転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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2:契約

 

トレーナーからのスカウトをその場で受けた私、"タヴァティムサ"。

 

私としてはこの機会を逃してしまえば二度と同じことは起きない、そう思っての行動だった。けれどトレーナーからすれば意外な行動だったようで、ほんの少しだけ顔が驚いたようなものになる。その変化を見て、『失敗した!』と思ったけれど、そんな私を気遣うように目の前のこの人は優しく声を掛けてくれた。

 

 

「えぇ、こちらこそお願いしますね。……といっても未だタヴァティムサさんには私のことを全く知らない状況。簡単な自己紹介と、トレーニング方針などの説明をさせて頂きたい。それを聞き『合わないかもしれないな』と思った時は断って頂いて結構ですし、『考える時間が欲しい』のでしたらいくらでもお待ちします。」

 

「だ、大丈夫、です!」

 

 

ほんの少し考えれば、トレーナーが私のことを気遣ってくれていることが理解できるはず。けれどずっと私は焦っていた。すでに自信は砕け散り、自分の評価は最低。そんな私を拾ってくれるというこの人。このスカウトは何かの間違いで、もしかしたらもっと強いウマ娘が出てきたら見捨てられちゃうかもしれない。そんなことを、考えてしまった。

 

トレーナーさんに見出だしてもらえなかった子、何も為せなかった子がどんな末路を辿るのかはこの学園にいれば、嫌でも理解できてしまう。昨日までいたはずの先輩が、耐え切れなくなり消えていく。荷物を纏め逃げるように出ていく人たちを、私は理解してしまっていた。

 

この人に見捨てられれば、次にそうなるのは自分であることを。

 

 

「なるほど、解りました。しかしやはり自己紹介は大事ですし、トレーニングをするにも自身が何を成長させるためにやっているか。理解しているのと、していないとでは大きな差があります。レース目標の設定もありますし、お話をさせてください、ね?」

 

「……は、はい。」

 

「ありがとうございます、ではこの後時間をいただきたいのですが、ご予定の方は大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です!」

 

「それは良かった、ではトレーナールームの方へご案内いたしますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

え~はい。早速スカウトを成功させたトレーナーでございます。

 

え、えっとですね。正直な話……、この子の圧が強くてちょっと怖いです。い、いやね? こういう模擬レースで色々想うところがあるときに話しかけたから色々あるのは解りますよ? でもさっき呼び止めるために握り締められた手が砕けそうというか、砕けてそうというか……。いやこれほんとに折れてないよね? なんか滅茶苦茶痛いんだけど大丈夫ですよね?

 

しかも手を握られた時の彼女の眼、今から最終決戦だ! みたいな感じの滅茶苦茶強い意志を感じる眼でとても怖かったです……。なんかもう、種族としての絶対的な差を見せつけられた感じがしますね。そのせいでその後に何喋ったか全く覚えてないですし……。

 

 

「こちらです。」

 

「し、失礼します……。」

 

 

人間がウマ娘に勝てるわけがない、この世界の摂理を理解したところで、彼女を自身のトレーナールームに招き入れる。自分が何を言っていたのか覚えていませんが、帰ろうとする私に付いてきているということはまぁスカウトが成功した、ということでいいのでしょう。

 

さっき私の手を破壊したせいか、ちょっと緊張しているのか声が小さくなった彼女。そんなタヴァティムサさんを椅子に座らせ、ホワイトボードとお茶を用意する。

 

 

(一応スカウトを受ける、という話にはなったようなので第一関門は突破したとみていいでしょう。)

 

 

しかしながら、未だ彼女と私は無関係の間柄。担当契約についての書類を提出し、受理していただいてから私たちの関係は始まる。そしてそのためには私が、彼女、タヴァティムサに何を提供できるのかについての説明をしなければいけません。

 

インフレが進んだゲームでは滅多に見ることはなくなりましたが、ゲームの育成では目標を達成できなければ契約を切られてしまう。まぁつまりウマ娘とトレーナーの関係は、ウマ娘有利のものです。気に入らなければいつでも切れるし、成長できないと判断されればそのままポイ。

 

 

(そうなればもちろん学園側からの評価も落ちるし、お給金も下がります。)

 

 

トレーナーであるならば彼女たちに不義理なことは出来ないし、全力で応援し補助すべきである。同時に人間である以上、生活するためにお金が必要である。

 

ま、そんなわけで今からアピールをしなければいけない。というわけですね。

 

 

「ではまず簡単な経歴と、自己紹介をさせて頂きます。」

 

 

