『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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77:早とちりの大団円

「私、ドナー登録します!」

「「えぇ?」」

 

 突然の事に目を丸くして声をはもらせたキースと昴が同時に叫んだ。

 その声は彼らが背にした大木を寝床にする、鳥の羽ばたく音によって掻き消された。

 

 驚愕した二人の表情を無視して、餡コロは嬉々として言葉を続ける。

 

「少しでも登録する人が増えれば、適合者が見つかる確率だって増えるんですよね?」

「そ、そうだね」

「だからって、お前一人が登録したところで適合できる可能性なんて……」

「そんな事いってたら、お兄ちゃんが好きな人、助けられないでしょ!!」

 

 腰に片手を当て、残りもう片方の手で人差し指を立てる餡コロ。若干お姉さんぶってキースを叱るような代振りを見せている。

 

「うん。そうだよね。俺もドナー登録するよ。命さんには昔お世話になってたし」

 

 昴も餡コロの意見に賛同した。餡コロは昴のほうへと振り返ると、嬉しそうに微笑んだ。ただ一人、キースだけが困惑した表情を浮かべている。

 

「……なんで……」

「え?」

「なんで赤の他人の為にそんな事するんだ!?」

「そんな事って……ドナー登録って難しい事なの?」

「難しいというか……骨髄の髄液を取らなきゃいけないからね。かなり痛いらしいよ。抜き取った後は暫く痛くてまともに動けないって話を聞いた事あるけど、本当かどうかわからない」

 

 一般的に言われている程度の事しか昴にもキースにも解らなかった。痛いと言われている事も、それが真実なのかも解らない。

 昴の言葉を聞いた餡コロは一瞬たじろぐが、すぐにガッツポーズを決めて決意を固める。

 

「い……痛いのなんて我慢すればいいんです!」

 

 餡コロの仕草に苦笑いを浮かべた昴は、穏やかに「そうだね」と答えた。

 

 暫く沈黙が続いた後、遂にキースは口を開く。大きな溜息を混ぜて。

 

「すぐにピーピー泣いていたお前が……」

「もう子供じゃないんだからね!」

 

 つい先ほどまでお姉さんぶっていた餡コロは、早々と子供扱いされた事に不貞腐れ頬を膨らませた。

 そんな微笑ましい光景に突然キースの怒鳴り声が響き渡った。

 

「何!? 子供じゃないって、お前どういう事だ!?」

「え?」

「まさか……貴様! 昴!!」

「は、はい?」

「美奈を傷物にしやがったな!?」

「えぇー!? なんでそうなるの!?」

 

 何かを勘違いしたキースによって、昴は追いかけられるハメとなった。

 

 

 

 その頃、大木の裏手では昴たちの動向も解らないまま、二人の女性が激しく言い争う声が聞こえていた。

 

「自分が死にたくないから、他人が死んでもそれでいいって事か」

「そんな事言ってないわよ!」

「いいや、言ってるね。肉体は向こうの世界に置いてきたままなんだぞ。何かの拍子に死ぬ事も有り得なくないだろ。お前自身が、もう死んでいるかもしれないと思ってたじゃないか。同じように入院中のプレイヤーが他にもいるかもしれないぞ? お前が無駄に手こずらせたお陰で死んでるヤツがいるかもしれないんだぞ?」

 

 アーディンが一気に捲くし立てる。彼女の剣幕に押された命が、後ずさりながら消え入りそうな声でこう言った。

 

「……でも……だって……まだ、死にたくない」

 

 命の瞳には薄っすらと涙さへ浮かび始めている。そんな命を見ても、アーディンは優しい声のひとつも掛けることは無い。その事が更に命の涙を誘う。昔とは違う二人の関係がそこにはあるのだと命は悟った。

 

 いや、そう思っていたのは命だけで、アーディンは「バカな友達」を継続中のつもりでいた。 

 

「だぁ~!! 私はさっさと元の世界に戻りたいんだよ! 息子に合いたいんだよ! テメーに骨髄ドナーが必要っていうなら、ドナー登録でもなんでもしてやるからよ!」

「!? アーちん……でも」

「骨髄抜き取るのが痛いってか? 出産のほうが何倍も痛いわ! 生き物が感じる事の出来る傷みで、最も痛いのが出産だって知ってるか?」

 

 自身に子供がいることを告げたアーディンは、どこか照れくさそうに、同時に苛立たしそうに怒鳴った。

 彼女に子供が居る事を命は知らない。ゲームを引退した後に妊娠した計算になるので知らなくても当然だ。

 命の驚きは、アーディンに子供が居たという事だけではない。骨髄のドナー登録をすると言い出したのだ。何の脈絡もなく。ただ元の世界に帰りたい一心で出た言葉だろうとは思うが、見捨てられていなかったという事実が命の心に深い喜びを与えた。

