転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

19 / 25
19:三冠ウマ娘

 

 

 

 

 

(……そういえば結局私、ずっと大外だったな。)

 

 

まぁ慣れてるしこっちの方がやりやすいまであるからいいんだけど。

 

枠番の抽選会で私が引いた番号は、またまた18番。つまり8枠18番の大外枠。皐月賞からずっと同じこの番号になっちゃったってわけだ。昔は自身の運のなさに嘆いたものだけど、レースへの知識を深めるたびに“不利”を“有利”に変える方法を知った。このくらいじゃ正直なんとでもなるって理解しちゃったのよね。

 

まぁ確かに距離の問題ってのは出てくるけど……。正直あんまりそういうの関係ないかな、って思うところもある。トレーナーさんから私が一番スタミナがあるって教えてもらってるし、大外だからこそ選べる作戦ってのもある。あの人が教えてくれた数えきれないほどの戦い方は、全部私の血肉になっている。

 

私は私が信じることを、トレーナーさんが教えてくれたことを、やればいい。

 

 

(それに、大外は一番最後にゲート入れるし、スタート直後に周りをそこまで気にしなくていい。)

 

 

大外からレースをする場合、先行を用いるとなると内側に入る必要がある。自身にとっての好位置を確保するために、すでに出来上がったグループからあの手この手で場所を奪い取らなきゃいけない。でも相手だって自分の居場所を取られたくないからブロックするわけで……、まぁ面倒だ。

 

けど今の私は先行だけじゃない。ダービーでの“逃げ”が自身の糧になったのか、それとも桐生院っていうバケモノに背後からずっと追われるっていう苦行を夏合宿にしたせいか、“逃げ”に対する適性ってものが自分の中にできた気がする。

 

 

(まぁ言ってしまえば、最初から最後まで先頭を走ればなんの問題もない、ってこと。)

 

 

ちょっと頭の悪い作戦に思えるかもだけど、そもそも私の頭は出来が良くない。つまりお似合いの戦法ってわけだ。……あとここまでくれば私でも理解できるんだけど、やっぱり単純な力量差で押し切った方が強い。最初はトレーナーさんの言葉を疑っちゃった私だけど、今はこの身をもって理解できている。

 

不安定さの残るスキルや『領域』ってのに頼るのも悪くない、けれどこっちの方がより確実で、強い。限界を超えさせてくれる人がいる以上、私に敗北の二文字はない。

 

 

(そもそも『領域』なんて持ってない、っていうのもあるけどね~。)

 

 

抽選会のあとに、大外ってことで記者さんたちからまぁ色々言われたけど、私からすればいい数字。最初から最後まで先頭なら勝てるって証明してもらってるし、これを実現できる肉体にしてもらった。それに、これまでずっとこの位置で勝ってきたわけだからなんの問題もない。むしろ大外は三女神さまがくれた祝福って思うぐらいだ。

 

 

「さて、行こうか。」

 

 

周囲、レースの新聞やらテレビやら、学園の同級生まで。色んな人間が私のことを噂している。“無敗三冠”という偉業はそれほど大きなものだ。自分がそんな立場なんて信じられない気持ちもあるけれど、ゲート前から見えるあの観客席に集まった人々を見れば自分がどれだけ注目されているのか、ってのがわかる。

 

 

……もう、あの頃の私。ただ弱くて何もできない私じゃない。

 

 

自分が、私が、“タヴァティムサ”であることを、“無敗三冠ウマ娘”であることを。

 

 

証明する。

 

 

このレースに勝てば、私はもっと大きく変われる。いや変わらないといけない。そう強く思えるんだ。

 

あの人に栄光を持って帰る。ただそれだけを成すために、私は走る。

 

 

「あと、3分。」

 

 

 

 

 

 

 

【ここ京都レース場には現在約15万人の観客が押し寄せています。すでに足の踏み場すらないという状態、この放送席からも出走を今か今かと待つ皆さんの熱い想いが伝わってきております。それもそのはず、本日第10R、菊花賞はクラシック三冠レースの終着点。あのシンボリルドルフ以降久方ぶりの“無敗三冠ウマ娘”が誕生するかもしれないのですから!】

 

 

