転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。 作:サイリウム(夕宙リウム)
続いた。
「あ、トレーナーさん!」
ティムサさんのメイクデビューに向けての練習を行う日々。そんな時、一人ターフで彼女たちが来るのを待っていますと、後ろから声を掛けられました。振り返ってみてみれば案の定そこにいたのは桐生院トレーナー。自身の同期であり、私同様初年度からサブトレーナーではなく、担当契約を結んだトレーナーさんです。
「お疲れさまです、桐生院さん。」
「はい、此方こそ……。あ、すみません、お仕事中でしたか!?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
そう言いながら目を通していた資料を閉じる。
無事担当契約を結ぶことができ、ティムサさんのトレーニングも順調に進んでいます。そして更に運のいいことに、共に練習してくれるご友人たち。銀髪ロングの"バイトアルヒクマ"さん、濃い桃髪の"エキサイトスタッフ"さん、金髪おさげの"フリルドメロン"さんたちに巡り合うことができました。
担当契約を結んだわけではありませんが、此方が指導を行うことを条件にティムサさんのトレーニングに付き合って頂く、という契約を結べたのは非常に素晴らしい。今はまだ『友情トレーニング』を行えるほどの関係ではないですが、ゲーム内ではランダムだった"トレーニング参加ウマ娘"をこちらの意志で好きな練習に集めることができます。
(ゲームをプレイした方なら、この有用さは理解していただけるかと。)
まぁその分、指導するための手間や彼女たちのトレーニング資料の作成。そして今後彼女たちが自身のトレーナーを見つけた時のために、引継ぎ資料など作らなければいけませんが……、必要経費と言っていいでしょう。むしろそれをしていなければ『ウマ娘を利用するトレーナー』として見られてしまいます。それはさすがに避けねばなりませんしね。
「それで、何かご用……、あぁ。もしかしてそちらが?」
「はい! 先日担当契約を結びまして……、ハッピーミークです。ミーク、こちら私の同期のトレーナーさんですよ。」
「……よろしくおねがいします。」
声にほんの少しの緊張と警戒を含みながら挨拶してくる白髪の子。おそらくゲームをプレイしていた方々なら全員が知っているであろう彼女の愛バ、ハッピーミークさんですね。何故か少し目線が鋭いですが……、まぁ嫌われているようではなさそうですし、大丈夫ですかね?
「タヴァティムサさんのトレーナーを務めております。よろしくお願いしますね。……それで桐生院さん、もしやトレーニングのお誘いですか?」
「はい! 併走などでしたら私が付き合えるのですが、やはり他のウマ娘さんとの練習は必須だと考えていまして……、もしよろしければご一緒できないかと!」
笑みを浮かべながら、結構とんでもないことを言う桐生院さん。
案の定と言いますか、やはりゲームで描写があった通りウマ娘並みの身体能力をお持ちなんですねあなた……。少し前の研修会で彼女が『やはり一度自分でやってみてからトレーニングを決めるべきかと。』と発言していたのは記憶に新しいですが、普通の人間はウマ娘と併走したり彼女たちのトレーニングをするのは不可能です。もちろん私も出来ません。……実はウマ娘だったりしませんよね?
っと、返答をしなければ。
「なるほど、こちらこそ是非お願いします。やはり複数人で行う方が強度も上がりますから。ですが一応ティムサさんたちに確認をさせて頂き……、『トレーナーさ~ん!』おぉ、噂をすれば、ですね。」
ターフに持ち込んだ資料を片手にそんなことを話していると、足音と自身を呼ぶ声。そちらの方に振り返ってみればいつものメンバー、ティムサさんがご友人たちを引き連れ楽しそうに走って……。うん? こちらを見た瞬間固まりましたね?
(……もしや怪我ッ!)
即座に意識を切り替え、チートで彼女を確認します。ゲームのステータス表記が見えるようなものですが、もちろん怪我の確認などそう言った細かいところまでの検査も可能です。一通り見てみましたが……、幸い何の問題もなさそうですね。非常に健康体です。しかし何故昨日まで『好調』だった調子が、『普通』に下がっているのでしょうか……?
