『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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5:スキル講座

 昼食はアーディンが提供した生野菜と、干し肉を火で炙ってパンに挟みサンドイッチにした。

 昴も餡コロも久々の野菜と肉に、ひとしきり感動すると普段では考えられないほど良く噛んで味わう。

 

「野菜ってこんなに美味しかったんですね~」

「あー、ほんと美味かった」

 

 三人は一息つくと、昴がそわそわし出したのを見てアーディンが口を開いた。

 

「さて、腹も膨れた事だし、続きを教えてほしいか?」

「もちろんです!」

「では、私に頭を垂れて崇め奉れ!」

 

 立ち上がって仰け反るように昴らを見下すアーディン。げんなりした表情の昴は返答に困った。

 

「……」

「教えてくださいアーディンさん! お願いしま~す」

 

 何もいえないでいる昴の横では、ペコリと頭を下げて拝むように手を合わせる餡コロがいた。その様子を見たアーディンは予想外の展開に言葉を失い、口をあんぐりと開けて呆けた表情になる。

 昴も餡コロに習い同じように頭を下げ、拝むように手を合わせると自己流のお経を唱え始めた。

 

「グスん。絡み甲斐の無い娘だ……」

 

 勝負は餡コロ昴の勝利に終わった。

 仕方ないと言わんばかりにアーディンは説明を開始する。

 

「まずはスキル欄を開け。さっきのチェック作業のおかげで『スキル一覧』と声に出して言えば出てくるはずだ」

 

 アーディンはそういってからある事を思い出した。

 

「あ、お前ら音声認識してるだろうな?」

「あ、やってなかった」

「してま~す」

 

 声は個人によって当然のように違う。この世界では現実の自分の声が反映されていた。

 声に出す事でUIが開くのであれば、他人の声にまで反応して勝手に開く恐れもあるという事になる。それを防ぐ為、先に「音声認識」コマンドを使って自身の声をUIに登録させるのだ。

 登録された声にのみUIが反応する仕組みになっているというわけだ。

 

 昴は自分の声を登録すると、声を使ってスキル一覧画面を呼び出した。

 

「スキル欄出したら、ひとつひとつアイコンをタッチして、その都度スキル名を口に出して言え」

「もしかしてスキルは、名前を発音して使用することになるんですか?」

「魔法系はな。物理職の場合は……私は魔法職だからわからんが、たぶん一部はスキル名を叫ぶ事になるだろうな」

 

 さすがにスキルを使用するたびに叫んでいたのでは、自分のような物理職は声が枯れるだろうと思った。

 物理戦闘職はスキルの発動速度が速い。ほぼ連続で攻撃を行える為、もしスキル名を叫ぶことで発動するとなれば、常に何かを叫んでいることになるだろう。

 スキル名を叫び終わるまで技も出ないとなれば、戦闘速度もゲームだった頃より確実に遅くなる。

 

「次に行くぞ。さっきも話したとおり、この世界は『意思』の力が重要な仕組みになっているが……解るか餡コロ?」

「はい」

 

 アーディンの問いに迷い無く答えた餡コロは、自信満々な表情を浮かべて説明に耳を傾けている。

 

「ほ、本当に?」

 

 昴と餡コロは僅か数時間の付き合いでしかないが、彼女の様子からはアーディンの言葉を理解していることが脅威のように感じた。

 

「はい? 弱い意志の持ち主だと魔法が使えなくなったり、武器も重く感じて戦えなくなるっていうアレですよね?」

「な!? 何故そこまで理解している!?」

「す、凄い!」

 

 アーディンにしても餡コロの理解力には驚かされた様子だった。

 

「えへへ。私、物語の設定から入るタイプなんですよ。公式サイトも他のページは見ないかわりに、ストーリーの所とかは何度も何度も見てます!」

 

 餡コロのレベルは昴と同じ79。職業(クラス)はソーサラーという魔法職だ。つまり、スキル名を声に出さなければならないタイプだ。

 

「ま、まぁとにかくだ。餡コロが言ったようにこの世界では『意思』が強くなければ戦えないという事になる」

「今俺達がスキルを使えないのは意思が弱いからですか?」

「いや、違う。我々は元々この世界の人間じゃない。だからこの世界での理は半分ぐらいしか作用していないと考えろ」

 

 アーディンは、ここが異世界だという事を前提に話している様子だった。昴としては、まだ判断に苦しむ部分はあるものの、今は彼女の話に合わせて異世界だと認識の元で聞く事にした。

 

「我々にとって『意思』が重要になるのはスキルを使う瞬間だけだ。どのスキルをどこにどう使うか、ハッキリとした『意思』を持つ事が大事なのだ」

「ハッキリとした意思……」

 

 昴はアーディンの言葉を反復するように口にした。

 『意思』とは集中力でもあり意識するという意味でもあり、決意のようなものでもある。この世界では人の思考に関わる、あらゆるものがひとまとめにされて『意思』と言われているようであった。

