『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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16:物件探し

 ウエストルの都では、今、大規模な引越し作戦が行われようとしていた。

 

 都には現在、2万人を超すプレイヤーで溢れかえり、更にプレイヤー数は現在も増え続けている。

 都に住まう国王から出された打開案は、昴の書いた「張り紙」の内容に手違いのせいで、呆気なくプレイヤー間の「決定事項」として広がり、現在は引越し先の候補探しで沸きあがっていた。

本来、あの「張り紙」では、「どうするか決めましょう」という内容になるはずだったのだ。

 

「ったく、どうしてこうなったんだよ?」

「すみませんすみませんすみませんすみません」

「あーぁ……まぁ引越し自体はある意味決定してたようなもんだから、いいんだがなぁー……」

 

 カイザーは暫くクドクドと昴といじったりしたが、国王からの打開案以外に解決策もなく、プレイヤー側もギルドルームの一歩外を出ると、まるで人間ゴキブリホイホイ|(いっくん命名)状態な現状を体感しているのもあり、引越しに関しては賛成だった。

 

「とりあえず、てめーには責任持って引越し先探しをやってもらうからな?」

「引越し先探し?」

 

 カイザーはサブマスのクリストファに目で合図を送ると、クリストファは1枚の地図を持ってきてテーブルに広げた。

 

「国王から話のあった砦と城だが……自由に使っていいっつーのはここと、これと、これだ」

 

 カイザーは広げられた地図に既に印が付けられた箇所を指差した。

 今、「クリムゾンナイト」の一室にはカイザーを初め数人のギルドメンバーと、昴、いっくん、カミーラ、餡コロ、そしてアーディンが居た。

ニャモはパール・ウェストからやってくる残りのギルドメンバーと合流する為、宿屋で待機している。

 

「なんだか微妙な距離ねぇー」

「くっつくな!」

 

 カミーラは逞しい肉体を、これでもかっという位カイザーへ密着させていた。

 

「あらぁー、だって他の人の場所だって必要でしょー?少しぐらいくっついてないと皆が見えないじゃなぁいー」

「…………」

 

 そんな二人のやりとりを無視して、クリストファが話を進める。

 

「3つのうち、砦がここと、ここ。お城はこれです。砦とお城の違いについては『城下町があるかないか』だけですね。要は規模の違いです」

 

 可能であれば少しでも規模の大きな城が好ましいところだ。都合よく、砦のうち1つは城の近くにある。ただ、この配置だと城攻め中に砦から確実に援軍が出てくるのは予想できた。

 

「敵の規模がどの程度かさぐる必要があります。もし両方にレイドボスが存在して、両方の適正レベルが80を超えている場合にはいろいろと考え直す必要もありますから」

「んで、俺達はその為の偵察に行けばいいってことか?」

 

 クリストファはいっくんの質問に頷いて答えた。

 

「俺達は2箇所同時戦闘に向けて、全体的なスキル向上を図る必要があるから、他ギルドと連携して技を磨く事にした。ギルド未所属の連中の面倒もみなきゃならんしな」

「昴さんたちには、ここの砦を調べてほしいのです」

「わかりました。俺達で敵の情報を探ってきます」

「隊長! 敵の情報をメモする真っ白な紙がほしぃです!!」

「……アーディンさん……もう、それは言わないでください」

「っぷひ」

 

 こうして昴たち一行は、ウエストルの都から東に数日行った砦へと向かう事になった。

 

 

 

 旅支度を整える為、昴らが宿屋へと戻った時、部屋にはニャモ以外に数人が入室していた。

 昴がパール・ウェストで会ったエクソシストのクリフトの他、プリーストの桃太。吟遊詩人(バード)(ライト)の三人。

 

「おかえりなさい皆さん! やっと合流できましたぁー」

 

 桃太は、柴犬がベースとなった獣人族(アニフィン)。月は半獣人(リーフィン)で、黒い耳に、長い白黒模様の尻尾を持った「ワオキツネザル」というサルがベースになった女性だ。

