捕鯨活動を主産業とするケートス水産高等学校と、それに抗議する
「ああウォルター。チャティからケートスに行くって聞いて、襲ってる『ジェリーフィッシュ』の奴等について、こっちでも少し調べといたよ。デモ活動を皮切りに、出港した捕鯨船にボートをぶつけて破壊しようだとか、結構過激な行動を繰り返しては、『S.H.A.R.K.S』に潰されてヴァルキューレに連行されているが、最近どこかで
「情報提供、感謝する。お前のおかげで、アイツ等が持っていた武装を問題なく使えるようになった。そう易々とは負けないだろう」
礼を述べたウォルターは、キヴォトスに来た際に若返ると共に、脚の不調も直ったはずだが、長年使い慣れたために未だ手放すことに不安が残る杖をつきながら乗り込むと、そのまま先に乗っていたハウンズと共に、ケートスへと向かう。
ケートスの校舎屋上。降下準備に入ったチヌークの誘導に動く生徒達とは別に、風を浴びながらその着陸を待つ者がいた。
「ケートス水産高等学校にようこそ、ウォルター先生。『トライトン』庶務の
「よろしくお願いするわ」
「よろしくお願いねー」
車椅子から立ち上がり、両手を広げて歓迎の意を示すのは、赤い髪とパーカーの『越織アドリ』。両脇を白のワイシャツに茶色のズボンとロングブーツの『貴田利テレオ』と、そこに焦げ茶の背広を羽織った『貴田利ヒスト』で固めているが、特にこちらを試す様な仕草はなく、あくまで日常的な習慣の1つに過ぎないようだ。
「それにしても、こちらについてくれたことは感謝しているけど、わざわざ赴いてくるとは思わなかったわね。D.U.のオフィスから静観してくれてれば御の字だったし、カズにもそのつもりと伝えてもらっていたはずだから、来訪の返答が来た時は、嬉しい誤算で急遽どうもてなすか臨時会議を開いて盛り上がったものよ」
「依頼を受けた以上、こちらには報酬を受け取る権利と、仕事をこなす義務が生じる。お前達は最悪不干渉を希望して送ったようだが、『ジェリーフィッシュ』の方は戦力に加わることを前提としていた以上、俺達はそれに判断を合わせただけだ」
「なるほど。ま、何はともあれ、ケートスの歴史と、今回の経緯を説明がてら、会長の元に案内するわ」
「元々ケートスの校舎は、オデュッセイア海洋高等学校って船団を校舎にしてる別の学校が、老朽化した船舶を解体するために用意した施設だったんだけど、船上生活の影響で、信心ってか迷信深い思想が強くて、その影響で船舶への愛着も一入でね。忌避感からほぼ懲罰某扱いで、送られた連中は、解体業務ほっぽり出して逃げ出す始末。だもんで無人化したとこに、度々先生も相手してるようなはぐれ者達が居着いたのを見たオデュッセイアの生徒会が、学籍を対価に取り込んで押し付け、実直にこなした功を認める形で独立したのが成り立ちなの。ちなみにオデュッセイアとは、独立した現在も引き続き交流が続いてて、養殖業の情報交換や、帰港した船舶の点検なんかしてるわ」
説明しながらエレベーターを降りてから、アドリが顔を向けた窓の先に広がる港湾部には、彼女が語る通り沖合に複数の養殖用筏が並んで浮かんでおり、その向こうには、いくつもの古びた船舶が寄せ集められていた。
「そうした活動の中で、まだ使えそうな船舶で沖に出て漁を始めてみたりもしたけど、中でも捕鯨業は割りがよくてね。校名や
その反対に目を向けると、大小問わず幾つもの鯨の骨格標本が展示されている。
「うちでは基本、余所への販売も含めた食肉が主用途で、骨格は学術的価値から、感謝と敬愛の意を込めて洗浄後、ああして展示してるんだけど、ちょうど間もなく捕鯨船が帰還するとこでね。よろしければ、もてなしに新鮮な鯨肉を調理して出しましょうか?」
「気持ちだけ受け取ろう。生憎ハウンズ達は、訳あって摂食を含めた日常的な活動に不便していてな。俺自身も、それを尻目に1人楽しむ趣味はない」
理由が理由とあってか、提案を断られても、「あら残念」と言葉に反して軽い反応のアドリだが、話しているうちに目的の部屋に到着したようで、車椅子を正面に向き直すと、スライド式の扉をノックし、中からの返答に合わせて開く。
「アドリから聞いてるとは思うけど、改めてこちらへの肩入れに飽き足らず、参戦のため来訪に感謝するわ。『トライトン』会長、
