オリ主がアビドスの借金を頑張って返そうとする話   作:タンペペン

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難産オブ難産

というか最近文章の書き方が急に分からなくなった中で無理やり書いたので結構酷いかも


ヒナちゃんを撫でてみたい

「───で、では、もし彼が目を覚ましたら私達に連絡して下さい、すぐに向かいますので……」

 

わかった、と救急医療部の看護士に向かって頷く。彼女は此方が話を聞いたことを確認すると、強張ったような表情をしながら足早に廊下を去っていった。

 

……取り敢えず、これで彼の入院に関するあれこれが一通り終わった。これから、彼には一週間程この病院に入院してもらう。勿論彼の入院の費用は私が負担することは前提として。

 

……本来なら、今回の事案は私は風紀委員の座から降ろされるべきものだった。混沌としたゲヘナの中で弱い立場にいる生徒の頼るべき警察のような役割を担っている風紀委員会の委員が、守るべき市民に銃を向けるなどあってはならない。そして、もしあの生徒が他の学校の自治区の生徒ならばその学校との関係悪化は避けられない事態になっていた。

 

今回は度重なる徹夜による判断力の低下が一因としてあったこと、私の戦力がゲヘナの治安維持には必要不可欠なこと……そして、彼がどの学校にも所属しておらず、外交問題に発展する恐れは無いだろうという事から、この事案は揉み消され私の責任は彼の入院費その他諸々を支払う事に留まった。

 

「…………ッ」

 

───そんな馬鹿な事があるか、と言いたかった。例え彼が何者であろうと私が彼を瀕死にまで追い込んだ事実は変わらない。事件を公にして私は罰を受けるべきだ、と。

 

……でも、そんな事をしたら風紀委員は信用を失う。弱い立場の者が縋れる心の最後の砦が失われる。風紀委員は、いつでも清く正しい正義の味方ではない。最大多数の最大幸福……誠実や嘘など関係なく、ゲヘナの生徒がより多くより安心できる方向を選ぶのが、私達の責務。

 

そう、分かってはいるけど───ッ

 

「……失礼する」

 

やりきれない、歯痒い思いをどうにか抑えつけて彼が入院している部屋のドアノブをガチャリと回す。

 

部屋の中はカーテンによって窓が覆われており、まだ昼間だと言うのに酷く薄暗かった。かろうじてカーテンの隙間から光が差し込んではいるが、それも微々たるもの。

 

……これも彼の存在を隠す為なのだろうか、と邪推してしまう。しかし、それに助けられてる時点で私も共犯なのだから、何も言う資格は無い。

 

「…………」

 

眠っている彼の側で椅子に腰掛ける。見れば、彼はスースーと規則的な寝息を立てて熟睡しており、起きる様子は無い。完全に昏睡しているようだ。

 

……彼を担当した氷室セナによると、彼の身体に付いた傷は、私自身が付けてしまった弾痕が右腿と左足に各々一つ、少し古い弾痕が左腕に一つ、肋骨数本の骨折、そして何故か全身の筋肉や関節が激しく損傷していて赤く腫れ上がっていたという。

 

ヘイローを持ちながらここまで身体が脆い生徒は初めて見ました、と彼女は驚いていた。彼の全身の筋肉と関節の損傷は、身体が脆い彼が私を止める為に身体的に恐ろしい程の無茶をしたということなのだろう。

 

「……私は……」

 

何て愚かなんだろう、と自分自身の醜態に怒りすら覚える。体調管理もなっておらず、勘違いで人を殺めかけ、肝心のカスミには逃げられ、委員会の仕事を増やし、挙句の果てには組織の権力によって罰から逃れる。こんな風紀委員があって良い筈がない。

 

……もし彼が起きたら、きっと彼は私の事を怒り、蔑み、罵るだろう。当然だ。許して欲しいとは言わない。だけど、他の仲間達は恨まないで欲しい。全部私の失敗なのだから、ぶつけるなら、私に。

 

「ごめん、なさい……!!どうか、恨むなら私だけにして───」

 

───お願いします、そう言いかけた時……ガクン、と視界が揺れる。

 

 

「───え?」

 

 

思わず彼が寝ているベッドに手を付いてしまう。

 

何だか瞼が酷く重い。

 

頭がまるで振り子のように四方八方に揺れる。

 

 

「まさ、か」

 

ここに来て必死に抑えてきた睡魔が一斉蜂起してきたのだろう……彼をここまで運んだその時から眠いなんて考えている暇が無かった。

 

───でも、何で今更……っ

 

心の中で恨み言を吐いてももうどうしようもない。思考力が加速度的に奪われていく。

 

そうしてどんどん鈍化していく思考の中、ただ一つの欲望が剥き出しになる。

それは──ただ寝たいという欲望。睡眠欲。

しかもその欲望も一筋縄ではなく──『出来れば暖かくてふかふかなベッド』で寝たいという大変贅沢なオマケ付きだ。

 

そして───私は気付いてしまう。

 

 

 

 

───すぐ側にベッド……ある……っ!!!

