連邦生徒会長名義でアビドスへの支援が公表されてから数日後。
「イテテテテ……相変わらず容赦ないなアイツ……」
「貴女が強く出れないのをいいことに、純粋なイブキをうまく丸め込んで使ってきたわね。他の面々、特に
相変わらずイブキとの遊びを隠れ蓑に彼女を使い、自身への攻撃を仕掛けてくるタイガに呆れながら、頬杖を突いた手で頬を摩るマコトのは、自室でテーブルを挟み、ヒナと対談していた。世間一般には実力で名を馳せるヒナの影で喚き立てている、自己顕示欲だけの暗君と思われているマコトだが、実際には世間のイメージ程険悪な関係でもなく、かつて『雷帝』の異名を誇り、未だ名を呼ぶことすら恐れられる先代万魔殿議長の独裁に立ち向かった彼女とは、こうして人目のないところで談話する程度には友好を築いている。現在の形式も、ヒナの影で見くびられて目を向けられないのをいいことに、そうして油断した隙を突く形で諜報に徹する方向が馴染んでいるからこそ、ゲヘナを裏から統べるべく、あえて本来なら衆目を浴びる万魔殿議長の地位に就き、愚行を繰り返して道化に徹している。
「ウゲ、気付かれてたか……しかし、オセアなぁ……
「特に彼女達の間で上下関係がある様子はなかったけど、組織名に合わせて並び順を決めたんでしょうね。イオリをアッサリ叩きのめした
特にそうした腹の探り合いに関心がないとあってか、タイガにしか見破られてないことにショックを感じたマコトの疑問に、自分なりの推測と共に返すヒナだが、先日『便利屋68』が釈放された際、その迎えに来たヨシキが出所祝いと称して持ってきたものを思い出し、ため息と共にイオリからの報告を思い出しながら話し出す。
『よぅ!出所おめっとさん!』
『なぁにが「おめっとさん」よ!貴女達のせいで捕まった様なものでしょうが!』
『お前、よく私等の前で堂々
相変わらず場を問わずに吹かせる煙草を摘まんだ手を振り、呆れ果てるイオリやオセアの肘鉄で真っ先に鎮圧されたアルの抗議を無視したヨシキは、『まぁまぁ』と宥めながらパーカーの裏ポケットに忍ばせていた逆の手を取り出すと、そこに入れていたものをアルに握らせる。
『!?こ、これは……!』
『この前見て目ぇ輝かせてたろ?こっちとしても素直に仲間増えるのは嬉しいから、出所祝いがてら選別にやるぜ。追加でほしけりゃ言ってくれよ?』
アルが受け取らされたのは、未開封の煙草の紙箱が3つ。初対面時に自分達の喫煙姿を見て歓喜していたことを挙げ、ニッと笑みを浮かべて煙草を銜え直したヨシキに一転して感涙するアルだが、忘れられたかの如く放置されたイオリが黙って見逃さない。
『なっ……お前、私の前でなんてもん渡してんだ!没収だ没収!』
怒声に気付き、慌てて煙草を隠そうとするアルから奪わんと歩み寄るイオリだが、彼女が奪うより先に、再度手を伸ばしたヨシキが掠め取り、手の中で転がす。
『おっと、ここじゃ余計な茶々が入るか。悪い、後で渡すわ。じゃまたな~』
『オイコラ!どこ行く気だ!
そのまま『クラックショット』を構える間もなく、煙草を取り上げるべく立ち去ろうとするヨシキを慌てて追いかけに走ろうとするイオリだが、直後ヨシキが腰から引き抜いたツァスタバM93ブラック・アロー、『
『おいおい、幾らなんでも部外者相手に強行過ぎだろ。そこまでやる権利あったっけ?』
『ぐうぅ……権利如何こうの問題じゃないだろ!むしろ風紀委員会として当たり前のことだ!』
『あっそ。こっちとしちゃ知ったこっちゃないけどね~』
それでも逃がすまいと睨み付け、何とか立ち上がろうとするイオリを嘲笑するように向き直ってケラケラ笑うヨシキは、そのままゲヘナを去って行った。
「なるほど、だからここ最近
「残念ながらその通りよ。無鉄砲に突っ込んでいい様にあしらわれて返り討ちにされるならまだマシな方で、
ヒナが語る風紀委員会の惨状を聞き、用意していたコーヒーに口をつけたマコトは、『S.H.A.R.K.S』のもたらす予期せぬ被害に、思わず天井を仰ぐ。元々依存レベルでヒナに一極集中していた風紀委員会の組織構造への対策として、少しずつでもヒナに頼らず解決できるよう脱却させるべく、風紀委員会の業務量を減らすため戦力としても事務方としても使える面々が複数いた『S.H.A.R.K.S』に分割して任せたはいいが、肝心の風紀委員会と衝突して余計な仕事を増やすようでは、本末転倒もいいところだ。
「だとしたら、多少は何とかしてもらわんとな。イブキのためにも、最悪校舎内で喫煙は控えてもらうか」
「以前から繰り返してた飲食店爆破の巻き添えを受けていた美食研究会はともかく、温泉開発部に関しては、プロモーションでカスミを叩き過ぎたせいで逆に活性化してる感じね。幸いなのは、彼女の指揮がなくて活動が散発的な分、一般の風紀委員でも容易に対処できてることだけど」
そうした問題活動が多い半面、マッチポンプも同然と言え、圧倒的な戦力でゲヘナに平穏を齎す『S.H.A.R.K.S』の存在に頭を悩ませるヒナも、幾らか温くなったコーヒーで喉を潤しながら、ひとまずの小康状態に安堵する。
「しかし、問題はアビドスだな。書類の紛失で、現在カイザーが有する砂漠地帯はそのまま保有が維持されているそうだが、そうなるとこれ以上の捜索は難しいか……」
「合わせてアビドスに返却されれば、まだ調査のための交渉も容易だったろうけど、相手がカイザーのままじゃ、それも厳しそうね……」
元々ヒナは、アビドス砂漠に放棄された『雷帝』の遺物の調査をしていたが、カイザーの敷地内への立ち入りに難航し、頭打ち状態になっていた。そのため今回の借金帳消しに追加で土地返却もあれば、アビドスを相手にまだ希望の見える交渉もできたところだが、生憎そちらは現状のままで、引き続き厳しい状態にあった。
「連中の手に渡るのもそれはそれで恐ろしいことだが、悩んでいても仕方あるまいか。とりあえず今は、『雷帝』の恐怖政治の反動とばかりに破綻していた治安を何とか持ち直した現状を、風紀委員会だけで維持できる様にせんとな。引き続き我々万魔殿も、裏から手を回そう」
「そうね。とりあえず次の夏季訓練は、ヒノム火山での演習を計画してるわ。せめて『S.H.A.R.K.S』相手に同数なら善戦できるくらいにはなってもらわないと」