 

「お前の例で言うと、今から自分は『スラッシュ』を目の前の敵に向かって使うぞ! っと頭の中でしっかり思うってことだな」

「なんだかそれだと、スキル発動に時間が掛かりそうですね」

「はじめのうちはな。馴れれば無意識のうちに意識できるようになるから、ゲームであった詠唱時間後には発動するようになるさ」

「詠唱時間あるんですか?」

「あぁ、CT(クールタイム)もあるぞ。妙な所でゲームシステムが生きてるんだよね」

 

 長い会話の中、時折アーディンの口調は女性らしいものが混じったりもしている。

 彼女の説明によれば、特に魔法職の場合なのだが、ゲームで数秒の詠唱速度が設定されていたスキルなどは、どんなにスキル名を早口で言えたとしても、設定されていた詠唱時間に達するまでは発動しないという事だった。

 

「そういえばHPバーとかMPバーもありますしね」

「完全なファンタジー世界みたいなのだったらよかったのに」

 

 普段はHPやMPの数値を示す横長いバーは表示されていないが、戦闘状態に入ると視界の左上あたりに突然表示されるようになる。また他人が戦闘状態になっている場合には、その人物の頭上にHPとMAPバーが見えるようになっていた。

 こういった仕様がゲームだと思わせる要因にもなっている。

 

「とにかく、あとは練習あるのみだな。何度の繰り返し練習していたら、そのうち感覚が馴れてきて強く意思を持てるようになってくるだろう」

 

 昴と餡コロは早速スキルの習得練習に取り掛かった。

 目を閉じて意識を集中させるた昴は、ナイトの基本攻撃スキルである「スラッシュ」の習得から始めた。

 

 彼らが今いるのは街道からほんの少しだけ道をそれた草原地帯。自発的には襲ってこない、ノンアクティブモンスターが生息する場所だ。モンスターのレベルはせいぜい13ほど。

 昴は剣を右手に構え、対峙するモンスターとの間合いを詰めてから「今からスラッシュを使うぞ」と強く意識する。剣を握った右手に力を込めると、モンスター目掛けて斜めに振り下ろすように切りつけた。

 

「ピギャー」

 

 キノコ型のモンスターは、奇声を発して倒れる。絶命には至らなかった様で、むくっと起き上がると昴目掛けて突進してきた。

 スキルの発動は失敗した。成功していたのであればこの程度のモンスターは一撃で倒せたはずなのだ。

 慌てて第二撃を放つが、これもまた失敗。だたし、この攻撃でキノコモンスターは絶命した。小さな胞子と極少量の銅貨を落とすと、モンスターは黒い霧となって四散する。

 

 モンスターに詰め寄りスキルを使うことを強く意識して剣を振り下ろす。同じ動作を繰り返す事数時間後、辺りがやや薄暗くなってきた頃、ついに昴は一撃でモンスターを倒す事に成功した。

 

「なんとなく……こんな感じかな?」

 

 剣を振り下ろした瞬間、剣の軌跡を追うかのように残像らしきものが現れると、風を切ったかのような音と共にモンスターが倒れたのだ。

 倒れたモンスターを見ると、これまでに無い深く鋭い大きな切り傷が付いていた。

 

「早いな、お前……もうちょいの所まできてるだろ」

 

 アーディンがキノコモンスターの傷を確認しながら感心したように洩らす。言葉を言い終えるころには、キノコの残骸は黒い霧となって四散した。

 

「長い事剣道やってたから、意思っていうか……集中することには馴れてるんですよね」

 

 褒められた事に対して素直に喜んだ昴は、やや頬を染めて照れくさそうに答えた。昴の横では餡コロが杖を抱えて目を閉じたまま突っ立っている。

 

「う~ん、う~ん」

「どうしたんだい、餡コロさん」

 

 ぎゅっと瞳を閉じて両手で杖を握り締めていた餡コロは、昴に声を掛けられたことで目を開き、大きな溜息を付いて肩を落とす。

 

「魔法出ろ~魔法でろ~って心の中で呟いているんですが、なかなか出てきてくれません」

 

 背中を向けた状態で餡コロの言葉を聞いたアーディンは、思わず膝が砕けるようにしてこけると、慌てて彼女の元へとやってきて説明を行した。

 

「……いや、魔法職はスキル名をちゃんと喋らないとダメだぞ。よくアニメとかでもあるだろう。魔法の呪文を唱えて最後に魔法の名前を言うっていうパターン」

「なるほど! 魔法使いになりきるんですね!」

「う、うむ。そんな所だ」

 

 とりあえずは理解したのだろうと判断したアーディンだったが、スキルの練習をひとまず中止させた。

 二人がスキル習得練習をしている間に、薪になりそうな枝を少し離れた林のほうから拾い集めてきたアーディンは、カバンから火付け石を取り出し火を起こす。

 

「そろそろ暗くなるぞ。野宿の支度して練習はまた明日にしろ」

 

