『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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47:マイアナの都レイド戦-1

「敵増援、都から出てきました!」

 

 マイアナ地区最大の攻略ポイントとなる帝都、マイアナの都攻略作戦が開始された。

 まずプレイヤーたちは、周辺の町開放に取り掛かった。比較的大きな町ではあったが、事前調査で配置されたモンスター数は少ないという報告があった為、戦闘に参加していたプレイヤー数もその分少なめに構成されていた。

 残りの大部隊は別の場所で、都への直接攻撃をする為に控えた形になっている。

  

 町に配置されていたモンスター数は当初の情報より多く、敵の増援が町を開放するよりも先に到着するような事があれば、敗北もあったかもしれない。

 今回の作戦では『クリムゾンナイト』が全面的に遊撃部隊として動く事を宣言しており、状況に応じて個別行動を取っていたのだが、各町へと迅速な支援が間に合い、敵増援が出るタイミングを見計らって一気に攻勢に転じた。

 わざわざ敵増援を待ってから勝負を付けたのは、早々と決着を付けてしまうと増援が出てこない結果になり、次の作戦に移れないからだ。

 

「よし、それじゃ作戦通り、アサシンとシノビは隠遁系スキルで都内に潜入させろ」

 

 今回、マイアナの都攻略を指揮するのは大手ギルドの『シャイニング・バード』だった。ギルドメンバー総数500人という、加入上限人数に達しているギルドだ。

 この世界にログインして来ていないギルドメンバーを一旦除名し、空いた枠には新規メンバーを取り入れて上限人数に達したギルドでもある。

 

「それが……」

「どうした?」

 

 ギルドマスターであるマークは、情報が錯綜するギルドチャットを閉じ、近くに控える幹部メンバーから、直接有用な情報だけを聞き出してから各指示を出していた。

 その為、作戦決行の指示後に起こっていた出来事を直ぐには把握する事が出来ていなかった。

 

「無理なんです! 門の入り口で敵に寝返ったソーサラーが『空蝉の明かり』を使用していて……」

 

 アサシンやシノビの使う、姿を消して移動する系統のスキルには弱点が2つあった。

 ひとつはソーサラースキルである「空蝉の明かり」だ。ソーサラー自身の周囲を巡回するこの明かりは、姿を隠して近寄る敵を炙り出す効果がある。明かりの効果範囲に入ってしまうと強制的に姿を晒す事になるのだ。

 もうひとつは攻撃されることである。ただし、姿を隠している為当然ながら直接攻撃を受ける事はない。しかし、範囲攻撃であれば直接攻撃と違って巻き添えを食らう形で攻撃を受ける事になり、その範囲内に姿を隠したまま入ってしまった場合にはダメージを受けた瞬間に姿を晒す事になる。

 

 今回、それほど広くも無い内部に入る為の門で、ソーサラーが「空蝉の明かり」を使用しているという事で、隠密行動が不可能になってしまっていた。

 

「くそ! こっちの作戦を読んでいたのか!?」

 

 これまでの攻略作戦でも同様の手口で、アサシンやシノビを潜入させる事が何度かあった。作戦を読まれていたか、学習能力が付いたのであろう。もしくは、そのどちらでもないのかもしれない。

 

「こうなったらゴリ押しして門を破壊するか?」

「破壊する前に壁上から狙い撃ちにされるぞ」

 

 大手ギルド『シャイニング・バード』のメンバーたちにも焦りの色が伺え始めた。

 

 作戦が失敗となった今、彼らは門の前に集合して強引な開門作戦に打って出ようとした。そんな彼らの眼前に雷が飛来する。

 

「はーっはっはっは! 以前お前達がやったように、今度は我々が安全な位置から魔法をお見舞いしてやるぞ!」

 

 分厚い壁の上、丁度門の真上には敵側に寝返ったであろう幾人かのプレイヤーの姿があった。

 勝ち誇ったように杖を掲げると、次の魔法詠唱に入る。小さな隕石が門の前に落下して激しい爆風で土埃を巻き上げた。

 プレイヤー側への被害は出ていない。

 

