『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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46:作戦会議

「そっちはどうだった?」

 

 マイアナの都を出て、各自の装備を隠した場所で合流した一行。既に鎧を着込んだ昴が、最後に戻ってきたいっくんとクリフトに声を掛けた。

 

「なんつーか……行き成りソレですか? って感じだった」

「いや、まったく判らないし」

 

 いっくんのストレート過ぎる報告に頭を悩ませた昴は、助けを求めるようにクリフトを見た。溜息交じりのクリフトは簡潔に答える。

 

「とにかく皇帝の悪口ばかり聞かされただれだ」

 

 その報告に、いっくんたちより少し早く合流地点に到着していたニャモとカミーラも頷いた。

 

「こっちも同じよ。皇帝が本物なのか実は魔物なのかどうでもいい。殺してくれればどっちでも関係ないからって」

 

 ニャモの言葉にいっくんやクリフトが大きく頷く。

 話を聞いた限りでは、税の取立てが厳しく、更に税率は年々少しずつ上がっていくばかりだという事だった。

 そのくせ、犯罪を起こした物への罰則は緩く、国に被害さへ無ければ殺人を犯そうとたいした罪には問われなかった。

 

「なんだかゲームの設定とかなり違いますね。皇帝陛下は国民に慕われてるってなってたし」

「ゲームだと、皇帝も帝国兵も最後まで魔物と戦って殺されたってなっとったやん?」

「NPCさんが涙ながらに話してくれてましたもんね」

 

 異世界の現実とゲーム設定との違いに困惑する桃太たち。餡コロはゲームだった頃を思い出して胸が締め付けられる思いになった。

 

「つまりアレだ。神様にとっても自分の世界の住人が、魔王に魂を売ったなんてことは認めたくなかったのだろう」

「ゲームにする際に、美化したんだろうな」

 

 クリフトとアーディン、二人のエルフが現実とゲームとの違いについて意見を口にした。

 生存する二人の神のひとり、フロイが作ったMORPG『ワールド・オブ・フォーチュン』はこの異世界を再現して作られた物だったが、ゲームだった頃に存在していたNPCの多くは異世界にはおらず、ヒューマン、つまり人間以外の種族は街中などでもあまり見かけない。共存自体していないのだ。

 そういった事もあって、ある程度の違いは予想の範囲内ではあったが、まさか国柄がそっくりそのまま違う事は予想していなかたった。

 

「美化っつーか、真逆の設定になってるんすけど」

「都の攻略……気が重くなりそうだな。とにかく今は戻ろう。後の事はプレイヤー会議で決めれば良い」

 

 昴がアナロア第一砦への帰還を提案したが、アーディンとモンジの二人は偵察を続けるといってその場に残った。

 何かあってもこの二人なら大丈夫だろうと判断した昴は、他のメンバーと一足先に砦へと帰還した。

 

 

 

 アナロアの第一砦では、マイアナ攻略に参加するプレイヤーたちの代表が集められていた。代表といっても各ギルドのギルドマスターや数人のメンバーの事で、ギルドマスターが会議の発言権を持ち、他のギルドメンバーは会議の様子をこの場にいないメンバーへギルドチャットで伝える役目になっている。

 

 マイアナの都から帰還した昴たちは、都で見聞きした内容を文章にまとめて会議に提出した。コピー機などの機械が存在しないこの世界では、同じ文章を何十枚も書く事になる。

 提出された内容を見た会議の参加者達は、内容を所属メンバーへと伝えてゆく。

 

「本物の皇帝が玉座に座ってる可能性が高そうだな」

 

 始めに口を開いたのは『クリムゾンナイト』のカイザーだった。

 

「そうですね。俺もギルドメンバーも、どちらかと言えば本物だろうという意見です」

 

 カイザーの意見に賛同するように昴は答えた。「どちらかと」とつけたのは皇帝が本物である確証そのものが無かったからだ。

 

「それにしても、ゲーム設定とここまで違うと複雑ね」

 

 昴が提出した報告書に目を通していた女性ギルドマスターが、心痛な表情で言った。何人もの参加者がその言葉に頷く。

 勇敢に戦った皇帝とその臣下達。それが彼らプレイヤーの知っているマイアナ帝国だったからだ。

 

