転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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12:ひとつめ

 

皐月賞、最も速いウマ娘が勝つと言われるGⅠ競走。

 

八大競走の一つでもあり、クラシック三冠競走の第一戦。

 

そんな格式高いレースともなると、出走するウマ娘たちも強者ぞろいとなる。

 

 

(……やっぱり、なんか場違いな感じしちゃうなぁ。)

 

 

まぁもっとも、その中で一番の仕上がりとも呼べる子が全然自覚していないのだが……。

 

出走の定刻まで残り数分、係員たちに促されたウマ娘たちがゲートに収まっていく中、少女は一人そんなことを考えていた。

 

彼女、タヴァティムサは所謂"弱者"。レースで勝てず絶望し消えていく立場のウマ娘だった。模擬レースでそれを理解し、レースへの知識を深めることでより自身の力量。正確に言えば"過去の自身"の力量を正確に理解してしまった。更に『領域』という綺羅星の輝きを知ってしまった今、"才能"という物に強い警戒を抱いていると言ってもいい。

 

自分はトレーナーさんのおかげで勝てただけ、本当に運が良かっただけ。

 

いまだ燻っている者たちからすれば『お前ホープフルっていうGⅠとってその態度はあかんやろ。』と言われてしまいそうなものだが、基本的に自由時間全てをトレーニングにつぎ込んでいる様な状態のため、運悪く常識の刷新が出来ていない。

 

自分が弱く、修練に励まなければ勝てないと理解していたからこそ、自分の捻出できる時間を全てそれにつぎ込んでしまう。トレーナーが用意していた休養の時間も頼み込んでレース研究などに充てるほど彼女はストイックだった。

 

 

(ま、まぁ。トレーナーさんと一緒にいたかったっていうのもあるけど……。)

 

 

その姿勢は競技者としては間違っていない? うん、多分間違ってない。しかし既にシニアでも通用、いやシニア級の上澄みたちと戦ってもいい勝負ができる肉体を持つ彼女。彼女と同じレースを走る者たちからすれば、『もう少し休んでもいいんじゃないですかね……』と言われてしまいそうなものである。

 

彼女の肉体は紛れもなく強者であるが、その精神は昔のまま。そんな不安定な存在が、タヴァティムサであった。

 

 

(大外だから一番最後……、ひぅ! ぶ、ブライトさんに手振られた……。い、一応返しておこ。)

 

 

故に、通常脅威と感じない相手に、強い警戒心、恐怖を抱いてしまう。

 

実力差はとうに開いており、まだ展開次第では勝機のあったホープフルSと違い、このレース。いや正確に言うと今後のレースすべてに於いてタヴァティムサ以外が勝利する可能性は限りなく低い。所謂『覚醒』と呼ばれる爆発的な成長を遂げればまだ可能性はあるかもしれないが、今日の出走者の中でそれに一番近いメジロブライトであっても、まだ手を掛けた程度。花開くにはいくつかの季節を経る必要があるだろう。

 

タヴァティムサには大外という障害が残っているが、それもおそらく意味をなさない。

 

故に、起きるのは蹂躙。

 

なのだが……

 

 

(うぅ、『領域』使い怖いなぁ。)

 

 

ずっとこの様子である。流石にゲートに入れば気を引き締めてくれるだろうが、ずっと障害になりえない『領域』使いを警戒している。彼女が注意すべきは条件次第では発動できない彼女たちの神秘ではなく、それ以外の出走者たちが進路を防ぎ前に出られないことのみ。

 

しかし彼女の気持ちもまぁ解らない訳ではない。何せつい先日まで彼女は『領域』を御伽噺か何かだと思っていた。いわば『領域』使いは、"魔法使い"。どれだけ筋肉ムキムキのマッチョウーマンになろうとも、急に火の玉を撃って来る存在はやっぱり怖いのである。

 

 

(……うっし! 切り替えよ! とりあえず教えて貰ったことは全部やって、それで勝てなかったらその時だ! トレーナーさんが勝てるって言ってくれたんだし、私も頑張らないと!)

