『WoF』~MMOからの異世界召喚英雄記~   作:夢・風魔

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83:知られざる英雄達

 ゲームでは不正行為を行い、人を騙し、一般プレイヤーからは忌み嫌われた存在。そんな彼らがこの世界にやってきて、一般プレイヤーの下を離れ魔王に組し、世界に混乱を招いたのは間違いない。

 しかし彼らは今、元の世界に戻る為、ひとりの女性の為、ついでに世界平和の為戦っている。

 守りたいモノのために戦う。そんな彼らの想いが快進撃へと繋がった。

 

 ミルキィーから端を発した「新スキル」は、次々に他のメンバーたちにも現れたのだ。

 

「うよっしゃー! キタキタキタぜぇー!!」

 

「俺も来た! 派手にぶちかますぞぉ!!」

 

「っちょ……俺の活躍が……」

 

 こうして全員の活躍によって無事にひとつめのモンスター生成装置を破壊すると、勢いに乗った彼らは二つ目の破壊も呆気なく成功させた。

 他のグループも同様で、ギルドチャットによってミルキィーの新スキル覚醒の話がもたらされると、あれよあれよという間に全員が新スキルの覚醒に成功し、モンスター生成装置の破壊も容易に終えることが出来た。

 

 そして――

 彼らが逃走の為に「聖堂帰還」のスキルが使用できる場所へと移動を開始したが――

 

「ま、まぁ……予想通りだよな……」

「だ、だな……」

「そうか? 俺は予想外だけどな」

 

 彼らの住居でもあった屋敷へと続く一本道。数刻前まではあったはずのその道が、今は大岩によって塞がれていた。

 モンスターが待ち構えている事を予想した者も多く、それであれば新スキルの見せ所とばかり張り切っていたのだが、道が無くなっているというのは予想外な展開だったようだ。幾人かは虚勢を張って「予想通りだ」「問題ない」などと口にしているが、そうした者の顔は明らかに引きつっていた。

 するとそこへ、最後の合流したミルキィーたちのPTが到着する。

 先に到着しているにも関わらず、まごまごしている彼らに対してミルキィーが怒鳴りつけた。

 

「何ちんたらやってんだよ! すぐ後ろからモンスターが迫ってきてんだぞ!」

 

 後からやって来たミルキィーたちのPTは、何十匹ものモンスターに追われたままここまでやって来た。他のニ方向に向かったグループは大岩を前にして頭を抱えている。

 

「岩をどかすしかねーよな」

「モンスターが待ち伏せしてたほうがマシだぜ」

 

 愚痴を溢しつつ、なんとか大岩を動かそうと何人かが岩に手を掛けた。

 

「とにかく大岩を破壊するかどかすかしねーと。女装んところは追っ手を抑えてくれ」

 

 簡単には動かせそうもないことを理解すると、岩に手を掛けていた男のひとりが後ろを振り返って叫んだ。そして直ぐに武器を構え、大岩を小さく砕く作業に入る。

 

「わかった! ってか女装んところって俺達のことか!?」

 

 最後に合流したPTのひとりが「女装」という単語を聞いて条件反射のように返事をしたが、返事をしてから思わず突っ込みを入れた。

 

「他に女装してるやつがいるか?」

 

 岩を砕きながら視線も合わせずに、作戦を伝えた男が再び言う。

 何人かの男達が互いに視線を合わせた。

 

「納得」

 

 何人かの男が短く答えると、全員がミルキィーへと視線を送った。視線を一身に受けている当の本人は気づいていない様子だ。

 

 力自慢の何名かが岩を砕く作業にあたり、他メンバーが押し寄せるモンスターを殲滅していく。いくら倒しても、次から次へとモンスターは集まってきた。まるで穴中のモンスターが集まって来ているかのようだった。

 そんな作業が数十分続いた時、遂にミルキィーが切れた。

 

「まだ岩どかせねーのかよ!」

 

 彼は仲間の回復に徹しつつ、掘削作業がいつになっても終わりの様子を見せないのに苛立ち怒鳴りつけた。

 

「どかしてるんだよ! どかしてもどかしても、ずっと岩ばっかなんだから仕方ねーだろ!」

 

 掘削作業に当たっていたメンバーの足元には、かなりの量の石が転がっている。良く見れば、人ひとりが通れる程度の穴が岩にはあった。穴は1メートル以上は続いているようだ。

 

「っちょ、それってまさか屋敷までずっと岩で塞がれてるんじゃね?」

「そうだったとしても、とにかく『聖堂帰還』できる所まで進めれば……」

 

 屋敷まで行く必要は無かったのだ。スキル『聖堂帰還』が使用可能な領域にさへ入れれば十分なのだ。しかし、通路のどの辺りから岩で埋もれているのかも解らない為、実際彼らが掘り進めた位置がスキル使用可能な場所か、まだ届いていないのかも解らなかった。

 

「今どの辺りまで進んだかわかんねーし、ちょっと魔法試してみてくれよ」

 

 穴の先頭で作業に当たっていたバーサーカーが、穴から出てくると仲間のプリーストに位置を譲ってスキルの要請を行った。要請を受けたプリーストが穴へと入り「聖堂帰還」の詠唱を行う。

 

「やるぞ。『聖堂帰還』」

 

 掘削メンバーが固唾を呑む中、僅かな沈黙が続いた。

 後ろで帰還魔法の検証が行われている事を知らないミルキィーは、苛立ちを抱えたまま先ほど習得したばかりのスキルを再び行使した。

 

「あーくっそ! 『聖なる鐘を打ち鳴らせ。我が領域は闇を退く聖域なり!――」

「ダメだ。スキルが反応しねー」

 

