『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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第4章
42:マイアナ地方攻略開始


 マイアナ地方攻略に先駆けて、フォトリアル城からの移動はあまりにも効率が悪く、プレイヤーたちはまず、マイアナ地方での拠点となる砦を奪う事から始めた。

 彼らが今行っているのは、ウエストル地方に近いアナロアにある第一から第三砦までの同時攻略だ。

 

「昴! 『奥義』が切れるまであとどのくらいだ!?」

 

 レイドボスが居座る砦の最深部では既に戦闘が繰り広げられている。

 レイドボス、オブラーナドルチェス。レベル87。

 戦闘メンバーのレベルは88から84。シノビのモンジが最高レベルであり、プリーストのアーディンが最低レベルだ。

 その最低レベルであるアーディンが、レイドボス召喚の取り巻きを大量に抱え込んでいる昴へと向かって叫んだ。叫ばなければ相手に聞こえない状況なのだ。

 

「あと35秒! ……30!」

 

 昴も同様に叫ぶ。彼の背後では60体近くの取り巻きが唸り声を上げ、必死に昴を襲おうと爪を立てている。昴の正面にはレイドボス、オブラーナドルチェスがいた。

 奥義発動中の彼は、取り巻きからの攻撃は一切無視してレイドボスからの攻撃にのみ対処している。

 

「ジャッジメント行くぞ! 効果中にジャスティス入れろよ!」

 

 アーディンの号令に昴は頷いた。「ジャッジメント」はダメージのみならず、追加効果として範囲内にいる味方の攻撃力を補強する。効果時間は僅か15秒しかない。その間に全員が自身の持つ最強スキルを全力でレイドボスに叩き込むのだ。

 昴も大量の取り巻きを抱えたまま、手に入れた装備に付与されているスキルを使う事になる。「ジャスティスブレイド」は範囲内に敵が多ければ多いいほどダメージが跳ね上がる。

 

 

『愚かなる生き物よ、世界の裁きを受けよ! ジャッジメント』

 

 レイドボスではなく他の取り巻きを対象として範囲を指定し、上手く範囲内に少しでも多くの仲間が入るようにアーディンは工夫した。広範囲に渡って床に白い魔法陣が出現する。

 範囲内に居た取り巻きモンスターやレイドボスが、痛みに苦しむように喘ぐ。そこへ昴が、渾身の力で(スキル)を放つ。

 

『ジィャスティスブレェェェェェェイド!!』

 

 敵対象はレイドボス、オブラーナドルチェス。対象を中心とした半径5メートル以内にいる敵にダメージを与える。

 大量の取り巻きを抱え込んだままでいたのは、このためだった。仲間達はオブラーナドルチェスの背後から総攻撃をしていたのだ。

 

「ギィ……グググ……グゴオオォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 長い断末魔と共にオブラーナドルチェスは倒れた。

 

「うっひょー! ジャスティスやっぱかっけぇー!」

「……どこがだよ……」

 

 いっくんは「ジャスティスブレイド」のスキル名を叫ぶのが好きだった。始めは笑っていたのだが、どこか熱血ロボットアニメのようなこのノリがいたく気に入っていた。

 

『レイドボス:オブラーナドルチェスの討伐に成功しました。これによりアナロア地区の脅威が排除されました』

 

 システムメッセージが流れ込んできた。これがレイド戦終了の合図でもある。

 

「おっしゃー!」

 

 いっくんが勝利の雄たけびを上げる。その声はレイド戦の戦場となった砦のいたるところで上がっていた。

 

「ねっねっ! なんかレア出た? 出たぁ?」

 

 ニャモは自分のアイテム欄を確認し終わると、すぐさま他の仲間へと声を掛けた。レイドボス産のアイテムのうちレアに該当するものは、ボスが倒される瞬間にヘイトを取っていたプレイヤーがいるPTに振り分けられるようになっている。

 最後まで昴がボスのヘイトを抱えていた事から、レアが出ていれば昴のPTに所属しているメンバーの誰かが持っていることになる。

 

「お前……最近レイド戦のあとはそればっかりだな?」

「だって~、私だってレアほしぃもん~」

 