「同じく広報の琴兎耳カズアキです。私が依頼を送らせていただきましたが、対面では初ですね。どうぞお気軽に、カズとお呼びください」
室内にいたのは、アドリと似た赤いパーカーの上に青い背広を羽織り、髪と同じ赤い野球帽の『鷹芦ケイラ』と、連絡を送ってきた今回の
「既に見てもらったと思うけど、私達なりに命を奪ってきた鯨達や、そうした糧を恵んでくれる海洋への感謝と敬愛の念を後世に語り継いだり、恵みに対する返礼の活動はしてるつもりだけど、それさえもハンティングトロフィー扱いしてる辺り、『
「そうした意味では、良くも悪くも頃合いでしたね。帰港した捕鯨船を強引にでも撮影して、バッシングと共に拡散すれば、野次馬を釣っていい具合に騒乱を招けるでしょうから」
話題の捕鯨船を出迎えるべく港へ向かう道中、先程遠目に見えた骨格標本の展示場を通る中で、その中央に陣取る一際大きなマッコウクジラの骨格標本へ遠い目を向けていたケイラは、被っていた野球帽を脱ぎ、胸元に当てて目を閉じ、黙祷を捧げる。その横で胸に手を当て、同様に黙祷を捧げていたカズアキは、顔を上げると、予測した今回の『ジェリーフィッシュ』の目的を語る。そこに突如鳴り響く着信音に、野球帽を被り直したケイラが取り出した端末を操作する。
『こちらイシュメール号!「
「カズの懸念通りか……すぐそっち行く!安全を最優先に、早急に連中を片付けて!ごめん先生、少し急ぐわ!」
「おぉっと!それじゃ先生、また後程」
「2人とも、先生に肩を。案内しますので、こちらに」
警戒していたとはいえ、捕鯨船——『イシュメール号』から『ジェリーフィッシュ』の襲撃を受けたと報告を受け、アドリの車椅子を後ろから走らせるケイラ。カズアキも後を追い、残されたウォルターも、「失礼します」と左右から貴田利姉妹に肩を貸され、カズアキの誘導でハウンズを伴って続くと、幸い外に出る頃には既に片付いたようで、捕鯨船は無事接岸していた。
「ミレニアムに発注していた防衛用の砲台は配備出来たが、海側には船舶への誤射を危惧して向けなかったのが災いするとは……直ちに全『
船の無事を確認したケイラの号令に合わせ、周囲から発する起動音に顔を向けると、先程は見えなかった校舎屋上を始めとする複数の高所には、その発生源たる大型砲台、『
その矢先、今度は上空から響き渡るヘリコプターのローター音に目を向けると、先日の闇銀行襲撃には使われなかった『AS-12 AVES』を先頭に、ここ最近キヴォトス各地で散見されるようになった、アンバランスな縦長の機体横にローターが付いた『F17 FLAMINGO』が何機も現れ、それに守られるかの如く、下部に『Sz11 SPEER』や、『MT-E-104』を露天懸架した、胴体左右のコンテナブロックにローターを装着した、より大型のヘリコプター、『F21C STORK』が続くが、早くも目覚めたばかりの『
「武装ボートに大型兵器と、最近羽振りがよくなったとは思ってたけど、『RaD』のMTまで持ち出してくるとはね……尤も『RaD』は『S.C.H.A.L.E』と提携してるそうだから、大方余所に卸された奴だろうけど……とりあえず、攻撃終了次第全機機能停止!撃墜機のパイロットの有無を確認し、いれば見つけ次第捕縛を!」
『了解!』
単純な配備数の違いもあって、ルビコンの『ウォッチポイント・アルファ』で621が破壊した複合エネルギー砲台、『ネペンテス』以上とウォルターが錯覚する密度の弾幕を放った『
「レッドウィンターの工務部員ですか……使い捨ての兵力と見るには、随分と装備に恵まれてましたが、或いは自分達と同じく、数だけはいっちょ前なコイツ等を先遣のつもりで嗾けて、片付けれれば御の字ってところでしょうか。とりあえず、今回は何とかなりましたけど、連中のことですから、もうしばらく波状攻撃を仕掛けてくるでしょう。お手数おかけしますが、もうしばらくお付き合いお願いします、ウォルター先生」
「気にする必要はない。元よりそれが仕事のつもりだったからな」
今回だけでも十分大規模の戦闘だったが、『ジェリーフィッシュ』の侵攻はまだ続くらしい。ケイラに報告する『ROV』隊員達の姿から逸らした目線を、申し訳なさげに向けてくるカズアキに対し、むしろハウンズの出番があることを幸いとするウォルターは、何事もない様に返す。