【一番人気8枠18番、本日も大外から蹂躙か。調子十分“タヴァティムサ”。すでに世代をこえ時代を制するような肉体に仕上げてきた彼女が、ゲート前からゆっくりとライバルたちを眺めます。ここまで6戦6勝の無敗二冠、ステップレースを挟まずに菊花賞で挑戦者たちを迎え撃ちます。】

 

 

【続いて二番人気7枠14番“メジロブライト”、皐月賞ダービーともに二着。ダービー後に故障したという報告がありましたが完全復活し、ここ京都レース場に戻ってきました。前走の京都新聞杯では二着となりましたが、すでに万事調整済み。得意な長距離で“悲願”のGⅠ初勝利となるか!】

 

 

【三番人気は4枠7番マチカネフクキタル。前走の京都新聞杯ではメジロブライトに先着し勝利したウマ娘。皐月賞やダービーでも掲示板に入っており、油断ならないウマ娘と言っていいでしょう。特にパドックで見せたその仕上がりは目を見張るもの。もしや、という怖さを思わせるウマ娘です。】

 

 

 

実況の人の声を聴き流しながら、ゆっくりとゲートに入る。

 

そして。

 

 

 

 

 

 ガコン

 

 

 

【スタートしました! ほぼ揃ったスタートになりまして、まずは一周目であります。】

 

 

 

大きく踏み出す。狙うは最前線。

 

誰の影響も受けない、一番前へ。

 

ほんの少しターフに目をやれば、自身が進むべきルートというものが見えてくる。逃げという戦法を確実に取れるようになったおかげか、その数はより増えた。ただ内側に入る、その一点だけに絞っても数えきれないほどの線が見えてくる。けれど選ぶのはそのどれでもない。すべてを無視し、大外から最前線へ向かう。

 

細かな戦術など必要ない、ただ押し通すのみ。

 

 

【まだ全員が並んでおりまして、さぁ外から上がってきたのはタヴァティムサ。先頭へと飛び出していく。そしてその後ろに続くのはテイエムケーニヒ。さらにマチカネフクキタルが行きました、三番手であります。】

 

 

少し視線を後ろにやれば、何か大きなもので全身を満たしているようなフクキタルさんが目に入る。明らかにこれまでと違う彼女。もう少し後ろからの方が得意な人だと思っていたけれど、私が先行位置で好む場所を持っていってしまった。ほんの少しの羨ましさを感じるが、すぐに投げ捨て前を向く。

 

背中に全員の視線が集まっているように感じるが、“背負う”ことを決めた私にそんなプレッシャーは通用しない。自分の芯を意識しながら脚を進めていく。

 

 

【四番手1バ身差、ノーザンバレット、パルジェット、ダイワベッショウ、外内からはキンイロリョテイが入っていきます。そして内からホスピテスコが行きました。好位置グループであります。】

 

 

第3コーナー、最初の坂を下りながら進んで、次の第4コーナーへ。ほんの少しだけ速度をあげて後続との距離を離すようにしておく。最前線に立つということは、レースを牽引できるということ。長距離レースにおいてスタミナは生命線。

 

 

(少しでも削れるように策を弄しておく、ってわけだ。)

 

 

足音での把握。二番手の子がターフを踏み抜くその足音で距離を測り、体にしみこませたタイムと今自分がいる場所で残りの距離を把握していく。さすがに全体すべてを感覚だけでつかむことはできないけれど、私以外の誰かの存在を察知できればそれでいい。軽くであるが、全体の様子が見えてくる。

 

私のダービーを見ていれば、決して暴走してるなんて思わないはずだ。実際この速度、ハイペースを保ったまま最後まで先頭を走りぬく自信がある。私が足を進め、後続と距離を離せば離すほどに動揺は広がるはず。もし広がらなくても、この距離をより広げてゴールインするだけだから問題ない。

 

レースはこのまま、ハイペースを保ったまま直線。スタンド前へ。

 

 

【中段にはメジロブライトがつけており、さらに後続集団からはケンシジャスティスが外側から行きました。そしてここで先頭が一周目、スタンド前に入ってまいりまして、先頭に立ちますのは一番人気タヴァティムサ、リードは5バ身から6バ身。その後ろにテイエムケーニヒ。】

 

 

まだレースは始まったばかりだというのに、大きな歓声を全身で受けながら直線を走り続ける。ここまで応援されるとちょっとペースを上げたくなるけど、これ以上のペースアップは流石にスタミナの浪費になってしまう。

 

