転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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第一章 三冠へ
1:スカウト


 

 

 

 

 

 

模擬レース。

 

ウマ娘達が自身の力を示し、トレーナーたちがそれを見極めスカウトする場。

 

 

現在自身がいるのはターフではなく、トレーナーのために用意された観覧席。ここに集まったのは新しくチームにウマ娘を迎えようとするトレーナーたちばかり。1年目の自身からすれば全員先輩だ。ちょっとというか、かなり居心地が悪い。

 

かなり見やすい席を譲って頂き、手すりに腕を掛けながら見てるんだけど……。しゅ、周囲の視線が!

 

 

 

あ、どうも。転生したらチート付きでトレーナーになってた者です。

 

 

 

いや、にしても流石にウマ娘の世界。全員がモデルさんを軽く超えるぐらいの別嬪さんばっかりですごいですよね。仕事で来てなきゃ多分顔が"すごくすごいです……"な状況になっていただろう。

 

 

(そしてそんな彼女たちの頭上に浮かぶ、"ステータス"。)

 

 

模擬レースと言うことで出走者はまだ本格的なトレーニングを進めていない子ばかり。大体の子がFとかGの数値ばかりだ。このあたりはアプリと一緒で安心するよね、うん。

 

 

……っと、そういえば未だ自己紹介の途中。話題を元に戻しましょうか。

 

さっきも言いましたが自身は、ウマ娘ちゃんのステータスがスマホアプリでのゲームみたいに解ったり、トレーナーとして必要な知識が十全に頭に叩き込まれていたり、そんな"育成特化"のチートを持つ存在。コレのおかげで難なくトレーナー試験を首席で突破し、本年度からトレーナーになる身です。

 

なので早速模擬レースを見に来たわけなんですが……。

 

 

(ちょっと他の人と違うんですよねぇ。)

 

 

チート持ちと言っても、さすがに経験と実績は如何にもならない。経験の方はチートで何とかなるのかもしれませんが、どう頑張っても実績の方は解決が不可能。

 

トレーナーがウマ娘を選ぶように、ウマ娘もトレーナーを選ぶ権利がある。初心者のぺーぺーと、GⅠ経験のあるベテランとじゃ絶対に後者を選ぶ。まぁつまり実績がなきゃ信用を得られないってワケです。そのため私のような新人は実績のあるトレーナーに師事し、そこから経験と実績を経て独り立ちをする。これが基本の動きらしい。

 

なんで私も他の新人さんと同じようにベテラントレーナーさんを師匠として、サブトレーナーとして頑張っていく予定だったのですが……。トレーナー1日目にね? かの"たづなさん"に呼び出されまして……。

 

 

『あ、あの。本当に申し訳ないのですが……。サブトレーナーとして入って頂く予定だったチーム。そのトレーナーである竹さんが失踪しまして……。』

 

『し、失踪ですか?』

 

 

竹トレーナー、正確には竹林(竹が名字で、林が名前)の女性ベテラントレーナー。親御さんに恵まれなかったのか、ちょっとアレな名前の方であるのが、非常にまともで話しやすい方です。何の因果か史実ではいまだ実現していない日本ウマ娘による凱旋門制覇を教え子に達成させた超エリートでもある人。

 

チートのおかげで中央トレーナー試験を首席合格できた私は、そんな『貴方の方が転生チートなんじゃ……?』という方に師事させていただく予定だったのですが……。

 

 

『そ、その。教え子の彼女に拉致されてフランスに連れていかれたそうで……。』

 

『えぇ……。』

 

 

その教え子、かの凱旋門賞を勝ったウマ娘が相当な癖ウマだったようで、彼女は失踪されてしまわれた。元々癖がヤバいことは師匠含めたづなさんも理解していたようで、自身をサブとして参加させる前にその問題児に色々と意識調査などを行った後、『な、何とかなるか……!?』でゴーサインを出したらしい。

 

上としても凱旋門を取ることができるような竹林トレーナーには、後進の育成もしてもらいたい。そんな意図があったらしいですが……。無事教え子が暴走。自身は一人取り残されてしまったわけです。