エクソシストのクリフトはエルフ男性。知的でクール……を装ったうんちく好きである。

 

「こんだけしかログインしてなかったのか? 意外と少なかったんだな」

 

 昴は揃った「元」ギルドメンバーを見渡した。どこか懐かしい気分にもなる。思えば随分と勢いで脱退したものだと……そして思い出したくない光景がフラッシュバックされる。

無駄に脂肪のついた、女装獣人男。

 昴は顔色を悪くすると、吐き気を抑えるような仕草で口を押さえると、それをアーディンに見られ「マズい!」と思ったのだが、既に遅かった。

 

「つわりか!?」

「違います!!」

「何!? 昴おめでたなのか? 相手は誰だ!?」

「おいクリフト! お前まで一緒になってんじゃねーよ!」

「……そうか、すまん。いろいろとな。うん、いろいろと」

 

 クリフトにとって、これが昴へ対する謝罪の言葉となった。昴はそれを察して何事もなかったかのように振舞った。

 ここ数日の出来事で、パール・ウェストでの件がバカらしく思えていたからだ。といっても、ミルキィーに関しては許すつもりはなかったが。

 

「あー……例の男はどうしたんだ?」

「あー、いろいろと白状させてたら余罪がどんどん出てきてな。つい……殴った。そしたら捨てセリフ吐いてギルドを抜けて行ったよ」

「ぶっ! 殴ったのか……すげーな」

 

 クリフトはニコリと笑うと「どういたしまして」と返事を送った。

 

「んで、わたしら着いたばっかりで状況を飲み込めないんだけど~。知らない子が二人いるようだし」

 

 月が間に割って入って説明を求めた。ニャモがこれまでの事を話す前に昴たちが戻って来たという訳だ。

 

「あんまり時間を取れないんだけど、とりあえず簡単に説明するな」

 

 昴はレイソ戦のこと、夢の話は三人も見ているだろうから簡単に流し、今は都を離れてプレイヤーだけの拠点を作る為に、拠点候補地を調査しにいく事を告げた。

 

「レイド戦!? そんなぁーずるいですよぉー。ボクも参加したかったぁー」

 

 人懐っこい性格の桃太が、真っ黒な瞳を昴に向けて訴えた。豆柴と影で言われている桃太は、その辺の女の子よりも愛くるしく、女性プレイヤーからはよく可愛がられていた。

 

「何かいいもの出たの?」

「俺の腕を見てくれ!!」

 

 いっくんは月の言葉を待ってましたと言わんばかりに、自慢の装備を見せ付けた。

 

「「「おおおおおぉぉ!」」」

 

 三人は始めてみる、生のレイドボス産装備を前にして、目を輝かせた。

 

「ふははははははは! そんなものよりも更にレアアイテムがあるぞ!」

「もういいです、アーディンさん……もう穿らないでください」

 

 いっくんの装備を珍しそうに見る三人に、アーディンがここぞとばかり昴の「レアアイテム」をいじろうとする。

昴は最後まで言われる前に、自分で「奥義書」を出した。

 

「出たんだけどな……この通り、真っ白なんだ」

「「「おおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」

 

 三人はいっくんのガントレットを見たときよりも遥かに大きな声で驚いた。取り出された真っ白は巻物を凝視して。

 

 

 

「じゃ、明日に備えて俺達は休ませて貰うよ」

「あぁ、旅支度は俺らでやっておくから、ゆっくりな」

 

 東の砦の話を聞いた三人は、先のレイド戦に参加できなかった事を妬んだのもあり、同行することを決めた。昴たちにしても回復食が二人、戦闘支援兼攻撃職が一人加われば、これからの戦闘がかなり楽になるので歓迎した。

アーディンが回復職が増えるならと同行を辞退したが、クリフトも桃太も、実はまだスキルの使用方法を知らず、結局のところは当面はアーディン頼みとなった。

 