 アーディンが声を掛けると餡コロは、失敗続きの魔法のことなど忘れて、明るく返事をすると焚き火のほうへとやってきた。

 

「……ッハ!? 野宿!!」

 

 昴はふと脳裏にある事が浮かんだ。午前中に助けた餡コロと助けてくれたアーディンの二人と、そのままの流れで一緒に行動をしているが、このまま三人一緒に夜を過ごしてもいいものだろうか、と。

 アーディンに関しては、以前にかなり年上だという話を聞いていたが、餡コロについては年齢など知る由も無く、聞く勇気すらないが、恐らく若い女性ないしは少女であることは想像できる。

 年頃の女の子と一夜を共にする……異世界であれゲームであれ、それは許されるものなのかと自問自答した。

 

「どうしたんですか? 昴さん」

「あ、いや、なんでもないよ」

 

 急に動きが止まった昴を心配して、餡コロが覗き込むように声を掛けてきた。昴は慌てて視線を逸らすと深呼吸して心を落ち着かせた。

 

(この状況は……まさか!)

 

 落ち着こうとしたのだが、かえって深く考え込むハメになる。胸が高鳴るのを抑えようと必死で別の事を考えようとしていたが、昴の胸の高鳴りは別方向から一瞬にして急下降していった。

 

「ハーレムだ! とか思ってるんだろう」

 

 見透かしたようにアーディンが昴を指差した。ニヤリと笑った彼女の視線が痛く突き刺さる。

 

「っぐ!」

「っぷ」

 

 昴が胸を押さえて喘ぐのと同時に、アーディンは鼻で短く笑った。鼻で笑うのはアーディンのクセみたいなもので、ゲーム内で知り合った頃から昴はこの笑いを良く知っていた。

 

(良く考えたら相手はあのアーディンさんだぞ……あれを女として見れるのか俺は?)

 

 見れるわけが無い。昴はそう判断したのだった。

 

 

 

「私が先に火の番をしてやるから、お前ら先に寝ろ」

 

 夕食も済ませ、三人はこれまでの事や、これからの事をいろいろ話し合った。三人はこのままウエストルの都へと向かい事にした。活動拠点となる場所も必要だったし、ウエストルの都であれば多くのプレイヤーたちが集まると踏んだからだ。

 パール・ウェストの村から最も近く、この地域一帯で最も大きな町がウエストルになる。戦闘不能時に蘇生しないまま放置すると、強制帰還させられる大聖堂もあるし、ギルド施設も存在する。

 多くのプレイヤーはギルドに所属しているので、活動拠点に選ぶならギルド施設のある町を選ぶだろう。人が少ない場所よりも多い場所で活動するほうが、何かと便利な事が多い。

 

 明日からは移動とスキル練習と同時にやるからなとアーディンは話すと、餡コロにだけ早く寝るように指示した。 

 

「おやすみなさ~い」

 

 就寝の挨拶を済ませると、餡コロは驚異的な速さで熟睡してしまった。

 寝静まった餡コロを起こさないよう、アーディンがそっと忍び足で昴の元へとやってきた。彼の横までやってくると身を屈め耳元で小さく声を掛けた。

 

「おい、昴」

「は、はい!」

 

 アーディンがしのび足で向かってくる姿を見て、昴は奇妙な胸騒ぎを感じていた。まさか自分は襲われるのだろうか……とありもしないことを想像した。

 

「でかい声出すな。あの子に火の番なんかさせたら、即効で焚き火が消えるか野焼きが発生するかどっちかだ。後半はお前ひとりで火の番な」

 

 今度ばかりは昴の考えていた事を見透かせなかったアーディンは、端的に話をすると再びゆっくりと静かに、焚き火を挟んで昴の反対側へと腰を下ろした。

 

「……了解です……野焼きは大袈裟にしても、火は消してしまいそうですね……」

 

 昴は小さく呟くように話すと、自身は体を横にして目を閉じる事にした。

 ふざけている風に見えて、ちゃんとやるべき事はやるアーディンの事を考えると、あながち「イケメン」というのも彼女を表現する良い言葉にも聞こえる。

 

(やっぱり、俺のイメージではまだまだ男のままだな……)

 

 寝付く前に昴はある事を思い出す。2年前の事件を。

 

「アーディンさん……何も知らなかったとはいえ、ギルドを追放した事……すみませんでした」

 

 焚き火の炎が揺れる。彼女は薪を追加したのだろう。

 

「今更か? そういうのは出会いがしらで土下座してするもんだろう?」

 

 内容は辛辣だが、語る口調は穏やかで苦笑いする声も聞こえてきていた。

 彼女の言葉を聞いてから、昴は再び瞼を閉じて眠った。

 

 明日からの旅はひとりではない。

 ここが異世界として、当初の目的はウエストルの都であるが、そのあとはどうするか。女神の願い通りに闇の軍勢と戦うのも悪くない。そう思えた昴だった。

 

 

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