『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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56:呼ばれて飛び出て

 屋敷のあった場所を立ち去ってから暫くして、精鋭部隊の一行の前に現れたのは矢張り敵PCだった。しかも挟み撃ちである。

 前方からは30人程、後方から20人程が現れた。

 

「随分と遅かったのね。もう少し早く来ると思ってたのに」

 

 前方から現れた敵PCたちの中心には、ウィザードの(メイ)がいた。彼女の左右には屈強そうな男達が整列している。

 

 そこは、いくつかの道が交差する場所だった。その為、待ち構えるには十分な広さがある。影山を先頭にした精鋭部隊たちが立つ場所は、細い枝道で道幅は3メートルほどしかない。

 位置関係としては影山たちのほうが分が悪い。

 

「あぁ? どっかで見た顔だな」

 

 魔法の明かりによって照らし出された命を、睨みつけるようにじっと見つめていたカイザーが威嚇するように吼える。

 笑みを浮かべていた命の表情が一瞬で崩れると、不貞腐れた子供のように唇を尖らせて抗議の声を上げた。

 

「ちょっと、もう忘れてるの? 一番初めのレイド戦のときに会ったでしょ?」

「あー、そういえば居たな。たしかバカアーディンの元ギルマスだっけか?」

 

 カイザーとアーディンは旧知の仲である。アーディンと命についても同様の関係だ。だがカイザーと命はお互いの顔を知っている程度で、口を聞いたのは異世界に来てからだ。

 

「あらぁ、そんな事言っていいの? アーちんに『バカって言われてたわよ』って教えてあげようかしら」

「別に構わないぜ。いつもの事じゃねーか」

 

 小娘の告げ口なんぞ痛くも痒くもない。そう言いたげにカイザーは余裕の笑みを見せる。

 

「私よりもアーちんとの付き合いは長いみたいね。つまんない」

 

 命がアーディンと交流を持ったのはまだ初心者プレイヤーだった頃だ。レベルを上げるわけでもなく、ただ暇つぶしに初心者支援をしていたアーディンが、ヒールを掛け捲った多くの初心者のひとりが彼女だった。

『ワールド・オブ・フォーチュン』の正式サービスが開始されてから3年ほどが経った頃だ。 その時のアーディンは今のアーディンとは違う。一定レベルまで行って退屈するとキャラを削除し、同じ職業のキャラを作り直す。今のアーディンは5キャラ目のプリーストだ。

 

 カイザーとアーディンの付き合いは命よりも長い。正式サービスが開始されて間もない頃に、二人はダンジョン攻略PTで度々出会っていた。

 当時はまだ「男」だと思っていたこともあり、くだらない下ネタで盛り上がるうちにフレンド登録を行い、カイザーからPTへと誘うようになったのが交流のきっかけだ。

 

 自分よりプレイ暦の長いアーディンだからこそ、自分より長い付き合いの人物が居てもおかしくは無い。それは十分理解できるのだが、命にとってその人物が目の前にいて、さも自分よりアーディンの事を理解している素振りを見せられる事に我慢できなかった。

 

「命様? どうしますか?」

 

 命の横に控えていたナイト風の男が、彼女の背丈に合わせて身を屈めると小さく声を掛けた。

 

「とりあえず、大人しく捕まってくれると嬉しいんだけど」

 

 男の声に冷静さを取り戻した命は、長い髪を掻きあげ妖艶な笑みを浮かべてカイザーらに打診する。

 

「だが断る!」

 

 間髪居れず影山は答えた。他のメンバーも影山の意見に同意するように頷いた。

 

「そうよね、そうなるわよね。仕方ないから少し痛い目に会って貰いましょう」

「そうこなくっちゃ! いくぞヤローども!」

 

 命の言葉に左右で控えていた男達が歓喜の声を上げて武器を構える。

 

「ここが限界か……引き返せ!」

 

 影山が号令を掛けると、24人は一斉に踵を返して元来た道を戻る為に駆け出した。

 彼らの背後には20人程の敵PCが待ち構えている。一様に下品な笑いを浮かべた敵PC達は、獲物が飛び込んでくる事を歓迎した。

 

「俺達がいるのを忘れるなよ!」

 

 狭い通路を塞ぐように立ち並んだ彼らに、カイザーが全速力で突撃する。

 

「てめーらは大人しく道を明けてればいいんだよ!」

 

