『RaD』拠点に戻り、入手した闇銀行の収支明細を確認していた一同は、ある程度予想していたとはいえ、その内容に頭を抱える羽目になった。
「うぅっへぇ~、予感はしていたと言え、いざ目にすると何も言えなくなってくるねぇ……」
「現金輸送車の集金記録には、アビドスで788万円集金したと記されてる。私たちの学校に来たあのトラックで間違いない……でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して『任務補助金500万提供』って記録が……」
「ということは、私達のお金を受け取った後、ヘルメット団のアジトに直行して任務補助金を渡していた、って事ですよねぇ……」
シロコが読み上げ、ホシノが呻いた先月分の記録には、アビドスが支払った借金の利息から、カタカタヘルメット団への支援として支払われていた事実が記載されていた。恐らく闇銀行へと向かっていたところを目撃したのは、つい先日支援していたカタカタヘルメット団が壊滅したために補助金を提供する相手がおらず、直行していたためだろう。その事実を口にしながらも、理解できずに言葉を濁すノノミに続けるように、シロコが被せる。
「任務だなんて……ヘルメット団の背後にいたのはカイザーローン?」
「だとしても、疑問が残ります。滞納した支払いを取り立てるために嗾けてきてたならまだしも、私達はしっかりお金を支払ってきました。にも関わらず追い立てる様に送り込んできたなんて、学校が破産したら、貸し付けたお金も回収出来ないでしょうに……どうしてそのような事を……?」
ノノミの疑問も当然で、利子だけと言え何故わざわざ律儀に支払ってきたアビドスを不要に追い詰め、返済に支障を起こす様な真似をしてきたのか、尋ねる様な呟きに、ホシノが何か気付く。
「もしかしてカイザーの目的は、お金よりも土地……?」
「「!?」」
利子の支払いを無視してカタカタヘルメット団を嗾け、アビドスの面々を追い立てる様なカイザーの行動だけ見れば、そう考えるのも当たり前のことではあるが、かつて生徒会として学区の土地をカイザーに売っていたことをしっていたため、その推測に行き着いたホシノ自身を含め、アビドス生の間では、事実として『何もない砂漠』で一致していたアビドスの土地を、そこまでしてカイザーが欲するかと聞かれては、誰も答えられずに沈黙が流れる。
「何代も前の連中が残した借金を律儀に返済してきたはずが、その相手に追い立てられるとは、アンタ達も災難だね。尤も形振り構わず潰しちまってもいいところを、色々と回りくどい真似を繰り返してる辺り、あっちもあっちで攻めあぐねるような何かがあったのは不幸中の幸い、か」
借金の話を聞き、621に先駆け、各地で借金を抱えては踏み倒してきた独立傭兵、『ノーザーク』を探して、拠点としていた『グリッド086』に乗り込んできた侵入者のことを思い出しつつ、その沈んだ空気に耐えかね、軽口を挟んできたカーラが指摘するように、カイザーの振舞いは目的だけてなく、行動も含めて謎が多い。
外聞を気にしているにしても、学区の武力制圧が目的ならわざわざカタカタヘルメット団を雇わずとも、傘下の民間軍事会社、『カイザーPMC』で直接殴りかかってきた方が手っ取り早いだろうし、『S.H.A.R.K.S』を取り込んで『ドルフィン1』と共に送り込むなら、次の刺客は『便利屋68』よりも、現在共に柴関ラーメンへ向かっている『ドルフィン17』の方が自然なのに、それを残していた理由がわからない。
「思惑はどうあれ、奴等の侵攻を阻むなら、その縛りを突くしかあるまいな。さもなくば手を変え品を変え、徒に削られていくだけだ」
正面切ってぶつかるにはリスクが大き過ぎる以上、カイザーの動けない事情に付け込んで黙らせるのが理想。むしろそれができねばキリがないと、ウォルターもため息交じりに続くが、そこにチャティが声をかける。
『ウォルター、1つ聞きたい。
「それくらいなら容易だろう。何ならそのまま、掌握も可能だそうだが」
『ちょ、ウォルター先生!?何させる気ですか!?』
『安心しろ。期限はわからんが、成功すれば、間違いなくカイザーの動きを封じれる』
「ほぉ?随分自信満々だね。何をするかは、私達にも明かせないのかい?」
