転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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17:大丈夫?

 

 

 

「ティムサさん! もっと足を上げて!」

 

「はい!」

 

 

ブートキャンプメガホンを使用しながら、アンクルを装着したティムサさんたちに指示を飛ばしていきます。

 

横では桐生院さんが自身と同じようにミークさんに指示出しをし、少し離れたところではこのアイテムたちを提供してくださった企業様の久保さんが明らかに高価そうなカメラを並べその情報収集に努めている。残り2週間となったこの夏合宿の間よく見られた光景です。

 

それにしても……。

 

 

(この桐生院さんのご実家の施設、非常に素晴らしいですね。)

 

 

学園に比べればさすがに“数”という面で劣りますが、“質”に関しては全く問題がありません。きれいに整備された砂浜はもちろん、スタミナトレーニングが十全にできるよう海自体の整備もなされています。それに少し倉庫の方をのぞかせていただきましたが、息抜きもできるようレジャー用品も多数存在しておりました。

 

もちろんこれだけでなく、少し離れたところにあるターフは小さいながらも芝ダート両者ともに常に最善を保っていますし、ホテルの方にはジムまで併設しているという徹底ぶり。食事の方もシェフの方々がこちらの要望に応えてくださったおかげで栄養満点。補食の方もそちらでご用意していただいたので非常に助かりました。

 

 

(可能であれば常に利用させていただきたいのですが……、学園からかなり離れていますし、さすがに無理ですね。)

 

 

そんなことを考えながら、今回の夏合宿について思い返していきます。

 

最初はアンクルというものに慣れていないような皆さんでしたが、一度使ってみればその有用さを理解していただいたようで、常に2倍以上の効率をたたき出しながらトレーニングを行うことができました。用意に時間がかかる上、個人では用意できないものであったため躊躇していた施策でしたが……。彼女たちの成長を見るとやってよかったと思えます。

 

久保さんがお勤めになられている企業様のおかげで常にティムサさんたちのアンクルとメガホンを支給していただけるようになりましたし、皆さん発売時のCM出演を受け入れてくださいましたため関係性も安泰。一般販売後も常に支給を受けることが可能となるでしょう。

 

 

(つまり皆さんの育成が完了するまでこの2.1倍という効率が維持できる、ということですね。)

 

 

正直に言ってしまうと、ティムサさんたちの上昇率を見て『やりすぎてしまったか?』と思うことはあります。自身のチートのせいかゲーム時にあった一回のトレーニングでの向上限界を取っ払ってしまいましたし、彼女たちの力量はどんどんと膨れ上がってきています。

 

……しかし、彼女たちが対戦している相手が少々自身の知る史実やゲームとは違う動きをしてきたのも事実。メジロブライトさんがレース中に覚醒し固有スキルを二重使用してきたことは記憶に新しい。彼女ができるということは他の方もできてしまう、と言っても過言ではないでしょう。

 

固有スキルという『領域』、また金スキルを超えた『覚醒スキル』は個人の才覚によって決まります。この二つを持たないティムサさんたちにより確実な勝利をお渡しするためには、自重している場合ではないと判断したわけです。

 

 

(ですので、私も……。覚悟を決めるしかないでしょう。)

 

 

自身が用意した三つの秘策のうち、これまでのものは時間がかかるものでした。一つ目の秘策は桐生院さんという『トレーナーでありながらウマ娘と同等以上の身体能力を持つ』存在の特性を十全に生かし、彼女のご厚意によって成立した策です。私がしたこととしてはスキルの伝授ぐらいで、実働はほぼ彼女に任せてしまっているという現状です。

 

二つ目の『アンクル&メガホン』などの用意も、私個人では成し得ませんでした。先に同じようなものを開発なされていた企業様にお声がけし、自身のチートと、知識として存在する完成図を提示することで成したこと。開発の大部分は久保さんをはじめとした技術者の方々にお願いしたものになります。

 

……つまり、私個人で何かした、というものが現状存在しないわけです。

 

やはりこれはトレーナーとしてあまりよくないでしょうし、ティムサさんたちの指導者としてあまり胸を張れないことだと考えています。何もかも自分でやれ、という姿勢を見せたいわけではありませんがあまりにも自身の配分が少ないといいますか……。少々そんな気がしているのです。

 

 

(ゆえに、第三の秘策は自身しかできないこと。なのですが……。)

 

 

ちょっと、いやかなりこれを実施していいのかわからないんですよね……。

 

内容としましては、『マッサージと笹針』になります。全身の筋肉と骨を調整し、どうしても生まれてしまう体のズレを修正。生まれる前の状態よりもより正確な肉体に整えなおすことで全体的な能力向上を図り、同時にかの安心沢氏が行っていたような笹針によるパワーアップを図る、というものです。

 

ちなみにですが一応トレーナーになるまでに両者の資格は入手済みですのでトレーナーとして担当の皆様に実行することは可能ですし、笹針の方も安心沢氏とは違い、確実に最上。全ステータス向上を行うことができます。まぁさすがにチートの補助がなければ難しいことですが……。

 