「ま、これ以上近づかなければいいわけだけどな」

 

 そういって『クリムゾンナイト』のカイザーは、魔法の射程が届かない位置でふんぞり返った。

 優勢に立っているはずの自分たちが馬鹿にされていると錯覚した壁上の敵方プレイヤーらは、カイザーの頭上から自分たちこそが勝利者である事を証明する内容を語り始めた。

 

「お前達の仲間が二人ほど潜り込んでいるらしいが、大聖堂をしらみつぶしに探したが既に逃げた後だった。今は大聖堂をモンスターどもに包囲させてあるから、たった二人ではあの包囲網は突破できないだろう」

「つまり、お前達の『聖堂帰還』を使った突撃作戦は失敗したんだよ!」

 

 潜り込んでいる二人とはプリーストのアーディンと、シノビのモンジの事である。モンジは隠遁の術で隠れる事ができるし、ソーサラーの「空蝉の明かり」はそれほど範囲は広くない。スキルから逃げるだけであれば何とかあるのだ。

 しかし、プリーストであるアーディンは、普通に考えれば姿を消すスキルが使えるはずも無く、大聖堂内で見つけられなければ既に逃げたと考えるのが妥当だ。

 だからこそ、敵プレイヤーたちは彼らの作戦を妨害できたと思っているのだろう。

 

「なんであいつら、こっちの作戦を知っているんだ?」

 

 総指揮官でもある『シャイニング・バード』ギルドマスターのマークは、悔しそうに顔を歪めながら言った。彼の背後に黒いロングコートを纏ったエルフの女が現れる。

 

「内通者がいるからだろう」

「あ!? アーディンお前なんでここに!?」

 

 マークの背後に現れたのは、つい今しがた話題になっていた「潜り込んでいる二人」のうちのひとりアーディンだった。もうひとりのモンジも彼女の後ろに立っていた。

 

「大聖堂に近づこうとしたら見つかってしまったんでな」

「慌ててアーディン殿の『聖堂帰還』で近くの町に戻ったでござるよ。それから急いでこっちに向かってきたでござるが……」

 

 そこまでいうと、モンジは恨めしそうに壁上のプレイヤーたちを見上げた。

 声が聞こえたのか、壁上にいた者たちは勝利を確信すると、安っぽい勝ち台詞を叫んだ。

 

「はーっはっはっは! ざまーみやがれ!」

 

 それを聞いたアーディンは、一瞬だけ不適に笑うと、すぐさま悔しそうな表情を作って大袈裟に天を仰ぐと、壁上に向かって「負け犬の遠吠え」をして見せた。

 

「あ~悔しい! 見ていろ! きっとギャフンと言わせてやるからなぁ」

 

 壁上のプレイヤーにはアーディンの表情までは見えなかったが、彼女の言動を見ては再び勝利に沸き返るとあれこれといい始める。

 時折地団駄を踏んで悔しがるアーディン。それを見て喜ぶ壁上プレイヤー。

 喜劇を見せられているような気分になったマークは、モンジにこっそりと耳打ちした。 

 

(なんかわざとらしくねーか? あいつ)

(もう少し待つでござるよ)

(?)

 

 モンジは人の悪い笑みを浮かべると、何も言わずにカイザーの下へと向かった。

 

「ふん。潜入していた二人組みも早々に逃げ出したか。よし、大聖堂の包囲は解いて通常の巡回モードに戻すか」

 

 敵に寝返ったプレイヤーにとって邪魔な存在だった潜入組みは、今彼らが見下ろす眼下にいる。大聖堂を包囲してオーブを守る必要も無くなった彼らは、包囲に当たらせていたモンスターへ指示を出す為壁上を降り、大聖堂へと向かった。

 

 指揮官らしき男が居なくなった壁上では、ウィザード風の男が三人、時折「メテオストライク」を放っては嘲笑っていた。壁上を見上げていたマークは、手にした剣を地面に叩き付けると、さも悔しそうに叫んだ。

 

「あー。くっそ! どうすんだよ!?」

「どうするかなぁ、どうするかなぁ」

 

