『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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75:キースと餡コロ

「残りあとひとつだぞ! ここを終わらせれば、あとはラスボスだ!」

 

 東側大陸中央部、ロードリークの都でのレイド戦。

 レイドボスとの戦闘は城内ではなく、かなりの広さを有した中庭で繰り広げられていた。野外の戦闘という事で、ウィザードには有利な状況が作られている。

 

「召喚雑魚が出てきたら、昴はその瞬間を狙え!」

 

 指揮を任された『青龍騎士団』ギルドマスターの小竜が指示を出す。昴の特殊スキルである「ジャスティス・ブレイド」は範囲攻撃であるが、範囲内に敵が多ければ多いほど与えるダメージが大きくなる仕様だ。ヘイトスキルで敵を足止めすることが不可能になった今、レイドボスの足元に一定間隔で湧き出す召喚モンスターが現れた瞬間が、最も大ダメージを与えられる瞬間にもなっていた。

 

「よし、今だ! 『ジャスティス・ブレイドオオォォォ!』」

 

 レイドボスの足元に召喚モンスターが現れた瞬間を狙って、昴が渾身の力を込めてスキルを発動させる。

 それに合わせるかのように、他のプレイヤーたちも最大火力で攻撃を繰り出した。

 

「範囲攻撃を集中させろ!」

 

 小竜の合図でウィザードたちが一斉に呪文の詠唱に入る。

 空が陰り、暗雲が立ち込める。

 

『始原の根源、荒ぶる空の輝き。降り注げ。メテオストライク』

『イフリートの吐息。天を焦がす石礫を舞い降りれ。メテオストライク』

『万物の根源たるマナよ、破壊の炎となりて全てを焼き尽くせ! バーストフレア!!』

『氷狼フェンリルの吐息。全てを凍てつかせる吹雪を呼び起こせ! アイス・ストーム』

『氷の女王シヴァの怒りによって、吹き荒れろ! アイス・ストーム』

 

 天空から無数の石礫が飛来しレイドボスを襲う。

 レイドボスの足元で炎の塊が弾けとび、吹雪が吹き荒れる。

 

 小隕石と炎による二つの爆発で熱せられたレイドボスが、猛吹雪によって急速に冷やされていく。

 堅い皮膚のあちこちにはヒビが生じた。

 

 そこへ「奥義」とその他が炸裂する。

 

『忍法、雷遁・火遁合体! 雷鳴炎狂乱舞』

 

 小竜の「奥義」――炎を纏った稲妻が狂ったようにレイドボスの体の表面を駆け巡る。

 

『唸れ、地獄の戦斧! デスティニー・ホーク』

 

 バーサーカーのグレムアの巨大な戦斧が、その重量からは想像も出来ない速さで連続攻撃を繰り出す。

 

『秘術! 口寄せ、大蝦蟇(おおがま)・次郎長』

『大蝦蟇油、地獄炎舞!』

 

 モンジは相棒の大蝦蟇を呼び出すと、蝦蟇の背に飛び乗る。

 蝦蟇はその大きな口から粘着性のある油を吐き出し、モンジは自ら火遁によって口から炎を吐き出す。

 二つが合わさって燃え盛る業火となり、レイドボスを包んだ。

 

 最後に高笑いを上げながら現れたアーディンが、止めと言わんばかりにスキルを放つ。

 

『愚かなる生き物よ、世界の裁きを受けよ! ジャッジメント』

「っていつの間にあのエロフはボスのほうに行ったんだ?」

 

 つい先ほどまで自分と一緒に後方に居たはずなのに……そう思いながらクリフトは呆れたように溜息を付いた。

 そこへ、レイド戦終了を知らせるシステムアナウンスが流れた。

 

『レイドボス・ガナズリィの討伐に成功しました。これにとり――ジジジ――ジ――排除――ジィ――した』

 

「うっげ。アナウンスが途切れだしたぞ」

 

