Handler Archive   作:ゲオザーグ

26 / 27
なんか最新話で登場したキャラが予想外に叩かれてるみたいですが、「ぶっちゃけ未だ消息不明な生徒会長が雲隠れしたのが悪くね?」としか思えん自分はおかしいんでしょうかね?(by+依存しきって探すのに業務放棄してる印象が強いせいで連邦生徒会の辺りが強めなプレイヤー)


()柴関冷戦

「ハイこちら柴関ラーメン!」

 

『よぉ大将!昨日はあんがとな!』

 

 昼時の繁忙時間が落ち着き、一息ついていたところに来た電話を取った柴大将は、勢いのある相手の声を聴き、それが誰か気付く。

 

「おぉ、昨日の眼帯の生徒さんか!わざわざ電話なんかかけてきて、どうしたんだい?」

 

『あぁ、ちょっと今から寄らせてもらおうかと思ったんだが、ツレが結構な大人数でよ。事前に色々確認とっときたかったんだよ』

 

「大人数か。ちょうど今は空いてるから、一応広い席を詰めれば5、60人くらいは大丈夫だと思うが、それくらいでもいいかい?」

 

『それくらいなら十分か……あぁそれと、メニュー次第かもしれねぇが、トッピングの卵って変更とか除去とかできねぇか?火の通った黄身は断固無理って奴がいてよ……』

 

「あー、アレルギー持ちなら色々制限キツくて配慮が必要だろうが、食感がダメってのもしょうがないか。それくらいなら融通効くぜ?代わりに温泉卵でも乗せようか?」

 

『ありがとな!んじゃツレが先に来るかもしれねぇが、俺達も今から行くから、30分くらいで着くと思うんで、よろしく頼まぁ!』

 

「あいよ!しかし数十人規模か……こりゃあ俺1人じゃ厳しそうだな……」

 

 早くも仲間達を連れて再来するにあたり、受け入れられるだけの余裕があるか尋ねてきたマコに対し、ざっと店内を見渡した柴大将が、目分量で上限の目測を伝えると、幸いにも想定人数がその範囲に収まっていたようで、感謝と共に予約を入れて電話を切る。残された柴大将は、手に余りそうな大人数の来客に対し、助力を乞うべく1度戻した受話器を再度手に取り、新たな連絡先にかけた。

 

 

 

 

 

 

「ん?電話だ。はい、もしもし」

 

『よぉセリカちゃん!ちょっと今いいかい?』

 

「柴大将!どうしたんですか?」

 

 アビドス校舎に残り、警戒をしていたところに鳴り響いた着信音を聞き、スマホを手に取ったセリカが出ると、相手は柴大将。今日は勤務(バイト)の日ではなかったはずだが、何事かと尋ねると、柴大将は早々事情の説明に移る。

 

『いや、今さっき結構な団体さんの予約が入っちまってね。シフト外な分給料は弾んでおくから、悪いけど今から来れないかい?できればついでに、他にも来れる子がいるなら一緒に来てくれると助かるよ』

 

「えぇ!?団体さん!?わ、私は構いませんけど、今は訳あって、アヤネしか学校にいなくて……」

 

『ありゃ、そいつはすまんな。まぁ、調理は俺がやるから、無理ない範疇で一緒に注文聞いたり、配膳してくれたりしてくれればいいさ。今も夜の分に先駆けてご飯炊いてるとこなんだが、数十人規模らしいから、こちとら厨房で調理に専念させてくれるだけでも大助かりよ』

 

「それくらいなら軽く教えれば何とかなるか……わかりました。今から行きますね!」

 

『ありがとな!それじゃまた後で!』

 

「セリカちゃん?柴大将がどうかしたんですか?」

 

 多少悩みはしたが、予期せぬ稼ぎ時を逃がすのももったいないとあって、了承に感謝した柴大将が電話を切り、スマホをしまったセリカに、名を挙げられたアヤネが事情を尋ねると、ちょうどいいとばかりに手を取り、詰め寄られる。

 

「ごめんアヤネ!事情は道中説明するから、ちょっと手伝って!」

 

「え、えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 幸いにも今回は間に合ったものの、流石にモウカの釣果で空き容量が厳しくなってきたとあって、新たな冷蔵庫を追加すべくD.U.に向かったミナトを見送り、自身も柴関ラーメンへ向かうべく、『ドルフィン1』メンバーと共に、他の車両同様独立にあたってSRTから持ち出して以来、プライベートで乗り回していたパトリアAMVに『ドルフィン1』の面々を乗せたマコの元を、別のメンバーが訪れる。

 