 

 

『……どうしよ。』

 

 

自分以外にも新人はいる。しかしすでにサブトレーナーの枠は埋まってしまっており、自身を引き受けてくれそうなチームはない。私に残された選択肢は二つ。初年度からウマ娘をスカウトしてやっていくか、未スカウトのウマ娘ちゃんたちを補助する教官職に就くか。

 

後者の方も数多くのウマ娘ちゃんたちと触れ合えるという利点があり大変そそられたのですが……、やはりチートを持つのならば単身レースの世界に飛び込むのも悪くない。そう判断し、前者を選択したというわけです。それに、同じ選択をした方も同期にいましたしね。

 

 

『解りました! トレーナーさんの選択、応援させていただきますね! あ、それとこの件は完全にこちらの不手際ですし、ちょっと他のトレーナーさんにも頼んで色々と便宜を図って頂けるように頼んでみます!』

 

 

 

 

 

とまぁそんなわけで。真新しいトレーナールームを頂き、何とか仕事をこなしながら日々を送っていると気が付けば模擬レースの日。面倒見のいい先輩方に引っ張られながら席まで連れてこられ、『ここが見やすいよ!』『仕方ないわね、譲ってあげる!』『でもスカウトじゃ譲らないぜ!』なんて言われたわけです。

 

 

(……さて、どうするか。)

 

 

折角いい席を譲ってもらえたわけだし、もし誰かを担当するならばできるだけ早い方がいい。いい子を見つけても放置していれば誰かに持っていかれる可能性もあるし、そうでなくてもウマ娘一人でのトレーニングには限界がある。ケガの危険性も出てくるし、"強いウマ娘"にするならば早い方がお得。

 

あのウマ娘の世界にいて、チートもある。ならやっぱり強い子を育成したい。それが筋ってもの。

 

けれど……。

 

 

(ネームドの育成、キツイですよねぇ。)

 

 

自身は初年度、チートはあっても経験なんてない。つまり何もかも手探りで進めていかなくちゃならない。ウマ娘の原作知識に、史実知識、そしてアプリとして遊び続けた知識が自身にはある。故にある程度何とかできるだろうという考えはあるが、それを100%信用できるとは思っていない。

 

考えても見てください、もし自分のせいで輝かしい成績を残したはずの子が一回も勝てなければ?

 

 

確実に罪悪感で死んでしまうでしょう。ハラキリ案件です。

 

 

それに、初年度の何の経歴もない自身には関係のない話かもしれませんが、ネームドとなって来ると色々と抱えている子が多いです。家庭の事情やお家の事情、それこそ国家の事情なんてものも。

 

それがドラマであり、過去の自身を含めたプレイヤーを楽しませる要因になるのですが……。それを自身が実際に何とかしなければならないとなると……、ちょっと、ねぇ?

 

チートはあるけどあくまでも"育成能力"のチートのみ。常にPerfectコミュニケーションなんて無理だろうし、致命的な失敗をしてその子の選手生命が終わってしまったら……、さっき言ったように罪悪感で死ぬ。

 

 

(今のトレセン学園の生徒会長はシンボリルドルフ、過去の事例を調べた結果アオハル杯のようなレースがあり、同時にURAファイナルズは話すら聞いたことがない。つまりアプリがはじまる少し前の世界。)

 

 

間違っているかもしれませんが、時代的にそれぐらいだと考えます。そんな時期に何故か凱旋門賞を勝利しているトレーナーがいるのです。おそらく師匠予定だった竹林トレーナーのような野良チート野郎が存在する世界なのでしょう、そんなトンデモ存在である先輩たちにお任せした方が、彼女たちも安心できるって寸法です。

 

 

 

まぁつまり、そういったややこしいのには関わらないようにしましょう、って話ですね。

 

 

 

でもやっぱりトレーナーになったのならば、強いウマ娘ちゃんを育ててキャッキャウフフしたいし、お金も欲しい。みんなからチヤホヤとかもされてみたい。けれどちょっとネームドたちの責任を負えるほど精神が強いわけではない。