 

 そこへ、別の人物たちが合流した。

 

「ボク達の負けだ。命」

「キース様?」

 

 昴や餡コロとワルノリした追いかけっこをするうちに、キースはこの世界に固執する事に馬鹿馬鹿しさを感じるようになった。

 その時頭に浮かんだのが命の事だった。

 

「帰ろう……ボクにも、そして君にも、帰りを待つ人がいる。ボクもなんでこの世界に固執したのか、もう解らないよ。はじめは復讐っていうのもあったけどね。何も解らない状況で突然真っ暗な穴に落とされ、解らないうちに魔物から殺されそうになって……でも、ま……あの時の恨みはもう晴らしたようなものだから。ボクは帰ることにするよ」

「そんな!? 私を置いて――」

「だから一緒に帰ろう! 向こうの世界のボクは、今のボクほど良い男じゃないけど……それでも受け入れてくれるなら、ボクはずっと君の傍にいるから。ずっと君を支え続けるから」

「キース……様……」

 

 大粒の涙を浮かべた命を、キースがそっと優しく抱き寄せる。

 声を殺しつつも泣き続ける命の姿に、昴も、そして餡コロも胸を締め付けられる思い出見つめていた。

 唯一人、納得いかない表情のアーディンだけがズカズカと二人の間へと割って入ろうとする。

 

「おい、横から出て来て何イチャコラしてるんだ」

「まぁまぁアーディンさん。いいじゃないですか」

 

 完全に置いてけぼり状態のアーディンを、昴と餡コロが苦笑いと浮かべて取り押さえた。

 

「ボクは、君の為にドナーに登録するよ」

「え?」

 

 キースの言葉に驚く命。その表情は驚きとともに喜びの色も浮かんでいる。

 

「あ? おい、それは私が言ったセリフだぞ」

 

 アーディンは自分が思いついたネタを横取りされたと思い、キースに噛み付いた。いや、噛み付こうとしたが昴から更なる追い討ちを掛けらる事になった。

 

「あー、実は俺達もそういう事で話がまとまったんですよ」

「はぁ?」

「私も昴さんも、ドナー登録することにしたんです」

 

 言いだしっぺは餡コロだと説明を受けると、アーディンは膝を付いて地面へと崩れ落ちた。

 

「……わ……私が、お前達と同レベルの思考だ……と」

 

 ガックリと肩を落としたアーディンは、いじけるように地面の草をむしりだした。

 

 地面に両膝を付いて草をむしるアーディンの視界に、重厚な鉄靴が入って来た。

 

「じゃー俺も登録するぜー」

「いっくん!?」

 

 いつの間にかやってきたのはいっくんだけでは無い。残りの仲間達全員がその場にいた。

 つまるところ、全員が聞き耳を立てて様子を伺っていたのだ。

 

「死ぬのを待づだけとか、そんなごどがわいぞうすぎるぅ」

 

 ハンカチを口に咥えて、目には溢れんばかりの涙を溜めたカミーラがこう言った。彼の化粧は溢れる涙で流れ落ちている。

 

「うわっ、なんだこの気持ち悪いオカマは!」

 

 キースは正直な感想を口にしてしまう。その言葉を聞いたカミーラが一瞬で変貌するのを、誰もが見逃さなかった。

 

「あぁ? なんだテメー。オカマにケンカ売ってんのかゴルァ」

「すみません。もう言いません」

「キースってこういうキャラだっけ?」

「さぁ?」

 

 カミーラの迫力に押されたキースが、こそこそと隠れにように命の後ろへと移動した。その姿を命も笑って見つめる。

 

(生きる為にこの世界で戦う続けるのなら、元の世界で戦うのも変わらない……かな。それなら……僅かな望みにもう少しだけすがってみよう)

 

 命はそう思って元の世界に帰ることを決心する。

 愛する者と共に。

 バカな友人と共に。

 自分が迷惑を掛けてしまった大勢の人たちと共に。

 

「はっはっは。これにて一件落着でござるよ!」

 

 大円満な光景にモンジが大きな声で言うと、これまた大きな声で笑った。

 皆も釣られて笑う。

 今から元の世界に皆で帰るぞ!

 既にそんな雰囲気にもなっていた。

 

 そんな中、ひとりだけ真顔で全員に突っ込む者が居る。

 

「いや、まだ終わってないから」

 

 クヒルトは冷静にそう言うと、キースと命のことを他のプレイヤーにどう説明するのか、そして魔王討伐が最重要課題であることを全員に告げた。

 現実を突きつけられた彼らは、一斉に肩を落として項垂れた。

 

 

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