予め準備していた文言をそのまま口で言いながら、意識をON。彼女が持つステータスを表示する。模擬レースの最中も見ましたが、ほんの軽いものです。より詳細を調べるには集中して見つめる必要があります。といっても大人がうら若き学生を長時間見つめていれば事案ですからね、こんな機会ぐらいしか見つめる時間ないですよ。

 

 

〇ステータス

 

『タヴァティムサ』 ☆1

 

芝B ダートE

 

短G マC 中B 長C

 

逃G 先B 差C 追F

 

スピード F

スタミナ G-

パワー  G

根性   H+

賢さ   H-

 

 

……やはり理解していましたが、適性が少々面倒ですね。ゲームに出ていたネームドの方々、彼女たちは育成開始前から自身の得意距離で100%を発揮できる適性Aを所有していますが、ネームド以外のウマ娘をみるとそれがどれほど貴重なものか……。

 

一応チートのおかげで適性をAにまで持って行く方法は修めていますが、結構な時間と労力を必要とします。ネームドたちが基本Aの適性を持っている所で、此方はそのスタートラインに立つ準備をしなければならない。

 

 

(トレーニングは適性の向上から始めるべきですね、もし私と相性が良くない場合でも彼女の糧になります。)

 

 

しかしながらスピードが唯一Fになっているのは非常に素晴らしい。ゲームではガチャを重ね天井というジュエルと財布の中身を積み重ねてようやく初期値Fのところまで行くのです。それをこの四月時点で高めている。最悪デビュー戦は適性値の向上だけすれば狙えるかもしれませんね。あれは決して適性値だけを上げるトレーニングではありませんし。

 

 

「……とまぁそんな感じです。何か質問の方はありますかタヴァティムサさん。」

 

「しゅ、首席……。」

 

「えぇ、まぁ。ありがたいことに。」

 

 

眼をまん丸にして驚き、同時に尊敬の念のようなものを送ってくれる彼女。いやまぁ確かにゲーム時代では見たことのないGの下のHとか言うステータス持っていますしね、あなた。……お勉強の方もお手伝いした方がいいかもしれません。

 

 

「では、私の話はこのあたりで。タヴァティムサさん。あなたのお話をしてくれますか? 簡単な自己紹介と、目標を教えて頂ければ幸いです。」

 

「あ、はい……。"タヴァティムサ"っていいます。あんまり、強くないですけど……。なんでも、なんでも頑張るのでよろしくお願いします! あと、えっと、目標は……、一回ぐらい勝つこと、ですかね。えへへ……。」

 

「なるほど……。こちらこそよろしくお願いしますね、タヴァティムサさん。」

 

「あ、はい! あの……、ちょっと言いにくい名前なので、良かったら"ティムサ"って呼んでください。と、友達からもそう呼ばれてるんです。」

 

 

解りました、ティムサさん。そう返しながらほんの少しだけ思考を回す。

 

おそらくだが、先ほどの模擬レースが堪えているのでしょう。少々、というかかなり消極的な目標を彼女は口にされた。彼女位の年であれば少々不可能なレベルのビッグマウス、『凱旋門制覇!』とか、『無敗九冠バ!』なんて言ってくれてもいいのですが……。

 

 

(ですが確かに、メイクデビューを勝ち抜けなければ何も始まらないことも確か。彼女の真の欲望は一勝してからもう一度聞いてみることにしましょうか。……自信を付けさせなければ。)

 

 

「では早速、トレーニングの方針について。私が何を提供できるかお伝えしたいと思います。……あぁそれと、此方メモ帳とペンに成ります。差し上げますので好きにお使いください。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

事務用の大量購入できるもの、その一組を彼女に渡し説明を始める。と言っても目の前にいるこの子は中学生。他のトレーナー、それこそ桐生院さんと話すときのように専門的なものを入れ過ぎると頭に入ってこないだろう。できるだけ理解できるように、噛み砕いて言葉を紡いでいく。

 

 

「まず、大まかな方針。そちらを説明させていただきます。」

 

 

ゲームとは違い、この世界は現実としてここに存在している。つまりどちらかと言うとゲームのような育成ではなく、アニメ世界のトレーナーたちがしていた育成をしなければならない。かの沖野トレーナーのような競技者たちの自主性を重んじた『放任主義』や、数多くの強豪を輩出した東条トレーナーの『管理主義』そのどちらか、もしくはそれ以外を選ぶ必要がある。

 

 

「私はどちらかと言うと『管理主義』、トレーニングだけでなく日々の食生活などにも指示を出させていただくタイプです。と言っても守って頂くのは"食生活"、"睡眠時間"程度です。全部が全部守れ、というつもりはございません。適宜相談しながら調整していきましょう。」