「あぁ(ヘッド)、昨日行ったお店?ちょっと興味あるんだけど、一緒いい?」

【挿絵表示】

 

「よぉリンコ、ライナにクキまで連れてたとはな」

 

「如何せん私等じゃ、ビゴ達と違って目立っちゃうからね。今は隊を分けて行動してるの」

【挿絵表示】

 

「目立つこと自体は問題ないですけどぉ、そのせいで邪魔になっちゃいけませんからねぇ~」

【挿絵表示】

 

 シロナ以上の高身長に、2対4枚の黒い翼と、淡い青髪の『神平(じんだいら)リンコ』と、アギトに似た紫髪に黒いジャケットながら、人相は穏やかな『黄丹場(おうにば)ライナ』、間延びした口調で、灰髪に合わせたジャケットと斑点柄のシャツの『朽葉(くちば)クキ』。彼女達『ドルフィン3』も本来は6人編成だが、現在任務の都合で半々に分かれて行動しており、隠密や人混みでの活動に長けている残りの面々は、現在後方の席で仮眠に入ったオセアに指示を受け、トリニティで行動している。

 反面戦闘の際は逆に注意を惹き、統率を乱すほどの存在感を放つ彼女達は、却ってそれを阻害してしまうため、こうして手持無沙汰気味に暇を持て余していた。

 

「まぁ、向こうは合わせて40人くらいだから、お前らも入る余裕はあるか。いいぜ、乗りな」

 

「ありがと♪それじゃ同伴させてもらうわね」

 

「それじゃお邪魔しまぁ~す♪」

 

「モウカの釣果も楽しみだけど、そっちは夜にとっとこうか」

 

 先程柴大将に聞いた席数と、呼び寄せた那須昂姉妹達側の人数を計算して、彼女達も混ざる余裕はあると判断したマコは、快諾に嬉し気なリンコに続いてクキ、ライナが乗り込んだのを確認すると、自身も運転席に乗り込み、パトリアを出発させる。

 

 

 

 

 

 

 共闘した『ドルフィン17』の脅迫(交渉)で闇銀行から「報酬」を受け取った『便利屋68』は、相乗りさせてもらった彼女達の73式大型トラックを付近の駐車場に停めてから、那須昂姉妹率いる新人達も連れてマコが送った地図を頼りに進む『S.H.A.R.K.S』を柴関ラーメンに案内していた。

 

「ハァ……ブラックマーケットの銀行を見事に攻略して、脱落者どころか証拠らしい証拠も残さず撤収……『ジャンカーコヨーテス』、稀にみるアウトローっぷりだったわ……」

 

「アルちゃん、すっかり『ジャンカーコヨーテス』の手際よさに魅せられちゃったね」

 

「撤収の際は追いかけようとしてたのを引き留めたけど、温泉開発部がいなかったらそのまま飛び出してたかも。ただリーダーのブルートゥって奴、ちょっとアレ過ぎて正直あんまり関わりたくないかな……」

 

 ムツキとカヨコの心配通り、元々私怨込みと言え、仮に自分達同様このキヴォトスに流れ着いてきたとしても、どうなろうが心が痛まない故に名を騙ったカーラが聞こうものなら、「あんな掛け値なしのクズに憧れるのはやめておけ」と真顔で両肩を掴んで止めてきそうだが、アルには自分達を出し抜いて銀行の襲撃を成し遂げた姿が魅力的に映ったようで、応答に間が空く程すっかり呆けてハルカに肩を借りながらふらついた足取りで進むのに対し、当然出し抜かれた『ドルフィン17』は面白くない。

 

「暢気なもんね。奴等のおかげで臨時収入が入ったんだから、当然か……」

 

 そんなアルの様子に苛立たしさを隠さず皮肉を放つサドラは、ジャケットのポケットから葉巻を1本取り出すと、ヘッド部分を乱雑に噛みちぎり吐き捨て、そのまま銜えて共に取り出したオイルライターで着火するが、その姿を目にして硬直する『便利屋68』の面々に気付き、更なる不快感を露わにして睨み付ける。

 

「何?文句あんの?」

 

「あぁ、いや、貴女達のリーダーが吸ってたのは見てたけど、他のメンバーにも広まってたとは思わなくて……」

 

象徴(トレードマーク)にしてる(ヘッド)達ほどでもないし、吸うかどうかは個人の自由だけど、結構配られたのを気に入るのも多いから、『S.H.A.()R.K.S()』じゃそこまで珍しいもんでもないかな。サドラ(ソイツ)みたいに特定の場面じゃないと口にしないのも多いし」

 