 マークの悔しがる姿を笑いながら見つめるアーディン。マークは彼女に厳しい視線を向け、怒りの矛先を彼女自身へと向けた。

 

「だいたいだな、お前達二人がアッサリとオーブ破壊を諦めて来るからこんな事になってるんだぞ!」

「そうだそうだ! 作戦待たなくても先にオーブだけでも破壊しときゃよかったじゃねーか!」

 

 今回の作戦の指揮を任された『シャイニング・バード』としては、負けの原因をアーディンに押し付けたい衝動だったのだろう。その場に居た多くの『シャイニング・バード』メンバーから罵声が飛び交った。

 

「あ~、きこえな~いきこえな~い」

 

 アーディンは耳を塞いで蹲る。

 その姿を壁上から見下ろしていた者たちは一斉に笑い出し、他の仲間達にもこのことを報告した。

 

「ふん。仲間割れか。無様なもんだな大手ギルド様もよぉ」

「負けを認めて土下座でもすればいいんじゃね?」

「んだと、このやろう!」

 

 マークたりの怒りは再び壁上へと向けられた。魔法での攻防戦が繰り広げられる訳でもなく、互いに罵り合い、罵声が響く戦場となっている。

 暫くの間、壁の上と下とでぜ舌戦が繰り広げられた所で、カイザーがアーディンの元へとやってきた。彼と一緒に昴らも集まっている。

 

「よし、いいぞアーディン」

「うぃ。『聖堂帰還』」

 

 カイザーの合図でアーディンが帰還魔法を発動させる。彼女の周辺に集まった者達が次々に姿を消して行った。

 

「は? どこに飛んだんだよ! 悔しくて逃げだしやがったぞ!」

 

 壁上では最大手と言われるギルドのマスターが逃げ出したと勘違いした者達が、大賑わいを見せていた。

 そんな眼下では、マークが自身のギルドに一時加入している他ギルドとの連絡要員から事情を聞かされていた。

 

 

「え? 作戦変更!? オーブは7日前にもう破壊されて……って俺達にも内緒で進めてたのか!?」

「仕方ないんです。内通者が誰だか判らなかったので、早急にギルドメンバー全員の把握の出来た大手にのみ伝えられた内容ですから」

「不在者のいたうちは裏切り者が居るかもしれないからってハブられたのか……まぁ、仕方ねーか」

 

 実の所、アーディンとモンジは作戦会議中の昴に連絡を取った後、直ぐにオーブを破壊していたのである。

 昴との連絡を終えた後、暫くすると大聖堂にモンスターを伴ったプレイヤーが現れた為、モンシは「隠遁の術」で姿を消し、アーディンは「隠遁の指輪」を装備して姿を消したのだった。

 アーディンの持つレイドボス産のアイテムで、シノビの使う「隠遁の術」と同じ効果を持つ指輪をはめて、まんまと大聖堂を抜け出したのである。

 その後、モンジはマイアナに留まり、アーディンひとりが帰還。内通者の存在もあるため、全ギルドメンバーの所在がハッキリと判る『クリムゾンナイト』と『シャドウ・ロード』にだけ事情を説明し、両ギルドの高レベルアサシンとシノビがアーディンによってマイアナへと送られていたのだ。

 他にも怪しまれないように交代でプリーストとエクソシストが、大聖堂のセーブを取る為にアーディンによってマイアナへと送られた。彼らは大聖堂に送られるとそのまま『聖堂帰還』で戻っていった。

 そして何食わぬ顔でマイアナに戻ったアーディンは、モンジと二人、作戦決行日にわざと大聖堂付近で敵に見つかり、慌てて帰還したよに見せかけたのだった。

 

「どういうことだ! 巡回モンスターが全滅って!?」

「いきなり現れたアサシンシノビ軍団にやられたとか……」

「大聖堂からも続々と奴らが出てくるぞ! なんで包囲を解いたんだよ!」

「っつーか、オーブは台座に乗ったままだたろ?」

 