『その方が結果を知った時、「笑える」だろうからな。出るまでしばらく待ってくれ』
主たるカーラにも話さないチャティの目的は分からないが、提案型AIの本領を発揮するなら、解決は容易いだろう。ウォルターとしても、探るほどに複雑化して先の見えないアビドスの問題が手早く片付くに越したことはない以上、シッテムの箱をチャティに貸すことは文句もないものの、そこに常在するアロナとしてはたまったものではないと声をあげるも、如何せんサンクトゥムタワーの制御を通じたキヴォトスの実質的な掌握など、できることが多すぎるシッテムの箱の、同じくらい不明なことの筆頭とも言えるアロナよりも、カーラの保証で明確な分チャティの方が圧倒的に信頼できるとあって、意向を無視して話を進められてしまう。
『って、また勝手に入ってこな……ウォルター先生!止め……ギャー!!』
「さっきからずっと賑やかだねぇ、
加えてそのままプカプカと浮かび続けるドローンから、「ウォルターの許可は得た」とばかりにシッテムの箱に乗り込んできたチャティの影響か、無意味ながらもせめてもの抵抗とばかりに喚き立てる
『戻ったぞ。これで後は明日のお楽しみ、だ』
「ご苦労さん、チャティ。アンタの『笑える』仕込み、期待してるよ。アビドスの嬢ちゃん達も、これでお開きと行こうか」
「もうそんな時間かぁ……。あ、セリカちゃんから連絡入ってた。急な団体さんに柴大将から臨時の呼び出しかかって、アヤネちゃんと一緒に行ってくるって。」
「なら、明日会った時に説明しないとですねぇ……」
「そうだな。予想外が重なったと言え、少し長居し過ぎたかもしれん。その際は奪った金の配当がてら、カーラ達にも来てもらおう」
帰還したチャティを労うカーラに促され、ホシノが時間を確認しようと襲撃の際ミュートにしたままだったスマホを覗いた拍子にセリカからのメールに気付くと、おそらくアビドスに戻っても今日は合流できないと判断したノノミが予定を立て、ウォルターが補足と共に締めて席を立つ。
翌日、『カイザーPMC』のオフィスにて、理事はデスクに並ぶ昨晩届いた書類から視線をそらし、椅子に背を預けて天井を仰ぐ。
「王手も間近と思ったところを、鳶に油揚げ攫われるとは、な!」
八つ当たりの如くデスクを叩いてみるが、そんなことをしたところで、書類の内容は変わらない。そこに訪ねてきたのは、いつも通り着火した葉巻を左手に摘まみ、壁に寄りかかってため息と共に紫煙を吐き出すマコ。
「残念だったな、オッサン」
「全くだ。どこの誰だか知らんが、連邦生徒会長を騙って介入してくるとは……」
天井に目を向けたままマコに答える理事が並べていた書類。そこに記載されていたのは、絶賛消息不明中で、連邦生徒会が実質本来の業務を放棄してまで捜索に全力を挙げている連邦生徒会長の名義で、現在アビドスが抱えている借金を過払い認定し、立て直しに介入する前準備として、残る借金の返済取り消しと、直近の消息を確認可能な卒業生――すなわちユメが入学以降の支払いをアビドスに返還するよう『カイザーローン』に命じるものだった。
届いた当初、理事は「悪戯レベルの悪質な妨害」と認識して特に気にも留めてなかったが、「一応形だけでも」と抗議の連絡を入れたところ、あろうことか連邦生徒会からは、「連邦生徒会のサーバーと、会長のアカウントを通した正規のもの」と返答をされ、逆に捜索の手掛かりとして喰い付かれ、四苦八苦した対応が終わったころには、とっくに日付が変わっていた。
「幸い現状こちらの手にある土地に関しては、
かつてホシノが目にし、ユメを襲った砂嵐の中にいた影。その正体は未知なる超AI、『デカグラマトン』の配下が一角、『ビナー』と呼ばれる巨大な機械蛇であり、『カイザーPMC』も、度々アビドスから借金のカタとして引き取った砂漠地帯を捜索中、その襲撃を受けることが多々あった。
「何だったか……アランダスピスだのアストラスピスだのって船を探す分には、そのビナーにさえ注意すりゃいいってとこか。だとすりゃ
「ウトナピシュティムの
気持ちの整理がついたのか、ようやっと天井から正面に視線を動かしながら修正する理事と、この件に関し現状できることを擦り合わせたマコは、葉巻を銜え直すと、そのまま部屋を後にする。