『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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22:第二次レイド戦-1

 拠点決め会議から二日後。

 予想を遥かに超える志願者が、会議当日に集まり、そして急ピッチでメンバー編成が行われた。

 

 参加条件は、レベル50以上。

 集まったプレイヤー総数は1万人近くになった。

 ギルド未所属のプレイヤーは作戦の為、一時中小ギルドに所属して貰う事でギルドチャットを使った作戦伝達などを容易にさせることにした。

 

 昴らが攻略する城塞には、大手ギルドからは「シャドウ・ロード」と「シャイニング・バード」、そして「クリムゾンナイト」の一部メンバーが参戦。

 更に志願者を含めた中規模ギルドも加わり、1000人ほどが城塞攻略に参加する。

 

 砦や城塞までの移動は、偵察メンバーにいた回復職が攻略場所から程近い町の聖堂まで、他参加者の回復職を「聖堂帰還」でりようして連れて行き、各自が聖堂をセーブした後、ウエストルに帰還して、更に別の回復職を……という具合に聖堂セーブ者を増やしてき、ある程度増えたらそれぞれのPT(パーティー)で移動開始。という流れになった。

 

 

 

 昴ら城塞攻略メンバーは、砦攻略メンバーよりも先に行動に出た。

 といっても、「聖堂帰還」で到着した町から更に二日の距離を歩かなければならない為に先発隊となったに過ぎない。

 そして、今まさに彼らの視線の先には、ウエストルの都をこじんまりとした規模の城が見えていた。

 

「くぅー。緊張してきたぜー!」

 

 いっくんが眼前の城に向かって、今にも走り出しそうな勢いで拳を奮い立たせる。

 

 今回、昴のPTには、先日のメンバーの他に「シャドウ・ロード」からシノビの孤月という草原の民の女性が、「シャイニング・バード」からプリーストのラム酒という、名前から想像できる自称酒好きの虎タイプ獣人の男。

 そして中規模ギルドからエクソシストのリーフィンでイシュタルという少女が、最後に「クリムゾンナイト」から、以前も一緒に戦ったウィザードの宮城 楓が参加した。

 昴ら以外は全員レベル80以上。孤月とラム酒にいたってはレベル81になっていた。

 

 しかし、昴のPTに今回はアーディンが加わっていなかった。

 そのアーディンが現れて、妙に浮かれた連中に活を入れにやってきた。

 

「緊張するのはいいが、間違っても斧の代わりにぱんつを振り回すなよ」

 

 自身の黒いロングコートに手を突っ込んだアーディンは、ぱんつの変わりにコートを振って見せる。

 その表情は新しいおもちゃを与えられた子供のように嬉々をしていた。

 

「ちょ、まだそのネタ引っ張るんっすか?」

 

 あの時はつい勢いで笑いを取ってしまったが、今となっては後悔しかなかった。

 

 昴が、いっくんとからかって遊んでいるアーディンのほうへ近づくと、今回のPT配置の事で確認の声を掛けた。

 

「アーディンさんはレイドボスの方に行くんでしょ?」

 

 昴が切り出すと、アーディンは溜息交じりに返答をした。

 

「あぁ、私はフィールドで雑魚戦をしたかったんだがな……大体私はか弱いレベル77だぞ。何が悲しゅ~て一番強いボスのところに行かなきゃならないんだ」

 

 やたらとオーバーなリアクションを見せて「嫌だいやだ」としきりに呟く。

 

「いや、この前の『聖杯』とかいうスキルがここのボス戦では必要でしょ。レベル85のボスとまともに戦おうとしたら、ブースト系スキルは必須ですよ」

 

 術者がスキル使用中に動く事はできないが、広範囲内の全プレイヤーに対して攻撃力や防御力、その他ステータスが上昇する効果となれば、今回のボスのようにプレイヤーから見て格上になる敵相手の戦闘には欠かせないスキルだろう。

 レベル77の普通のプリーストであれば、即死の危険もある格上レイドボス戦への参戦はありえないのだろうが、アーディンの「聖杯」効果を必要と判断した大手ギルドからひっぱりだこだったのだ。

 最もレベルの高い城塞レイドボスに参加になったのは本人の意思ではなく、半ば強制参加だった。

 

「はぁ……こんなことならこのローブ、装備するんじゃなかった……」

 

 手を突っ込んだままのローブを、ぱたぱたと振りながら、溜息混じりに呟いた。

 しかし、その実本人はローブのデザインを気に入っているのだから、脱ごうとはしない。もっとも、脱いだところで他人に渡したりする事のできない、アイテムロック系の装備なのだ。

 一度装備してしまえば、二度と他人に譲る事はできない。

 

「気になってたんだけどさ、そのローブってどこで拾った物なんすか?」

 

 いっくんが気になってローブのでどこを訪ねた。

 こんなレア装備の話は今まで一度も聞いたことが無かったからだ。

 クリフトと桃太の興味深そうに耳を傾けた。自分たちにも同様の装備があれば……そう思ったのだろう。

 