 アナウンスだけでなく、視界に現れたシステムメッセージにも異常が見られる。一部のメッセージに文字化けが発生していたのだ。

 

「本気でまずそうだな」

「ゆっくりもしてられそうに無いですね」

「あぁ。帰ったら即効で会議開いて西と東のメンバー決めたら突撃開始だな」

 

 昴と小竜はそう話すと、ドロップ品を回収したら早急に帰還することを決めた。

 開放した都はレイドボス戦に参加していた中堅ギルドに任せ、他は全員は帰路への準備を開始した。

 

『聖堂帰還』

 

 都の各所でプレイヤーたちが次々と消え去ってゆく。そんな中、お城の中庭にいた昴たち10人はまだ残ったままだった。

 

「ってあれ? ボスは倒したのにスキルが発動しない?」

「え? でも他のPTは……」

 

 桃太が詠唱した「聖堂帰還」は効果を表さなかった。クリフトもスキルを唱え、次にアーディンも唱えた。

 しかし効果は得られない。

 戸惑う一行の前に黒髪のエルフが現れた。

 

「悪かったね。ボクがちょっと手を加えさせてもらったよ」

「キース!?」

 

 キース・エッジ。この世界にゲームシステムを実装させた張本人だ。彼ならば昴たちにだけ「聖堂帰還」を使用不可能にする事もできるのだろう。

 

「ちょっと……話を聞きたくてね」

 

 キースはそういって昴たちのほうへと歩み寄った。他に供の者も居ないようだ。

 

「は、話ってなんだよ!」

 

 近づくキースに警戒するいっくんは、愛用の巨大斧を構えて身構えた。

 

「君にじゃない。そっちのお嬢さんだよ」

 

 そういってキースはある方向を指差した。そこに居たのはニャモと餡コロだ。

 

「え? 私?」

 

 指差された――と勘違いしたニャモが返事をする。全員の視線がニャモへと注がれた。しかし、昴とアーディンだけは「違うだろ」という冷たい視線だ。

 

「……違う……そっちの茶トラ猫のリーフィンだ」

 

 キースも呆れた表情で答える。彼は餡コロのキャラクターネームを知らなかった。いや、システムを開けば解るはずなのだが、既に崩壊しかけているシステムでは、表示されるキャラクターネームにも文字化けが発生して正確な名前が確認できない状態にまでなっていたのだ。

 

「私……ですか」

「何を話すのよ? 餡ちゃんに何かしたら、タダじゃおかないわよ!」

「何もしやしないさ。本当にちょっと話がしたいだけなんだ」

「んなこたぁ信じられるか! てめーは敵なんだぞ! 俺達をこんな目に合わせた……のは女神様だけど、ややこしくしたのはてめーなんだからな!」

「まぁたしかにそうだけどね。でも、今の君達の戦い方を見ると、ボクのお陰でこれまで楽な戦いができていたんじゃないか。感謝してほしいぐらいだね」

「むぐ……たしかに……」

「ボクとしてはゲーム仕様にすることでややこしい戦闘にさせるつもりだったんだが……現実の戦闘のほうが難しかったなんてね。ちょっと計算外だったよ」

 

 キースの素直な告白に戸惑う一同だったが、実は彼の罠ではないだろうかという疑念すら浮かんでくる。

 

「あの! 私もあなたにお聞きしたい事があるんです」

「え? ちょっと餡ちゃん?」

「そうか……っという事は……」

 

 餡コロの言葉にキースは自分の答えを見つけた気がした。しかし、より確実なものにする為にはしっかりと話を聞く必要があることも解っている。

 

「みなさん。暫く二人だけにして貰っていいですか?」

 

 餡コロ自らが仲間達に申し出た。きっとその方がいろいろと話しやすいと思ったのだろう。

 

「ダメよそんなの!」

「うん。流石にキースと二人だけってのは……」

 

 皆が彼女を心配する。口を開けば二人きりになることを反対する意見しか出てこなかった。

 少し考えた餡コロは、妥協案を唱えた。

 

