転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。 作:サイリウム(夕宙リウム)
「にゅわぁぁぁあああああ!!!!!」
メロンさんの声が、控室に響き渡ります。
「チャカに! チャカに生身で勝てるわけねぇだろうがぃ!!!」
「ま、まぁメロンさん。とりあえずは落ち着いて……。」
「あぁぁぁぁぁ!!! 勝てた! 勝てたのにぃ!!!」
何故か地面にうつぶせになりながらピンと両手両足、背筋を伸ばしたまま絶叫する彼女。何とか彼女をなだめようとする私と、『何してるの……』という目で彼女を見つめるティムサさんたち。とてもカオスですね、はい。
時期は5月前半、ちょうど先ほどNHKマイルが終了したところ。彼女の反応を見ればご理解いただけると思いますが……、自身が担当させて頂いている彼女たちの中で、初めての敗戦を致しました。しかし負け方がかなり惜しいものでしたのでティムサさんを始めとした全員で控室に向かい、メロンさんを励ます、そして私は謝罪するために集まったのですが……。
ちょっとこう、キャラが崩れていらっしゃります。
まぁそれもそのはず、と言うべきでしょうか。今年のNHKマイルは激戦を超えた魔境ともいえる出走メンバーでした。
まず一人目、自身が担当させて頂いているフリルドメロンさん。阪神JF・桜花賞を制覇していらっしゃるウマ娘で、マイルクイーンとしての名を確立し始めたウマ娘です。ティムサさんと比べると全体的に一段階程下回るステータスですが、そのパワーの強さには目を見張るものがありました。
二人目、史実に於いてこのNHKマイルを制覇したウマ娘、シーキングザパールさん。既にその実力は疑いようのないものであり、順当にいけば彼女が勝利していただろうというレベル。メロンさんと比べれば流石に劣っていましたが、それでも他出走者と比べれば驚異的と言ってもいいほどの実力者です。
そして最後が……、本来その場にいるはずの無いウマ娘。史実に於いて世界最強、いや史上最強のマイラーとして名高い彼女。タイキシャトルさん。スタッフさんとの対戦により覚醒してしまったのか、明らかにメロンさんと勝負できる状態の彼女が、そこにいたのです。
少し、ステータスの方を簡単に比べてみますが……。
『フリルドメロン』 ☆1 (調子:敗戦により不調)
芝S ダートE
短B マS 中D 長F
逃G 先C 差S 追F
スピード B+
スタミナ C-
パワー A
根性 C-
賢さ C
スキル:なし
『タイキシャトル』 ☆5 (調子:絶好調)
芝S ダートB
短A マS 中E 長G
逃C 先A 差E 追G
スピード C
スタミナ D-
パワー C
根性 D
賢さ D
スキル
【ヴィクトリーショット!】Lv4
【直線巧者】
【ギアシフト】
【積極策】
【先行のコツ〇】
……タイキさんが覚醒してしまったことにより、ステータスの差がほとんどなくなってしまいました。そして豊富なスキルと、芝とマイルのS適性。眠れる怪物を起こしてしまった、その様な形となってしまったわけです。
自身がもっと早く彼女の情報を入手していればもう少し対策が取れたのかもしれないですが、タイキさんの前走であるスタッフさんとの対戦時はここまで驚異的なステータスではありませんでしたし、学園での情報収集もタイキさん陣営の防御が厚く入手することができませんでした。
完全に私の不手際でこうなってしまったのにも関わらず、出走前のメロンさんは一切気にせずいつものように元気満タンで出発してくださったのですが……。帰ってきたらこんなのになってしまいました。
(タイキシャトルさんの領域、あれが最大の要因です。)
ターフが荒野に塗り替えられ、彼女の手元から放たれる三発の銃弾。
その影響をモロに受けてしまったのか、それとも『領域』の存在を信じ切れていなかったが故の動揺だったのか。
正確な理由は解りませんがレース中にメロンさんは、思い切り後方へと仰け反ってしまったのです。タイキさんの『領域』による加速も相まってその不利が大きなものになってしまいました。幸い、その直後に持ち前のパワーで何とか持ち直せたのですが……、結果としてはアタマ差での敗北。メロンさんのNHKマイルは二着で幕を閉じてしまった形になります。
(しかしタイムを見れば1:32.6。三着のシーキングザパールさんの1:33.1と比べると大きな差がありますし、決して勝てないレースではありませんでした。)
「メロンさん申し訳ありません、私がタイキさんをより調査し策を用意できていれば……。」
「ちがうもん! 勝てたもん! あそこチャカでビビらなければ差し切れたもん! ブッ放されても無視出来てたら勝てたもん! ……というかなんでレースにチャカ持ち込んでるの!?!?」
「それはちょっと解りかねます……。」
流石に勝負服に付随しているのはレプリカだとは思うのですが……、レプリカですよね?