「私は他人をこき使うのが好きなのであって、こき使われるのは嫌いなのだが……」

「やだぁー、そんな事言わないでよ。あたしたち、アーディンさんが居なきゃ死んじゃうわぁー」

「んむ。そうか。子猫ちゃんがそう言うなら致し方あるまい。さぁ、皆の者!私をあがめ奉れ!」

「きゃー! イ・ケ・メ・ン!」

 

 カミーラは「子猫ちゃん」と呼んでくれることに歓喜し、アーディンは頼られて調子に乗っている。昴たちはこの光景から距離を取りながら、買出しを進めた。

 

「ざっと2週間ってところだよな?」

「そだね、地図で見てもいまいち距離感わからないけど、私達がパール・ウェストから都まで普通に歩いて3日掛かったし、地図上でその距離を見ると、東の砦までの日数が5日掛かるかな?」

「往復で10日。偵察にどのくらい掛かるかわからないけど、2~3日は観察したいところだろ?」

「えへへ~遠足みたいですね~」

「いや、ぜんぜん違うからね。餡コロちゃん」

 

 昴といっくん、ニャモの三人が必要なアイテムをリストアップする中、餡コロは陽気な気分で店の商品を眺めていた。

状況把握がいまいち出来ていない様子だ。しかし、ここ数日行動を共にするうちに、全員一致で「この子はひとりにさせておくと危ない」という結論が出ている。

当然、東の砦へも同行してもらっている。

 

「ちょっと貴方たち! あたしたちを無視しないでくれる?」

「そうだとも! あと食料に関しては3日分程度にしておけ」

 

 ぶいぶい言いながらカミーラとアーディンの二人が割り込んでくる。カミーラは単眼鏡を手に持っている。ふざけていてもしっかり必要な物を物色していたのだった。

 食料のほうは、道中には地図にない村もあるので、そこで購入する事も出来るとアーディンは言った。

 

(アーディンさん、随分この世界のこと詳しいよな……命(メイ)さんの話でも気になる事を言っていたし)

 

―「やだぁ~。アーちんもチート装備持ってるのね。そうよね、アーちんも「選ばれた」プレイヤーだったんだもんね」―

 

(選ばれた……誰に?)

 

 昴は疑問を胸にしまい込むと、集めた品物をカウンターへと運び支払いを済ませる。何故か支払いは、昴の懐から全額出す事になった。

 

「アーディンさん、最古参プレイヤーなら相当蓄えあるんじゃないですか? レア装備満載だし」

 

 昴は憤然とした態度でアーディンに掛け合ったが――

 

「……私のレア装備はほとんどが自力で拾ったものだ。そして金は……」

 

 ビシッ!っと天を指差して答える。

 

「引退イベント賞金に使ってしまったから、手持ちは1000ゴールドだ!!!」

「「「「すくなっ!!」」

 

 レベル20程度のプレイヤーでも同額は持っているだろう。そんな金額しかアーディンは所持していなかった。

 

「はぁ……とりあえず食料以外は揃ったから、あとは出発前に買い揃えよう。少しでも新鮮なものを買っておきたいし」

「うぃーっす!」

 

 

 

 翌朝、ウエストルの都の門前では、昴たち以外にも数PTが集まっていた。それぞれ東の城塞と、もうひとつの砦への偵察PTであり、更にそれら周辺地域の偵察を目的としたPTである。

 PT構成は「クリムゾンナイト」以外のギルドからの参加者が多かった。前回のレイド戦で出し抜かれた他大手ギルドが、こぞって出てきたとう所だろう。

 見送り組みの数も相当なものだった。

 

「よし! 皆、頼んだぞ!!」

「「おおぉー!!」」

 

 100人近い人数が、一斉に拳を上げて号令に答えた。

 昴たちは東に向かって歩き出す。

 

 

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