 

 

ようやく彼女が意識を切り替えた所。

 

 

 

事件が起こる。

 

 

 

この世界において、複数のウマ娘は本来彼女たちが通るはずであった"史実"というルートを外れている。

 

そもそも未だ達成できていないはずの日本馬による凱旋門賞制覇を1986年時点で達成しているということ、また本来中高一貫のため最長でも6年しか在学できない学園に於いて、少なくとも9年近く在籍しているウマ娘がいたりと、かなり時空の乱れが生じてしまっている。

 

故に以前あのトレーナーが抱いていた懸念はそもそも存在しないようなものだったのであるが……、この世界に生きる存在である限り、この異常に気が付ける者は少ない。彼もまた、同様である。

 

まぁ簡単に言ってしまうと、本来皐月賞に出走できなかったはずのウマ娘が出走しているのだ。

 

その一人が、サイレンススズカ。

 

後に最速の機能美とも呼ばれる彼女。

 

覚醒、もしくはシニア期に入れば自然と精神が成熟し、彼女の代名詞とも呼べる"大逃げ"を十全に行える様になるのだが……。未だそれには至っていない。

 

まだ寂しがりやであり、ただ走るのが好きな女の子。それが現在の彼女だ。

 

正直一番前を走ること以外考えていないスズカにとって、どのレースに出たいとか、そういうのはあんまりない。もうちょっと精神が成熟すれば『あの子に勝ちたい……』などの意欲が出てくるかもしれないが、今の彼女は『走りたい』の一心のみである。

 

一応皐月賞に出られるレベルの成績を収めることができ、信頼しているトレーナーさんに出走を勧められたから出ただけであり、『勝負服もらえてうれしい』のテンションでここまで来てしまった。そんなスズカは、『この綺麗な勝負服でターフを走ったらすごく楽しいだろうなぁ』と思いながらゲート前にやってきたのだが……

 

 

(な、なんかすごく怖い人に見られてるぅ!!!)

 

 

絶賛怖い人(タヴァティムサ)に熱視線を送られていた。

 

そもそもティムサの肉体はシニア級で十二分に通用するもの、決してクラシックの初期に出て来ていいウマ娘ではない。つまりスズカにとって滅茶苦茶怖い存在である。そしてティムサは現在『気を入れ替えたのはいいけれど、どっちみち領域使いには気を付けなきゃ』なマインドで"メジロブライト"、"マチカネフクキタル"、そして"サイレンススズカ"を観察していた。

 

ブライトは二度目の対戦のため難なく受け流していたし、ふんぎゃろは何か叫んで自分の世界に入っているので気が付いていない。しかしスズカは違う、知らない人ばっかりでちょっと不安だな、でもレース始まったら楽しいから我慢しよ、でもトレーナーどこにいるかな、というマインドでここにいる。

 

そんな時、なんか怖い人にじぃっと見つめられたら……。

 

 

【5枠10番サイレンススズカもゲートに入り……、ッ! え!?】

 

 

「ト゛レ゛ー゛ナ゛ー゛さ゛ん゛、た゛す゛け゛て゛ぇ゛ぇ゛!!!!!」

 

 

URA史に残る珍事、ゲートからの脱走事件が、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

大外の私がゲートに入るのは最後、自然と出走者の人たちを後ろから眺めているんだけど……。一人消えた。

 

というか脱走した。

 

助けを求めながらゲートの下をくぐって脱走、何故か観客席の方まで走って行ってしまう。

 

 

「……えぇ。」

 

 

係員さんたちが一斉に追いかけていき、ゲートに入っていたウマ娘たちも動揺し始める。それもそうだ、何故か一人脱走して消えたんですもの。それもGⅠで。

 

私だって何が起きてるか解らない、ゲートに入っていれば視界も防がれるし、入って来る情報も少なかったと思うからもっと動揺していたはず。今だけは大外で感謝できるけど……、なんで???

 

さっきまで感じていた『領域』の恐怖が全て消え、単純な疑問に脳が支配されていく。そもそもレースに出走するにはゲート試験とか色々達成しないといけない項目がある。皐月賞なんてGⅠに出走する子ならばそんなモノ簡単に突破してそうだし、初歩の初歩で躓くとかないはずなんだけど……。

 

 

(というか何故"助けて"?)

 

 

自分のトレーナーさんを見つけたようで、思いっきり抱きしめて骨が砕けるような音を出しながら泣き喚くスズカさん。それに向かってとんでもない顔と速度で走って行く係員さんに、文字通り死にそうな顔をしているスズカさんのトレーナー。そんな光景を遠目で眺めながら考える。

 

 

(……あ、もしかしてトレーナーさんが言ってた"惑わされるな"ってこういうこと?)

