『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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81:和解

 東側大陸最北端にある街、モードリューク。

 最北端にある街という事もあり、プレイヤーによる救済の手も届かない状況にあった。つい先日までは――

 

「街の人たちの協力のお陰で、この人数でもなんとかなったな」

 

 そう言ったのは昴だった。

 彼ら『冒険者』ギルドの面々は、ある人物らに会うためモードリュークへとやって来た。

 東側大陸に広がった、平和を勝ち取る為の戦火はこの北の大地にも届いていた。

 昴らがこの街に到着したとき、まさに住民達が立ち上がろうとしていた矢先だったのだ。

 

 数年前、この世界の住人にもまだ戦う力が残っていた頃、この街は魔王討伐を目的とした冒険者や傭兵が集まる街でもあった。モルタの街から北東に四、五日歩いた位置にある街で、モルタの街は真っ先に魔王の支配下となった街でもあった為、このモードリュークが闇の穴への討伐対の最前線になっていたのだ。

 そういう事情もあって、当時の冒険者や傭兵たちの生き残りが今も街に滞在したままこの日を迎えていた。彼らは数年前の屈辱を晴らす為、命を落とした友の仇を討つため、取り戻した「勇気」を奮い立たせて戦った。

 

 昴らが街へと到着し、冒険者や傭兵たちと協力して全てのモンスターを殲滅するのにそれほど時間を必要とはしなかった。

 冒険者や傭兵達は魔王に挑もうと集まった猛者だ。数年間戦う力を失っていたとは言え、ひとたびその力を取り戻せば、戦いの勘を思い出すのにそれほど長い時間を必要とはしなかったのだ。

 

 街は今、大歓声に包まれている。恐怖による支配から解放された住民達が、街のいたるところで声を上げ騒ぎ、そして歌っている。手を取り合って踊る者も少なくは無かった。

 

 賑わう街の一角に昴たちはいた。

 

「くぅー、やっぱ本物の勇者ってのは、こういうのを言うんだろうなー」

 

 街に来てからの事を思い出していたいっくんが、感動したように言う。街を救う為に立ち上がった冒険者や傭兵達の事を言っているのだ。

 冒険者や傭兵といえば、お金で動く兵士というイメージだったが、地位も名誉も、ましてはお金さへ手に入らない戦闘に自らの命を掛けて戦う様は、いっくんに感動を与えたのだ。

 

「あらぁ、あたしたちだって巷では英雄って言われてるのよぉ」

 

 いつの間にかいっくんの傍にやってきたカミーラが、彼の逞しい腕に自らの腕を絡ませながら言う。カミーラのこういった行動にも馴れたのか、いっくんは顔色ひとつ変えずことなく、腕組みをされるがままに任せて言葉を続けた。

 

「まぁそうだけどさー。でも俺らの強さってなんか、偽者っぽいじゃんか」

 

 死ぬ事のない自分達と、まさに命懸けで戦うこの世界の住民とを比べると、強さの意味合いも違うようにいっくんは感じた。

 そんないっくんの言葉にクリフトが意外だなといった表情で口を開いた。

 

「ほぉ、いっくんの口からそういう言葉が出てくるとは思わなかったな」

「どう思ってたんだよ」

「俺様サイコー。そんなこと思ってるものだとばかりな」

「……」

 

 クリフトの言葉に他のメンバーも頷く。

 実の所、いっくん自身そう思うことも間々あったのだ。

 そんなやりとりが行われている横では、真剣な面持ちで会話する一団があった。

 

 命とキース、そして彼らの元部下達だ。

 

「姐御……本当にいいんですか?」

「何をよ?」

 

 三十人ほどの元部下たちの中のひとりが、心配そうな表情で命に声を掛ける。彼だけでは無い、そこにいる全員が命を心配した様子で見つめていた。

 

「だって、元の世界に戻ったら姐御は……」

 

 ――死んでしまう。彼はそう言葉を続けようとしたが、あまりにも残酷な内容に言葉を続ける事ができなかった。

 命はそんな彼の言葉の続きを理解して、虚勢を張る様にして答えた。

 