背後から聞こえる足音の種類は変わってないし、私が警戒すべき『領域使い』たちとの距離が近すぎるということはないはず。『領域』は本当に何が起きるかわからない、すでに見たはずのものが全く違う効果を発揮してきてもおかしくない。『心象世界』が変化すれば、おそらく効果も変わる。

 

故に。彼女たちがエンジンを掛け始めるのは中盤以降の後半戦からだとしても、ある程度の距離を稼いでおくに越したことはない。本当の勝負はこの直線のさらに後。第1、第2コーナーを抜けた直後。そこからはこの生み出した差を如何に有効活用するか、だ。

 

 

(この後の勝負のために、息を整えよう。)

 

 

スキル

>【好転一息】

 

 

 

【三番手は1バ身差ノーザンバレットがいきました。そしてその内からはマチカネフクキタル。そしてダイワベッショウが入っており、キンイロリョテイもこのグループ。そして中団の位置にはケンシライトニング、そしてメジロブライトも来ております。】

 

【ここで先頭が1コーナーから2コーナーに向かいます。先頭は依然として変わらずリードは5バ身。】

 

 

スキル

>【円弧のマエストロ】

 

 

大きく息を整え、同時にコーナリングを工夫することで負担なくレースを進めていく。元々そこまで消費していなかったけど、これでより万全の状態にできたはずだ。

 

『領域使い』を迎え撃つためには、自身の状態を最善で保つに限る。最悪、コーナーを抜けてからその後の1500を全部スパートして戦う、っていう意味の解らないことをしなければいけないかもしれない。回復なしでもできないとは言わないけれど、さすがにキツイからね。スタミナの回復は重要だ。

 

 

(……向正面、ここだ。)

 

 

コーナーを抜け、二つ目の直線へ。

 

そして3000の中間地点へと入ったことにより。

 

 

彼女の時間が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

(ティムサ様が選んだのは、逃げ。……速度が違い過ぎて半ば“大逃げ”のようになっていますね。)

 

 

そんなことを考えながら、心の中の靄を払っていく。『領域』において雑念は必要ありません、私がこのタイミングで発動することはすでに彼女にばれているでしょうし、少し知識のある方であればその防ぎ方すら理解していてもおかしくはありません。ですが、私は何をされようとも世界を開くでしょう。

 

それが私の唯一の勝ち筋なのですから。

 

 

(すでに、身体能力は天と地の差。)

 

 

あの肉体、特に足回りを見れば誰でも理解できるでしょう。あの完成度はすでにトゥインクルを引退し、ドリームへと足を進めた方々に匹敵、いや超えているといってもいい。正直に言ってメジロのお姉さま方と対戦したとしても、十二分に勝利をつかみ取れるであろう仕上がり。

 

今だってこんなにもハイペースを維持したままなのに、その脚色になんの陰りも見せていない。私もスタミナには自信のある方ですが、超越者が先頭をずっと走り続けるというプレッシャーも相まって周囲の方々の顔色に陰りが出てきています。私だってこのまま何も手を打たなければ途中でバテてしまうでしょう。

 

 

(だからこそ、突破点を。相手の弱点を突かなければ。)

 

 

唯一の弱点とも言えるそれは、『領域』を使用しないこと。いえ、『領域』を持たないこと。ただその一点のみ。先ほどのコーナリングを見れば技術面での差も無くなったとみていいでしょう。私たちに残された手段、いえ勝ち筋は本当に一つのみ。

 

いかに『領域』をぶつけるか。

 

 

(けれど……。)

 

 

自身がダービーの時に到達した『前借り』。急激な身体能力の向上と、自身の体内に無理矢理二つの心象世界を開くという荒業。おそらくもう一度あれを使えば私の体が粉々に砕け散るでしょう。ダービーの2400で復帰するまでにかなりの時間を要したのです。3000の菊花賞となれば二度とレースに、いや二度と自身の脚で歩くことが叶わなくなるかもしれない。

 

ゆえに、できるのは一つの領域を開くことのみ。

 

 

(リハビリで時間を取られたといえども、身体能力及び領域強度の向上には成功している。そしてあの時つかんだもう一つの可能性、そちらを単体で使用することもできるようになった。)

 

 

確実にダービーの時よりは強くなっています。しかしながらまだ足りない。何もかも、全く足りていない。私の『領域』の性質的に、より距離があった方が速度が乗るため有利ではあります。しかしこれでも、3000でも3200でも足りない。あの圧倒的な速度に打ち勝ち、追い抜くにはもう一つの可能性を開く必要があります。

 

しかし開けば壊れて、二度と走れなくなるかもしれない。

 

ゆえにこのレースにおいて自身は制限を掛けたまま出走し、ただ無事に帰ることだけを考えていましたが……。気が変わりました。

 

 

(あんなもの、見せられては、ねぇ?)