 

 

こんなことまで予測できるとか私のトレーナーさん天才か? 天才だったわ……。

 

係員さんに何とか引きはがされて、えぐえふ言いながらゲートへととぼとぼ戻っていくスズカさんを眺めながら、思考を深めていく。……正直、彼女のおかげで"サイレンススズカ"への恐怖は薄れた。ただ単純に『走りたい』としか言わないヤバい奴ではなく、ゲートから抜け出しちゃうような子。

 

『領域使い』という魔法使いのような幻想の存在から、もっと身近な、私たちに近い様な存在に感じられるようになった。……うん、だいぶ心が落ち着いて来た。彼女が"そう"ということは、多分他の子もそんな感じなのだろう。いやまぁスズカさんみたいに脱走しちゃう子とは違うと思うけど、多分私と同じ"ウマ娘"。

 

『領域』は私にとって未知の力。だからその使い手もウマ娘を超えた何かなのではないか、って考えちゃって強い恐怖を覚えていたけれど、あんなのを見せられれば目が覚めてしまう。いや、覚めそうになっただけ。"無理矢理"ソレを当てはめて、覚ましただけだ。

 

スズカさんへの恐怖は薄れたけれど、未だブライトさんは絶対に油断できない相手。フクキタルさんは……、なんかスズカさんと同じ匂いがするからとりあえず放置で。だからさっきから言ってる"ふんぎゃろ"とか"ほんにゃか"とかってなに……? 

 

 

(……落ち着け。相手も"ウマ娘"。私と同じ、"ウマ娘"。なら、トレーナーさんの指導を受けた私の方が上。)

 

 

ゆっくりと目を閉じ、"開く"。

 

……うん、これでいい。

 

学力の方は昔も今もからっきしだけど、"レース"についてはトレーナーさんのおかげで大分理解できて来た。力量が拮抗していれば、結局は気持ちの勝負。実力で劣っていたとしても、気持ちさえあればそれを上回ることができる。私はそれを知った。

 

自分が最後まで先頭で、一番最初にゴール板を駆け抜ける姿を。"最強の私"をイメージする。

 

トレーナーさんは私に複数のルートを提示してくれた。昔は一つしか覚えられなかったけど、状況に合わせて選択できるように、条件付けで。後は私が、体に染み込ませたそれを辿るだけ。

 

 

「タヴァティムサさん、そろそろゲートお願いします。」

 

「はい。」

 

 

無事スズカさんが収まり、残っていた他の子たちもゲートに向かって行った。ちょっと息の切れている係員さんが私の方にやって来て、順番を教えてくれる。軽く返事を返し、脚を進める。

 

 

(朧げに抱いていた私の夢。)

 

 

レースの何も解らない私が、掲げたとんでもない夢。クラシック三冠を達成するということ。日本にたった5人しかいない偉業。その時代の綺羅星、その中でも本当に一握りしか達成できないもの。

 

地元にいたころの私は何も考えず無知を晒していた、学園に入ってからは現実を理解した、そして抱いていた夢を絶対に達成できない、挑むことすら許されないと考えた。……けど、あの人のおかげで私はここまで来ることが出来た。

 

 

(もう、私だけの夢じゃない。)

 

 

一緒にここまで来てくれたバイトアルヒクマちゃん、エキサイトスタッフちゃん、フリルドメロンちゃん。ずっとみんなで走って来たから今の私がある。たった一人じゃできなかったであろうことを支えて貰い、支えてきた。ハッピーミークちゃんにも併走とかで色々手伝ってもらったし、桐生院トレーナーも……、あんまり好きじゃないけどお世話になった。

 

そして何よりも、トレーナーさん。

 

皆が、私の夢を応援してくれている。

 

 

(それに応えるのが、私の使命。)

 

 

 

【大外タヴァティムサが入り、係員が離れます。】

 

 

 

ゆっくりとゲートに足を踏み入れ、構える。

 

皐月賞、三冠へとつながる最初のレース。

 

あの日抱いた幻想を、私の元に叩き落す。

 

勝つのは、私だ。

 

 

 

 

 

【スタートしました! ほぼ揃いました18人、まずはスタンド前先行争いに移ります。】

 

 

 

 

 

大きく踏み込み、速度をあげる。終盤に入るまでの速度は体が覚えている。脚を温存しながら周りのペースに合わせ、ゆっくりと全体を俯瞰する。大外の私が内側に入り込むのは難しい、隙があれば入っていくつもりだけれど無理にする必要はない。

 

 

(変に動いてスタミナを消耗するよりは、全体を観察して"条件付け"のための情報を集める。)

 

 