「にゃぁぁぁぁ!!!!!」
「メロンちゃん……。」
「あらら~。」
「だから口酸っぱく『あいつ発砲してくるぞ』って言ったのに……、いや確かに意味わからんぐらいパワーアップしてきてるけども。」
「そうですぅ! メロンはスタッフちゃんにも、トレーナーさんにも言われてたけどぉ! 『まぁさすがにそんな馬鹿なことはないだろ、レース中やぞ?』っておもってましたぁぁぁ!!! あぁぁぁぁぁ、私の馬鹿ぁぁぁ!!!!!」
あ~、はい。まぁ彼女はかなり特殊な領域をお持ちのようですしね……。薙刀を振り回したり、短刀で突撃したり、単純なパワーで破壊したりと色々な領域がありますが、飛び道具は確か彼女だけだったはずです。
(……いや、普通に弓矢とかライフル担いでた方もいらっしゃいましたね。なんでしょう『領域』って。深く考えてはいけない? 確かに)
それにメロンさんはティムサさんのように領域をしっかりと視認する力があまりないようですし、これまで対戦したドーベルさんもそこまで強い『領域強度』をお持ちではありませんでした。故に『領域』をしっかりと視認できたのは今回が初めて。
あまり実感しにくいものを信じろとは言えませんし、『領域』の対策を考えるぐらいならば単純な実力を上げた方がより強くなれます。さらにメロンさんの最大効率である少し調子に乗っている状態を維持してしまったことも原因でしょう。
(つまり、私の指導不足。)
最終コーナーからのセリ比べの際に発動されたタイキさんの『領域』、感じ取る力の弱いメロンさんでもLv4になった領域はしっかりと視認でき、初めての世界に困惑しているところに、銃を乱射された。
それが自分に向いてないにしても、未知の出来事には身構えてしまうものです。
「次は! 次こそは絶対『領域』なんかにビビらないもんね! あとトレーナーさん! 今度銃の扱い教えて! 私もレース持ち込んでブッ放すっ!」
「銃刀法違反になるので駄目です。」
「なんでッ!?」
「いやなんでってメロンちゃん……。」
「日本人なら日本刀では~?」
「そう言う問題じゃないでしょクマ。真面目に走りで勝負しろよ……、というかトレーナー? 次は、勝てるんだよな?」
「はい、必ず。」
自身の準備不足、調査不足で彼女を一着にできなかった。これは揺るぎもない事実です。ならば次の勝負、マイルCSではすべての障害を排除し、メロンさんに勝利を捧げる必要があります。そして『タイキシャトル』という自身の想定、そして史実を超えてきた方がいらっしゃるとなれば、此方もなりふり構ってられません。
(おそらくですが、今後"覚醒"してくるのは彼女だけではないでしょう。夏を越えれば、必ず彼女たちは上がって来る。)
少し時間と手間がかかり、少し懸念点もあったため保留していましたが……"アレ"を本格的に使用していくことにします。実際に利用できるのは夏合宿からになりそうですが、十全に扱うことができれば皆さんをより一層成長させることができるはずです。
文字通り全てを使い、完全な勝利を目指します。
「メロンさん、もう一度チャンスを私にいただけますか?」
「……ッ! もちろん! こっちからお願いしたいくらい! ……あ、でもティムサちゃん。"そっち"は安心してね?」
「んなッ!!!」
「?」
「というかメロン、お前ライブの時間大丈夫か?」
「あっ! わ、忘れてた! ちょ、ちょっとトレーナーさん! 着替えるから外出て! 後みんな着替えるの手伝って!」
あ、はい。では失礼しますね。
◇◆◇◆◇
「あ、カイチョー!」
「ん? あぁテイオーか。」
「カイチョーもダービー見に行くの!?」
「あぁ。……そうだテイオー、良かったら一緒にどうだ? 車を回してもらっている。」
「ほんと!? いくいくー!」
私服姿でゆっくりと歩く二人、身長差からか、それとも纏う雰囲気からか親子のようにもみられる二人だったが、その関係は先輩と後輩。同じ学園に通う二人だ。
しかしながらただの二人ではない、少しでも知識のあるものがいれば視界に入った瞬間にひっくり返ってしまうようなウマ娘である。
皇帝 シンボリルドルフ
帝王 トウカイテイオー
この異名はレースに興味のない者でも聞いたことのある名であり、二人合わせて勝利GⅠ数は11。まさに時代を作ったウマ娘達である。