 数日前から潜入していた『クリムゾンナイト』と『シャロウ・ロード』のアサシン、シノビたちは、作戦決行までは装備を外し一般市民に紛れ込んでいた。

 大聖堂がモンスターに包囲されると、彼らは物陰で装備を整え、城下町を巡回していた少数のモンスターたちを殲滅するべく、姿を隠して完璧に調べ上げていた巡回ルートで待ち伏せをした。

 大聖堂を包囲していたモンスターたちが解散し、それぞれの巡回ルートへと戻る間に、初めから巡回を続けていた少数は壊滅。巡回ルートに戻ろうとしていたモンスターたちも同様に待ち伏せをしていたアサシン、シノビPTによって半壊状態になった。

 残ったモンスターたちは大聖堂から突然現れたプレイヤーたちによって全滅させられた。

 

 大聖堂の包囲網を解いたのは自分自身であるにも関わらず、指揮官の男は自分よりレベルの劣る身内に向かって罵声を浴びせた。

 その時、彼の背後で短いうめき声がいくつか上がる。振り返ったそこには、赤く光った長槍を手にした燃え上がるような赤髪の男が立っていた。

 

「お前達が見てたのは7日前から偽物だったんだよ!」

「っげ! カイザー・キング!?」

 

 カイザーはアーディンたちと共に『聖堂帰還』でマイアナの大聖堂へと移動していたのだ。そして大聖堂から飛びだすと残ったモンスターをなぎ払い、先ほど壁上に居た指揮官を見つけて駆けつけてきたのである。

 

「だーっはっはっは! 覚悟しやがれ!」

 

 本来ナイトとは攻撃力に期待してはいけない職業である。しかしカイザーの持つ「紅蓮の槍」はレイドボス産で、攻撃力は他の接近火力職が持つ一般的なレア装備並みにあった。そのうえ最大限の武器強化も施されており、カイザーの攻撃力は並みのナイトを基準に考えてはならないレベルにあった。

 

「楽しそうだな……カイザーさん」

「わりと対人好きなヤツだしな。まぁ、死なない程度にいたぶるだけだろうから大丈夫だろ」

 

 他人事のように口にしたアーディンの右手には、大聖堂の中央に置かれていた黒い玉が握られていた。その玉をモンジに渡すと、受け取ったモンジはカバンの中にしまい込んでしまった。

 

「な!? なんで闇のオーブを!?」

「あー、これは拙者が作った宝玉でござるよ?」

 

 本物を破壊した二人は、大きさも似ている事から咄嗟にモンジ作の宝玉をひとつ台座に置いていたのだった。

 自分たちがずっとオーブだと信じて安心しきっていた彼らは、この時完全に敗北を悟った。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ助けてくれー!」

「実力の差がでかすぎるだろぉぉぉぉぉぉ」

「だーっはっはっはっはっは」

 

 カイザーはさも嬉しそうに槍を振り回し、敵に寝返ったプレイヤーらを追い掛け回していた。

 いつの間にやらモンスター討伐を終えた『クリムゾンナイト』の面々も集まって、自分たちのリーダーであるカイザーの真似をするように悲鳴を上げる敵プレイヤーらを追い掛け回しはじめた。

 その光景を苦笑いしながら見つめていた昴は、城下町の安全が確保された事でホッと胸を撫で下ろす。

 

「お兄ちゃん、行くんでしょ?」

 

 数人のアサシンに守られるようにしてやってきた二人の少年が昴へと声を掛ける。少年二人はどうやら都の住人のようだった。

 

「あぁ、そろそろ行こうか。王城に行く為の秘密階段まで案内してくれるかい?」

「おっけー! こっちだよ! みんな付いて来て」

 

 二人の少年を先頭に、昴らのPTと数人のアサシンが足早に移動した。

 

 本隊は、ようやく開かれた門を潜って都内部へと突撃を開始した。内部の巡回モンスターは全滅していたが、定点固定モンスターはまだ残っており、数少ない獲物に向かって出遅れたプレイヤー達は全力で狩り尽くしてゆく。

 そして本隊が王城へと向かう橋に到着した時には、既に橋は上げられており、川の手前と奥とで敵と睨み合う事となった。

 

 

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