 

 

 

 

 

何という短絡的思考、さっきまでのあれこれは何処にいったのか。

最早、それがどんなベッドで誰が寝ている等を考えている余裕なんて無かった。もう私の視界も脳内もベッドで寝る事しか考えていなかった。それほどまでに私は限界だったのだ。

 

───おふとん、おふとんある……やっと、ねれる……!!

 

気付けば、私はベッドの暖かさと人肌の温もりに幸せを胸いっぱいに噛み締めながら彼のベッドの上で眠りに堕ちていた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

───朝。私は頭の上を流れる謎の感触によって目が覚めた。

 

……いや、もっと詳しく言えば頭の上から髪の毛を流れるように何かが触れる感触だ。その何かからは、落ち着くような温もりと優しさが感じられる。

 

さらり、さらりと、頭の上から髪の毛の先端まで。まるでめいっぱい広がる草原の中、穏やかに流れる小川のような暖かな温もりと優しさ。

 

正直、このままだとまた寝てしまうのではと無意識に思ってしまう程気持ちよかった。が、私はここでこの感覚の正体に気付く。

 

───これ、撫でられてるんじゃ……?

 

 

そう気づいた瞬間、反射的にその感覚のする方向、つまり反対側を向く。

 

 

「ファッ!?起きてっ……!?」

 

 

……そこには、両腕を宙に浮かしたまま驚いた表情をして固まっている私が怪我をさせてしまった彼がいた。

 

───えっ?……あっ……!!!

 

微睡みの中ぽかぽかしてまるでお花畑だった脳内が現実を認識して急速に冷えてゆく。

 

───そういえば、私は睡魔に負けて彼のベッドで……っ!!!

 

確か、昨晩私は彼の病室に来て自己満足の謝罪をした後に強烈な睡魔に襲われて兎に角ふかふかなベッドで寝たいからと彼のベッドに潜り込んでしまった……我ながら頭がどうかしている。

 

「えっと、その──

 

 

「すっ、すいませんでしたぁぁぁっ!!」

 

──っ!?」

 

自分が謝罪しようとした矢先に、先手必勝と言わんばかりの彼からの謝罪の言葉。

 

どういうこと……?と完全に予想外の反応に一瞬布団から出るのも忘れて硬直する。すると、いつの間にか彼はベッドの上で綺麗な土下座を見せていた。訳が分からない。

 

 

「い、いや謝るのはわた───「許して下さい……出来心だったんです……」え、いや、あの……えっと……」

 

───駄目だ、思考が追い付かない。

 

彼はいつから起きてた?

 

何故私がベッドに居ることを受け入れている?

 

さっきまで私を撫でていたのは何?

 

何故特に私に怒りもせずむしろ謝っているの?

 

そもそも私は何時間寝ていた?

 

 

疑問符ばかり浮かぶ現実に、私はただどうすることも出来ずに困惑するだけだった。

 

 

───数秒後、やっと彼が謝っている理由を理解できた。

 

「もしかして、私の頭を撫でてた事を謝っているの……?」

 

「……そ、そうです……はい……」

 

「……どうして」

 

「……へ?」

 

「どうして撫でたの……?」

 

「えっと、いやその……ね、寝顔が、可愛いなと……それに目に濃い隈が出来ててお疲れ様の意味も込めて、その、勝手に撫でちゃいました……許して下さいなんでもしますから……訴訟は勘弁して下さい……」

 

 

「……え」

 

───可愛い?お疲れ様?

 

 

彼の口から飛び出してきたその二つの言葉。一瞬耳がおかしくなったのか、それとも聞き間違いなのか。でも、耳がこんな一瞬だけおかしくなる訳ないだろうし、はっきり聞こえたから聞き間違いも無い。

 

「……なん、で?貴方は私に酷い目に遭わされた事なんて分かってる筈なのに、なんでお疲れ様なんて言えるの……?それに、か、可愛いって、何?なんで……?」

 

予想していた言葉とあまりにも違うその二つの言葉に、思わず片言になりながら問う。思えば、私を撫でている時点で彼が私に悪い印象を持っている筈がないのは分かる筈だが、その時はそれに気付けない程困惑していた。

 

「……確かにアレは本当に理不尽だと思いましたよ?なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだって。後遺症だって残るかもしれない。僕にはやらなきゃいけない事が山ほどあるのに、それが叶わないかもしれない。」

 

土下座から体勢を変え、少し顔を俯かせながら彼は淡々とそう言った。話してる内容は私への怒りの筈なのに、何故か彼からは怒りの感情を感じない。

 

「……なら、なんで」

 

「いやまぁだってヒナさんはまだ僕と同じ高校一年生じゃないですか。間違いなんてあって当然です。」

 

まぁやっていい間違いの範疇は超えてますけど、と彼は少し苦笑しながら顔をあげる。

 