 カイザーの盾に弾かれて仰け反る者が数名。

 いつの間にか精鋭部隊側のハンターが仕掛けた罠によって壁際までノックバックされる者が数名。

 そこに道が開け、影山たちはあっという間にすり抜けていった。

 そして――

 

『スロー・スウォップ』

『スロー・スウォップ』

 

 二人のソーサラーが移動速度を極端に下げる効果のあるスキルを、自分たちの背後にお互いがずらして展開した。

 カイザーの盾に弾かれた者、罠によってノックバックされた者、それらに邪魔されて動けなかった者たち約20名が、一斉に「スロー・スウォップ」の範囲内に入る。

 急いで追いかけようと気持ちは競るが、気持ちとは裏腹に、その移動速度は完全にスローモーションだ。

 

「くっそ卑怯な手使うんじゃねー!」

 

 鈍足スキルの範囲内で無様な姿を晒しているひとりの男が叫んだ。

 

「何言ってるの! やられたらやり返しなさいよ!」

 

 命も慌てて追いかけてきたが、スキル範囲の手前で足を止め男達へと指示を送る。

 

「そ、そうだった。おい! 誰か鈍足沼出せよ!」

 

 叫んだ男が命の指示で思い出したかのように声を張り上げる。自分たちの味方にも、数名のソーサラーがいるのだ。同じスキルを使って逃亡を阻止することはできるはずだ。

 そう思ったのだが、男の考えは甘かった。

 

「もう射程外だぜ?」

 

 影山たちはこの間に、既に100メートル程先を走っていた。更に所々では「スロー・スウォップ」が撒かれている。そして「スロー・スウォップ」の射程距離は10メートルまでだ。

 

「……もう! これだからPS皆無のRMTは使えないのよ!」

 

 これが腕の良いプレイヤーであれば、指示されることなくその場ですぐに対応できただろう。そうすれば全員とはいかずとも、何人かは捕獲できたかもしれない。

 そして寄せ集めの烏合の集でもある彼らのほとんどが、楽してレベルを上げ、装備を揃えただけのRMTerだった。お世辞にも腕の良いプレイヤーとは言いがたい。

 

「す、すみません」

「行き先は判ってるわ。――屋敷待機組み聞こえてる? そっちに逃げるわよ。必ず足止めしなさい! ――」

 

 命はギルドチャットで屋敷にいる部下達に連絡を入れた。

 鈍足スキルの視覚効果が消え去ると、命は先陣を切って走り出す。

 

 

 

「やっぱ待ち伏せしてるよな」

 

 影山たちが屋敷のあった場所まで引き返してくると、そこには50人近い敵PCが待ち受けていた。当然、これは予想の範囲内だ。

 

「もう少し近づかないと『聖堂帰還』の効果範囲に入れません」

 

 銀髪の小柄な少女、草原の民であるイシュタルが『聖堂帰還』が使用できない位置にまだ居る事を告げる。彼女は先ほど屋敷の近くに来た際に、何度もスキルの詠唱とキャンセルを繰り返して、どの付近からスキルが使用可能になるのか調べていた。

 

「ギリギリまで引き付けるぞ! やつら全員引き付けたら……頼むぞ!」

 

 ナイトのマークは前衛に躍り出ると、最後のセリフを誰も居ない方角に向かって叫んだ。

 マークとカイザーが並んで「雄たけび」を使い、敵PCへのヘイトを稼ぐ。

 武器を振りかざし襲い来る敵PCたちは否が応にもカイザー、もしくはマークへと足を向ける事になる。本来であればヒーラーやソーサラーを真っ先に倒したい所だが、頭では判っていてもゲーム仕様であるヘイトには逆らえない。

 

 流石に25人対ひとりでは分が悪く、サブタンク役にもなるバーサーカーのグレミアとボールドが、敵PCの何人かをそれぞれ受け持った。

 

 ヒーラーたちは四人に対して、ヘイトを奪わないよう気をつけながらヒールを飛ばして彼らのHPを維持。

 

 ソーサラーやバードは、敵PCたちの行動を妨害するために状態異常系のスキルを掛けてゆく。

 

 他のメンバーたちは後方で攻撃、支援を行う敵PCを、わざわざ大回りして屋敷側へと回り込み、退路を断つような形で攻撃を行った。

 じりじりと敵の後衛部隊はカイザーらの方角、自身らの前衛部隊が交戦する地点へと追い込まれてゆく。

 

 前衛と後衛とに別れていた敵PC集団が一塊になったとき、屋敷へと通じる通路の奥から追いかけて来た命らの姿が現れる。

 それと同時にカイザーは吼えた。

 