 

ならどうするか。

 

 

(モブウマ娘でしょう。)

 

 

ウマ娘は多くのキャラが存在しましたが、初期は全てのレースにネームドを配置できるほどの数はいませんでした。どうしても適性外の子が出て来てしまいます。そしてネームドを増やし過ぎると処理速度の問題が。

 

故に生まれたのであろう存在が、『モブウマ娘』。どんなレースにも出て来て、基本的に負けていく存在。

 

けれど、たまになかなか良いステータスを持っていたりする子がいます。というかいくらモブと言っても、GⅠに出場できている時点でとんでもない上澄みですからね。

 

 

(そういう、良い感じの光る原石を狙いたいですよね。)

 

 

当てはまらない子もいますが、ネームドは模擬レースで輝かしい成績を残します。少なくとも掲示板を外れることはないでしょう。そんな子には基本多くのスカウトが飛んでくることを考えると、何も経歴がない自身はどう考えても弾かれてしまう。

 

 

(あんまりいい考えではないけれど、自身が見たことのあるモブウマ娘で、着外を取ってしまった子。そんな子であればすぐにスカウトが可能。)

 

 

そして、その子を育て上げ、GⅠへと導く。一勝でもできれば万々歳な世界。それだけでも十分ですが、チート転生者がそれで満足してたらお終いでしょう。

 

 

(いわば世界、ネームドへの挑戦。完全に私の事情に巻き込んでしまう形になりますが、代わりに担当する子の夢を叶える手伝いをする。それがトレーナーとウマ娘の契約、ですかね?)

 

 

そんなことを考えながら出走する彼女たちを見ていると、後ろから声を掛けられる。

 

 

「あ、トレーナーさん! お疲れ様です!」

 

「ん? ……あぁ、桐生院さん! 貴女もスカウトに?」

 

 

背後から少し駆け足でやってくるのは、桐生院トレーナー。青みが掛かった黒髪を短くまとめた女性。自身の同期にして、中央トレーナー試験を次席で合格した方。アプリでも言われていたが、トレーナーの一族としてかなりの名門の出身の方でもある。

 

 

(……チート持ちの自身がいなければ首席だっただろうに、考えれば考えるほど申し訳ない。)

 

 

彼女も私同様にサブトレーナーを経由せずそのまま独り立ちした方であるため、何度か言葉を交わす機会があった。そのせいでゲームを通して理解していたはずの、滅茶苦茶良い方だということを再確認してしまい、更に申し訳なさが加速したりと色々あったのだが……。

 

彼女に懺悔しても意味がなく、混乱させてしまうだけだろう。そっと思考を胸の奥にしまいながら、彼女との会話を続ける。

 

 

「はい! 実は先輩方に引っ張られてここまで来まして……。」

 

「あぁ、桐生院さんもでしたか。実は自身もそんな感じでして……、先輩方なりの洗礼なのかもしれませんね。」

 

「な、なるほど……。」

 

 

そんなことを言いながら、自然と視線は出走者の方へと向かう。公式のレースと違うためゲート付近には結構なウマ娘が、一応任意で彼女たちの頭に浮かぶステータスをオンオフすることは出来るのだが、さっきまでオンにしていたためウィンドウを開き過ぎたデスクトップみたいになっている。

 

 

(何人かネームドの方が見えますね。彼女たちの担当は他の方に任せるとして……。)

 

 

自身のお目当ては"モブウマ娘"。モブと言っても皆見目麗しい方々ばかりなのですが……。やはりゲームをプレイヤーとして楽しんでいた時はネームドの方に注目が集まります。一応何人かは名前と顔を覚えている方がいるのですが、正直自信がありません。

 

モブとしてGⅠに出走できるほどの原石、ネームドの方々に比べれば煌びやかな宝石ではないのかもしれませんが、磨けば十二分に光る逸材。

 

 

「どなたか、気になる方がいるんですか?」

 

