─────デアリングタクト
私には愛しい人がいる。その人はとっても優しくて、暖かくて、私に永遠を誓ってくれた人。
「トレーナーさん、こんにちは」
目の前にいるトレーナーさんがその人だ。
「こんにちは。今日も調子は大丈夫そう?」
今日も惚れ惚れするほどカッコいいなあ。
「はい。問題ありません」
つい襲いたくなる衝動を必死に抑える。彼は私を信頼してくれているのだ。そういうことはするべきではない。
「それは良かった。ちなみに今日のトレーニングなんだけど、この間のあのトレーナーさんと合同になったけど大丈夫そう?」
「え、あっ……はい。問題ありませんよ」
またあの女か……最近私のトレーナーさんに付き纏っているあの女狐め……トレーナーさんに話しかけるどころか、あまつさえ私を使ってトレーナーさんに近づこうとしているのかもしれない。これはもしかしたら早めに対応しないといけない気がする。
「じゃあ、今日もそういう感じでよろしくね〜」
「はい」
─────
練習場を見渡す。青空と少し土臭いターフ。今日は良馬場のようだ。
「じゃ、よろしくお願いします」
「お願いします」
「お願いします……」
お互いに挨拶をし、トレーニングを始める。
─────
「よし、良いタイムだ。よくやった、凄いぞ!」
「ありがとうございます」
「あ、すいませんウチの娘のトレーニングについての相談があるんですけど─────」
会話に割って入られた。これはやっぱりすぐにでも対応しないといけないな。
─────
「よし、今日のトレーニングは終わり。おつかれ」
「お疲れ様でした……トレーナーさん。この後少しお時間よろしいですか?」
「え?もちろん大丈夫だけど」
「ありがとうございます。では少しついて来てもらえますか」
「? わかった」
トレーナー室にトレーナーさんを呼び込む。
「いったいどうしたの?」
鍵をかける。
「え?なんで鍵閉めたの?」
「トレーナーさんが……」
「はい?」
「トレーナーさんが全て悪いんですよ……私をこんなにも嫉妬させるから……」
トレーナーさんに壁ドンする。トレーナーさんは困惑しながら少し怯えた表情をする。それもまた可愛い。
「どういうこと?」
「私はこんなにもトレーナーさんのことが大好きなのに、トレーナーさんは他の娘に鼻を伸ばして……こうなったら私が教育して、私しか見れないようにします」
「へ?」
「いいですね?」
その後、とあるトレーナー室から悲鳴が聞こえるという証言が複数あったという。
─────ツルマルツヨシ
「大丈夫か?」
保健室のベッドで横になる。練習の途中で倒れて、トレーナーさんい運ばれた。
「はい……すいません」
私、いつもトレーナーさんに迷惑をかけている……トレーナーさんが頑張って考えてくれたトレーニングも、私の「事情」で台無しになってしまう。本当に申し訳ないな。
「すまない……」
「どうしてトレーナーさんが謝るんですか?謝るのはこっちの方ですよ」
「いや、だって君の体調を考慮できていなかった俺に全ての責任があるんだ。そうでなければ 君も辛い思いをしないのに……」
「トレーナーさん……いつも言ってますが、私のこの体質は生まれつきです。トレーナーさんが気に負うようなことではないですよ」
「……」
すこしトレーナーさんが落ち込む。その顔も可愛いな。
そうだ、すこしだけ悪戯をしてみようっと。
「……すいません」
「?」
「お願いがあるんですけど、その、頭を撫でてくれませんか?少し、辛くて……」
「わかった…………こういう感じでいいか?」
言った通り頭を撫でてくれる。
男性らしい、隆々とした手の感覚が頭にある。
「ありがとうございます……」
そのまま流れるように、トレーナーさんの手を取って、自分の頬に当てる。
「えっ」
「え?あっ……すいません」
「いいよ……」
トレーナーさんは赦してくれる。優しいな、トレーナーさん。……でもその優しさは私だけに向けてほしいな。
……やっぱり、今日で「アレ」をするしか無いのかもしれない。
「トレーナーさん」
「うん?」
「私のこと、どういう娘だって思っていますか?」
「え?それはもちろん大事な生徒だよ」
「それだけですか?」
「え?……そうだけど」
トレーナーさんはキョトンとする。
「私は……私は違います。確かにトレーナーさんは大事な人です」
「でも、私にはそれ以上の想いがあります……トレーナーさん」
「……」
「トレーナーさん。貴方が好きです。どうか付き合ってください」
こんな、保健室のベッドの横で告白するなんて、雰囲気もあったものではないけど、でも今しかないと思った。
「…………ごめん。俺は君をそういう目で見れない。それに俺と君でそういう関係になるのは危険だ」
「そんな事無いです」
「違うんだ。君は良いかもしれないけど、俺が許せないんだ」
「……」
「お互い、今日のことはなかったことにしよう。じゃあね」
トレーナーさんに振られてしまいました。私に今、悲しみとか辛さはありません。だってこれからが本番ですから。
「……?」
トレーナーさんの腕を掴む。
「駄目です」
「だから……」
ウマ娘のちからを使って自分の方に引き寄せる。トレーナーさんはバランスを崩して私に覆いかぶさるように倒れる。
「……離してくれ」
「いいですけど……今のこの二人の構図、撮らせていただきました」
隠して置いてあったスマホを手に取る。予め置いておいた。
「……俺は、どうすれば良い?」
暫く悩む顔をしてからトレーナーさんが言う。
「あら、話が早くて助かります」
私がこの写真を使ってトレーナーさんを操ろうとしていたのがすぐにバレてしまいました。
「……」
「簡単です。今から私と『楽しい時間』を過ごしましょうよ?」
「…………わかった。でもその前に一つ質問させてくれ」
「いいですよ」
私は制服のスカートのボタンを外しながら答える。
「いつから『これ』を想定していた?」
「そうですね……少なくとも今日のトレーニングでは既に決めていました」
「……そうか」
私はトレーナーさんに抱きつく。その先は……まあお察しの通りです。