 サドラの眼光で肝が冷え、目を覚ましたアルがしどろもどろに誤魔化す様な返答をすると、煙と共に大きく息を吐く彼女に代わり、トリアがコートの裏から「ズル」と呼ばれる形状のパイプを取り出し、タバコ葉の投入や着火をせず銜えてみせたが、それを見た一般隊員達の中にも、同様にパイプや煙管、葉巻に電子、または紙巻のタバコをおずおずと取り出してみせた辺り、彼女の話す『S.H.A.R.K.S』の喫煙事情は、生徒との接触そのものを禁ずるかの如きキヴォトスの一般常識から大きく逸脱しているらしい。やがて柴関ラーメンに到着すると、葉巻を銜えたまま睨み、顎をしゃくるサドラの圧に刃向えないまま前に進み、扉を開けて入っていく。

 

「ご、ごめんくださーい……」

 

「いらっしゃいま……ってアンタ達!よくもぬけぬけと顔出せたわね!

 

 融資を拒否された時に比べればまだ気は滅入ってないものの、個人、組織双方で自分達を圧倒する『S.H.A.R.K.S』の実力を目の当たりにしたことで、そのリーダー格を雇用していた昨日とは一転して下請けよろしく睨まれ委縮するアルを迎えたのは、柴大将のヘルプを受け、慌てて駆け付けたセリカ。臨時バイトとして連れ込まれ、並んで迎え入れる準備をしていたアヤネが驚くほどの声を放たれ、アルも体を跳ねさせるが、ムツキが一切気にせず間を縫うように入っていくのにカヨコが続くと、待っている間に吸い終えた葉巻を道端に吐き捨て、踏み潰して消火したサドラを先頭に、思わず持ち上げた足を地に降ろすより早く押し退けられ、転びかけたアルを慌てて抱き留めるハルカごと無視して『S.H.A.R.K.S』の面々も入店していく。

 

「よぉ!アンタ達も一緒だったか!アビドスさんとこのお友達だろう?替え玉が欲しけりゃ言ってくれな!他の人達も、眼帯のお嬢さんから聞いてるよ!メニューを見て、好きに頼んどくれ!」

 

「ちょ!?と、友達なんかじゃ「ありがと大将さん!それと眼鏡ちゃん、制服似合ってるよ♪」」

 

「やめてください!」

 

「ハッハッハ!じゃれ合うのもいいが、お客さんが多いんだ。よろしく頼むぜ!」

 

「べ、別にじゃれ合ってなんか……もう!」

 

 画像を提供する際、ある程度事情は説明されたが、詳細をぼかされていたことや、あくまで飲食店と客の立ち位置を崩すつもりをなかったため、あの直後戦闘が起きたとは知らない柴大将は、『便利屋68』に気付くと声をかけるが、その認識に不満を放とうとしたところを割り込んだムツキに濁され、朝のやり取りで警戒意識を強めていたアヤネ共々流されセリカは、不満を押し込んで仕事に徹することを決め、とりあえず『便利屋68』は柴大将に任せるためカウンターに座らせると、次々『S.H.A.R.K.S』の面々を席に座らせていったところに、今度はムツキに背を押され、席に着くところだったアルが我に返るや、柴大将の発言を掘り返す様に叫ぶ。

 

「友達なんかじゃないわよぉー!!」

 

「わわっ!?」

 

「うるっさいなぁ……」

【挿絵表示】

 

 

 急に叫び出したアルが、驚いて尻もちをついたムツキを気にせず捲し立てていく様を疎まし気に睨むのは、ボサボサの青髪で、昼夜反転体質故睡魔に必死で耐えていた『白久豆(しらくず)ネムリ』。しかしアルは自己弁護に夢中で、声の小ささを抜きにしても彼女の呟きは耳に届かなかったようだ。

 

「わかった!!何が引っかかっていたのかわかったわ!問題はこの店、この店よっ!!」

 

「いやむしろ今はアンタの方が客として問題じゃね?」

 

 挙句周囲への配慮など皆無とばかりに1人騒ぎ立てる姿にひいて、何も言えずにいるセリカに代わって指摘するトリアをも無視して、謎の責任転嫁までしてくる始末。

 

「私たちは仕事をしにこの辺りに来ているの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!なのに何なのよ、この店は!お腹いっぱい食べられるし!!あったかくて親切で!話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気!ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!」

 

「それに何か問題ある?」

 

「駄目よ! 滅茶苦茶でグダグダよ!私が一人前の悪党になるには、こんな店いらないのよっ!私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!」

 

