ウマ娘短編集(ジャンル:愛が重馬場・掛かり) 作:のるどすとりーむ
さざなみの音に耳を傾ける。自分自身があまり海と縁がない人生を送ってきたから、海へ行くとやはりなんとも言えない特別感がある。
「トレーナーさん、こっちです」
サイレンススズカが俺の手を引っ張る。彼女も楽しそうにしている。
少し歩きづらい砂浜の上を歩く。……トレーニングに活用できそうだな。
……いやいや、駄目だ。今日は二人共休む日。その一環として今日は海に来たのだ。
思えば先週の月曜……
─────
「トレーナーさん」
「うん?」
「最近お仕事がんばり過ぎじゃないですか?目の下のクマ、スゴイですよ?」
「え?ああ、ありがとう。でも大丈夫だよ」
「だめです。ちゃんと休んでください」
「えー……そういう君も人のこと言えないよね?」
「ど、どういうことでしょうか?」
「オーバーワーク、少しづつタイムが落ちているのは、自主練習のし過ぎだよね?」
「……はい、そうです」
「だよね……まあ俺も休めてないからなあ……なんとも言えないどうにかして、休まな無いとなあ……」
「ならば一緒に海に行きませんか?」
「海?」
「はい。この辺では海が見れませんから」
「いいね、じゃあお互い休むためにその日はトレーニング、仕事禁止で休もうか」
「いいですね」
─────
二人揃って休んでいないのがお互い様なんて、少し不思議だ。
「あのー、すいません」
水着の女性二人に声をかけられる。
「はい?」
「お兄さん格好いいですね、お一人で来ているんですか?」
……なるほど、どうやら逆ナンの類のようだ。
「いえ、俺は」
「ラインとかやってないんすか?」
「何処かでお茶しませんか?ちょっとだけですよ〜」
「えっと……あの……」
「トレーナーさん!!」
スズカが向こうから駆けつけてくる。
「あら、彼女さんがいたんですか……それはすいません。ではこれで」
今明らかにトレーナーって言ってたのにどうしてこの人は俺たちをカップルだと思ったのだろうか?まあいい。
逆ナンの二人がそそくさと離れる。
「大丈夫ですか?なにか変なこととかされていないですか?」
「大丈夫。ありがとう」
「いえ……そんな……」
スズカが少し照れる。
「しっかし、俺たちのことをあの二人カップルか何かだと思っていたらしい。俺にはスズカが年の離れた妹だとしか思えないんだよな」
「むう……それは酷いですよトレーナーさん」
「ごめんごめん」
─────
「この後どうします?」
「そうだね……どうせなら泳いでみるか?」
念のため水着は持ってきている。
「いいですね、私も水着、持ってます」
「じゃあ、ココに集合で着替えてくるか」
「分かりました」
─────
集合場所で待つ。
着替えるのは俺のほうが早かったようだ。
「トレーナーさん、お待たせしました」
スズカが出てくる。水着姿を見る。
エメラルドグリーンを基調とした、落ち着いた印象を与える水着。なんというか彼女の雰囲気にベストマッチしている気がする。
「ど、どうですか?」
「うん、すごく似合ってるよ」
「良かったです……」
スズカが胸を撫で下ろす。
─────
暫く波の打ち際を歩く。足がとても涼しい。
「……トレーナーさん、そのコレでも私を『年の離れた妹』だと思いますか?」
おっと、まだ気にしていたようだ。
「……そんなことないよ。君は可愛らしい女性だよ」
「あ、ありがとうございます。……ちなみにそれって私を異性だと見てくれているんですか?」
何故か似たような質問が続く。
「まあ、見ていないといえば嘘になる、かな?」
少し気恥ずかしい。
「そうですか、そうですか……」
スズカが嬉しそうな顔をする。
暫く無言の時間が続いてから、スズカが話し始める。
「トレーナーさん。『セイレーン』ってご存知ですか?」
「え?『セイレーン』?名前は知っているけどあまりわからないな」
なんか欧州の伝説、だっけ?
「分かりました。……そのセイレーンというのは、人魚伝説の一つで、そのセイレーンから出る美しい声は、周りを通る船人を狂わせ、溺れさせたという伝説があるんですよ」
「へえー……」
「……私もトレーナーさんのセイレーンになりたいな」
ぼそっと、スズカがつぶやく。顔はそっぽを向いているから分からないが、多分照れているんじゃないか?
「はい?」
それより今この子なんて言った?俺が?セイレーン?
「トレーナーさん、こっちです」
腕を取られて、岩陰に連れ込まれる。なんか雰囲気が怪しくなってきたぞ?
「トレーナーさん、どうか、私に存分に溺れてください」
スル……とスズカが水着をはだけさせる。
「ちょっとまって!」
だめだ、展開に脳が追いつかない。
「私、さっきトレーナーさんがナンパされているのを見て決意したんです『トレーナーさんを私のものにする』って」
「はい!?」
どうやらさっきのアレが相当ショックだったらしい。
「大丈夫、俺はスズカだけにゾッコンだから、だから水着をちゃんと着て!」
「駄目でーす」
ゆっくりと俺に覆いかぶさってくる。
不敵な笑みを浮かべながら、俺と、ほぼゼロ距離のところでこう囁かれる。
「さ、トレーナーさん。私に魅了されていください」