 

(とにかくこれを行えば格段な成長が見込めます。数値にすれば約1ターンの練習量をほんの少し上回る程度ですが、やるとやらないとでは大きな違いになりますし、体力的にも結構な回復量があるためかなり有用です。)

 

 

ゆえにトレーナーであるならば即座に実施しなければいけないことなのですが……。

 

 

(施術の方法的に、どうしても全身を念入りに触る必要があるんですよね……。)

 

 

チート持ちとはいえ、漫画世界の人間のように人の体が透き通って見えるなど正直無理です。いや頑張れば何とかなるのかもしれませんが、視覚だけに頼るのは二流かと考えます。確実な施術を行うためには、触診も重要。しかしさすがに担当とはいえ、うら若き乙女でもある彼女たちの体を、成人男性が触るのはいかがなものかと……。

 

笹針もどちらかというと史実において競走馬に行っていた笹針というよりも、針治療といった方がいい代物です。こちらも全身に施す必要があるため、色々と問題です。こちらは失敗するとかなりの危険が伴うため目視と触診が必要です。決して異性が行っていい代物ではありません。

 

 

(ゆえに、これまで行うことができませんでした。)

 

 

一瞬。スキル指導の時のように桐生院さんにお願いするということも考えました。しかしながらおそらく、この技術の伝授は不可能。感覚的なものが多く含まれますし、それを言語化してお伝えし彼女が習熟するまでの時間はおそらく年単位を要します。そして習得できたとしても自身と同レベルになる可能性は非常に薄いです。

 

自身はチート持ちゆえに生まれながらにして保有しているものですが、言ってしまえばその道の人間たちが一生をかけて学び突き進んでいくものです。いくら最初から正解を知っていたとしても、それの習得に時間がかかるのは確かでしょう。

 

もちろん部分的にだったり、着衣のまま行うということも不可能ではありませんが、その分効率は低下します。それにどっちみち異性である私が彼女たちの体に強く触れてしまうのも事実。ゲーム世界のトレーナーのように性別が可変であればこのような心配をせずとも済んだのかもしれませんが……。

 

 

(つまりどうあがいても自身でするしかありません。)

 

 

さすがに、この施術を強制するわけにはいきません。

 

いくら能力の向上が見込めるといえど、越えてはならぬラインというものが存在します。もし許可いただければ最大限の努力はいたします、ですがこれを絶対にしなければ勝てないというわけではありません。

 

担当として信頼していただいているという自負はありますが、言ってしまえばこの契約はビジネスです。いくら担当といえど嫁入り前の女性の体をいじるとなればかなりの問題になるでしょう。

 

 

(そろそろ皆さんの練習精度が落ちてきましたし、休息をとりながら説明。同時に親御さんへの説明と相談の場を設けた方がいいですね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ティムサちゃんとトレーナー。死んでる。」

 

「だなぁ。」

 

 

ミークの問いに答えながら、浴衣姿で真っ赤になりながらぶっ倒れてる二人を見る。いやまぁ仕方のないことだとは思うけど。

 

 

「スタッフちゃんは?」

 

「私か? 多分ミークと同じ部分的な奴だけ。全身コースはそこのお二人のみ。」

 

「あぁ……、ダブル色ボケ。」

 

 

ミークの問いに答えながらちょっと前のことを思い出していく。

 

夏合宿も残り2週間といったところ、私たちのトレーナーからとある提案がなされた。いわゆるマッサージと笹針施術のお誘いってやつ。なんかそういうのの免許を持っているらしいトレーナーは、やろうと思えばかなり本格的な施術をすることができるそうだ。

 

さらにトレーナーとしての知見も持っているため、この三つの技術を複合した非常に高度な施術をすることが可能なようだった。私たちとすれば『マジで何でもできるなトレーナー。』という感じだったのだが、本人としてはあまり乗り気ではない様子だった。

 

まぁそれもそのはずで、トレーナーは男性。担当とは言え色々私たちの体を触るのは問題しかない。さすがに親御さんへの説明とかもしないといけないし、本人が拒否するのなら絶対に行うべきではないとのこと。でも効果があるのは確かなので、考えてほしいというものだった。

 

 

(そっからちょっとした自由時間があって、時間をとって一人ひとり両親との三者面談的な奴があった。)

 

 

一応、同性の専門の人間を呼んですることもできる。けれどトレーナーがするよりはどうしても効果が落ちる。そういった問題も含めての面談会。一応学校であるような普段の様子とかトレーニングの状況とかを伝えるっていうのもやった後、施術の話をした。ズームっていうの? パソコンのテレビ電話みたいなのを使って行った感じだね~。

 

そこで色々話し合って、決めて、今日に至るわけだ。

 

 

(けどまぁ……。)

 

 

ウチとかクマのところはまぁ『同性の方がやっぱりいいよね。』って話に落ち着いた。脚とかの部分的なものはトレーナーがして、それ以外の全身施術は専門の同性の人が行う感じ。けどメロンのところはちょっとアレで……。

 

