて逃げ出したようにしか思えず、せめてタイガの様に真正面からヒナに挑み、ある程度善戦してから退学して旗揚げしたなら、無学籍経験の先人として多少工面してやってもよかったものの、今のままでは大人しく頭を下げてゲヘナに戻り、出直した方が遥かにマシとしか思えなかった。
「そういやアトラとトウニは昨日拾った新人連中の研修だが、他はどうしたよ?」
そこに割って入ったのは、ケチャップと
「あぁ、カグラはいつも通り。ナヌカは……ミレニアムで事務補助だったかな?で、ネズミは昨日から
ミナトが把握している限りの都合を答えていると、言った傍から勢いよく部屋の扉が開かれる。
「たっだいまー!イヤー今日も大漁大漁!連れ帰ったのは今水合わせしてるから、後でご覧よ。今回も色々釣れたからさ♪」
入ってきたのは、銀髪に『ドルフィン2』共通の魚の髪飾りと共に鈴の髪飾りを着け、青いコートの下はサングラスを乗せたキャスケットと揃って赤いビキニトップのみの露出過多な上半身に反し、下半身は黒いワイドパンツでしっかり隠した『
「へぇ、イワシにアジ、サバみたいな青魚から、カサゴやらメバルやらの根魚だけじゃなくて、カワハギみてぇな面白どころまで抑えたと思いきや、タイだのスズキだのなんて、結構大物釣りやがったじゃねぇか」
「へっへーん♪実はこれだけじゃないのよね~♪」
単純な数だけでなく、サイズに種類も豊富とあって、その釣果に感心するマコに気を良くしたネズミは、いったん部屋を出ると、再度複数のクーラーボックスを持ち込み、その1つを開けて中身を見せる。
「はぁ~、随分立派なイソマグロの頭じゃねぇか。こりゃ身の方も期待できそうだな」
「当然よ!できれば切らずに持ち帰りたかったけど、こんな大物釣れるなんて思わなかったからジープ乗ってたし、さすがにこのサイズだとバラさなきゃクーラーボックスに入んなくって、しょうがないから魚拓と写真撮って、漁師さんの協力で解体してきたの。ついでにあんまり獲れたから幾つかクーラーボックス借りてきたから、今度返しがてらまた行く予定よ」
切り落とされた頭だけでも十分なサイズを誇るとあって、ホットドッグを頬張りながら眺め称賛するアギトに、ネズミが道中傷んで食せなくなっては元も子もないとあって、已む無く解体処置した経緯を話しながら、早速撮った写真を見せると、キヴォトスきっての高身長揃いな『S.H.A.R.K.S』の例に漏れず、184センチの彼女と比べても負けず劣らずなサイズを誇っていたことが分かる。
「こりゃあ暫く海産祭りだな。しかしまた行くってんなら、今度もっとデケェ冷蔵庫や冷凍庫も買っとかねぇとな……ミナト、後でいくら要るか算出しといてくれ」
「オッケー、とりあえず今詰め込めるだけ入れがてら冷蔵庫の空き確認しとかなきゃね。入りきらなかったのは早急に調理しないとだけど、手、足りるかな……」
今さっき食事を済ませたと言え、予期せぬ追加食材をこのままにしておくわけにもいかないとあって、ミナトに貯蓄の確認を任せたマコは、ネズミの案内で1階に設置した大型水槽に入れる準備をした魚達を見るべく、部屋を出る。
マコの『便利屋68』に対する認識は昨晩夕飯の席で話した際に『S.H.A.R.K.S』ですっかり広まっており、ブラックマーケットの闇銀行で融資の審査を待っていたアルの姿は、非常に目立つものだった。
「あら、貴女昨日
「誰がハグレよ誰が!」
目元を額当てで隠し、腰にシャツを結んだ、オリーブ色のミリタリーベストにサンドイエローのブラウス、カーキ色のパンツの『S.H.A.R.K.S』隊員——『ドルフィン17』に所属する『
「実際威勢ばっかのハグレもいいとこでしょ。
「そ、そんなこと、やってみなきゃわからないじゃない!」
そこに追い打ちをかけたのは、プラチナブロンドの髪をポニーテールを束ねるヘアゴムやチョーカーのアクセサリ、キャップ帽のロゴと各所に錨の意匠を備え、レザーのジャケットからパンツ、タンクトップを黒で揃えた、『ドルフィン17』のリーダー、『
「厚顔無恥って奴かしらね。ま、望み薄とは思うけど、せいぜい惨めに縋ってなさいな。どうせ無様晒すんなら、有名無実の看板で首絞めるより、
そのまま離れていくサドラの後ろ姿を睨み続けていたアルだったが、騒いだことでカヨコが目を覚ます。
「ん……ごめん、寝ちゃってた。何かあった?」
「だ、大丈夫よカヨコ!気にしないで!」
