『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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20:奥義

 部屋の奥にある棚に置かれたカバンから漏れ出す光によって、モンスターたちは視界を遮られ身悶えた。

 餡コロの体を掴んだモンスターの腕から力が失われると、床に倒れこむようにして餡コロが開放された。

 

「カバンが……光ってる?」

 

 光源を突き止めた昴は、開放された餡コロへと駆け寄ると、彼女の手を取って部屋の奥へと走る。

 

「餡コロさん、こっち!」

 

 昴と餡コロは棚に置かれたカバンを手に取ると、不思議とカバンの中からあの巻物が姿を現した。

 眩しいはずの光も、二人にはまったく感じさせず、モンスターたちのみが光を避けて部屋から出ようともがいていた。

 

「昴さん……これは?」

 

 光は「奥義書」から発せられていた。

 

「『奥義書』が……光ってる……綺麗」

 

 昴が手にした「奥義書」を見つめ、餡コロが体の痛みも忘れて呟いた。

 

 「奥義書」の紐を解くと、それまで無かった物がそこにはあった。

 ―文字―

 昴が望んでいたものが浮かび上がる。

 

「これは!? もしかして『奥義』なのか!?」

 

 のんびり見ている暇は無い。

 紐を解かれた「奥義書」は突然光を失う。光から逃れようとしていたモンスターたちも、我に返ったかのように再び昴らへと迫ってきた。

 

「クルセイダーディフェスト?」

 

 昴がいちかばちかで発した言葉は、「奥義書」に浮かび上がったスキル名。

 その瞬間、昴の体から溢れんばかりの力が満ちていった。同時に、昴自身の体が淡く輝く。

 

「は、発動した!?」

 

 昴の言葉とほぼ同時にモンスターからの攻撃が入る。条件反射で身構えた昴は、予想したものよりも遥かに軽い打撃に安堵した。

 

「効果はなんですか?」

「えっと……うわっ!」

 

 餡コロの言葉で思い出した昴は、再び巻物を手に取ろうとしたが、矢継ぎ早に繰り出される敵の攻撃を交すか受けるので精一杯な状態だった。

 辛うじて拾い上げた巻物を餡コロへと放り投げると、壁に立てられた自らの武器と盾を装備する。

 

「餡コロさん、『奥義書』読んで!」

「え? は、はい! えっと……」

 

 投げられた巻物を上手くキャッチできなかった餡コロは、床に転がった巻物の前に座り込むと、書かれた内容を声に出して読み始めた。

 

 クルセイダーデイフェスト

 スキル効果、一定時間、使用者のHPを+200%。防御力を+300%。毎秒HPを500回復。効果中は5秒毎にヘイト増。効果時間は5分間。

 

「……防御300%!? なんだよこのチートスキル」

 

 先ほどの敵からの攻撃が軽く感じられたのは、奥義発動による効果だった。

 更には何もしなくても勝手にヘイトが貯まっていく為、先ほど餡コロを捕まえていたモンスターも既に昴へとターゲットが変更されていた。

 

(でも、これなら餡コロさんを護れる!)

 

「餡コロさん、5分間が勝負だ! 自分の杖を装備してから敵に『ドレイン』を掛けてHPを回復するんだ。それから『チャーム』を使って逃げるぞ!」

「はい!」

 

 餡コロは近くにあった自分の杖を握りなおすと、大事そうにスプーンをポケットへとしまい込んだ。

 失ったHPを回復させるべく、敵に「ドレイン」のスキルを使ってHPを吸収していく。

 スキルの持続効果中に三人の武器をカバンに直し込むと、カバンのほうは肩から掛けて持ち出す準備を整えた。杖を握った右手はいつでも動かせるようにしている。

 

 餡コロの「チャーム」が中ボス以外に掛かると、昴は中ボスを抱えたまま部屋を脱出した。

 

「走り抜けよう! 敵は俺が抱えるから、餡コロさんはカバンを持って後ろから付いてきて!」

 