「だ、大丈夫よ。直ぐにどうこうって訳じゃない……はずだし。それに」

「それに?」

「頑張って、もがいて、生きるって決めたんだもの」

 

 命の表情が明るく、そして凛々しかった。

 

「あ、姐御ぉー」

 

 命の言葉に感動した元部下たちは、揃って彼女の足元へと跪くと大声を上げて泣き崩れた。

 

「あいつ、あねごって呼ばれてるのか」

「なんか昔のイメージと違いますよね」

「そうか? 似合ってると思うけどな。あねご……っぷ」

 

 アーディンと昴が遠慮する素振りも見せずに言葉を交わす。その言葉は命の耳にしっかりと届いていた。

 

 

「ちょっとそこ! 今せっかく感動シーンだったのに、台無しにしないでよね!」

「っぷ」

 

 振り向きざまに怒鳴る命だったが、その姿が余計にアーディンの笑いを誘ってしまった。

 感動――というには無理のある光景だったのだ。

 

 美しい少女の足元に群がる……スキンヘッドな戦士だったりおかっぱ頭の魔法使いだったり、一番目を引くのは……女装姿の男だ。これでは感動しようにも無理がある。

 

「笑ってんじゃねーぞネナベやろー!」

 

 鼻で笑うアーディンに対して、女装姿の男が叫んだ。その男の名はミルキィー。

 

「うるせ~ネカマデブ!」

「で、デブって言うな!」

 

 アーディンも負けじとミルキィーを罵る。彼女が口にした単語は、ミルキィーが尤も嫌う言葉だ。知ってか知らずか、アーディンは尚もミルキィーに対して「デブ」攻撃を連打した。それに対してミルキィーは必死に反撃を繰り出す。

 

「デブ」

「変態」

「褒め言葉だな。デ~ブ」

「くっそ。ネナベ! ……男キャラやってたってことはホモ好きか!? それともレズか!?」

「ブッブー。どっちも外れ。や~いや~いデブ~」

「くっそぉー」

 

 あまりにも小さく、あなりにもくだらない戦いが続く中、月がある疑問を口にする。

 

「っちいうか、なんでミルキィーは女装のままなん? 昴聞いてよ」

「な、なんで俺が! 絶対に嫌だ。ヤツとは関わりあいたくねーんだ」

「元相方でしょ。聞いてよ」

「嫌だ!!」

 

 ここでもまた下らない抗争が始まる。しかし、こちらの戦場は命の言葉によって直ぐに決着が付いた。

 

「あら、彼は私の命令で女装してるのよ」

 

 ケロリとした口調で言う命に、昴は引きつる様に顔を歪めて吐き捨てるように言った。

 

「え……またなんで……」

「だって、昴くんの相方さんでしょ? 私の味方になってくれなかった昴くんに嫌がらせするなら、彼に君から貰った女物アバター着せて登場させれば、良い嫌がらせになるだろうと思ったからよ」

 

 命の説明にミルキィーは自信気に鼻を鳴らす。これといって彼自信を褒めたわけではない。

 

「良い考えだったな命。効果抜群だったぞ」

「でしょでしょ~」

 

 アーディンと命は意気投合した様子で会話を続けている。ミルキィーと昴を出会わせるシュチュエーションはこうだとか、こういうセリフを言わせたほうがより効果的に嫌がらせをできるぞなどと楽しそうに喋っている。

 そんな二人の様子を見て、昴は嬉しいような恐ろしいような、複雑な心境であった。同時に二人について解った事がある。

 

(命さんとアーディンさんが仲良かったのがなんとなく解った気がする)

 

 緊張感のまったく感じられない会話を打ち破ったのはキースの言葉だった。

 

「君達、本当にいいんだね?」

 

 改めてキースは元部下だった男達に声を掛けた。

 

「へい。最後ぐらい俺達もカッコ付けたいですからね」

 

 躊躇うことなくひとりの男がそう答える。彼らの最後――それは、闇の穴の内部へと戻り、モンスター生成装置を破壊することだった。

 