(まぁティムサさんも中学生。色々あるのでしょう。とりあえず調子が下がったことは留意しておかなければ。)
「あ、あの……? トレーナーさん? そちらの"女性"は……?」
「あぁ。こちらは桐生院トレーナーです。私の同期の方でして、こちらハッピーミークさんのトレーナーさんでもあります。皆さん、ご挨拶を。」
「「「よろしくお願いしまーす。」」」
「よ、よよよ、ヨロシクデス……。」
ティムサさんのご友人の方々が元気よく返してくれるのに対し、肝心のティムサさんはどこか片言。何やら体もギクシャクしているというか、明らかに異常をきたしています。かといって怪我ではないようですし……、コレは早急に『お出かけ』を行いご機嫌を取った方が良いかもしれませんね。
「ご紹介に与りました、桐生院です。」
「ハッピーミーク。ぶい。」
かなりぎこちない挨拶でしたが、そこは大人。しっかりと返してくれる桐生院さんに、ピースを作ってご挨拶のミークさん。私に警戒していたため人見知りかと思ったのですが、他のウマ娘さんとは普通にしているようですね。疑問は少々残りますが、仲良くしていただけるのならば一安心です。
……とと、お二人がこの場にいる説明をしておかなければ。
「実は先ほど桐生院さんに合同トレーニングのお誘いを受けまして。皆さんがよろしければ……、クマさんにスタッフさん、そしてメロンさんは大丈夫そうですね。ティムサさんは……。」
ご友人の方々の名前を呼びながら顔を確認し、問題ないことを把握する。そして肝心のティムサさんだが……、何故か桐生院さんとミークさんの顔を交互に見ながらとても狼狽えていますね。本当に大丈夫でしょうか?
「ティムサさん、大丈夫ですか?」
「ふぇ、ふぇい!? あ、だだだ、大丈夫です!」
「……何かありましたらすぐに言ってくださいね? では皆さん今から桐生院さんと打ち合わせを致しますので、その間に準備運動と柔軟をお願いいたします。ティムサさんは足首の周りを重点的にお願いしますね。」
「は、はい……。」
◇◆◇◆◇
ミークたちの柔軟の様子を横目に、トレーナーさんと今日の予定のすり合わせを行う。
今のこの時間は、家の名前である桐生院などは関係なしに、ただ一人のトレーナーとしてウマ娘に向かう。やはり自身にとってこの職は天職だったのでしょう、この時間がひどく心地いいです。それに、打てば響くようなこのやり取りも。
中央ライセンスの習得後の研修や、この学園に就職した後も何度かこの方とお話しさせて頂いていますが、やはりとてつもなく反応が早い。ターフの予約を確認した際、たまたまトレーナーさんがいることを知り合同トレーニングのことを思いついた私は、いくつかのパターンに分けてメニューを考えてきたのですが……。
「なるほど……、さすがですね。しかし今日は人数が多いですし、こちらの方がいいのではないでしょうか?」
手渡したそれを一目見て、直ぐにアイデアを出してくれる。ベテランの方と似たような会話をさせて頂いたことがありますが、そんな方々と同じレベルのように感じてしまう。まるで最初から答えを知っているかのように返って来る反応。自身よりも上手な方とテニスのラリーをずっと続けるような感覚に近いでしょうか。
この人に負けないように私も励まなければ、それを強く感じさせるような人です。
(……けれど。)
トレーナーとしては、尊敬できる方です。同期として切磋琢磨していきたい人でもありますし、お話ししていて楽しい方でもあります。先輩方との関係も悪いようではないみたいですし、決して悪い方ではありません。ですが、ほんの少しだけ、不安になることが。
(何か、ボタンを掛け違えているかのような、違和感。)
この人がウマ娘さんたちを見る時の眼。全然、なんでもない普通の眼なのだけど……。何故か少し冷たさを感じてしまいます。自分の担当を見る時の眼でさえ、私は少し"おかしさ"を感じてしまいました。他のトレーナーさんたちが担当のウマ娘さんに向けるものとは全く違う、初めて見るような眼。
違和感を強く感じたのはあの模擬レース、トレーナーさんがティムサさんをスカウトした時のことです。
(あの時感じたのは、怖れと、諦め。)
何故あの人があんな眼をしていたのか、理由は全く解りません。ですが普段トレーニング理論などで話し合う時と比べるとまるで別人のようでした。幸い今はその様な眼をしていないようですが……。代わりに感じられるほんの少しの冷たさ。