まず確認すべきなのは、『領域』使い。ブライトさんは案の定後方、追込位置。フクキタルさんは差し位置。少し出遅れたスズカさんは逃げ位置。後方二人は想定通りだったけど、スズカさんだけ最初から無駄に速度を上げている。……最後までスタミナが持つタイプなら追いかけないと間に合わないが、トレーナーさんからそんな指示は出ていなかった。

 

 

(となると、スズカさんはどこかで沈む。)

 

 

レース前のゲートで色々あったし、入れ込むのも仕方の無いことなのかもしれない。取り敢えず軽い警戒と最後までスタミナを持たせて来ることを想定し、注目しておく。後は『領域』使い以外の子たち。

 

 

(……やっぱり全員にマークされてる、か。)

 

 

想定の範囲内だけど、少しぞっとしてしまう。ほぼ全員が私を見ているという異常事態。確かに一番人気に推されたのは私だが、それほど見るべき存在とは考えられなかった。……けれど今の私は"あの日描いた理想の姿"。私の感覚、常識は当てにならない。

 

信じるのはトレーナーさんの指示と、あの人が鍛え上げてくれた体だけ。

 

 

(全体からマークされた時のコースは、ここ。)

 

 

私が好む位置よりも比較的後方。前から6番手ほどの位置に収まり、レースを進めていく。私のスタミナであれば多少の無理、外側を走らされても問題はないとあの人は教えてくれた。

 

 

 

【各バ第一コーナーを抜けまして第二コーナーへ、10番サイレンススズカが先頭を独走。3バ身程の差、更に少しずつ離れていきます。】

 

 

 

ホープフルの時と同じように、重心を傾けることで速度を落とさずコーナーを曲がっていく。あの時はちょっと体に無理をさせるような走り方だったけれど、肉体が成長したことでかなり負担が軽減できたはず。自身の成長を噛みしめながら芝を踏みしめていく。

 

 

(マークは継続、けどスズカさんの速度に、ペースに付いて行こうとする子はいない。)

 

 

さっきのゲートを見た故に、暴走してあぁなったと考えているのだろう。彼女だけが少し早めのペースで、それ以外が通常。どこかで必ずスタミナが消えると私も考えている。……けれど、それは『領域』使いではなかった時の話。

 

トレーナーさんが言うには、『領域』の中にはスタミナを回復させるようなものもあるらしい。消耗したはずのそれが何故回復するのかは解らないが、それが『領域』だと言われれば何の知識のない私には否定する材料がない。そう言うものとして受け取るのみ。

 

スズカさんの持つ領域が、そのタイプだった場合……。ちょっとまずいかもしれない。

 

 

(ブライトさんの『領域』発動タイミングは中盤を超えた瞬間。その時に加速したのならば……、私も仕掛ける。)

 

 

スタミナの回復は目視、その背中を見るだけで判別がつかない。バテてスタミナが無くなったところは見ればわかるけれど、ただ走っている状態から残りのスタミナを理解できるのはトレーナーさんだけだ。つまり私は、彼女が"加速した"場合、もしくは速度を落とさなかった場合にしかける必要がある。

 

タイミングを間違えて追いつけなかったら元も子もない。先んじて仕掛けるのみ。

 

 

(……そろそろ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

今。

 

 

彼女がちょうど中盤を過ぎた瞬間。

 

サイレンススズカの領域が"開かれる"。

 

 

 

『領域』

 

>【先頭の景色は譲らない……!】Lv3

 

 

 

何もない真っ新な平原、そこに敷かれたただまっすぐな道。

 

心地よい風が吹くその先には、山に沈みゆく暖かな夕日。

 

 

 

(これが彼女の……、心象風景。)

 

 

 

サイレンススズカはその夕日に向かって走りながら、より、速度を上げていく。『領域』の能力はそれこそトレーナーさんぐらいしか解らない。今の私にどれくらい加速して、どれくらいスタミナが回復したとか知る由もない。レース中に本人に聞くわけにもいかないし、『領域』の中で私はただの傍観者に過ぎない。

 

崩れ行き、現実世界へと戻っていく感覚を肌で感じながら、思考を回していく。

 

 

(残り1000m、……来る。)

 

 

私が中間地点を走り去った瞬間。

 

背後で開かれる『世界』。

 

ソレは確実に、私を包み込んだ。

 

 

 

『領域』

 

>【麗しき花信風】Lv4

 

 

春のターフは一瞬にして雪に埋もれ、観客たちは葉を落とした物悲しい木々へと変わる。

 