 昴の奥義や装備に付与されたスキルのおかげで、何かとレイドボスとの戦闘も増えたニャモであったが、これまで一度も装備の獲得に恵まれたことはなかった。

 尤も、いくらレイド戦に参加できたからといってレアが簡単に出るかといえばそうではない。10回参加して装備がひとつでも出れば運が良いほうだと言われているのだ。

 

 そんな中、レアほしさに目をぎらつかせたニャモへとアーディンが声を掛ける。

 

「でたぞ。レア装備」

「えぇ~! ちょうだいちょうだいちょう~だ~い!」

 

 ニャモは失念をしていた。

 

「ソーサラー用の杖な」

 

 レイドボス産のレア装備はクラス限定装備な上に、装備可能なクラスのプレイヤーへと自動で配布されるとう事を。

 

「…………」

「ま、欲だしてると出ないもんだよな」

 

 いっくんは愛用の篭手「黒麟のガントレット」を撫でた。彼のレベルは既に86に達していたが、愛用のガントレットは75装備だ。いっくんにとってはレベルで言えば格下装備に当たるのだが、レイドボス産であるため、防御力などは今の適正レベルの装備とそれほど変わらない。

 むしろ、優秀な特殊効果が付いている為、86装備よりも使い勝手は良い。

 

「餡コロさん、よかったね」

「え? でも……」

 

 昴がレア獲得への祝いを口にしたが、餡コロは口ごもって目を伏せた。その様子を見たニャモは、やけくそ気味に餡コロへと声を掛ける。

 

「遠慮しなくっていいんだからね! 私に気を使わなくてもいいんだからね!」

 

 本当なら祝ってやりたいと思う気持ちもあるのだが、今は羨ましいと思う気持ちの方が勝ってしまっている。ニャモの長くしなやかな尻尾が元気なく床に落ち、それがニャモの心を如実に表していた。

 

「あの……でも私……この子がいるから」

 

 餡コロは、自分だけレアを獲得した事で周りに気を使っている……のではなく、愛用のトカゲスプーン杖を手放す事に躊躇っていたのだった。

 

「トカゲかよ!」

 

 ある者は声に出して、ある者は心の中で、全員が突っ込んだ。しかし、いくら火力が低いソーサラーだからといって、製造品の未強化な武器をいつまでも使い続けるわけにもいかない。

 武器の補強アイテムである宝玉などは、昴たちがソーサラーに適した物を教えてやってようやく取り付けさせた。

 レイド戦が増える今後を考えても、トカゲよりレイドボス産を持たせたい。

 

「では拙者が性能だけ上書きするでござるか?」

「おい、失敗したらどうするんだよ」

 

 性能だけ上書きするというのは、モンジのサブクラスである錬金術のスキルで、Aの武器性能をBの武器に移し変えるというようなものがある。

 この場合、Aの武器は存在自体が消え、Bの武器は見た目はそのまま、性能はAの物に変わる事になる。ただし、このスキルは成功判定が存在し、失敗すると「普通」であればAB共に消滅することになる。

 

「大丈夫でござる。レイド産のものは見た目変更失敗しても消えてなくならないでござるよ」

 

「普通」ではないレイドボス産はスキル失敗にも消滅しないことがモンジから説明された。他にも課金アイテムで「保護アイテム」なども販売されていたが、今は異世界なので課金アイテムの購入も出来ない。

 

「いいんですか! やったぁ~」

 

 二本の杖を抱きしめて喜ぶ餡コロ。しかし、彼女には地獄のような試練が待っていた。

 

「ただし、失敗するとトカゲ殿の方は消えるでござるが」

「嫌ぁ~~~そんなの嫌あぁぁ~~~~~~~」

 

 餡コロはレイドボス産の杖を放り投げてトカゲスプーンを抱きしめた。その光景を信じられない様子でニャモはじっと見つめる。

 

 

 

 全ての攻略が終了したアナロアの3つの砦。三角形の陣形を取っているかのような配置のこの砦は、ひとつの砦から他ふたちへ向かうのに、どちらも徒歩数時間の距離にある。

 ウエストルにも近い事があって、プレイヤーたちはこの3つの砦を真っ先に攻略したのだった。

 

 攻略から二日後には物資の移動も完了させ、次の攻略の為に英気を養う。

 物資の移動などは比較的容易に行う事ができた。全てはキース・エッジが行った「ゲームシステムの実装」による恩恵だ。

 