 ミルキィーの唱える呪文が完成するよりも前に、帰還魔法を使用したプリーストの声が穴の中から木霊するように聞こえてきた。

 

『シャイニング・ゾーン』

「よし、俺も一か八か試してみよう。『聖堂帰還』」

 

 ミルキィーの魔法が完成すると同時に、別のプリーストが帰還魔法の再検証を行った。ひとりが失敗したのであれば、他の者が行っても結果は同じである。

 

「いや無駄だろ? あいつが失敗してんだから――」

 

 そう。誰もが「聖堂帰還」は出来ないと確信したその時――

 

「うん……使える」

 

 二度目の検証を行ったプリーストから、まさかの答えが返ってきた。

 

「「え?」」

 

 その声を聞いた全員の動きが止まる。それとは対照的に通路の手前側になるモンスターとの戦闘区域には、無駄に元気で威勢の良い声が聞こえている。

 

「おらおらおらぁ! 聖属性範囲様が展開してやってんぞ!」

 

 声の主はミルキィーだ。

 彼が動けば聖属性範囲である光の領域も、彼に合わせて動いていく。それを利用してミルキィーはわざと前進して、光の範囲にモンスターを進入させていった。

 

「まさか……」

「まさか……な?」

 

 掘削メンバーがミルキィーの姿を見つめながら、彼の発する光が穴の内部には届いていない事を確認し、更に帰還魔法を無事に発動する事に成功したプリーストが光の範囲内に居る事も確認した。

 

「まさかあいつのスキルのお陰で『聖堂帰還』が使えるようになった……のか?」

「たしかスキル効果に範囲内が聖属性ってのもあったよな。『聖堂帰還』のスキルも何気に聖属性って表示があるんだよ。それか?」

「それだ」

 

 納得したように男達は頷いた。最後の最後になって、あの女装ミルキィーが大活躍しようとは夢にも思わなかっただろう。

 自身の活躍に気づいていないミルキィーは、ミディアム丈のスカートをひらめかせながら、今も先頭に近い位置で戦っている。

 

「女装のスキル効果が残ってるうちに『聖堂帰還』しろ!」

 

 スキル効果を確認したプリーストが叫んだ。「シャイニング・ゾーン」の効果が切れれば「聖堂帰還」も再び使えなくなる事は確実だ。

 戦闘を続けるメンバーも掘削メンバーの疲労もかなり積もっている様子だ。次の「シャイニング・ゾーン」発動まで待っている余裕は無さそうだと判断したプリーストは、慌てて仲間達に指示したのだ。そして自身も再び「聖堂帰還」の魔法を詠唱した。

 

「は? 何のことだ?」

「いいから、ミルキィー、てめーは他のPTが全員飛んでから『聖堂帰還』のスキルを使え!」

 

 ようやく自分の事を言われていると気づいたミルキィーは、戦いの手を休めて後ろを振り返る。このときには既に何人かのプレイヤーが「聖堂帰還」によって飛んだ後だった。

 ミルキィーの所属するPTメンバーのリーダーが大声で叫ぶようにして指示を送ると、彼は何かを勘違いしたかのようにニヤリと笑った。

 

「全員の安全を確認してからってことか。っふ。任せろ! 俺はサイコーのヒーラーだぜ!」

 

 最後まで残る事の重大さをミルキィーは理解していた。それは尤も重要な役目であり、尤も信頼できる者が務める役目でもあった。

 だが、この場合ミルキィーが最後まで残るのには違う意味があった。

 ミルキィーが先に飛んでしまえば、展開されている聖属性領域が消えてしまうのだ。そうなれば残った者が逃げ延びる事ができなくなってしまう。ミルキィーに信頼を寄せているから残って貰うのではない。

 だが敢えて勘違いをしたミルキィーに対し、それを突っ込み者はいなかった。勘違いさせたままの方が楽だからと考えたからだ。

 

『聖堂帰還』

『聖堂帰還』

『聖堂帰還』

『聖堂帰還』

『聖堂帰還』

 

 プリーストとエクソシスト全員が「聖堂帰還」を詠唱した。同じPT内のメンバーが全員移動を完了させたのを確認すると、彼らもまたスキル効果を受け入れ飛び去る。

 それを見届けた最後に残ったPTのリーダーが素早く指示を出す。

 

「よし、全員飛んだぞ! スキル効果残ってるうちに早く!」

 

 PTリーダーがミルキィーに視線を送ると、彼は引きつったような表情でリーダーを見返した。

 

「……ざ……残念なお知らせが……」

 

 ヒクヒクと唇の端を痙攣させながら、そして引きつったように笑いながらミルキィーは口を開いた。

 

「スキル効果切れましたとか、ここでそんなギャグ言わなくていいから早く呪文唱えろよ。効果が持続してる事は周りが光ってるの見りゃ解るんだからさ」

 

 ミルキィーの言葉が終わりきる前に、PTリーダーは無表情に突っ込みを入れた。彼の言うとおり、周囲はまだ光に包まれているのだ。スキル効果が持続している証拠である。

 この期に及んでミルキィーは調子に乗って、ちょっとした冗談を言おうとしたのだが、彼の作戦は見事失敗に終わった。

 

「っち。『聖堂帰還』」

 

 舌打ちをし、渋々を帰還魔法の詠唱に入った。

 そして最後の十二人全員が消えた時、通路に残っていたモンスターの数は残り数十匹程度まで減っていた。

 彼らは――

 穴の内部に残っていたモンスターの九割近くを殲滅していたのである。

 

 

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