「むしろうるさいせいで注文邪魔するアンタがこの店に1番いらないんだけど。どうでもいい矜持ぶちまるくらい気に入らなきゃ、とっとと出てったら?」

 

 そんな注目の的となって、ムツキの質問に勝手を宣う姿に、顔をしかめ新たに取り出した葉巻を銜えようとするサドラが、紫煙に先んじて放つ苦情に同意する『S.H.A.R.K.S』面々の冷たい視線にも気付かぬアルだが、サドラの葉巻に気付いた柴大将が、前日のマコ達同様口を挟もうとした矢先、ハルカが席を立つ。

 

「なるほど……つまりこんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね!?アル様!」

 

「……へ?」

 

「良かった、ついにアル様のお力になれます」

 

 当のアルが理解の追い着かぬまま、ハルカが取り出した起爆スイッチを押そうとした瞬間、それまでの気怠く緩慢な様子が嘘の様に接近したネムリの蹴り上げた爪先が、ハルカの喉に刺さる。

 

「がっ……ごはっ……!」

 

「ハルカ!?」

 

気管を潰された衝撃が脳まで届き、一瞬宙を舞うと共に、意識を奪われた拍子に弛んだハルカの手から滑り落ちる起爆スイッチを奪取したネムリが、脚を降ろした反動で持ち上がった反対の爪先を、同じく脚が地に着いたハルカのへそ部分に突き刺すと、混濁する意識の中、スイッチを取り返さんと動くよりも早く多少の唾液や胃液を吐瀉しながら、床に倒れ伏す。

 

「よくもうちの社員を……!?

 

 ハルカをやられ、激昂で銃を抜くアルとムツキに対し、当然他の『S.H.A.R.K.S』もただ眺めていた訳でなく、むしろネムリが鎮圧する間に構えていた得物の銃口で、『便利屋68』が彼女に狙いをつける前に囲う。

 

「よくも何も、アンタのくだらないプライドでハルカ(コイツ)暴発させといて被害者面?さっきも言われてたけど、会社ごっこじゃないってんなら、部下の手綱くらいしっかり握っときなさいよ。だから名ばかり社長扱いされてんの」

 

「爆破魔連中にしろアンタ等にしろ、ゲヘナじゃ『気に入らない飲食店はぶっ壊してよし』みたいな校則でもある訳?だとしたら(ヘッド)達に提携見直しとくよう申告しとかないとね」

 

 葉巻を銜えたまま収束(チャージ)したエネルギーで『ブルー・マグノリア』の銃口を輝かせるサドラと、本来なら店員として真っ先に対処すべきところを先に動かれ、そのまま数の暴力で実質鎮圧された場に圧倒され、固まったままのセリカに、狭い室内故の取り回しの悪さと、何よりミナトに弾薬費を絞られているために参加してなかったアトラが「それじゃ待ってる間に片付けてきますね」と断って席を立ち、同じく得物を置いたままのトウニを連れて店を出ると、厨房での調理を中断して宥めようとする柴大将を除き、誰1人緊迫感に動けずにいたが、そこに遅れて到着したマコが入店する。

 

「ウッス大将、邪魔するぜ……何だこの空気?」

 

「おぉ、来たか!しっかし大人数だねぇ!今皆に聞いてたとこだったが、注文は昨日と同じでいいかい?」

 

「いや、オレの分は「いいよぉ!昨日のどっちも美味しかったし!」「おれも唐揚げ追加してもらっていいかい?タイガ(コイツ)が食ってるの見てたら、頼んどきゃよかったって思っちまってよ。後、追加で来た奴の分は決まるまで待っててくれや!」おいテメェ等……」

 

「ちょうどいいんだか悪いんだか……(ヘッド)、とりあえず経緯を話したいので、こちらに」

 

 事情が分からず困惑していたマコに柴大将が声をかけ、昨日同様シロナの希望をかき消す形で割り込んだタイガと、煙管を掲げ、暗に「お通しに出た小皿も込みで」と含めながら答えたアギトに続いて他の面々も入ってきたことで緊張が解けると、銃口のエネルギーを霧散させたサドラに呼ばれ、セリカが案内する前に『ドルフィン17』と隣接するテーブルに座り、話を聞く。

 

「なるほどな。そりゃ『便利屋68』(アイツ等)が悪りぃわ」

 

「危うくこの店が消えかけたことを考えれば、むしろネムリの早急な鎮圧は当然でしょう。しかし『ハードボイルドなアウトロー』とは、我々の知る限り近いものを挙げるなら、『厚顔無恥』のことでしたか。物も言い様ですね」

 

「とりあえずぅ、持ってるものはこんな所ですねぇ。これで起きても物騒な真似はできませんよぉ」

 