本人もつぶやいていたが、メロンはフリルドの一族の中で唯一のGⅠ制覇者。そして何年振りかわからないほどの重賞制覇者でもある。

 

 

(あいつもちょっと愚痴ってたけど、半ばトレーナーを神格化し始めてたらしいからなぁ……。)

 

 

いやまぁあの人のやばさを全身で感じているこの身からすれば、その気持ちも解らないでもないし、むしろ理解できる。けどちょっと行き過ぎてしまっているのも確かだ。

 

けど残念なことに? メロンの両親は彼女と似たような性格だったようで、調子に乗っているというか、行き過ぎてしまっているというか……。まぁ『どうぞどうぞ!』という話になってしまいそうだった様子。さすがにこれは、と思ったメロンとトレーナーが押しとどめて事なきを得たようだが……。うん、すごいよね。

 

 

(んで、一番ヤバかったのがティムサ。)

 

 

最初はあいつの親御さんも『ちょっと……』という感じだったそうだが、桐生院トレーナーに差し切られる恐怖からか、それとも単純に興味があったからかはわからないが、あの手この手で両親を説得しきってしまったそうな。トレーナーも色々問題性を提示して『こちらから提案しておいてなんですが……』と反論したそうだが、最終的に三人に押し切られて全身施術を決行することになってしまったんだって。

 

でもさすがに口頭だけだとご両親が心配だろうから、ってことでトレーナーが色々契約書に起こしてティムサのご両親に送った後に、施術という順序を踏んだようだ。追加して、さすがに1対1はダメだろうということで同性の専門の方が複数同席してやることになったんだって。

 

 

(それで終わればまぁよかった? のかはわからないが……、桐生院トレーナーも『じゃあ私もいいですか?』って言い始めちゃったんだよなぁ。)

 

 

多分桐生院トレーナーとしては『どんなものなんだろう』っていう知的好奇心が優先だったんだろうけど……、トレーナーのあの顔を見ればわかる。あれは死にに行く人間の顔をしていた……。ティムサの時もそうだけど、あの人絶対、何か問題があったら腹切るつもりだったと思う。マジでそんな顔してたし。

 

 

「んで、ちょうどいまそれが終わったわけなんだが……。」

 

「顔まっかっか。」

 

「まぁそりゃそうだろうなぁ……。」

 

 

二人に聞こえないように小声でミークと話す。

 

ティムサはもともとトレーナーにベタ惚れで、時間さえあればトレーナーのそばにいようとする色ボケ真っ最中だ。今はまだ大丈夫だが、思考がもっと行くところまで行ってしまえば監禁からの逆ぴょいルートも見えてくるような怖さがある。まぁティムサのことだから途中でヘタれるだろうが、追い詰められればしそうで普通に怖い。

 

桐生院トレーナーの方だが、おそらくこれまで無自覚だったのを今日ので自覚したんじゃないだろうか? いやこの人の性格ってほんとに純真無垢な感じがあるし、ただ滅茶苦茶恥ずかしかっただけかもしれないけど……。まぁどっちみちヤバいことは確かだ。この人には“家”もあるし。“力”もある。

 

 

(どうなるかはわからないけど、まぁ将来ウチのトレーナーはクソ苦労しそうだな。……南無阿弥陀仏。)

 

 

「そういえばスタッフちゃん、体の調子はどう?」

 

「んぁ? あぁ、それね。……正直怖いくらいに軽い。」

 

 

ミークの頷きから、おそらく同様の状態であることを悟る。

 

バランスをとるためにいくらか施術の強度を落としたそうなのだが、正直生まれたばかりの肉体かと勘違いしてしまうほどに軽い。夏合宿の間に蓄積していた疲労みたいなのが完全に消え去り、頭でイメージしたように体が動かせる感覚。

 

施術終わりのメロンが興奮して即ターフに走りに行ったし、いつもゆったりしているクマがとんでもなく興奮していたことからも私だけではない。施術を受けた全員の体が変化している。

 

 

(本当に、肉体の段階が上がったような感覚。いや、むしろ“限界がなくなった”のか?)

 

 

施術中に専門の人からちょっと話を聞いたが、『スタッフさんたちのトレーナーさんってもしかしてバケモノですか? いや失礼なのはわかってるんですけど……、何というか“神の手”と言いますか、それを軽く凌駕しているような……。』みたいな言葉をこぼしていた。

 

専門の人間から見ても、あの人は規格外だったのだろう。『教えを請いたいくらい。』って言ってた人もいたし。……ほんと、ヤバい人に担当してもらってるもんだよ。

 

 

(部分的な施術で“コレ”なんだ。全身すべて、あの人に任せてしまったこの二人は……。)

 

 

ほんと、どうなるんだろ。

 

ちょっと、恐怖すら覚えるよ。……ま、本人たちの性格がアレだから心配しなくてもいいんだろうけどね。

 

 

「……あ、ちょっと待て。もしかして私また桐生院トレーナーに勝てなくなった?」

 

「おう……、ご愁傷さま、スタッフちゃん。」

 

「た、短距離ウマ娘の誇りが……ッ!」

 

 

 

 






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