 

 

彼女の肉体の仕上がり、そして技術面の克服という自身が認めたライバルの成長。調整での出走とはいえ京都新聞杯で敗北したフクキタルさんはさらに仕上げてきた。

 

そしてキンイロリョテイを名乗るウマ娘の出現。領域を三つ持ち、おそらくその同時使用が可能な方。

 

これまでノーマークでしたが、『領域』に対し理解を深め、私たちウマ娘の“魂”というものに対しての知見を得た今ならば、彼女が私たちと同じ『領域』使いであることを理解できます。そしておそらく彼女の“強度”であれば、その三つを同時に使用しても涼しい顔で帰ってくるでしょう。

 

 

(つまり私に必要なのは、“魂”そのものの強度、そして壊れない“体”。)

 

 

一度、空想を現実に引き落としたのです。

 

もう一度やってみるのも、良いかもしれませんね。

 

 

 

 

大きく息を吸い、私だけの世界を、開く。

 

 

 

 

「領域、展開……ッ!」

 

『領域』

>【麗しき花信風】Lv7

 

 

 

時が止まり、現実世界を自身の心象世界へと塗りつぶしていく『領域』。本来自分だけの世界であったそれは、修練を積み限界を超えたことによって資格ある者のみを招き入れることができるようになった。もちろんこちらで自由に取捨選択できるもの、選ぶのはもちろん。彼女。

 

 

「ッ!」

 

「ティムサ様、お覚悟を。」

 

 

スキル

>【スタミナグリード】

 

 

自身の心象世界において、私は絶対的な存在となる。私の世界において、ルールは私。彼女のスタミナが自然とこちらに流れ込んでくるが、“単純な力量差”によってすぐにはじかれてしまう。

 

 

(しかし、これで十分。)

 

 

闘争心をその顔に浮かべたティムサ様に笑みを送りながら、領域を作り替えていく。

 

もちろん、これだけで勝てると思ってはいません。ほんの少しのスタミナを奪っただけ、あまりメジロの令嬢としては誇れない行為ですが、レースという場においてそんな立場は関係ありません。

 

ほんの少しだけですが、彼女のスタミナがあれば、ウマ娘という枠組みを超えようとしたその力を借りれば、私の“世界”は、“体”をより強固にできる。独力ではできなかった改変を、彼女の力を起点に世界を作り替えていく。

 

開くのはもう一つの『領域』、自身のあり得たかもしれない未来。

 

さぁ、冬を彩りましょう。

 

 

 

『二重領域』

>【麗しき花信風】Lv7

 【Illuminate you】Lv3

 

覚醒スキル

>【不屈のお嬢様】

 【動かざること羊蹄山の若し】

 

 

 

私を中心に広がっていた真っ白な世界が、春によって外側から浸食されていく。しかしある一点で止まり、暖かな春によって包まれた極寒の冬が完成する。そしていつの間にかその冬は心躍るイルミネーションたちによって装飾され、冷たさが暖かさに変わっていく。

 

『領域』の中に、もう一つ世界を開く。真の意味での、『二重領域』。

 

二つ使えないのならば、一つの世界で二つの効果を起こしてしまえばいい。

 

“魂”の強度が足りぬならば、“気合”で補えばいい。

 

 

本来あり得ぬ心象世界の構築に何かが悲鳴を上げる、しかしながらすでに私は知っている。限界を超えればそれは克服できると。肉体の強化を“覚醒”によって成し遂げたのです。ならば魂も同じようにできなければおかしいでしょう。

 

壊れそうになる何かを“気合”で押し込み、一つの世界として完成させる。

 

 

「では、ティムサ様。参りましょうか。」

 

 

世界が、成立する。

 

 

 

 

 

『領域覚醒』

>【私の使命】Lv1

 

 

 

 

 

【っとここでメジロブライトが大きく加速を開始! 中団から確実に前へと距離を詰め始めます!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(へぇ。)

 

 

