ウォルターの『S.C.H.A.L.E』到着をもって、キヴォトスの混乱は沈静に向かった。リンが差し出したタブレット端末、『シッテムの箱』に搭載されていたメインシステムである『アロナ』と名乗る少女が、連邦生徒会長の失踪で機能しなくなっていた様々なシステムの権限をアッサリと掌握後、ウォルターの指示に従い連邦生徒会へ譲渡したためだ。
それを確認したリンがウォルターを連れてきたのは、『S.C.H.A.L.E』の部室。そのままリンの『S.C.H.A.L.E』に関する説明は続く。
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒達を「その必要はない。俺にはすでに、
しかしその途中、ウォルターは『S.C.H.A.L.E』の権限の1つを却下する。コードネームが『約束された勝利の象徴』とも称されるユウカの先輩や、その正義の鉄槌を浴びた者が『潰れた空き缶』とまで言われるハスミの友、そして生徒会長を差し置いて名が知られるチナツの上司と、その気になれば、キヴォトスでも有数の戦力となりうる生徒達を一極に従えることもできるというに、ウォルターはそうした実力者にまるで興味がない様子で、『ハウンズ』と呼ぶ、生気の感じられない白い肌と毛髪をした、見慣れぬ武装の生徒達を連れている。その異様さと、ウォルターがユウカ達とは違う目を向けていることにたじろいでいたところ、説明の続きを催促するように自身を眺めていることに気づいたリンは、軽く咳払いをして期待通りに進める。
「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり、何でも先生がやりたいことをやって良い……ということですね」
「何のために設立され、託された意味も不明な組織、か……随分と、俺に都合よく
もっともその内容は到底納得できるものではなかったようで、彼女なりの冗談に対しても、呆れ果てた様なため息を漏らすばかりで、反応はよろしくない。
「そうですね……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すために全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
「つまり、俺達にその尻拭いをしろ、と」
「……もしかしたら、時間が有り余っている『S.C.H.A.L.E』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。そのあたりに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。すべては、先生の自由ですので」
モモカの振舞いはもちろんのことだが、初対面からユウカ達をつけて『S.C.H.A.L.E』に送り付けた際、焦っていたと言え多少やらかしたとはリンも自覚があるものの、少なくとも、真正面から「やってられん」と
果たして彼と『S.C.H.A.L.E』の存在が、このキヴォトスに対する吉と出るか凶と出るかも気になるところだが、ウォルター自身も気にしている意図を尋ねるためにも、今はまず連邦生徒会長の捜索が第一と思考を切り替えたリンは、「では、失礼します」と切り上げて後にしようとしたところを呼び止められる。
「その前に、今も入り口前で周囲の警戒をしている
未知なる存在たる眼前の大人が放つ、言外に「それができん組織など到底信用に値しない」と語るような圧は、リンの軽口を封じ、それに従う事をどう表するか悩む間を作った。先程までとは一変した様子から、おそらくここで機嫌を損ねれば、それこそ先程の危惧が現実になりかねず、この部室が始業前に再度空き室になることだって起こり得る。
「わ、わかり、ました……手筈は、整えておきます……」
「それでいい。手伝わせた手前、こちらに回される分からも多少は出しておいていい。適正な額か確認するから、決まったら後で書類を送ってくれ。
幸い飾らない了承の返答に満足したのか、圧を霧散させ頷くウォルターに安堵したリンは、足早に部屋を後にする。
ウォルターが目覚めたキヴォトスの中枢にして、連邦生徒会の拠点でもある『サンクトゥムタワー』から『S.C.H.A.L.E』への道中は、ユウカ達の活躍で鎮静された。しかしそれ以外の周辺で未だに暴れ回っていたスケバン達は、別の勢力に掃討されていた。
「な、何だよアイツ……対戦車ライフルを、片手で……!?」
その1人が驚愕する通り、左手首のフックショットで跳躍した相手の右手に携えられた、保持者の身長を上回る巨大な得物は、本来なら地面に置き、伏せて撃つ前提の銃器。それをまるでユウカがサブマシンガンを扱うような手軽さで取り回すばかりか、射撃時の反動をも跳躍の補助に使い、器用に移動と回避をこなしながら、次々とスケバン達を仕留めていく。
やがてその場にいた全員が地に伏したのを確認し、青い長髪を一括りにしたポニーテールと前方を開いたコートを大きく靡かせながら、轟音と共に着地した下手人は、懐から取り出した葉巻を口に銜え、ジェットライターで着火すると、1度口から離し、煙を吹き出す。
『こちらドルフィン15。担当地区制圧完了です、
「おぉ、こっちも終わったわ。んじゃ、さっさと黙らした連中回収して、ズラかるか」
直後かかってきた遠方を任せた部下からの通信に応答すると、同伴していた部下達に倒したスケバンの回収を命じ、一足早く乗ってきたワンボックスカーに乗り込む。
「随分暴れたな。まだ2桁メンバーは実戦させるにゃ不安か?」
「戦う分にはいいが、今回はヴァルキューレんボンクラ連中が駆けつける前に、サッサと撤収しなきゃならんからな。その域とは言い難ぇよ」
直後馴れ馴れしい様子で話しかけてきた、ストレートロングの紫髪に『
「……ってぇなマコ……ぶつけんじゃねえよ……」
「あぁ、起こしたかシロナ。わりわり」
その拍子に銃口が頭に当たった、胸元を大きく広げたライダースーツの仲間に、サイバーサングラスの奥から睨まれるが、作戦中のコードネームではなく、本名で呼ばれた『
「お、ドルフィン15が収容完了だとよ。んじゃ、さっさと帰るか」
「おう、かっ飛ばしてくれよアギト」
やがて部下たちの報告を聞いた運転手、『
ちょっと前に他のメンバーと合わせて余所様に出演打診しといたけど、全員とはいかなかったものの先に出せてよかった・・・