「あんがとね、クキ。リンコもムツキ(そのチビ)抑えといてくれたおかげで片付いたわ」

 

「こんくらいなら別にいいわよ」

 

「むぅ~……」

 

 目を覚まさないハルカはライナにヘッドロックで持ち上げられた身体をクキにまさぐられ、それに反抗しようとしたムツキも、見抜いて『トリックオアトリック』を没収したリンコに襟を摘まんで持ち上げられ、虚しく空を切るだけの手足をバタつかせるばかりで、自由なカヨコは非を認め、余計な被害を抑える様に席で沈黙。当然厨房の柴大将は調理に、アビドスの2人は注文を聞き、できた料理を届けるのに忙しいのを抜きにしても論外と、孤立無援状態のアルは、事情を理解したマコと、仲間(ネムリ)のファインプレーを称えるオセアを始めとする周囲の針の筵で包むが如き突き刺すような冷たい目線を受け、気まずさで動けないままラーメンが届くのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 柴関ラーメンが位置する、アビドス市街地を見渡せる砂漠地帯。そこには本来この場に来ることのない暗色の制服を着た一団、ゲヘナの風紀委員会が並んでいた。

 

「どこで知り合ったか知らないけど、アイツ等いつの間にか『S.H.A().R.K.S』()共と組んでたのか……」

 

「自治区外で活動していた『便利屋68』の足取りを掴めた貴重な捕縛チャンスですが、『S.H.A.R.K.S』は飲食店への攻撃に対しては、勢力問わず叩き潰しに来ますからね。ここは早まって動かない方がよさそうかと……」

 

 その先頭で、タイガの挑発に乗って指揮する1個中隊ごとアッサリ返り討ちにされた、苦い思い出に額にしわを寄せ、双眼鏡を降ろして柴関ラーメンを睨みつけていたイオリと、万魔殿の公認をもらい、実力を誇示する様に成果を挙げ続ける彼女達の扱いの難しさに眉間を押さえるチナツは、元々アコの指示で『便利屋68』捕縛の為アビドスを訪れたが、いざ来てみれば、目にしたのは『S.H.A.R.K.S』の面々と共に柴関ラーメンへと入っていくところ。

 これが『便利屋68』だけなら、出る前に迫撃砲でも叩き込んで店ごと潰して、動きを封じてしまえばいいところだが、『S.H.A.R.K.S』——それも5分の制限時間中、遊び半分な振舞いで余裕を見せながらも僅か2分で1個中隊を片付け、残る3分はそのまま引き延ばす様にイオリを相手した末に下したタイガどころか、その直前にカスミ率いる温泉開発部の本隊を壊滅させたリーダーたるマコを始めとしたフルメンバーの『ドルフィン1』を含む複数部隊まで風紀委員会を敵と認識したとあっては、控えの戦力まで同様に蹴散らすばかりか、容易にヒナを抑え込み、それまで共に治安を維持してきたゲヘナ自治区を蹂躙してくることは容易に想像できる。

 

「とりあえず、連中が出てきそうな頃合いを見計らって店の前まで行くか。交渉する余裕があれば、まだ何とかなるだろうし」

 

『それが賢明でしょうね。カイザー傘下に身を寄せているとは聞いてましたが、まさかこんなとこで鉢合わせするなんて……』

 

 既にアビドスは事実上閉校状態にあり、周囲の一帯は借金のかたに引き取ったカイザーの支配地域と言え、どちらが相手にしろ無断で進軍したことを見つかり、外交問題に発展しようなら面倒極まりないし、マコトが何を言い出してくるか分からないとあって、イオリとしてもさっさと『便利屋68』を捕えて帰りたいところだが、『S.H.A.R.K.S』がいるならもうしばらく機を窺う方が穏便に済みそうだと判断し、今回の捕り物を指示したアコも、既に食堂で鎮圧された美食研究会の護送や、つい先程届いたブラックマーケットで闇銀行を破壊した温泉開発部の引き取りに当たる交渉で人員や時間を奪われ、これを口実とした本命を果たす事は叶わなそうだと察して任せられたことで、再び双眼鏡を目に当て、柴関ラーメンの出入りを眺め続けるのを許した。

 

 

 

 

 

 

 ゲヘナの風紀委員会に監視されているとは露知らず、ラーメンを堪能した『S.H.A.R.K.S』。やがて宴も(たけなわ)とばかりに腹を満たした隊員達が席を立って行き、その送迎にサドラやアトラ達も店を後にする。残るは『便利屋68』とマコ達だけとなり、彼女達の丼も、既に空となっていた。