「特定のどなたかに、と言うわけではないのですが……。やはりこういうのは一期一会と聞きますので。先輩方に先を越されないように、早めに担当を見つけておきたいと考えています。私は一般の出ですから、桐生院さんみたいにお家のイメージがあるわけではないですしね。」

 

「……そう、ですね。」

 

 

ちょっとだけ漏らしてしまった本音。少しだけ『やっぱ名門となると色々融通してもらったり、ネームバリューでよりよく見て貰える』という思い。そのせいか少しだけ桐生院さんの反応が遅れる。

 

……あれ? もしかしてコミュミスりました? いやミスりましたねコレは。いやだって桐生院さんサポカ初期のSRしかないですし、URAファイナルズとか全然プレイしてなかったものですから彼女の詳しい背後関係とか全然覚えてないんですががが。

 

 

「……まぁ第一印象の重要性は確かですが、それが全てと言うわけでもありませんしね。いくら経験や経歴があってもその子にとっての最適を用意できなければトレーナー失格ですから。私たち新人は自分の中の直感を信じて突き進むべきかと。」

 

 

そんなことを言いながら誤魔化していると、眼下にいた一部のウマ娘達が移動を始める。それを見た桐生院さんが、空気を変えるためか少し明るめに言葉を紡ぐ。

 

 

「あ、そろそろみたいですね!」

 

「そのようですね。では、もしお目当ての方が被ったとしても譲り合いなどせず、どちらに行ったとしても恨みっこなし、ということで。」

 

「……はい!」

 

 

……ん? アレは……?

 

ちょうど今出走しようとするウマ娘。ほんの少しだけその顔に覚えがある子がいた。……たしか、樫本理子氏がアオハル杯の際に結成したチームファースト、それに参加していたはずのモブウマ娘の一人だったはず。チームファーストとなれば平均ステータスC以上、一部Bを叩きだしていた強豪チーム。アプリでのインフレを考えればかなり低い数値ではあるが、プレイヤーが育成する以外のウマ娘からすればGⅠ級に他ならない。

 

 

(あの子、名前は……。タヴァティムサ。狙いどころですね。)

 

 

彼女の模擬レースにおける成績が良ければ、先輩方に劣る自身ではスカウト競争に負ける可能性が高い。然し成績が悪ければその分競争率も低くなる。とんでもなく光るものを示せばその限りではないだろうが……。

 

 

(とりあえず、頑張ってください。勝てば先輩方が、敗けても私がスカウトいたしましょう。)

 

 

特殊なエールを心の中で送り、応援する。

 

そうこうしている間に彼女たちはゲートへと収まり、模擬レースが開始された。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

模擬レース、着外。

 

6番目にゴール板を駆け抜けた彼女の名は、タヴァティムサ。

 

とある世界では"モブウマ娘"と呼ばれる彼女は現実を理解"させられた"。

 

 

中央に来るようなウマ娘は、総じてエリートと呼ばれる存在である。入学できるだけでも誉であり、親族全員がお祝いに来てもおかしくない快挙。地元において負けなしであった英雄のような存在が、そこに集まるのだ。

 

 

しかし、集まった彼女たちの力量は、決して同じではない。

 

 

英雄たちの間で、差が出来上がる。残酷なまでに、越えられぬ壁が。

 

 

 

 

タヴァティムサは、それを解ってしまった。

 

 

 

 

地元じゃいつも一番だった、これまでレースで負けたことはなかった。だから中央でも上手くいくと思っていた。重賞、もしかしたらGⅠ、もっと行けば三冠。夢見ることは全ての人間に許された行為である、故に彼女も理想の自身を夢想してしまった。

 

朧げに、"そうならないこと"を理解していたから。

 

彼女はそれほど頭のいいウマ娘ではない。しかしながら何となく肌で、自身の想像が実現しないことを解っていた。地元では負けなかったが、中央では違う。同級生の中で本能的に勝てないと理解させられる相手がいた。一人ではない。もっと、何人も。両手で数えるよりも多く。

 

けど、勘違いだと思った。思いたかった。

 

タヴァティムサは自身の頭がそれほど良くないことを理解している。だからこそ何かの間違いだと、そう信じてしまった。

 