「よし、いまだ!」

 

 待ってましたとばかりにカイザーの背後から、ふたつの影が躍り出た。

 ここまで隠遁の術で姿を消したまま、黙々と付いて来ていた二人だ。

 

「は~っはっはっはっは! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン! からの『我が裁きを受けてみよ! ジャッジメント!』」

「ジャジャジャジャーンでゴザルからの『秘術! 口寄せ、大蝦蟇(おおがま)・次郎長』そして『大蝦蟇トリモチ粘膜』」

 

 アーディンはカイザーらが交戦する敵PCへ、モンジは後ろから追いかけて来た敵PCへ、それぞれ敵の動きを封じるスキルを使用する。

 

「か、体が動かない……」

「なんだこのドロドロは!?」

 

 カイザーらと交戦していた側は、大ダメージを受けた上に体が麻痺して動けなくなり、後ろから追ってきた者達は強力な粘着力を持った蝦蟇の唾液に捕まって身動きが取れない状態だ。

 

「な、何やってるの貴方たち!?」

 

 自身も蝦蟇の唾液に片足を取られ、それより先に進めなくなっていた命が叫んだ。

 

「それ! ズラかるぞ!!」

 

 カイザーが味方に指示すると、エクソシストのイシュタルと天啓がそれぞれ「聖堂帰還」を唱えた。

 帰還魔法の詠唱を阻止しようと、命は自らの装備に付与された特殊スキルを発動させるべく、呪文の詠唱を開始する。

 しかし――

 

「ま、待ちなさい!。『迷子の(つぶて)たちよ、おいで――ってアーちん!?」

 

 先ほど対峙した道の分岐地点では見なかった人物、アーディンの姿を見つけると、驚きのあまり呪文の詠唱を中断してしまった。

 これにより、二人のエクソシストが唱えた帰還魔法は完成し、それぞれのPTに所属していた一行はスキルを承諾して消え去る。

 

「は~っはっはっは! こうなる事も予想して、私とモンジは常に隠遁で追尾していたのだよ」

 

 勝ち誇るアーディン。

 

「っく、くやしぃ!」

 

 片足を地面に接着させられたまま、残ったもう片方の足で地団駄を踏む命。

 二人の勝敗を別けたのは、「まともなPSを持った」仲間の存在があった事だろう。そして、どっちがどれだけ「個人としてセコイ」かというのも関係していたかもしれない。

 

「じゃ~な! 『聖堂帰還』」

「お達者でござる。ニンニン」

 

 アーディンの唱えた帰還魔法によって、二人は跡形も無く消えた。

 

 敵が消えた付近をじっと睨みつけるようにして見つめていた命は、開放された足で地面を踏みつけると唇を噛み締めてひとり呟いた。

 

「……もうお遊びの時間は終わりよ。これからは全力でアーちんたちを阻止するわ」

 

 

 

(今までも全力で妨害してたと思うんだがな~……というか役立たずばっか集まってるみたいだし、仕方ないか……)

 

 そんな事を思いながらアーディンは黙々と洞窟内を進んでいた。

 

 実は帰還魔法で消えた振りをして、アーディンとモンジの二人は隠遁で姿を消しただけだった。

 再びいくつかの道が交差する分岐点まできた二人は、あたりに人や魔物の気配が無いのを確認すると一度姿を現した。

 MPが切れれば強制的に姿を晒すことになるので、二人はMP回復用のポーションを取り出し飲み干す。

 奥へ通じる道のうち、一番大きなものを選ぶと再び隠遁の術で姿を消して奥へと進んだ。

 

 大きな道の先には、巨体をうねらせた幾つもの蛇の首を持った魔物が鎮座する部屋へと出た。

 

(奥に道があるな)

 

 隠遁の術中は喋る事もできない。同じ隠遁で姿消している仲間も見えない。

 モンジが少し通路を戻った場所で隠遁の術を解くと、アーディンも同じように道を戻ってモンジの横で姿を現した。

 

「ここがあたりでゴザルな」

「あいつはただのレイドボスだけどな。奥にラスボスがいるだろう」

「まぁ奥にも他のレイドボスが何匹か待ち構えている可能性も大でござるが」

「とにかく……さっきの所に戻って帰るか」

「ニンニン」

 

 二人はMP回復ポーションを1本ずつ飲むと、再び隠遁の術で姿を隠して元来た道を戻っていった。

 

 

 

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