私のことを見た時のティムサさんの様子。それが少しおかしかった瞬間、弾かれたように鋭い眼で彼女の体を確認し、それから気遣うような目線と発言をしていたので決して悪い人ではありません。"トレーナー"としてあるべき姿だと思います。しかし……
(ハッピーミーク、私がスカウトして、それを受けてくれたウマ娘。私の、大事な担当ウマ娘。少しおっとりしているような雰囲気がある子だけど、誰とでも仲良くできるような、私にはもったいない位のすごい子。)
そんな子が、トレーナーさんを警戒していた。
ヒトよりもウマ娘の感覚は鋭い、おそらく彼女は何かをトレーナーさんから感じたのでしょう。私が感じ、上手く言語化できない違和感を、より正確に。
(けど、ティムサさんたちがやって来て、その様子を見てからはミークがトレーナーさんを警戒することはなくなりました。彼女の中で何か納得が出来たのかもしれません。)
人は第一印象ですべてが決まるわけではないです、けれど一番最初に感じた感覚は案外バ鹿になりません。この人は悪い人ではないのかもしれないけれど、何か抱えているのは間違いないのだと思います。……私が、踏み込んでいいのか解らない問題。けれど多分、できるだけあの人から眼を離さない方がいい。そんな気がしました。
「……よし、っと。ではこの形で進めましょうか。」
「了解です! ……あ、トレーナーさん。実はちょっとお聞きしたいことが。」
「? 何でしょう。」
「あの、ティムサさんと柔軟されているウマ娘さんたちですが……、彼女たちは?」
気になったことを聞いてみると、直ぐに答えを教えてくれるトレーナーさん。
何でもティムサさんのご友人たちのようで、いつも練習に付き合ってくださる方々のようです。全員が未だスカウト前のようですが、教官さんにご許可を頂き、個別にも指導なされているとのこと。
「担当のティムサさんがメインですけどね。面倒を見させていただくのならば十全にやらなければ、と思っております。」
「なるほど……。」
トレーナーさんの『ティムサさんがメイン』というところで、ティムサさんの耳が異様なほどに"ピクピク"と動いていましたが、どうかしたのでしょうか? すぐに収まったようなので大丈夫かと思いますが、後ほどトレーナーさんに報告すべきですね。
そんなことを考えていたため黙ってしまった私。そのせいか隣にいるこの方から彼女たちのトレーニング計画の資料を少し慌てながら渡されます。その様子を見て理解したのですが、世間知らずの私でも『ウマ娘を利用するトレーナー』という存在がいることは知っています。おそらくこの人は『自分はそういう人間ではない』と証明するために見せてくれたのでしょう。
(疑ってないのに……。)
誤解を生んでしまったことに謝りながら、ついでと言うことで頼んでもいない引き継ぎ書まで見せて頂きました。そろそろミークたちの柔軟が終わりそうだったので詳しくは目を通せていませんが、全て非常に細かく書かれています。トレーニング計画の方もそのまま担当されてもおかしくないレベルの代物です。
……まぁティムサさんの計画書はそれの倍ほどの厚さがありましたが。
(今度時間があったら、ミークの計画書と交換して、一緒に議論を深めたいですね。)
「あ、ミーク。柔軟お疲れ様です、大丈夫そうですか?」
「うん。大丈夫、トレーナー。……たくさん友達出来た。」
色々考えを深めていると、柔軟が終わったらしいミークがこっちへと駆けて来てくれる。そして嬉しい報告も。いつの間にかトレーナーさんはティムサさんたちの方へ移動していて、二人で話せるようにちょっと席を外してくれたようです。
「それは良かったですね!」
「うん。……色ボケも、友達。」
「ちょっとミークちゃんッ!!!!」
話を聞いていたのか急に怒り出すティムサさん。……色ボケって何でしょう? とりあえずミーク? 人が嫌がる言葉はやめて、ちゃんとお名前で呼んだ方がいいと思いますよ。
「うん、わかった。」
「……あ!」
「? ドウしました?」
学園支給のジャージで身を包んだウマ娘が二人、校内を歩いていた。すると四葉のクローバーとだるまの髪飾りを付けた方のウマ娘が何か見つけたようで、大きな声を出す。それに少しびっくりした緑の星の髪飾りをしたウマ娘が、『何かあったのか』と声を掛けた。
「あの人! 模擬レースで一緒だった人です!」
「OH! たしかフクが"ダイキョー"の日でしたか?」
「そうです! 水晶占いで大変なことに……。」
どうやら彼女はかなり占いを強く信じる性質のようで、ポケットからはみ出た『今日のラッキーアイテム』である大根からもそれが伺える。服装から見て今から練習に行くようだが、大根を抱えて走るつもりだろうか?