 

 

そして、今日この日。模擬レースの場で。

 

 

 

現実が結果として現れる。

 

 

 

良い位置を奪われスタミナを削られる、自身の走りを全くさせてもらえない。疲労は蓄積し、溜まりに溜まったそれは最終直線で牙を剥く。消耗しきったスタミナはすでに精神の力だけではどうすることも出来ないほどであり、足が動かない。けれど全力で、せめて掲示板にという思いで走る。言うことを聞かない足に鞭を打ち、無理矢理。

 

気が付けばゴール板を走り抜けていて、掲示板には誰かの番号ばかり。

 

 

それが何なのか解らなくて、理解したくなくて。自分よりも前を走っていた人数を数え、ようやく自身の着順を理解する。してしまう。

 

 

理解したくなかったものを、理解させられてしまう。

 

 

叶えたかった理想と、現実。過去の栄光と、現在。

 

 

絡み合うソレで心がぐちゃぐちゃに壊れてしまいそうな時に。

 

 

 

 

 

 

 

あの人は私に声を掛けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

『模擬レース、お疲れさまでした。……あぁ失礼。私、こういうものです。』

 

 

 

 

手渡されたのは名刺、中央のトレーナーであることを示すバッジを付けた人から手渡された紙切れ。

 

それが何を意味するのか、私が理解できるまで長い時間を要した。

 

ちっぽけな自信を踏みつぶされ、現実を理解してしまった直後だ。自分の名前が何なのかすら解らなくなってしまうような状態。そんな時、外から声を掛けられてもちゃんと受け答えできるわけがない。

 

眼前にいる人は、どこからどう見ても大人。綺麗なスーツを着ている人。

 

なんとかその情報をかみ砕いて、ようやく"何"をされたのか理解する。

 

 

『とれー、なー?』

 

『はい。と言っても今年からの若輩者には成りますが。』

 

 

トレーナーから、話しかけられる。しかも模擬レースの後に、名刺まで渡された。

 

バ鹿な私でも理解できた、自身がスカウトされたということに。

 

……けれど、理解できない。

 

模擬レースの結果は、散々だった。着外。その中では一番マシだけど、掲示板に入れないという事実はとてつもなく大きい。そして入れたとしても、スカウトが来る可能性は低い。私が出走したレースで一着の子を見ればわかる。

 

私に圧倒的な差を付けて勝った子でも、三人。一着でもたった三人しかトレーナーが集まっていない。一着の彼女よりももっと有望な子がいるからこそ、そうなっている。二着三着となればもっと数が減って、その下になると誰も人が来ていない。

 

 

(さっきまでの私と同じように、その事実に顔を歪ませる人がいる。なのに……)

 

 

この人は私の所に来た。彼女よりも悪い、6着の私に。

 

 

『なん、で。』

 

『端的に、申します。あなたの走りに光明を見ました。是非私に、貴女が前へと進むお手伝いをさせて頂きたいのです。……と言っても急な話、一つの選択肢として考えて頂ければ。もしよろしければ、その名刺の番号に。』

 

 

私の目をじっと見つめながらそう言ったトレーナーさんは、『では失礼します。』とこちらに頭を下げ、この場から立ち去ろうとする。

 

 

 

 

駄目だ。

 

 

 

 

本能が、叫ぶ。

 

この人を、今逃したらいけない。さっきの結果は散々だった。模擬レースは何回も開催される、けどそこで私が活躍できるかどうかは話が別。スカウトされるなんてこともうないかもしれない。私が勝てなかった相手、さっきのレースで一番だった相手ですら、三人のトレーナーしか集まっていなかった。

 

つまり、この世代で一番強い人に負けたわけじゃない。そこまで注目されていない人に、私は負けた。

 

そんな自身に、この人以外スカウトが来るとは、思えない。

 

 

そう、本能が叫んでいる。

 

 

気が付けば、私は立ち去ろうとするトレーナーさんの手を掴み、震える声でこう叫んでいた。

 

 

 

「よろしく、よろしくお願いします!」

 







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