 

「ふぅ、んじゃ、そろそろ帰るか。今日もあんがとな、大将」

 

「お粗末様!さすがに今回みたく大人数だと事前に言ってくれなきゃ困るが、またいつでも来てくれよな!って、勘定はちゃんとレジ通してくれよ」

 

 そのまま礼と共に店を出ようとするが、既に去った仲間の分とばかりに昨日同様コートのポケットから取り出したより多くの紙幣を雑にテーブルに置いていくのを目にした柴大将に止められる。

 

「えぇ~?別にいいじゃん、貸し切り分も含めたチップってことで。今日は臨時収入でしっかり払える分用意してたけど、昨日のコイツ等みたいなサービスしてたら潰れるよ?」

 

 しかしある意味尤もな反論を挙げ、ケケケと挑発的に笑いながら無視して先に出た仲間に続くヨシキが「う、うるさいわね!掘り返さないでよ!」と騒ぐアルを始めとした『便利屋68』を押し出す様に去って行き、結局お釣りは受け取られなかった。

 

「2度と来るな!ったくもう「すいませーん、炒飯お代り」ってまだいたんかい!」

【挿絵表示】

 

 

 それを見送り、昨日の襲撃にしろ、好き勝手言ってきたことにしろ、怒りが収まらず吼えるような罵声を放ち、気持ち新たに片付けようとしたセリカだったが、実はまだ店内にはリンコが残っていた。しかも昨日『便利屋68』に出されたのと同サイズの丼や、マコに出されたものより明らかに大きな茶碗に飽き足らず、炒飯や餃子用の皿まで前に並び、そのどれもが僅かなスープやタレ、或いはこぼれた焦げの欠片くらいしか残ってない。

 

「あ、アンタどんだけ食ってんのよ……」

 

「ちゅ、注文を見る限り、最大サイズのラーメンとご飯のセットが5つに、餃子30個、炒飯も5杯頼んでこれ、ですね……」

 

「あ~、悪いんだけど、もうご飯が足りないね。残りもんで悪いが、お代はいいからコイツで勘弁してくれ」

 

 ライナとクキもそうだが、シロナとは対照的に、体躯相応とばかりな量を見事完食しきった様に驚愕のあまり絶句するセリカに対し、アヤネも伝票を見直し、その腹に収まった量を見て呆然としていたところに、炊飯器を覗き込んでいた柴大将が残ったご飯をラップに包み、丸めたお握りを差し出す。

 

「あら、そこまで食べてたのね。美味しかったから全然気付かなかったわ。ありがと」

 

 コップの水を一息に飲み干し、お握りを受け取ったリンコは、軽く手の上で弾ませながら、ゆったりした足取りでマコ達に続くが、これでようやっと客がいなくなった店内で、疲労困憊のセリカが手近な椅子を引き寄せて座り、一息つく。

 

「こ、今度こそ客無し(ノーゲス)、よね……」

 

「い、今の人で最後、ですね……」

 

「いやーお疲れさん、今日は助かったよ、ありがとな」

 

 同様に座ったアヤネも店内を見渡し、卓上の空いた皿しか残っていないことを確認して安堵するところに、見送りがてら店仕舞いの為暖簾を下げに出た柴大将も、残った食器を片付ける前に同じく一休みせんと席に着く。

 

「全くよ。人数といい食べる量と言い、昨日とは比べ物にならなかったわね……」

 

「今日は完全にラーメンを食べに来ただけ、だったのでしょうか……」

 

 ウォルターの協力でセンサー類など、ある程度防衛設備の設置こそしたが、予想外の呼び出しに空けてしまい、無防備の校舎を心配する反面、過ぎる程に感じた彼女達の余裕は、昨日初めて会った時とは違うもので、満足気に退出していく姿を見ていると、このまま攻め込んできそうには思えなかった。

 

「だとしても迷惑極まりないわよ!」

 

「あんまり邪見にするもんじゃないぜ?俺としちゃあ久々の繁盛に大助かりだけどな。さすがにここまで大人数だと準備は大変だが、こうもきれいに食べてくれると、後片付けも楽だし」

 

 つい昨日戦ったばかりとは思えない様な『ドルフィン1』の振舞いに、そのことを思い出して憤慨するセリカに対し、柴大将が手近にあった丼を手に取って傾けると、中に残っていたのは、指で拭える程度のスープに、僅かな胡椒の粒が沈んだ程度。最後まで残っていたリンコや、昨日同様大盛りを頼んでいた『ドルフィン1』の面々に限らず一律同様とあって、洗浄にあたって流したゴミが溜まる排水槽(グリス)の掃除は、食器の量に反して随分と楽に済みそうだ。