「にしてもカイチョー! まさかあ~んなことされるとはね! にしし!」
「ふふ、だな。」
ゆっくりと足を進めながら、言葉を紡ぐ二人。彼女たちの脳内には同じ光景が映し出されていた。
当時の自分たちのタイムよりも早く、そして圧倒的な勝利を見せた彼女。そんな彼女が天高く人差し指を掲げる姿。当の本人がどう思っているかは解らないが、見るものからすれば同じレースを走った彼女たち、そして過去の出走者たちに対しての宣戦布告とも取れるそれ。
他のウマ娘たちをなぎ倒しながら目指すのは、三冠。そして記録を以てその全てを塗り替えていく。皐月賞レコードを取ることでその意志を示した彼女の名は、タヴァティムサ。
ほんの少し前、それこそ入学時には名前すら上がらなかったウマ娘である。
「にしてもあの子のチーム? チーム申請されてたっけ? 覚えてないけどすごいよね~。あのメロンって子は敗けちゃったみたいだけどそれ以外全戦全勝でしょ? オークスもなんか勝ってたし。残りのGⅠほとんど持って行っちゃうかも!」
「そうレースは簡単なものではない、と言いたいところだが……。活躍を見る限り否定しにくい、な。」
皇帝としてその強さを証明し、生徒会長として進むべき道を示す。そんな彼女から見ても今年のクラシックは魔境と化していた。すべての路線に無視できぬ強者がいて、そのすべてにあのトレーナーの関係者がいる。半ば彼と、それ以外の戦いの様なものだ。
それが良いのか悪いのか彼女には判別のしようがない。故に未来の歴史家に任せるべき案件なのだが……。一人のレースファンとしては非常に楽しい年になるだろうし、一人の競技者としては非常に"興味深い"世代と言えるだろう。
「たしか……、来年からだったか。URAファイナルズが開催されるのは。」
「? あ! なるほど! それならボクたちも一緒に走れるんだね!」
「あぁ。」
先達として恥じぬ走りを見せなければならない、そんなことを考えながら足を進める二人。
「それでさ、カイチョー。誰が勝つと思う?」
「ん? そうだな……。」
学園を仕切るものとして、ある程度の情報は生徒会長の元に流れて来る。もちろん届かずに消えてしまうものも存在しているが、彼女が生徒会長になってからの活動のおかげか、多くの声が届けられるようになってきた。
そんな環境であれば、クラシックと言う多くの者が注目するレースの出走者。彼女たちの情報は自然と集まって来るというもの。
(彼女を除けば……、三人か。)
一人目は、サイレンススズカ。副会長をしているエアグルーヴが目を掛けているウマ娘。先日の皐月賞は最初から速度を上げ過ぎてスタミナ不足による失速で6着。その後ゲート試験を課せられたウマ娘でもある。アレは不慮の事故のようなものだったらしいが……、あまり精神面の成熟が為されていないように見受けられた。
(走る理由が固まれば、化ける。しかし今の彼女には少し2400は長い様な気もするな……。今後に、夏明けに期待と言ったところだろうか。)
二人目は、マチカネフクキタル。皐月賞は5着だが、その末脚の鋭さは目を見張るものがある。彼女もサイレンススズカと同様に夏明けを期待されるウマ娘であり、未だ未覚醒。しかしながらやはり精神面に不安を抱えているようで、そこをいかに克服するかが勝利の鍵だとルドルフは考えていた。
(おそらく跳ねればあの中で一番強い。しかしそれを常に発揮できるタイプではないのだろう。)
そして最後、三人目がメジロブライト。メジロが誇る令嬢の一人であり、メジロドーベルとで"メジロ"の双璧を成すウマ娘。ホープフル、皐月賞で2着であり、その実力は確か。ルドルフは『追いかけられる者がいればより大きく伸びるタイプ』と睨んでおり、例の彼女に勝つために尋常ではない努力を重ねていることを察していた。
(自分の中の目標だけでも彼女は走れたのだろうが……、追う者を見つけたことでより大きくなろうとしている。未だ覚醒、壁を破れたわけではないだろうが……。もしかするとこのダービーで、見せてくれるかもしれないな。)
他にも注目すべきものは多くいるが、ざっと考えればこの三人。おそらくだが、この会話を振ってきたテイオーも同じ考えだろうとルドルフは推測する。
「多くの者がいる、だがやはり……、彼女だろうな。」
「だーよねー。……ボクの記録、抜かれちゃうのかな?」