「あんな量の隈が浮かぶ程徹夜してたら例え大人でもそら判断力致命的なまでに低下しますって。だからって判断ミスをしても良いなんて言うつもりは毛頭ないですけど、やっぱしょうがない部分はありますよ。」

 

僕がそんな状態だったら絶対ミスする自信があります、と少し自虐的に彼は笑った。

 

「…………」

 

「あと僕の身体ヘイローあるのに異常な位脆いですし、まさか貴女もこんな弾丸数発で瀕死になるような紙装甲だとは思わなかったでしょう?その代償としてあの一時的身体能力の向上させる機能を手に入れたんですけどね。」

 

あの時ヘイローが赤く染まっていたのはそういう機能だったのか……しかし、何となくアレはあまり性質の良いモノでは無い気がしてならない。

 

「……それでもまだ思う所が無い訳ではないですけど、紛らわしい事をした僕にも一応非はありますし、貴女が病院まで運んでくれて結果今生きてる訳ですし、貴女も反省していて、賠償金もたんまり貰えて───待って、賠償金ってどの位貰えます?」

 

少し焦ったような表情で彼が前のめりに私の顔に顔を寄せる。あまりに急に近付いてきたのもあって少し緊張気味になるのは不可抗力だと自分に言い聞かせる。

 

「……300万円」

 

「おお、結構貰えるみたいですね!!業務上過失致死未遂……ですかね?にしては結構破格な額じゃないですか。まぁ色々裏の事情があるみたいですけど、これ以上を求めるつもりは僕はありません。」

 

僕だって貴女に銃口を向けましたから、と彼は少し申し訳なさそうに俯く。

 

「まあ、求めるとしたら貴女の休みですかね。休みが無かったからこんな事案が発生した訳ですから。外部の人間である僕が言うのも何ですけど貴女は良く頑張っている。頑張り過ぎなんです。」

 

そう言って私の目を見つめる彼。何故だか心臓の鼓動が鳴り止まない。どういう事なのだろう。

 

「───えー、長々と喋ってしまいましたが、取り敢えずお願いします僕を訴えないで下さいいくら僕を嫌っても良いです本当にお願いしますっ!!!」

 

そういえばそんな話だった。すっかり忘れていた。さっきまで普通に座っていた彼がいつの間にか土下座の体勢に変わっている。

 

「……別に、私は貴方を訴えるつもりなんて毛頭無い。勝手に潜り込んだ私が悪いし、それに……」

 

「それに?」

 

「……なんでもない。」

 

「そうですか、許してくれてありがとうございます……!!本当にすいませんでしたぁっ……!!以後しないよう気を付けます……」

 

 

以後しない……?もう撫でて貰えないということ……?ちょっと気持ちよかったから、それは…少し嫌……

 

「……そこまでは言ってない」

 

「え……いやっ、でも……」

 

「そこまでは言ってないから……」

 

「……わ、わかり……ました……?」

 

「あと、敬語ももうしなくて良い」

 

「え、えぇ……?」

 

 

────────────────────

 

「……そうそう、一つ、貴女にお願いがありま……ある」

 

「……何?」

 

「僕は貴女の業務の負担の半分は生徒の鎮圧だと思ってるから、僕が貴女の代わりに鎮圧に向かえば、貴女の負担も減るんじゃないかって。勿論無料じゃないけどね。」

 

彼の目が怪しく光る。なんだか鬼怒川カスミと同じようなナニカを感じてしょうがない。

 

「そうだな……鎮圧一回五十万円とかでどう?勿論賞金首の報酬金は僕が頂くけど」

 

……ぼったくり、と言えなくもない絶妙な金額。まあ確かに彼は徹夜明けとはいえ私の額に銃口を突き付けられる程の実力を持ったキヴォトスの中でも数少ない強者。こちらとしても抑止力が私以外に欲しかった点からも、この取り引きは魅力的だと言える。

 

「……分かった。報酬金は手渡しで良いの?」

 

「ああ、僕は銀行口座持ってないからそうしてくれると助かる。じゃ、契約書にサイン頼む。」

 

いつの間にか彼が持っていた契約書に自分の名前を書き込む。……つまり、私は五十万円で彼を鎮圧という名目でいつでも呼べるということか。鎮圧の定義がちゃんと契約書に書かれていない所に彼の詰めの甘さを感じる。

 

……その時、極めて重要な事に気付いた。

 

「……そういえば、貴方の名前を聞いてなかった」

 

「あっ……そういえばそうかも……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「……えっと、僕の名前は黒江クロだ!!これからよろしく!!」

 

「じゃあ私も……ゲヘナ風紀委員空崎ヒナ。これからよろしくね」

 

 

なんとも締まらない空気になってしまった。まぁ、たまにはこんなのも良いかもしれない。

 

 

 

 

 




さて、一週間何も言わずにホシノとユメを放置する事になったクロ君の末路は如何に

というか早く黒服出したい

男先生か女先生、どっちがいい?

  • 女先生
  • 男先生

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