「じゃあ、昴さんが傍にいてください」

「「それならオッケー」」

 

 間髪居れず返答する一行。肩から崩れ落ちそうになるのを堪えた昴は、振り向き様に叫んだ。

 

「なんでお前らそれで納得するんだよ!」

 

 そんな昴の叫びは無視されて、三人は離れた場所にある大きな樹の根元へと移動した。もちろん三人とは、キースに餡コロ、そして昴だ。

 

「じゃあ、君がボクに聞きたい事ってのを先に聞こうか。ボクが知りたかった内容も、きっと君の質問で解決するからね」

「……そう、ですか」

 

 躊躇いがちに答えた餡コロは先にキースが話をするんだとばかり思っていた為、自分の中での聞きたい事をまとめられず、話をはじめるまでに少し時間が掛かった。

 

「えっと……私、従兄妹のお兄ちゃんを探してます。そのために『ワールド・オブ・フォーチュン』のゲームを始めました」

 

 餡コロの話に耳を傾けているキースの表情が俄かに動いた。

 

「お兄ちゃんの名前は、柊 正義です」

「……そうか……」

 

 キースの中では結論が出ていた。柊 正義――それはキースの元の世界での名前だった。

 

「あなたが私の従兄妹のお兄ちゃんじゃないんですか!?」

「……」

「教えてください!」

 

 キースの表情を見て何かを察知した餡コロが、声を荒げて尋ねた。しかし、キースは無言のまま答えようとはしない。

 

「餡コロさんは何年もずっと探してたんだぞ!?」

 

 苛立ったように昴も声を荒げた。

 

「そのわりにゲームを楽しんでいたんじゃないのかな? レベルも高くなっていたし」

 

 皮肉っぽくこう言ったキースだったが、顔は笑ってもいなかったし怒っているようでもなかった。視線を逸らすようにしたその表情は、どこか苦痛に耐えるような顔にも見える。

 

「あ、えっと。意外と面白くって……」

「……餡コロさん……それ墓穴だよ……」

「だって、正義お兄ちゃんが『MMOは面白いよ」って言ってたし。本当に面白かったんだもん!」

 

 キースの気も知らず、餡コロがいつもの能天気な口調で答えると、昴は肩を落として大きな溜息を付いた。そんな二人の会話に真面目な顔をしたキースがつい答えてしまった。

 

「そういえばそんな事も言ったような」

 

 先ほどまでの苦痛に耐えるかのような表情はどこへ行ったのか。彼の表情にはやや能天気さが伺えるものになっていた。

 

「やっぱり! お兄ちゃんなんでしょ!」

「……墓穴を掘った……」

 

 自ら「従兄妹です」と言わんばかりに答えてしまったキースに突っ込みを入れた餡コロ。普段なら突っ込まれるだけの役だった餡コロだが――

 

(流石血が繋がってるだけの事はある)

 

 と昴は思った。キースも餡コロと似たもの同士と言うことなのだ。

 和やかな雰囲気になった事で、昴はこのままスムーズに話が進めばいいと思ったのだが、餡コロの次の言葉で場の雰囲気は再び険悪なムードへと変わってしまう。

 

「帰ろうよ。元の世界に」

 

 そう言われると、キースの表情は一瞬のうちに暗く沈んだ。

 

「ダメだ。ボクの居場所なんかあそこには無い!」

 

 キースはそう言うと、拳を大木へと突きたてた。

 

「誰も望んでなんかいないさ。ボクがあの世界に居る事なんて。親父も兄貴たちも、お袋だってな!」

 

 

 

 倒されたレイドボスが鎮座していた大きな樹の裏手、昴と餡コロ、そしてキースの会話がかろうじて聞こえるかどうかというその場所に命は居た。

 

「や~っぱり居たか」

「ア、アーちん!?」

 

 そこにもうひとり、アーディンが現れる。

 

 

 

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