そんな彼女によると、運悪く模擬レースの日は大凶だったようで、その結果を強く信じてしまった彼女は実力を出せずレースでは惨敗。素質だけで見ればティムサを大きく上回るものを持っていたのだが、精神がそれに付いて行けなければ結果は出ない。最下位となってしまった彼女は、ふんぎゃろっ! という謎の奇声を叫んでしまったそうな。
「ですがですが! 今日のデザートに食べた"プッチンプリン占い"では末吉! 星占いは8位でラッキーアイテムの大根さまもこうして持って来ています!!! あの日よりは絶対良い日になるとシラオキ様も言っていらっしゃるに違いありません!!!」
「お~! ナイスデイ! ってことですね~!」
流暢な発音で、それに賛同するウマ娘。どうやら海外からトレセンに入学したようで、未だ大凶や末吉などのランクについてよく理解できていない様子。しかしながら隣にいる友人が楽しそうにしているため、今日がいい日になると感じたようだ。楽しそうに体を揺らしている。
「ん? どうしたのだ二人とも。」
「「エアグルーヴ先輩!」」
そんな今にも小躍りしそうな二人に声を掛けるのは、エアグルーヴ。現在クラシック級のティアラ路線に進んでおり、先日行われた桜花賞にて一着を飾った『桜の女王』である。一時発熱により出走を回避するとの噂もあったが、彼女の強い希望により出走。無事勝利したウマ娘。
どうやら先ほどまで話していた二人のウマ娘と知己の関係のようだ。
「先輩呼びしなくてもいいぞ、タイキ。フクキタル。それで何の話をしていた……、あぁ。知り合いか?」
何をしていたのか聞こうとしたエアグルーヴだったが、二人の視線の先がターフに向けられていたことに気づき、予想を言いながら自分も同じ方向を向く彼女。そこには5人ほどのウマ娘がターフを走り、2人のトレーナーが何かしらの指示を飛ばしていた。
「あれは……、新任のトレーナー二人だな。」
「知ってるんですかエアグルーヴさん!」
「少しな、うちのたわ……、トレーナーが少し零していた。優秀だが新人故、何か困っていたら声を掛けてやって欲しいとのことだ。」
「OH! じゃあ私たちとオンナジでーす!」
ここにいる二人、"タイキシャトル"と"マチカネフクキタル"も今年からレースの世界に飛び込む身である。つまりタヴァティムサたちと同じ世代ということだ。あそこにいる二人のトレーナーも同様であるため、少し嬉しくなったのであろうタイキシャトルが全身で喜びを表現する。
「……あぁそうだ。二人とも何をしていたのだ? そろそろトレーニングを始めてもおかしくない時間だが、トレーナーでも待っているのか?」
「あ、いえ! スズカさんを待ってるんです! 今日の"プッチンプリン占い"によると『友人と共にロードワークすればなお良し』とありましたので!」
「みんなでお外デース! あ! ちゃんとトレーナーさんには言いマシタ!」
どうやら彼女たちは同級生のスズカ、サイレンススズカと共に基礎体力をつけるためにロードワークを行う予定だったようだ。スズカ含めて三人ともトレーナーが違うのだが、許可を取っているということなら大丈夫なのだろう。そう考えたエアグルーヴは『車や通行人には気を付け、暗くなる前には帰る様に』と伝えようとするが……。
「……ん? さっきスズカの奴を見た……、もしやッ!」
瞬間、エアグルーヴの脳内に走る最悪の予想。
彼女がここに来るまでにすれ違ったサイレンススズカは、結構な速度で走りながら校門へと向かっていた。何度も喋ったことはないが、どこか抜けていて、同時に走ることが大好きなウマ娘であることは彼女も理解している。それから考えられるのは……
『もしや我慢できずに一人で走りに行ってしまったのでは……?』
「ッ! 二人とも! 今すぐ奴のトレーナーに連絡を! それと自分のトレーナーにもだ! スズカの奴まだ完全に府中の地理を把握してなかったよな!? 迷子になるぞ!!!」
「わわわわ!!!」
「と、トレーナーサーン!!!」
なお。サイレンススズカは数時間後、無事に確保された。
本人によると『タイキもフクも来るの遅いし、先に走っちゃお』でスタート。途中から走るのが楽しくなって周りが見えなくなり、時間を忘れ走ってしまった様子。そして気が付いたら茨城まで行ってしまい現地の警察に保護してもらったそうな。帰りはトレーナーの車で帰宅したようだが、こってり絞られたご様子。
〇タヴァティムサのひみつ・2
実はトレーナーと楽しそうに会話する桐生院を彼女かと勘違いし、滅茶苦茶警戒した。更にミークからクソ強ウマ娘の波動を感じたため、トレーナーを取られるかもと更に警戒した。あと色ボケじゃないもん! 私普通だもん!
〇現在のステータス(スカウト時)
『タヴァティムサ』 ☆1
芝B ダートE
短G マC 中B 長C
逃G 先B 差C 追F
スピード F
スタミナ G-
パワー G
根性 H+
賢さ H-
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また誤字報告大変ありがとうございます。
次回はメイクデビューです。