 

 

私が掲げる主義、というか育成方針は。『アプリトレーナーの発展版』だ。つまりランダムイベントとして発生する『太り気味』や『肌荒れ』、『夜更かし気味』などを絶対に発生させないように立ち回る形になる。プレイヤーの方々には『そんなんチートや!』と叩かれそうだが、転生チートトレーナーなので許していただきたい。

 

 

「が、がんばり、ましゅ。」

 

「えぇ。」

 

 

緊張が解けぬティムサさんにお茶を勧めながら、説明を続ける。未だトレーニング施設の予約などの手続きが完了していないため詳細は後日伝えることにし、簡単な『こういうことをしますよ~』という物がメイン。その話の途中で、ティムサさんの現在の力量に付いての話になる。

 

 

「見たところ、ティムサさんの長所はスピード。そして芝・中距離・先行策への適性があります。短所としては未だレースに慣れていないこと、後は直線での伸びがあげられますね。一応参考までにお聞きしますが、御実家の方で学園のような整備されたターフで走った経験はございますか?」

 

「あ、いえ、ない……です。トレセンに来て、初めてあんな大きなの見ました。」

 

「なるほど、確かに中央の設備はかなり大規模ですからね。自身も初めて見た時は気圧されました。……となるとターフに慣れながら、先ほど挙げた長所。これを伸ばしていく方針と致しましょう。」

 

 

何事も自身の強みをより多く押し付けた方が勝利する。レースの鉄則と言ってもいいモノです。

 

その後はいくつか説明を行い、彼女から飛んでくる質問に答えていく。おそらく、30分程度だろうか。すべき説明を終えた後、ほんの少しだけ崩れた姿勢を整え直し、彼女に向き直る。

 

 

「……とまぁこんなものですね。」

 

「あ、ありがとうございました……。」

 

「貴女の時間を私に預けても良い、そう思って頂けたのなら是非こちらの契約書の方にサインを。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、トレーナーさんヤバい人だった……!」

 

 

少し、いやかなりふわふわしながら帰り道を歩く。出された契約書、その自分の欄に即座に記入した私は、『ではまた明日、放課後に来てください。』なんて言われた後にトレーナールームから退出した。よく解らないけれど、なんでも担当契約の申請とか色々しないといけないことがあるらしい。私もちょっと色々限界だったのもあって、少しだけ逃げるように出て来てしまった。

 

 

「なんでトレーナー試験首席で合格しちゃうような人が私なんかスカウトしてくれたの……!」

 

 

自己紹介の時に聞いたお話。トレーナーさんはなんでもなさそうに、いやむしろちょっと恥ずかしそうにはにかみながらそう言ってたけど、全然そんなモノじゃないと思う。もっとこう、胸を張ってすごいだろー!みたいに言ってもバチが当たらない気がする!

 

バ鹿な私でも知ってる、トレーナー試験って滅茶苦茶難しいってこと! それを首席!? もう雲の上のような人。そんな人が模擬レースで思いっきり負けた私をスカウト? 意味わかんないよー!

 

 

「そ、それに……。滅茶苦茶顔がいいっ! こまる!」

 

 

確かに声を掛けてくれた時、整ってる顔の人だな、って思ったけど……。あのはにかんだ時の顔! ほんと駄目だった。顔が、顔が凄い。直視できない。絶対顔真っ赤だったと思う。耳とか変に動き回ってたと思うし! だ、大丈夫かな? ちゃんと受け答え出来た……

 

 

「出来てない!!! うぅぅ!!!」

 

 

思い返してみてもそんな場面はゼロ! しかも手元に残ったメモはなんだかよく解らない文字ばかり! だって仕方ないもん! 途中からずっとあのいい顔でこっち見つめてくるんだもん! い、一応何となく「かんり主義?」ってのは解ったけど……! こまる! こまるよぉ!

 

 

「と、とにかく! 明日から頑張らなきゃ……! せっかくスカウトしてもらったんだ! 捨てられないようにしないと!」

 

 

両手で頬を叩きながら、気合を入れ直す。

 

模擬レースの結果を見れば自分よりも優れているウマ娘はたくさんいる。だからこそ私がトレーナーさんにアピールするのは必死さ。言うことをちゃんと聞いて、全力で頑張る。それぐらいしかアピールできることが思いつかない。

 

 

「で、でも。あの人が、明日から私のトレーナーさん……。えへへ……!」

 

 

 

 

 








〇タヴァティムサのひみつ・1

実は自身が面食いであることを最近自覚したらしい。




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