「開放した町の人たちの中にも、魔物に支配されてからは奴らに怯えて帝国兵も大人しくなってたから、それはそれで治安が良かったっていってたわ」

 

 これまでに開放した町などでは、帝国軍に町の防御を任せようとする意見をプレイヤー側から出ると、住民は激しく反対し、それならいっそ魔物にもう一度支配されるほうがマシだと言う者もいたと報告された。

 こうした住民の態度はプレイヤーに、自分たちがやった事は間違っていたのだろうかと迷わせる結果になった。

 

「いやいや、だからって魔物と同居はしたくねーだろ」

「そうなんだけど、ほら、あのキースってのが人間を襲わせないようにさせたみたいじゃない? そのせいで安全面の確保もされちゃったからさ」

「悪政に敷かれるより今の方がマシになったってのか……」

 

 人間が政治を行う世の中より、魔物が支配する世の中のほうが国民にとって安全が約束されているとは、プレイヤーにとっては攻略しにくい状況だ。

 

「はぁ……」

「「…………」」

 

 会議室に大きな溜息が幾つも漏れると、暫くの間静寂が続いた。

 その静寂を破ったのはカイザーだった。

 

「あーやめやめ! 考えたって仕方ねーだろ! マイアナは落とさなきゃ先に進めねーんだからよ」

 

 御通夜ムードに耐え切れなくなったカイザーは、自分たちが元の世界に戻る為の唯一の方法である「魔王討伐」の為に集中する事にした。

 どちらにしろ、魔王を倒せばマイアナは魔物の支配から開放される事になる。そのときどうするからこの国の住民が考えるしかない。異世界のお国事情まで考えるのは、自分たちの領分ではないとカイザーは思う事にしたのだ。

 

「そうですね、魔王の居る大陸の交差地点に向かう途上にある都ですからね」

 

 カイザーの言葉に多くの参加者達は救われた。厳しい言い方だが、自分たちの為の開放作戦であって、この世界の人々を救うのが第一目的ではない。結果的に人助けになっているが、彼らが望んでそうしているわけではない。そう「させられている」だけなのだ。

 もちろん、苦しんでいる人を救う事は悪い事ではないし、プレイヤー達も進んでやっている者も多い。しかし、何もしなくても元の世界に戻してくれるというのであれば、何もしないでただその時を待つだけのプレイヤーのほうが圧倒的に多かっただろう。

 彼らが率先して魔物達と戦い、魔物に支配された人々を解放するのは、神から与えられた一方的且つ強制的な制約からであって、善意からではない。

 

 しかし、異世界に来て数ヶ月経った今、プレイヤーたちの中には元の世界に戻るという事を忘れがちになる者も出始めていた。

 この世界で魔物と戦う事が、さも当たり前な日常になりつつあったのだ。

 

「俺は、少しでも早く元の世界に戻りてーんだよ……」

 

 カイザーの呟くような声は、会議に参加したプレイヤー達の胸に深く刻まれた。

 そう。元の世界に戻らねばならないのだ、彼らは。

 帰りを待つ家族の下へ。友人知人の待つ世界へ。

 

 

 元の世界に戻るというひとつの目的に向かって、その障害となるマイアナの都を攻略する為の会議は、カイザーの咳払いによって再開された。

 ガラにもない言葉を口にした事で、カイザーは照れたように俯いて、配布されていた報告書で顔を隠すと以後は口を閉ざして耳だけを働かせた。

 

「では、攻略作戦へ向けた会議に移ります」

 

 進行役の女性がマイアナ攻略の為の情報を提示していった。

 マイアナ周辺には比較的大きな町が複数あり、その全てに魔物が配置されているという事。

 配置されている魔物の数自体はそれほど多くは無いという事。

 町以外にレイド戦が予想されるような規模の砦などは存在しない事。

 それら町の位置は都から徒歩で一、二時間程度の距離にある事。

 都内の人口の詳細は不明ではあるが、ウエストルの都と同じぐらいの規模を有している為、予想としては三万人弱だと思われる事。

 都は二層から形成されており、第一に城下町、小さな川を挟んで奥が王城という構造になっている事。

 以上のような情報が並べられた。

 