「そう。って、2人も寝ちゃってたんだ。なら私もしばらく起きてるけど、待ってるうちにまた寝ちゃったらごめんね」
「いいのよそれくらい。私が社長なんだから」
幸いにもサドラ達とのやり取りまでは聞こえてなかったようで、起きて早々何かトラブルがあったろうと尋ねてくるカヨコに対し、アルは気丈に振舞って見せるも、審査員はまだ戻ってきそうにないとあって、もうしばらく暇を持て余しそうだ。
私服に着替えたホシノ達を連れ、改めてブラックマーケットに踏み入れたウォルター一行は、酒類を取り扱っていたアライグマの獣人と話していた。
「うへぇ、お酒がこんなに……余所じゃ取り締まられて全然見ないけど、ある所にはあるんだなぁ」
「生徒さん方にゃ珍しいか。以前は連邦生徒会の睨みが厳しくて、表でも仕入れて売ることさえ大変だったが、会長の失踪で監視の目も大分ガタついて穴だらけになったから、随分と商売が楽になったよ。っても人気どころは飲む用より、専ら調理用の方だがね」
「料理にお酒を使うの?」
「おぉ、主に味付けに入れてから、加熱してアルコール飛ばすんだよ。そういう意味じゃ、みりんも広義的にゃ酒類に入るかね。他にも煮込んで柔らかくしたり、干物なんかだと殺菌目的で表面に塗る例もあるな。この前も、カラスミ作りてえって買ってった生徒さんがいたよ」
「みりんかぁ。D.U.やミレニアムでみりん
興味深げに眺めていたシロコやホシノに、ノリノリで返す店主のアライグマだが、その途中で何度かチラチラと、周囲を警戒するウォルターの方を覗き見ている。彼が『S.C.H.A.L.E』の先生と知って、ブラックマーケットの取り締まりに来たと思ったようだが、ウォルターにそんなつもりはない。連邦生徒会に依頼されたのなら別ではあるものの、そうでもなければわざわざハウンズに無駄な仕事をさせる必要もないため、シッテムの箱から『何眺めてるんですか!?取り締まるべきですよ!?』とアロナが騒ぎ立てようが、一切反応せず無視しているうちに、店主の話は進んでいく。
「最近じゃ今まで治安維持してきたマーケットガードの代わりに、『S.H.A.R.K.S』が取り締まりしてるんだが、マーケットガードよりも強くて話も分かるってんで、大分風通し良くなってきてな。まぁ表向きだけでも蔑ろにするわけにもいかんとあって、強化合宿って体で鍛えちゃいるそうだが、半ばそのまま取り込まれつつあるのが現状ってとこか。で、彼女達の影響で、形だけでもあやからんとばかりに煙草の取引も増えてきたそうだ。尤も大半の生徒さんは、上手く吸えないままむせてそれっきりになっちまうそうだがね。だもんで店の方も、試しに1本差し出して様子見してから、本格的な商売に移ってるらしい」
「そう言えば柴関に来た時も、待ってる間に吸おうとして大将さんに止められてましたね……」
「
ノノミとシロコのやり取りに『いい訳ないですよ!Unwelcome Schoolですよ~!?』と抗議し続けるアロナを無視し、店主が一通りブラックマーケットの内情を話したタイミングを計ったウォルターは、数枚の紙幣を手渡す。
「礼を言う。これは対価だ、受け取っておけ」
「へへっ、どうも。それなら今後の贔屓を願いがてら、ちょいととっておきの話をオマケさせていただこうか……」
周囲を警戒しつつ、さすがに相手が相手とあって偽物ではないとは思いつつも、受け取り際にチラリと眺めて紙幣をを確認後懐にしまった店主は、そのまま顔を寄せると、小声で話し出す。
「以前から『S.H.A.R.K.S』でも使われてるとは言え、どこで作られたんだか分からんような銃器やら兵器も多々出回っちゃいたんだが、アンタが
「!?」
店主のもたらした新たな情報に、思わず身を強張らせるウォルター。かつて、「殺しの道具だからこそひとつ笑える必要がある」と語っていた
「そいつの特徴や、名前は何だ!?」
「おぉおぉ、落ち着いてくれ。えーと、確かアンタみたいな大人の女性で、ドローンを従えてるんだが、ソイツがちょくちょく合の手入れてくるそうだ。後はブラックマーケットで屯してるチンピラ連中を集めて組織化してて、その名前は……そうだ、『RaD』だ!『RaD』のカーラだよ!」
ドローンを従えた、『RaD』のカーラ。ウォルターはすぐに相手が誰かを特定できた。かつてコーラルの増殖傾向を観測し、新たな破綻が訪れる前に、全てを燃やし尽くすことを使命とする秘密結社「オーバーシアー」。自身と同じその一員だった『
新メンバー登場&何とか今月中に投稿間に合った・・・