あの“悲願”サマの『領域』とやらに入ろうとしたんだが、結果としては尋常じゃない力で弾き出されて、斜行しそうになっちまった。だが代わりに外側からじっくり観察することができた。おかげサマで大体、やり方がわかった。

 

 

(なるほどねぇ、『領域』ってのはそういう感じで使うのか。)

 

 

……そもそも、俺様はこの胸の中にある何か。魂ってものがちょいと複雑みたいでな。あの皇帝サマみたいに生まれながらに使えるってわけではなかった。存在しているのはわかるが、正直言って使い方がわからん。使おうとしても矛先がぶれるのか、正常に機能しない。

 

伝手をたどってやってみても上手くいった試しはなし、まぁそのせいでちょいと荒れた時期があって、今もそれが継続中。伝手があったのは良かったが、運の悪いことに幼少期から皇帝サマみたいなバケモノを間近で見る羽目になった。毎日コンスタントに挫折の原因がやってくる生活、まぁなるようにしてなった、ってやつだな。

 

 

(だが、ずっと心残りであったのは確かだ。)

 

 

レースに出られる年になり、やはり諦めきれなかった俺は常に可能性を探し続けた。たとえ使えなくともレース中であれば目覚める可能性がある、そんな噂を信じて出走し続けた、ってわけよ。……まぁ試行錯誤して領域ばかりに気をかけていれば、いつの間にかレースは終わっていて掲示板ギリギリ。成績としてはそんなのばっか。

 

まぁ真面目に走ってないってのも確かだったので改めて“不良”のレッテルを張られたわけだ。

 

 

(なにも間違ってないがな。)

 

 

一応全部使ってみようかと思ってやったみたときがあったが……、思ったより大きかったせいかビビっちまって緊急停止。それが悪かったのか足をやってリハビリ生活ってやつよ。

 

 

(んでまぁそんな生活を続けていれば上から文句が飛んできて、アカンコだったか? アレは真面目に走らざるを得なくなったわけだが。)

 

 

正直レースの競り合いなんかそこまで面白いとは思えないし、自身の中にあるコレも色々と面倒なもんで飼いにくい。だがやはり自分のものだからどうにかしたい、せっかく勝ったことだし上のバケモノたちがどんな世界で戦ってるのか、どんな『領域』を使ってくるのかと思って出てみたんだが……。

 

 

(こりゃ大当たりってやつかァ?)

 

 

すぐ隣に、自身が求めていた“正解”にたどり着いている奴がいた。

 

やり方さえわかれば、仕組みさえわかれば後は簡単だ。

 

同じようにはできないかもしれねぇが、こちとら領域を開ければ万々歳よ。もういつものやる気がなくなったときみたいに適当に流してもよくなったわけだ。もう目的は達成しているわけだからな。

 

 

(だがよぉ。)

 

 

せぇ~っかくGⅠ。それも菊花賞ってとんでもないレースに出てるんだ。

 

“三冠”でも“悲願”でもないこの俺様が真っ先にゴール板を駆け抜けたら、いったいあいつらどんな顔するのかねぇ!? 観客のクソどもはどんな反応するのかねぇ!? あはァ! 考えれば考えるほど、楽しくってしょうがねえぇなァ!!!

 

オイ、俺の中で勝手に巣食う寝坊助ども! さっさと起きて力を貸しやがれェ!!!!!

 

 

 

「領ォ域展開ィィィ!!!!!」

 

 

『多重領域』

>【長き亘る黄金の始まり】Lv1

 【竜に翼を得たる如し】Lv1

 【俺の名を言ってみろ……ッ!】Lv1

 

 

 

眠っていた四足歩行の真っ黒なバケモノが、俺とは違う人型の黒い靄が、俺を中心に出現する。そして宿主である俺を食い散らかそうとその牙を剥いて来るが……、どっちが“ご主人サマ”か身に叩き込んでやらねぇとなァ!

 

 

「吹きとべッ!」

 

 

そう叫んだ瞬間、二つの存在が消し飛び、その血肉を構成していたであろう何かが流れ込んでくる。

 

この、心の奥底から湧き出てくる感じ。もっとよこせと貪り食おうとしている感じッ!

 

 

 

……なるほど、これが『領域』。いや全能感ってやつかァァァああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(爆散したっ!?)