先ほどの元気一杯の声をほんの少しだけ低くし、そんなことをつぶやくテイオー。彼女は無敗二冠ではあるが、無敗三冠ではない。奇跡の復活を二度も遂げたという事実は彼女の強い支えとなり、誰にも文句を付けさせない実績ではあるのだが……。やはり過去に思い描いた目標を誰かが叶えてしまうというのは、思うところがあるようだった。
「テイオー……。」
「……あ、カイチョー! あの車?」
「あ、あぁ。アレだ。」
何か言おうとしたルドルフだったが、テイオーの声によってかき消される。そして彼女に向けるその顔は、あまり触れないで欲しいという雰囲気を醸し出していた。ルドルフは先ほどのやり取りを一旦脳の端へと追いやり、此方に頭を下げている運転手へと軽く手を振った。
様々な者の想いを乗せたレースが。
日本ダービーが、幕を開ける。
◇◆◇◆◇
「どうですかティムサさん、大丈夫そうですか?」
「はい! バッチシです!」
私の問いかけにしっかりとした声を返してくれるティムサさん。皐月賞の時は胸の内にかなりの不安を秘めていたようですが……、皐月賞勝利を糧に一皮むけたようで、ダービーを前にしても程よい緊張感を保てているご様子。ご自身の実力にも自信を持てて来たようですし、これからより大きく伸びることが期待できますね。
「でもまた大外枠ひいちゃうとは思わなかったです、あはは……。」
「まぁ抽選ですから、運になってしまいますものね、そのあたりは仕方ないところがあるかと。」
皐月賞でもそうでしたが、今回もティムサさんが引いたのは8枠18番。先日のレースを見る限り既に大外であろうとも彼女であればなんとかなってしまう。そう考えてしまうほどに仕上がっているのですが……、やはり今日の対戦者の皆様は爆発力が違います。十分に気を付けていかなければならないでしょう。
(といっても、皐月賞からダービーの期間は短い。どれだけ能力を底上げしようとも時間的問題から上昇率はそこまで高くないといえるでしょう。)
時間的な問題は私たちも同じですが、単純なステータスの上昇という点に限れば、確実に私たちの方が上です。固有スキルや通常スキルの習熟を相手がしたとしても、依然として単純な力量差で押し切ることができると断言します。
懸念すべきは、覚醒のみ。
『領域』と同じ、ウマ娘が持つ神秘の一つ。
タイキさんの一件から情報収集を強化しましたが、未だ完全に覚醒、花開いた方はタイキさん以外には発見できませんでした。しかしながらそもそも『覚醒』はそのタイミングや効果も人によってまちまち、知らずの内に急に爆発しとんでもない成長を見せることもあるでしょう。もしやするとレース中にそれが起きてしまう、と言う可能性も考えねばなりません。
(一応それを想定しトレーニングを行い、策を練ってきましたが……。やはり不安は残りますね。)
……ですが、指導者ならば。どれだけ不安を抱えようとも、表には出すべきではない、常に勝利を信じ、突き進むのみ。この直前で、私が彼女たちにできることは多くありません。ただ言葉を、紡ぐことだけ。
「ティムサさん。……ダービーを、二冠目を、取りに行きましょう。貴女ならば、絶対にできます。」
〇ネームドの反応
・皐月賞よりも、ダービーは距離は長い。これなら……。
・あ、あの。メロンがいなくなったらクマが出て来てオークス持っていかれたんですけど……、え? 長距離得意? うそぉ、中距離で負けたんだけど……。な、夏! 夏で絶対巻き返すからね!
・トレーナーさーん! メロンちゃんに勝ちましたー! ……でも、まだまだデース! もっと頑張って今度はスタッフちゃんにも勝ちまーす! 目指すのは圧倒的勝利でーす! そして今年の年度代表ウマ娘は私になりまマース!
・ゴージャァース! ……え、もしかして私の出番これだけ? ね、ねぇもうちょっと! もうちょっとないの! ナレ敗とかベリーバットよぉぉぉ!!!!!
・ふんぎゃろ? ふんぎゃろ! ふんぎゃろー!(末吉)
・高速左旋回中(タヴァティムサと再戦するため)
〇ステータス(5月後半・ダービー前)
『タヴァティムサ』 ☆1 (調子:絶好調)
芝S ダートE
短G マB 中S 長B
逃B 先S 差C 追F
スピード A+
スタミナ C+
パワー A-
根性 B-
賢さ B
スキル:なし
クラス:ゴールド
主な戦績:ホープフルS、皐月賞