「あぁ? これか。これは拾ったんじゃなく貰ったんだ。運営から」

「運営!?」

「ど、どういう事ですか?」

 

 桃太は語気を強めてアーディンへと詰め寄った。敵からのドロップであることを期待していた彼は、その願いが砕かれたのだから。

 

「どうというか……以前の引退前に参加した運営主催のクイズイベントで、私が見事優勝したんだが、その賞品ってのが……」

 

『お好きなデザインのアバターをお作りします』

 

「っていうんで……」

 

『悪の幹部みたいなイメージの、黒っぽい、見た目ロングコートなローブ』

 

「って言ったんだ」

 

 すこでアーディンはコートを広げてくるんと一回転して見せた。

 基本は黒。淵や十字架模様が白。しかし、その十字架は逆向きに描かれており、オタクな世界などではよく「悪に染まった神官」のようなイメージで見られている。

 更に肩口などには赤い紐が飾られていて、これが血の色を連想されるのだ!っとアーディンが解説した。

 

「それで、そのローブなんですか?」

 

 ニャモや(ライト)、餡コロは遠慮など一切お構いなしにアーディンのコートを捲ったりして中身まで確認していた。

 コートの内側にも赤い刺繍などが施されており、意外と凝ったデザインになっている。

 

「あぁ、VR実装の話がMMO情報サイトに出始めた時に運営からメールが届いてな。その時にアイテムコードも付いてきたってわけだ」

「2年以上も前のイベント賞品が今になって? ……」

 

 昴が考え込むように言葉を止めた。そしてふと思い出す。

 この『ワールド・オブ・フォーチュン』はゲームではあったが、この世界を救って貰う為に作られた、いわば「英雄育成所」のようなものだったのだ。

 ともすれば、アーディンが持たされたローブにも何か意味があるのではないだろうか?

 昴がそう考えていると――

 

「まぁ……このローブを作ったのも、女神の弟ってやつなんだろうから、何か狙って送りつけたんだろうよ」

 

 彼女も同様の事を思ったのだろう。そしてその企みにまんまとハマってしまったのだ。

 

「アーディンさん……あなたがこの世界にログインしたのって……」

 

 はじめにこの世界で再会したときからの違和感。

 いろいろとこの世界に精通している風な口ぶり。

 スキルの事といい、近隣の地図にはない村の存在を知っていたり……アーディンには不可解な点がいくつもあった。

 いままでは「聞いてもはぐらかされる」という思いから、まだ聞くべきではないと判断した昴だったが、今の流れなら話してくれるのではないだろうかと期待して質問をぶつけてみた。

 

「お前らがログインしてくる三ヶ月前だ」

 

 昴の狙い通りなのかはわからないが、アーディンはこの質問にあっさり答えてしまった。

 一瞬の間のあと、全員の叫び声が周囲に響く。

 

「「えぇえぇぇえぇぇぇぇぇ!」」

 

 当然、周囲の視線は彼らへと集中した。

 何事かと集まろうとするプレイヤーたちへ、アーディンが誤魔化す様にイケメンポーズを披露すると、集まりかけていた人々が「またアーディンか……」と洩らしながら自分のPTへと戻っていった。

 

(メイ)さんも……」

 

 ログイン祭りが行われて数日のうちにレイドボスと仲良くなる……なんてことはまずあり得ない。

 そう思えばこそ、昴には命(メイ)が、アーディン同様に3ヶ月前、もしくはそれ以上前からこの世界に来ているのではないだろうかと予測した。

 

「たぶんな。あいつの口ぶりからするとそうだろうな。もしかすると他にもいるのか? 今までそれらしいヤツには会った事なかったが」

 

 アーディンにしても同じ考えなのだろう。そして彼女ら二人以外にも、他プレイヤーより前にこの世界に来ている者が居てもおかしくはない。

 しかし、アーディンの口ぶりからすると、可能性はあっても確実な情報は無いようだった。

 

「さて、私がこの世界を三ヶ月間どうやって生き抜いてきたか、などというイケメン話は置いといて……昴……」

 

 これ以上の詮索は無駄に時間が掛かるだけと判断したアーディンが、自分が伝えるべき事を言うために無理やり話題を変えた。

 

「え? あ、はい」

 

 たまに見せるアーディンの真面目な表情。こういう時は必ず何かある。

 そう思って昴は緊張した。

 

「お前にこれだけは言っておくぞ。お前はナイトとしては合格点だ。PTを引率して指揮して……なんて器用なことは出来ないが――」

「っぐ……」

 

 褒められた後の突き落とし。なんともいえない表情で昴は口ごもる。

 