 

 

ブライトさんに回復したスタミナを奪い取られたと思ったら、なんか領域を超改造してこれまでの比じゃないレベルで加速してきた!

 

と思ったら、今度はその後ろからなんかよくわからんものを爆発させてリョテイさんが突っ込んできた!

 

後ろを見なくても『領域』の発動くらい感じ取れる、けど色々やり過ぎじゃないですか? なんか狂ってるのかってぐらい変な笑い声上げながら追ってくるのがいるし!

 

 

(二人とも、土壇場で仕上げてきた。)

 

 

ブライトさんのはおそらく二つの領域、心象世界を一つに統合しなおして成立させてる領域。強度はもちろんこれまでとは別次元だ。その分肉体への負担も大きそうだけど、統合しなおしたおかげでコストカットしているように思える。

 

対してリョテイさんのは、一つ一つの領域強度がそれほど強くないのが理解できる。けれど全部がほぼ暴走状態で通常よりもなんか強化されてるっぽい。魂とか肉体とかの意味不明な強度だけで成り立ってるヤバい奴だ。あとなんかむっちゃハイになってて怖い。

 

 

(……けどッ!)

 

 

あの子たちが来るってことは想定済み! こっちも手札を切らせてもらうよ!

 

 

 

スキル

>【ハヤテ一文字】

 

 

 

目の前にあるのは第3コーナーに続く直線、悪名高い高低差4.3mの驚異的な坂。定石では抑えて登り、抑えて下る。けれどそんなことしてたら追いつかれる。最高速では負けない自負があるけれど、決して足を緩めていい相手ではない。それに、まだあのマチカネフクキタルは『領域』を使用していないっ!

 

定石なんか知るか! 全部力で押しつぶしてやるっ!

 

 

 

【ここでタヴァティムサ行った! 坂の直前で大きく速度を上げながら登っていく! 全く脚色に衰えなし! 淀の掟など彼女には関係ない! ロングスパートでより差を伸ばして6バ身、7バ身! しかし後方からメジロブライト、キンイロリョテイが追いかけていく!】

 

 

 

そしてっ!

 

 

スキル

>【弧線のプロフェッサー】

 【神速】

 【鋼の意思・改】

 

 

登り切った瞬間、自分の中にある“走る理由”を強く思い出しながら、速度を一切緩めず、いやむしろ加速して坂を駆け降りる。もう後続なんか気にしている場合ではない。すべてをもって、全員を置いていく! ただひたすらに、ゴール板に向かって走るのみ! 私が私であることを証明するために!

 

第3コーナーから第4コーナーへ!

 

そして、最後の直線に……

 

 

 

「勝負時は、今ッ!」

 

 

 

距離はかなり離れているはずなのに、耳元で叫ばれたかのように聞こえるあの子の特徴的な声。

 

人の身には収まらぬ神秘が。

 

一番警戒していた彼女の領域が、開かれる。

 

 

 

「大吉、大吉、大大吉っ! いえ! こんなのじゃ足りません! もっともっと上を! 超吉を!」

 

 

「領域展開!」

 

 

『領域』

>【来てます来てます来させます!】Lv超☆吉!

 

覚醒スキル

>【吉兆です!】

 【七福即生・改】

 【怒涛の超幸運パワー!】

 【ばっちり開運体験!】

 

 

 

「ご覧ください、シラオキ様ぁ!!!」

 

 

足音が、爆発する。

 

 

(きたッ!)

 

 

一瞬世界がブレ、時計の針が止まる。世界は一瞬にして彼女の心象世界によって塗りつぶされ、現れるのはどこかの神社。招き入れられたのは私と領域を展開している二人。確実に人を超えた力によって、意識だけが無理やり招き入れられたかのような状態。

 

こんなもの開いてしまえばこの後どうなるかわからない、そんなもの使用者の彼女すら理解しているはずだ。

 

けれども、彼女はそんな故障の恐怖なんてなにも感じさせず。

 

 

ゆっくりと神へ舞をささげる。

 

 

その目は、ひどく恐ろしいほどに澄み切っていた。

 

 

(彼女だけの……。)

 

 

 

「皆さん! そしてティムサさん! 勝負です!」

 

 

 

「えぇ、もちろんっ!」

 

「はッ! もろとも全員ぶっ潰す!!!」

 

 

 

 

「……はい! 受けて立ちます!」

 

 

 

((((そして勝つのは……、私!))))