「周囲の町を先に開放するか、後にするかで作戦も変わるよな」

「直接都の攻略に向かったら、町に配置されたモンスターが一斉に戻ってきたりしたら、中からと外からの挟み撃ちになるぞ?」

「けど、町の開放を先にしようとしたら都から援軍が出てくるんじゃねーか?」」

「出てくるなら、都内の警備が手薄になった所を狙うのもいいんじゃね?」

「出ないなら町の開放を先にか……」

 

 参加者からは、都と町の距離が近いこともあって、町の開放を無視して都攻略をするのは危険と判断する意見が多かった。

 

「一番の問題は、助け出さなきゃならない住民の数が多すぎるってことだよな」

「都の人口か……」

 

 予想される人口だけでも三万人弱。これより多いか少ない方実際の所判らないが、少なかったとしても極端な数字ではないはずだ。攻略作戦に参加するプレイヤー人数よりも多い人数を、限りなく犠牲者を出さずに救い出すのはほぼ不可能に等しい。

 今回の都攻略では多少の犠牲も覚悟が必要となる。

 参加者の口数も自然と少なくなっていく。

 

「この場合、帝国兵はどうする? 倒すのか助けるのか」

 

 口数が少なくなってきた参加者達に、更なる追い討ちとなる発言が成された。

 魔物の支配を受け入れたという形であれば、帝国兵も敵とみなす事になる。そうなると相手は人間だ。モンスターと戦うようには行かないだろう。

 それは強さの面ではなく、精神的な面での事だ。

 互いの強さを磨く為にプレイヤー同士で模擬戦闘を行う事は、以前は良くあった。しかし、お互いに傷つけ合ううちに例え回復魔法で傷を癒す事が前提であっても、生々しい傷を目にすると攻撃を躊躇うようになり、訓練にもならない事が判ってからは対人戦も行われなくなった。

 

 帝国兵が敵となれば、模擬戦闘のようにも行かないだろう。

 

「相手次第だよな。襲ってくるなら……倒したら……殺したことになるのか?」

 

 帝国兵への対応を答えようとした青年は、自分が口にした内容を実行した場合、それが殺人行為に当たるのではと思った瞬間、それが恐ろしく思い、誰かに否定して貰いたくて周囲を見渡した。

 だが、それに対してどこからも回答は得られなかった。ただ沈黙が続いただけだった。

 

 沈黙は突発的な意見によって破られた。 

 

「縄で縛るってのは?」

「は? 縄って……どうやって?」

 

 縄で縛る。あまりにも古典的なこの作戦は、スキル戦闘に慣れてしまっていたプレイヤー達にとっては盲点だった。

 

「普通に、ソーサラーとかバードのスキルで動きを封じてから……ダメ?」

 

 発案者は今更になって自分の意見が「無謀な作戦」なのではないだろうかと不安になり、最後には疑問系で参加者達を見渡すまでに自信を無くしていた。

 

「いや、いいんじゃね!」

「スキル抵抗されるのもいるだろ」

 

 否定的な意見もあったが、多くの参加者からは肯定的な意見も聞こえてくる。発案者である草原の民の少年は幾分自信を取り戻したように、自分の考えを補足する説明をした。

 

「うん。だからひとつのPTに複数のソーサラーとバードを用意させるんだよ」

 

 彼と一緒に会議へと参加している、同ギルドメンバーも加わって詳しく説明されてゆく。

 

「ひとりのソーサラーが敵の抵抗値をスキルで弱体化させ、他のソーサラーとバードで行動不能系のスキルで動けなくするんだ」

「他のメンバーは縄持って二人一組になって、動けない帝国兵を縛っていく。縛った帝国兵は後続組がどこかに集めて見張ってるのが理想的だけど」

 

 ソーサラースキルにはには敵の抵抗値を弱体化させる物がある。事前にこのスキルを使っていれば状態異常系スキルに掛かりやすくなるという効果があった。相手がモンスターであればレベル差なども含めてある程度は抵抗値が予測できるが、この世界の住人はキャラクター情報が存在しない為、どのくらいの確率でスキル抵抗をされるかまったく把握できていない。

 しかし、プレイヤーのスキルは住民にも効果があることは判っている。回復系スキルを住民に施せば、しっかりと外傷など癒せているからだ。

 