「ただな、お前はちゃんと後ろを見れるヤツだ。仲間を振り返って急ぐことなく足並みを揃えることが出来るナイトだ」

「……」

「忘れるなよ。どんなにいい装備を、この場合は『奥義』だな。いいものを持ったからといって、効率に囚われるな」

「……」

「人は強い力を手に入れると、思い上がって仲間を省みなくなる事がある。お前はそんなヤツになるなよ。人はひとりじゃ戦えないんだからな」

 

 アーディンの言わんとすることは解る。昴自身、まだ野良PTに参加していた頃、ヘイト役の自分を追い越して高火力で突っ込む前衛職や、酷い時には魔法職などもいた。

 中には純粋に役割分担を知らないプレイヤーもいたが、大半はレア装備を手にしたプレイヤーだった。

 PTメンバー全員が同じようなランクの装備ならまだしも、そうでない場合には悲惨な状況になることも間々ある。

 そんなプレイヤーに出くわすたびに、昴は「自分がレアを手に入れても一人で突っ込むようなバカなプレイはしないぞ」と決めていた。

 

 昴は改めて自分のPTメンバーを見渡す。

 いっくんはいつもバカな事をやってるバーサーカー。それでも戦闘ではサブタンクとして頼りになる相手だ。

 カミーラはオカマ口調の気配り上手なアサシン。昴が取りこぼした敵が後衛に行こうとしても、いつも確実に止めてくれる。

 クリフトは生真面目ぶったキャラを演じているが、意外と遊び心を理解しているエクソシスト。悪魔系モンスターがいると、回復より攻撃を優先させてしまうクセがある。

 桃太は自分が飼っている犬の名前をキャラ名にするぐらい飼い犬が大好きなプリースト。クリフトから支援について学びながら日々PSを磨いている。

 ニャモは、リアルでは看護師をしているが、ゲームでぐらい戦闘職になりたかったからとハンターを選んでいる。後衛から常にPTメンバーの状況を確認してくれる良いお姉さんだ。

 月は演奏でいつもPT支援に周ってくれるバード。戦闘で自分が活躍するよりも、皆を活躍させたいからと、わざわざバードを作ったプレイヤーだ。

 

 この世界に来て一緒に行動することになた餡コロ。

 天然気味な彼女に、昴は精神面で助けられた。

 (メイ)が敵側として現れた事で混乱する昴を、餡コロが正気に戻してくれたのだ。

 

 皆の笑顔を昴はじっと見つめた。

 そして、自分も笑顔でそれに答える。

 

「はい!」

 

 晴れ渡った空のように、清々しい返事を昴が返すと、アーディンは満足気に笑顔を送り城内突入組の輪へと戻っていった。

 

 

 

『よし! 砦攻略組も準備が出来たようだ。そろそろこっちも動くぞヤロー共!!』

「おおぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!」

 

 城内突入組みのリーダーを勤める「シャドウ・ロード」ギルドマスターの影山という獣人。

 アサシンの「奥義」を持つ、ワールド唯一のプレイヤーが号令を掛けると、付近にいたプレイヤーたちが一斉に拳を突き上げた。

 少し離れた位置で待機していた昴らにも、勇ましい雄たけびが聞こえる。

 

「くぅうううう! いよいよだぜ!」

「途中でこけたら置いていくぞ」

「クリフト……お前つめてーな」

「う、生まれてはじめての大規模(レイド)戦です、ボク」

「大丈夫! わたしもっちゃ!」

「なんかこのPT……不安だ……」

「あ~大丈夫。普通にちゃんと動ける人たちだから」

「楓さんは一度組んでるんでしたっけ」

「一部の人たちとだけどね」

「うふふ、ヒーラーが四人なんて豪華ねぇー。おネエさん頑張って守っちゃうわよぉ」

「ちょ、この人真性なのか!?」

「……俺達もそこんところ謎なんだけど、聞いたら負けだと思ってるんだ。変わりに聞いてくれよ」

「マジ簡便してください」

 

 戦場を共にする新しい仲間とも幾分か打ち解けてきた。

 昴は高揚感を得ている。

 自分は絶対にアーディンを裏切るような真似はしない。今目の前にいる仲間達を大切だと思うから。

 

「そろそろ気を引き締めるか!」

 

 昴の掛け声に、彼のPTと同行するPTの両方から頼もしい返事が返ってきた。

 

 既に城下町制圧に先立って、先行部隊は突撃している。

 わずかに見上げる位置にある城塞から煙が立ち上っているのが見えた。戦闘はもう始まっているのだ。

 動き出した大軍にあわせて、昴らも移動を開始する。

 

「おぅ! 地下組み頑張れよ! 途中までのルートは俺達がなんとしてでも確保してやるからよ!」

 

 あるプレイヤーが昴を追い越すときに声を掛けてきた。

 顔も知らない、名前も判らない。そんなプレイヤーからの声に、昴は胸が熱くなるのを感じた。

 

「頼みます!」

 

 先を急ぐ彼の背中に、昴はありったけの声を張り上げて返事を送る。

 彼と、そして彼の仲間達が拳でそれに答えてくれた。

 

 

 

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