 

 

 

おそらく全員が同じ考えを抱いたであろう瞬間、フクキタルさんが開いた領域が弾け、心象世界が現実へと塗り替えられていく。瞬きすらできぬ間に体の感覚が戻ってきて、地面を強く踏み抜いた振動が、全身を貫く。

 

残るは、最終直線のみ。

 

 

 

【さぁ後続を大きく離して直線となりました! しかしマチカネフクキタル、メジロブライト、キンイロリョテイがとんでもない速度で追いかけてきている! しかし差は大きい! 間に合うのか! タヴァティムサ独走状態!】

 

 

 

背中に感じる強い視線が3つ!

 

けど怯まない! 下を向かない! 振り返らない!

 

私は誰の背中も見ない! 最後までこの何もないターフを! 誰もいないゴール板を!

 

駆け抜ける!

 

 

スキル

>【限界の先へ】

 

 

 

「あぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

【後ろからマチカネフクキタル! マチカネフクキタルが来ている! タヴァティムサまで残り4バ身! 3バ身! どんどんと縮んでいく! そしてそのすぐ後ろにメジロブライト! キンイロリョテイ! 三人が“三冠”を狙う! “悲願”か! “三冠”か! 残り200m!】

 

 

 

 

 

 

「ま、だ、まだぁぁぁああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

スキル

>【全身全霊】

 

 

 

 

【しかしタヴァティムサだ! タヴァティムサまだ加速する! 差が縮まらない! むしろ開く! 速い! 速い! 影すら踏ませない! 三冠だ! 三冠だ! 無敗三冠、いま逃げ切ってゴールイン!】

 

 

【そしてタイムが……、3:00.8ッ!!!】

 

 

【割れんばかりの大歓声! 大歓声だ、京都レース場! 史上二人目! シンボリルドルフに次ぐ無敗三冠ウマ娘が今ここに誕生! そして驚異的なレコードッ! 我が国にレース史上不滅の大記録がここに刻まれましたッー!】

 

 

 

 

息を整えるのも忘れて、ただひたすらに掲示板に目を向ける。

 

赤い確定の文字と、レコードの文字。

 

そして、てっぺんに輝く私の18番。

 

 

 

勝った……?

 

 

勝てた?

 

 

勝てた……!

 

 

 

 

(私の、私の夢……!)

 

 

 

つい真っ先に自身の大事な人の顔を見たくて、観客席の方へ顔を向ける。多分、色んな感情でごちゃごちゃになった顔。だけど、それでようやく、もっとたくさんの人が。この観客席にいる全員が、私を見ているのがわかる。

 

最前列のトレーナーさんが、クマちゃんが、スタッフちゃんが、メロンちゃんが。多分今の私と同じような顔でこちらを見てくれている。けど、トレーナーさんたちだけじゃない。ミークちゃんも桐生院さんも、私がお世話になった人、もっと多くの人。

 

 

このレースを見たすべての人が、私の姿を見ている。

 

 

何もなければ誰の目も気にせず、ただトレーナーさんの胸に飛び込んでた。けれど私はすでにただのウマ娘じゃなくなってる、いつの間にか私の背には背負うべきものがたくさん積みあがっている。レースで関わった子たちの想い、そのすべてを私は背負っている。決して苦ではない、けれどこの重みを感じるたびに、背筋が伸びる。姿勢を正さなきゃって思えてくる。

 

 

 

私は、“タヴァティムサ”として、みんなの想いに、こたえなきゃ。

 

 

 

ぐちゃぐちゃな顔をぬぐって、整える。

 

 

両足でしっかりと地面を踏みしめて、みんなに笑顔を向ける。

 

 

大きく手を挙げて、掲げるのは三本の指。

 

 

 

 

 

(ねぇ、見てる。あの頃の私。)

 

 

 

 

 

ちゃんと、実現できたよ。

 

 

 

 

 

 






〇着順
1 8 18 タヴァティムサ   3:00.8
2 4 7 マチカネフクキタル 3:01.5 4
3 7 14 メジロブライト   3:01.8 2
4 1 1 キンイロリョテイ  3:02.6 4
5 2 4 ダイワベッショウ  3:03.9 8




このたび 壱丸 二三 様(@2Power10Minus1)から支援絵をいただきましたため、この場を借りてご紹介させていただきます。大変素晴らしいイラストありがとうございました!


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