「一応、保険用にナイトとヒーラーひとりずつでも付けとけばいいか」

 

 ソーサラーにしてもバードにしても、単独ではお世辞にも強いとは言えないクラスだ。帝国兵の戦闘力はおそらくほぼ無いに等しいだろう。戦う「意思」を捨てたこの世界の住民だからこそ、魔物に支配されてしまったのだから。

 もし、モンスターと帝国兵がセットで襲ってきた場合、ソーサラーとバードだけのPTだと苦戦を強いられる可能性もある。それを前提にしてソーサラーとバードを複数交えた混合PTが理想的な構成だろう。

 

 比較的人口の少ないソーサラーとバードな為、全ギルド単位で人員をかき集めて作戦に当たって貰う事になる。その旨をギルドチャットを通じて、プレイヤーへと伝えられた。

 反対意見はなく、細かい構成などはなるべくレベルの近いもの同士で行う為、ギルド情報を元に参加者名とクラス、レベルなどを記載して提出するよう求められた。

 

「あのー」

 

 多くのギルドマスターらが自身のギルドに所属するソーサラーやバードの情報を、手元にある報告書の裏面に記載している中、昴が恐る恐る手を挙げ発言する事の許可を求めた。

 

「ん? どうした昴?」

 

 昴の声に気づいたカイザーが、気づかないままでいた進行役の女性に代わって声を掛けてきた。

 カイザーの声でやっと気づいた女性は、目線で昴に発言を続けるよう促すと、昴は会釈をして言葉を続けた。

 

「今ギルチャでアーディンさんからなんですが」

「何やってるんだあのネナベは?」

「まだマイアナにいます。で、モンジさんと二人で大聖堂に潜り込んでるそうで、都の攻略開始と同時に大聖堂の『聖堂帰還』を邪魔してるオーブを破壊するそうです」

 

 大聖堂内にあるオーブの破壊を行えば『聖堂帰還』で瞬間移動が可能になる。しかし、『聖堂帰還』の条件としては事前に聖堂や教会にスキル使用可能者が一歩でも足を踏み入れている事が必要だ。

 

「破壊してどうするんだ? まさか『聖堂帰還』で都に直接なだれ込めってのか?」

「無理でしょ? だって誰も都の大聖堂のセーブが無いんですから」

 

 誰もが「不可能」だと決め付ける中、昴が簡単な答えを打ち出す。

 

「アーディンさんが大聖堂に居るので、オーブ破壊と同時にセーブされるからと」

 

 そう。今アーディンはマイアナの都にある大聖堂内にいる。それはアーディンがマイアナへの『聖堂帰還』の為のセーブが終わっている事を意味している。

 オーブが破壊されていない現状では、スキルを使用してもマイアナを選択できないだけで、セーブ一覧には既にマイアナの名前はあるのだ。

 

「ああああぁぁぁぁぁ! っそうか! オーブ破壊してあいつがどっかの町にスキルで帰還したあと、ヒーラー何人か連れて都にスキル移動すれば……」

「はい。それを繰り返せば直接市街地に大軍を送れるはずです」

「スキルのCTは60秒。大聖堂をセーブして戻ってきたヒーラーをPTに拾って準備してりゃー直ぐ終わるな」

 

 一気に都攻略の難易度が下がった事で、会議の参加者らは大いに湧き上がった。あちこちで攻略の為の意見が上がり始めると、進行役の女性は自身のスキルで声を広範囲に響かせると、参加者達を一旦静めて会議の進行を続けた。  

 

「では細かい作戦は、町の開放作戦中に都から敵増援が出た場合と、出なかった場合とで考えましょう」

 

 凛とした女性の声が会議の場に響くと、発言権を求める手が幾つも上がった。

 

 その日、会議は夜半近くまで続き、大雑把な作戦は決定した。

 翌日、細かい作戦と部隊編成。その翌日には部隊単位でのPT構成などが話し合われた。対帝国兵用のPTを中心とした部隊編成が行われ、レベルの低い対帝国兵PTには高レベルPTが護衛に付き、対モンスターの際には高レベルPTが対処することになる。

 

 全ての作戦会議が終了し、それらがプレイヤー達への伝達も終わり、準備が整うまでに7日を有した。

 

 

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