 来た道を戻る間にも、十数匹のモンスターと遭遇することになったが、ある程度数が溜まると餡コロの「チャーム」で放置し、最終的に地下の牢獄まで付いて来たのは中ボス一匹だった。

 

「昴!?」

「ちょ!? 何そいつ!!」

 

 階段上から聞こえた騒ぎに、ニャモと月、桃太の三人は牢屋の扉を開けて出てきていた。

 昴と餡コロの後ろから、2Mを超える人型のモンスターが追いかけてきているのを目にすると、慌てて牢屋の扉を開けて中に逃げ込もうとした。

 

「中ボスだ! 『チャーム』が効かないから仕方なく持ってきた!」

 

 昴は閉められる前に扉を鷲掴みすると、直ぐ後ろから走ってきた餡コロがそれぞれの荷物を渡して行く。

 

「っていうか、昴さん、その光は?」

 

 桃太が自分のカバンを受け取り、肩から下げると、気になる昴の輝きについて尋ねた。

 

「奥義だよ! 兎に角こいつ倒すのを優先してくれよ!」

 

 奥義の効果時間はほとんど残っていなかった。

 中ボスに「挑発」を入れた瞬間、昴の体から光が消え去る。

 とたんに敵から受けるダメージが重くなったが、桃太の支援が施され、戦闘態勢が整う。

 

 狭い通路での戦闘は数分続いた。

 ここに到着するまでにかなりのヘイトを稼いでいた昴が、ヘイトスキルを一切使わず全力で攻撃に周ったのもあって、あまり時間を掛けずに倒す事ができた。

 

「はぁはぁ、なんとか倒せた……」

 

 全MPを攻撃に使った昴は、肩で息を切らせながら四散していくモンスターの煙を見つめた。

 餡コロはMP残量の少ないメンバーに「ソウルドレイン」でMPを分け与えると、桃太が「ソウルドレイン」で失った餡コロのHPを回復してやる。

 

「こんなとき、レベルが高くてよかったわって思うわ」

「あっはは~ 言えてる言えてる」

 

 一番レベルの低い桃太ですらレベルは77ある。

 ゲームと違う実際の戦闘に不慣れな所は多々あるものの、そこはレベル差によって補う事ができた。

 

「今の騒ぎで流石にバレてますよね」

 

 桃太が餡コロへの回復を終わらせると、階段上を気にして口を開いた。

 

「だろうなー」

 

 腕組みをした昴は、桃太が見つめる階段のほうへ自分の視線を送った。

 まだ敵の気配は無いが、中ボスを倒したのだからそのうちバレるだろう。

 

「中ボスのレベルが68だったし、レイドボスのほうも70から75ぐらいじゃない?」

 

 ニャモが倒した中ボスのドロップ品を拾いながら、戦闘前にUIで確認した中ボスのレベルを皆に報告する。

 直接レイドボスを見てレベルを確認できれば、それに越した事は無いが、事実上それは無理な話だ。

 しかし、ゲーム時代の仕様に近いこの世界ならば、砦内のモンスターよりレベルが+10から15ほどされると考えれば……

 

「今まで見た中ボスさん以外のモンスターは、レベルは60前後でした」

 

 餡コロがこれまでに見たモンスターのレベルを思い出す。

 スキルを使用する際に、対象の名前とレベルが表示されるのでUIで確認しなくても解ったのだ。

 

「砦の大きさとかはさ、外から見た感じで十分検討付くし、レイドボスは見て無いけど、今ある情報でいいんじゃない?」

 

 ニャモがこれ以上の滞在は無意味だと提案した。

 

「だな。桃太、帰還魔法頼む」

「はい。あ、でも外のメンバーとの連絡は?」

 

 杖を掲げようとした桃太が、外で待っている四人の事を気に掛ける。

 

「戻ってからギルチャで連絡すればいいんじゃない?」

「そうか、ついギルドチャットの事を忘れてしまいますね」

 