案の定ホープフルで初めて見た彼女の『領域』よりもその強度が強い。いやさっき見たスズカさんのものよりも固い。心象風景の描写がより精密で、現実世界と強く切り離されるような感覚。固く閉ざされた極寒の高原、ここには何もなく、ただ灰色の世界。

 

しかしながらそこに降り立つのは、メジロの令嬢。天から舞い降りた彼女がその地に足を付けることで、世界に春が訪れていく。……ここまでは、あの時と同じ。けれど、何もかもが違う。その描写精度も、強度も、その威力も。そして何より、彼女が。

 

"こちら"を見ている。

 

 

『タヴァティムサさん。』

 

『ッ!!!』

 

 

彼女の心象世界、そのすべてが彼女そのもの。そんな場所にいる私は、ただの異物、体を動かすことも、声を発することも出来ない。ただ彼女の姿を見て、声を聴くのみ。

 

 

『挑ませて、頂きますね?』

 

 

全てを射殺すかのような眼をしながら、彼女は笑みを浮かべた。

 

私がソレを強く認識した瞬間。『領域』が解かれ、形作られた世界が弾け、消えていく。

 

 

(……。)

 

 

ほんの少しだけ速度を緩め、大きく息を吸い込み、吐き出す。

 

 

(……よし。)

 

 

残り、900m強。ホープフルよりも早いけれど、もう仕掛けた方がいい。ブライトさんはあの時よりも確実に速度を上げて来るだろう。スズカさんもどこまで行くか解らない。それにまだフクキタルさんが領域を解放していないところを見ると、おそらく最終直線にしかけて来るタイプ。

 

 

(いける。……いや、勝つ。)

 

 

【ここで一番人気タヴァティムサ加速を開始! 先頭サイレンススズカを猛追! 後ろからメジロブライトも上がって来たぞ!】

 

 

脚の回転をあげ、ほんの少しだけ姿勢を落とす。勢いを落とさずそのままコーナーに入り、無理矢理重心を傾けることで速度を落とさずコーナーを曲がる。ホープフルの時に感じたブライトさんの足音、そして未だ先頭を走り続けるスズカさんの足音。両方を、捉えている。

 

私と先頭のスズカさんの距離は、徐々に。確実に縮まって行く。

 

『領域』は、怖い。

 

 

けど、脅威ではない。

 

 

(私の方が、速いッ!)

 

 

最終直線に入る直前、スズカさんを抜き、先頭へ。

 

 

(後はこのまま走り去るのみッ!)

 

 

【先頭タヴァティムサ! タヴァティムサが最終直線へ入った!】

 

 

背後で何か新しく『領域』が開かれた様な気がする。けれど私の視線は変わらず前へ、決して後ろを振り返らず、信じるのは勝利のみ。徐々に脚の回転数が上がっていき、私が出せる速度。その最高点へと近づいていく。依然として、最速は私。

 

最も速いウマ娘が勝つのならば、それは私に他ならない。

 

 

 

 

【タヴァティムサ先頭! タヴァティムサ先頭! 後続と更に距離を作っていくッ!】

 

 

【タヴァティムサ、脚色は衰えない! 速い! 圧倒的だ!】

 

 

【タヴァティムサ、そのまま一着でゴールイン!】

 

 

【そして……! レコード! レコードです! 1:58.8! ナリタブライアンの皐月賞レコードを縮めました! 新記録!】

 

 

 

 

走り抜け、ゆっくりと速度を緩め、掲示板に目を向ける。

 

……あはは、レコードか。思ったより私、すごいのかも。

 

でも、一つ目、とれた。

 

あの、叶わないと思ってた夢の、一つ目に。

 

 

「……。」

 

 

ゆっくりと、片手をあげる。

 

あの時、テレビ越しで見た、あの人のように。

 

天を指さすように、一本の指を、掲げた。

 

 

 







〇着順
1 8 18 タヴァティムサ   1:58.8
2 4 8  メジロブライト   2:00.1 8
3 7 14 トッテモガッツ   2:01.1 5
4 2 3  フジヤマクザン   2:01.4 1 3/4
5 1 1  マチカネフクキタル 2:01.5 3/4


〇ステータス

『タヴァティムサ』 ☆1 (調子:絶好調)

芝S ダートE
短G マB 中S 長B
逃D 先S 差C 追F

スピード A- 
スタミナ C+ 
パワー  B+
根性   C
賢さ   B

スキル:なし

クラス:ゴールド

主な戦績:ホープフルS、皐月賞


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