「っつったって、この作戦は俺達以外誰も知らないんだぜ?」

「まぁ、そうだけどな……けど、俺達じゃなきゃ出来ない作戦だろ」

 

 かっこ付けたい。そういった男の言葉にいっくんが現実を語った。彼らの事も作戦の事も、昴ら以外には誰も知らない事だ。

 作戦が成功したところで、誰も褒め称えてはくれない。

 そんな光の当たらない作戦なのだ。

 

「えぇ、そうよ。あの屋敷に『聖堂帰還』できるのは貴方たちだけだもの。私とキース様は既に魔王から離反してあの屋敷にテレポート出来ない様にされてるから……」

 

 命は申し訳なさそうに言った。自分が「テレポート」できれば、彼らだけを危険な目に合わせることなど無かったのにと思っているのだ。

 それに関してはキースも同様だった。

 

「内部にあるモンスター生成装置を破壊しなきゃ、いくら囮部隊が出て行っても延々とモンスターが出続ける事になる。その為にも生成装置を破壊する必要があるが……」

 

 キースはその先の言葉を飲み込んだ。

 元はといえば自分が彼らを魔王の元へと招いたのだ。そんな自分は彼らを置いてさっさと魔王から離反し、元の世界に戻る事を決めてしまっている。

 キースの中に深い罪悪感が滲み出た。

 しかし、彼は言うべきことを続けなければならない。重たい口を再び開くとこう続けた。

 

「無条件で穴の内部に潜り込めるのは、魔王の部下であるお前達だけなんだ」

 

 キースの声を聞く男達の表情は真剣そのものだった。だが、その顔からはキースに対し恨むような様子も、怒るような様子も見られなかった。

 男達の様子を確認したキースが更に言葉を続ける。

 

「リスクが無いわけじゃないぞ。もし途中で魔王に悟られれば、内部にいるモンスターから襲われるだろうし、無事に生成装置を破壊できたとしても、今度は破壊した事で裏切りを悟られるだろ」

 

 死が存在しない彼らとはいえ、必ずしも安全とはいえない。死よりも恐ろしい目にあうことだってあるのだ。その事をキースは彼らに言いたかった。

 真剣な眼差しで見つめるキースに対し、ひとりの男が答える。その表情はどこか穏やかにも見えた。

 

「解ってるさ。だがやらなきゃいけねーんだろ」

「お前達の為じゃねーぞ! 命様のためだ!!」

 

 穏やかに言った男の言葉は終わると同時にミルキィーが威勢よく叫んだ。

 誰かが笑いながら同意する。

 男達全員が誇らしげな顔を見せていた。

 

 先頭に立つ男に向かって昴は歩み寄ると右手を差し出した。

 

「頑張れよ」

 

 差し出された昴の手を、戸惑いながらも男は握り返す。

 

「っへ……まともなプレイヤー様にまともに声掛けてもらったのなんて……はじめてだぜ」

「悪くねーよな。こういうのも」

 

 男達が照れたように言うと、昴たちも笑って応えた。

 

 少し離れた場所でミルキィーが呪文の詠唱に入った。

 

「い、行くぞ」

 

 ミルキィーのうわずった声が聞こえると、男達は一斉に応えた。

 

「おう!」

 

 気合の入った声を確認したミルキィーは、小さく深呼吸をしてから最後の呪文を唱えた。

 

『聖堂帰還』

 

 同時に他のプリーストらも叫ぶ。

 次々に消え飛ぶ彼らの後姿に向かって、命は祈るように声を掛けた。

 

「皆、頑張って!」

 

 同じく餡コロも彼女の横で声を張り上げる。

 

「頑張ってください!」

 

 二人の声が届いたのか、何人かの男達が笑顔を向けて手を振った。

 彼らが向かったのは、モンスターの巣食う闇の穴だ。数多のモンスターを生み出す生成装置を破壊する事。これが彼らに託された作戦であり、彼らがこの世界で初めてとなる平和の為の戦いとなる。

 

 

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