 

「しかし最後の一際デカい生徒さんに限らず、スープごとお代りすることが多かったから、すっかり品切れになっちまったな。こりゃ今晩は休業か……。とりあえず、食器下げてくれたら後は俺が片付けるから、あがってくれていいぜ」

 

「あ、ありがとうございます。それじゃ、お皿回収して帰りましょ、セリカちゃん」

 

「そ、そうね。ありがと大将……」

 

 柴大将の気遣いに感謝を述べた2人が席を立ち、残された食器を片付けて別れを告げた頃には、大分日が傾き始めていた。モモトークを確認したところ、既にホシノ達は特に被害がない校舎に戻っていた様だが、「伝えたいことがあるので明日登校してほしい」と連絡が入っており、一体何があったのだろうかと疑問を持ちつつも、わかるならそれでいいかと深く考えないことにし、そのまま帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

 リンコが1人残って店内の注目を集めていたのは、事前にマコからのアイコンタクトに気付いて、彼等を留めることが目的だった。その間何があったのか、少し時間を戻すと、サドラやアトラ達が帰った頃合いを見計らい、まだ『便利屋68』が残っていたことを確認したイオリは、店の前に中隊を並べ、待ち構えていた。当然ヨシキを除く『ドルフィン1』が前方の壁になって気づかなかった『便利屋68』は、ヨシキが扉を閉めた頃合いを見計らい、左右に分かれた彼女達の先にいた風紀委員会に気付く。

 

「ふ、風紀委員会!?なんでこんな所に……」

 

「なんでも何も、お前達を捕まえるためだ、規則違反者ども!こっちの仕事を増やして……!」

 

「その『仕事』、代任させていただいても?」

 

 いつもの様に白目をむいて驚くアルに対し、Kar98kの『クラックショット』で肩を叩きながら苛立ちを露わにするイオリを前にして、『便利屋68』は臨戦態勢に入るが、割り込む様に声をかけたオセアが『便利屋68』の後ろにまわる。

 

「え?まぁ、やってもらうんなら助かるけど……」

 

「では、承りました」

 

「へ?ボベ!?

 

 思わず理解が追い付かぬまま反射的にイオリが許諾した途端、同じく訳が分からぬうち頭頂部に肘鉄を叩き込まれたアルは、脳へのダメージで即座に意識が飛び、膝から崩れ落ちたところを抱え込まれる。

 

「アルちゃん!?ヴェッ!」

 

「よくもアル様を!ゴァッ!」

 

 当然ムツキとハルカは突然の裏切りとも言えるオセアの行動に驚きつつも反撃するべく得物を構えるが、その矢先シロナの大盾を頭頂部に叩き込まれ、同様に意識を奪われる。

 

「はぁ、面倒ごと増やしやがって……」

 

「ホイッと、はいどうぞ」

 

「これで鎮圧完了、と。抵抗がなければ、このまま貴女も引き渡させていただきますが」

 

「万魔殿に従う形で風紀委員会(そっち)と組んでたのは知ってたけど、ここで背中を撃たれるとはね。降参よ、ただ拠点(事務所)の位置までは吐かないから」

 

 シロナが呆れる横で、2人が倒れる前に受け止めたタイガがイオリに差し出し、オセアが振り向いた先には、『デモンズロア』に手を着けず、諦めた様に両手を持ち上げたカヨコ。風紀委員会に関しては、ヒナがいなければまだ4人で強行突破して逃走することもできたろうが、その前に『ドルフィン1』が敵に回り、自分以外を封じられてしまっては、1人で逃げたところで意味がないとあって、大人しく共に捕まる道を選んだ。

 

「賢い選択だな。アンタならそうするとは思っちゃいたが、こっちとしても無駄な労力を使わなくて助かったぜ」

 

「そりゃどうも。にしても、どうせこれを指揮してるのはアコでしょ?先生を狙ってここまであんた達を送り込んだんだろうけど、狙った状況にならなかったのは、残念だったわね。『S.H.A.R.K.S』、それも『ドルフィン1』がフルメンバーともなれば、敵に回したら用意した戦力どころか、ヒナだって無事で済むか分からないもの」

 

『言ってくれますね?ヒナ委員長ならそれくらい相手したところで「まぁ腹鰭(ボトム)にとっちゃ体のいいオモチャだったけど、アトラやトウニなら、ミレニアムのおチビちゃんよろしくかっ飛ばせんじゃね?背丈も似たようなもんだし」ハ?オモチャ……?ヒナ委員長をオモチャですって!?