 桃太の心配はニャモの言葉で簡単に掻き消えた。

 ゲームであった頃には、キーボードのキーを押すだけで簡単にチャット設定が変更できていたが、この世界ではキーボードが無い為それが出来ない。

 いくつかのチャットはこの世界との兼ね合いなのか、使用すらできなくなっている。

 

「なんかもう、ゲームっていう感覚が薄くなってるっちゃね~」

「まぁ、元ゲーム、今現実。だからね~」

 

 ニャモと月が苦笑い交じりにそう話した。

 そんな二人の後ろで餡コロが、ポケットに仕舞い込んだスプーンを取り出して、スプーン相手に声を掛けはじめる。

 

「えへへ。ありがとうスプーンさん」

 

 スプーンに向かってお辞儀をする餡コロに、月がおそるおそる声を掛けた。

 

「ところで餡コロちゃん……そのスプーンいつからポケットにいれとったん?」

「え! ……その……可愛くってつい……出発前に買っちゃったんです」

「マイ・スプーンなのね……」

「はい! エリマキトカゲさんみたいな形のがついてて可愛いんです!」

 

 スプーンの柄の先端には、まさにエリマキトカゲ似の飾りが付いており、多少コミカルな形にはされているが、どう見ても「可愛い」とは思えない品物だ。

 餡コロが必死にその可愛さを訴えるが、月には到底理解する事が出来ず思わず一歩後ずさった。

 

「……そ、そう……」

 

 月は助けを求めるように桃太へと視線を向けた。それを見た桃太がくすくすと笑うと、全員を見渡して合図を送り杖を掲げる。

 

「じゃー行きますよ!『聖堂帰還』」

 

 

 

 昴らが無事にウエストルの都にある大聖堂へと戻ってくると、ニャモがギルドチャットを使って、砦近くで待機しているであろうメンバーへと帰還の連絡を入れた。

 程なくしてそのメンバーも大聖堂へと現れる。

 

「何!? スプーンでスキルが使えただと!?」

 

 アーディンやクリフトが顔を合わせるなり説教を始めたが、月が話題を逸らす為に餡コロのスプーンマジックの話をすると、アーディンが嬉々として食いついてきた。

 餡コロも例のマイスプーンを披露すると、更にアーディンが詰め寄った。

 

「こ、これは!?」

「えへへぇ~。可愛いでしょ?」

 

 餡コロの手に握られたスプーンを凝視したアーディンが、じわじわと餡コロのほうへにじり寄っていく。

 

(いや、絶対可愛くないっちゃ。トカゲが可愛いって思えるのは餡コロちゃんだけっちゃ)

 

 月は心の中でこう呟いた。

 たまに物好きがいるのは解っているが、それほど多いとは思えなかったのだ。

 しかし、現実は意外とそうでもないようで……

 

「可愛いぃいぃ~~~~!」

 

 突然アーディンが黄色い声をあげて、餡コロのスプーンを彼女の手のひらごとガッツリと握り締めた。

 

「「え!?」」

 

 その光景に全員の視線が釘付けになる。

 キラキラと輝く瞳で、アーディンと餡コロはトカゲのスプーンを見つめていた。

 

「これ、どうしたん? どこで買ったの~!?」

「この町のお店ですよ~。今度一緒に行きますか?」

「行く! 絶対行くぅぅぅ~」

 

 いつものわざとらしいイケメン口調が消え去り、完全に素の会話になっていたアーディンを、全員が額に汗を滲ませながら凝視する。

 

「……アーディンさんが……」

「乙女になった……」

「なんでトカゲで反応するの?」

「やぁぁん。イケメンが普通の女の子になってるぅ」

 

 それぞれが思い思いの事を口にしつつ、まるでそこにだけお花畑が現れたようなアーディンと餡コロの様子を生暖かく見守った。

 

「「トカゲ可愛いぃ~♪」」

 

 二人の声が大聖堂に響き渡った。

 

 

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