 プレイヤーの持つ「カバン」は見た目のままの容量ではなく、アイテム一覧を呼び出した際に出てくるウィンドウに表示されるマスの分だけ「種類」を入れることが出来る。

 マスは最大で横8列縦18列の計144種類ものアイテムを入れることが出来た。装備品などは1マスにひとつしか収められず、同じ装備であってもマスを消費するが、それ以外の物はまったく同じ物であれば1マスに99個までスタックできた。

 今回の砦は「一時的な拠点」であるため必要なのは主に食料と、装備品の耐久度が削れた際の修理アイテムぐらいだ。

 何人ものプレイヤーが十分にカバンのマスを空け、野菜であれば1種類をひたすらカバンに詰め込んでゆく。10マスでも空けていれば990個も入れることが出来るのだ。

 砦を「獲得」したギルドのメンバーたちが主に物資輸送を担当する。最後にレイドボスを倒したギルドや、砦の専用オブジェを破壊したギルドのみ、直接砦へ「聖堂帰還」が使えたからだ。 

 こうして、二日間での物資移動は終わった。

 

 

 

「さて、いくでござるよ」

「ど、どうしてもやるんですか?」

 

 アナロアの第一砦の工房。

 今、モンジが右手でトカゲスプーン杖、左手でレイドボス産の杖「影霧(えいむ)の杖」を握っている。

 

「どうしてもだ」

 

 懇願するような視線で杖を見つめる餡コロに、アーディンが冷たく言い放す。モンジを見つめる全員がそれに頷いた。

 

「ト、トカゲさんを殺さないでください」

「い、いや、別に殺すわけじゃ……」

「トカゲさぁ~ん」

 

 餡コロの悲壮感漂う声を耳にして、モンジは困惑した顔で周囲を見渡した。

 誰もが首を横に振り「やれ」と無言で訴える。言い出したのはモンジ自身なのだ。

 

 意を決したモンジは、作業代にトカゲスプーン杖を載せる。

 錬金で使用する特殊な粉を振りかけ、影霧の杖を上から重ねる。

 

「あ……」

 

 一瞬モンジの手元が光った。

 

「ど、どうしたんですか? トカゲさんに何かあったんですか? モンジ先生~」

 

 獣人族であるモンジの広い背中に阻まれて、餡コロの位置では彼の手元が見えなかった。

 必死にトカゲの無事を祈る餡コロに、モンジは一本の杖を差し出した。

 

「……こんな所で運を使い果たしたでござる……」

 

 実はこの性能上書きのスキルは、成功率がかなり低く設定されており、プレイヤー間では5%程度の成功率だろうと言われていた。だからこそ予備の装備を十分に用意して行われるのが普通なのだが、今回は片方がレイド産である為消失はしないことが解っている。

 もう片方にしても製造品の為変わりはすぐに用意できると思って安易に行われたのだ。

 

 モンジが餡コロに手渡したのはトカゲスプーンの杖だった。

 

「きゃ~~トカゲさん~~」

「なんか、神々しく見えるな。このトカゲ」

 

 見た目はトカゲとスプーンでも、その性能はレイドボス産の86レア杖だ。

 

「レイドボス産の……トカゲ、だと?」

 

 クリフトは、神々しいばかりの光を放って――いるように見える杖を見つめながら呟いた。

 

 

 

 それから三日間、十分な休息を取ったプレイヤーたちは、マイアナの都を攻略するためにアナロアからのルート上にある幾つかの砦を目指して行動に出た。

 

 マイアナ地方攻略に参加するプレイヤー数は1万5千人ほど。残りはウエストルに留まり、フォトリアルや幾つかの砦を守るために残留しているのだ。

 ウエストル地方でも比較的西側にある砦などは、既にウエストル国王に返還されていた。これは、プレイヤー数にも限りがあり、攻略を進めていくたびに砦防衛の為に残留させる人数が増えていく為、比較的安全な所だけでもこの世界の住民に任せ人手不足を解消させる為のでもあった。

 

 アナロアの第一から第三までの砦から出発したプレイヤーたちは、それぞれ別方角へと向かい、同時に複数の砦攻略へと向かった。

 

 

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