 

「っても大分調子悪そうだったけどねぇ~。ここ最近『S.H.A().R.K.S()』が肩代わりしだしてからは幾分マシになってきたけど、正直トリニティの正義実現委員会だっけ?そこの委員長の方が相手してて楽しかった。波長も合うし、副委員長も混ざってからは、コンビネーションで緊迫感増してきたし」

 

 お世辞にも機能しているとは言い難いながら、ブレーキ役たる彼女のおかげで『便利屋68』は組織として何とか保たれている、と認識しているアギトの称賛を雑に受け流したカヨコの推測通りとばかりに、その発言が癪に障ったアコがわざわざ通信を繋ぐが、そこへ火に油を注ぐかの如く割り込んだヨシキの発言が逆鱗に触れ、加えて挙がったタイガ当人が、退屈気にあくびをしながら「ツルギの方がよかった」とまで宣ったことで、アコの怒りは容易に暴発した。

 

『もう我慢なりません!イオリ!直ちに全戦力を集めてその不届き者達を『アコ』……え?ひ、ひ、ヒナ委員長!?』

 

 しかしそれを『ドルフィン1』にぶつける寸前、水を差す様に当のヒナが通信を入れてきた。狼狽するアコの姿に、「そんなことだろうと思った」とばかりにカヨコがはくため息を無視して、『ドルフィン1』はやり取りを見守る。

 

『ねぇアコ、今どこ?』

 

『わ、私ですか?私は……その……えっと……げ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです!風紀委員のメンバーとパトロールを……そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?』

 

「あれ?日よってやめるんだ?アタシとしては柴関ラ()ーメン()巻き込まなきゃいい腹ごなしになると思ったんだけど」

 

 今回の行動は完全に彼女の独断だったようで、タイガの挑発に反応する余裕もないアコは、ワタワタとどもりながら取り繕うのに必死だ。そしてそんな彼女の事情などお構いなしとばかりに、ヒナの言及は続く。

 

『さっき帰ってきた』

 

『そ、そうでしたか……!その、私、今すぐ迅速に対応しなければならない用事がありまして……後ほどまたご連絡いたします!い、今はちょっと立て込んでいまして……』

 

『立て込んでる……?パトロール中なのに珍しい、何かあったの?』

 

『え?そ、それは……その……』

 

 それ故気配に敏感で、周囲の警戒も怠らなかった『ドルフィン1』と、その様子を見ていたカヨコ以外気付かなかった。アコの弁解が、最初から意味をなしていなかったことに

 

「他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないような事が?」

 

『……え?』

 

「い、委員長!?一体どこに!?」

 

「おや、声はすれども姿は見えず。空崎委員長?部下の皆さんが探されてますよ?」

 

「まさかヒナまで来るなんてね。何かしら反応(リアクション)はあると思ったけど、直々に顔を見せるとは思わなかったわ……」

 

 それまでの通信越しから一転、肉声が聞こえて狼狽えるイオリ達風紀委員会に対し、カヨコはその場を動かず、ふざけ半分で呼びかけるオセア以下『ドルフィン1』も余裕の態度でいると、その間を縫うようにヒナが姿を現す。

 

「アコ。この状況、後できちんと説明してもらう。通信を切って、校舎で謹慎していなさい」

 

『は、はい……』

 

「それとイオリ、チナツ、今は目的を果たした以上、長居は無用よ。『便利屋68』を連れて、速やかに撤収を」

 

「りょ、了解!ほら!お前も来い!」

 

「あんまり乱暴に扱ってやるなよ~?結構一緒にいて楽しかったから、また今度なんかあったら呼びたいんでよろしくな」

 

 そのままアコを黙らせ、撤収を命じられたイオリがカヨコを強引に引き寄せ、アギトが浴びせる言葉に報じる余裕もなく去って行くと、『ドルフィン1』とヒナだけが残る。

 

「事前通達無しでの無断勢力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしかけたこと。このことについては、私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、『S.H.A.R.K.S』に正式に謝罪する」

 

「顔を上げてください、空崎委員長。今回の件は天雨行政官の独断とのこと。であれば彼女が相応に処断されるのであれば、こちらとしても十分です。それでは、我々もそろそろお暇しますね」

 

 ヒナの謝罪に「大したことない」と手を振ってこたえるオセアに限らず、万が一手を出されても容易に叩き潰せる自信があるからこそ、『ドルフィン1』は寛容な態度をとる。ヒナもそれを分かっているからこそ、一見大層な物言いに反し、その実体裁を保つため形だけの謝罪で片付け、別れる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。