転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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9:ホープフルステークス

 

 

「……。」

 

 

観客席の最前列で場所取りをしてくれているクマさんたち、彼女たちの元へと歩きながら思考を回します。

 

ちょうど先ほどティムサさんの御両親から連絡を頂き、軽くご挨拶を済ませてきたところになります。スタッフさんが朝日杯FSに出走なされた時も、メロンさんが阪神JFに出走なされた時も、同じように観戦にいらっしゃったご両親にご挨拶をさせて頂きました。

 

やはりこのような場はどうしても緊張してしまうのですが、娘を預けているトレーナーがオドオドしていればご両親も不安になられてしまうのは必然。できるだけ背筋を伸ばして"自信のあるできる人間"のように接させて頂きました。それと、彼女の勝利を確信しているということも。

 

 

(親族の方々が多く集まられていたメロンさんの時に比べれば、まだ何とかなりましたね。)

 

 

メロンさんの冠名である"フリルド"の一族は多くのウマ娘を輩出していらっしゃるそうで、一族の皆さまが総出でいらっしゃっていました。それを考えるとやはりGⅠという存在は非常に大きなものであることが解ります。ゲームの世界では、我々プレイヤーにとってGⅠは取って当たり前、むしろどれだけミスなく所定のGⅠを制覇できるか、と言ったところ。

 

つまりただの何でもないレースの一つ、と言ったものでしたが……、やはり現実とは違うのでしょうね。これを強く理解できる出来事でした。

 

 

(……それにしても。)

 

 

メジロブライトさん。今日のレースに出走する2番人気で、"本来このレースに勝利するはず"の彼女。

 

以前から自身は、ティムサさんたちが"どの世代"に位置しているのかはすでに理解しています。……いやむしろ、理解していたからこそ、眼を逸らしていたというべきでしょうか。

 

先日の阪神JFにて2着となったメジロドーベルさん、そしてティムサさんと同じ模擬レースに出走していたマチカネフクキタルさん。他にもタイキシャトルさんやサイレンススズカさん、シーキングザパールさんが同じ世代に存在していることは確認済みです。

 

 

(つまり、97年世代。)

 

 

私がティムサさんたちを指導したことで、既に本来の歴史。"史実"とは違う物語が始まろうとしています。いえ、既に始まっているというべきでしょうか。これはつまり"史実"、"原作"の破壊であり、自身がプレイヤーとして愛した世界をなかったものにする行為に他なりません。

 

先ほども挙げましたが。今日のレース、ホープフルSだってレース名は違えどメジロブライトさんが取るはずのレースです。私が今行っていることは、自分が愛した世界を無かったことにする、新しいものに作り替える行為そのもの。

 

 

(……思うことがないと言えば、嘘になります。)

 

 

本来生まれるはずのドラマが生まれない、考えれば考えるほどに思考の渦に囚われそうな議題。自分と言う異物が引き起こしてしまった、存在しない歴史。

 

 

「……。」

 

 

レース直前のパドックで見たメジロブライトさん、そしてタヴァティムサさんの様子を思い浮かべながら、思考を回します。単純なステータスを考えれば圧倒的にティムサさんの方が有利。固有スキルを始めとした各種スキルを一つも保有していませんが、それでも単純な力量差だけで圧倒できると確信してしまう数値。

 

 

〇ステータス

『タヴァティムサ』 ☆1

 

芝A ダートE

短G マB 中A 長B

逃F 先A 差C 追F

 

スピード B

スタミナ D+ 

パワー  C

根性   D

賢さ   C-

 

スキル:なし

 

 

対してブライトさんはその他の出走者と比べれば格段に上ですが、それでもDに到達しているのが複数のレベル。固有スキルと速度上昇・回復系スキルを保有してはいますが、強固な障害となるには足りないというのが本音。ティムサさんが何かのミスをしてしまうことがない限り、勝利は確実と言えるでしょう。

 

 

〇ステータス

『メジロブライト』 ☆5

 

芝A ダートG

短F マC 中A 長A

逃G 先D 差A 追A

 

スピード D-

スタミナ D+

パワー  E

根性   F+

賢さ   D

 

スキル

【麗しき花信風】Lv3

【追込コーナー】

【ペースキープ】

 

 

まだレースは始まっていません。勝負は時の運とも言いますし、結果は終わるまで誰も解らないのが理。しかし自身が指導してきた彼女が負けるとは思えないし、むしろ自身は彼女の勝利を信じている。そして、彼女の勝利を望んでいる。

 

 

「……これが、トレーナーというものなのでしょうか。」

 

 

自身のせいで歴史が、史実が、別物へと変わろうとしている。それに対する恐怖や、後悔。そう言った感情が心の中に存在していることは確かです。

 

けれどそれ以上に、私は"彼女たち"の勝利を、1着で走り抜けるその姿を、望んでしまっている。

 

 

「彼女たちも、それを望んでいる。」

 

 

……ならば、"トレーナー"として。

 

彼女たちの想いを、願いを叶える。自身のつまらない感情などは胸の奥に仕舞って、あの子たちと共に前へと進む。スカウトという、契約という責任が生じたのならば、自身はそれを全うせねばならない。むしろ自身は、それを望んでいる。

 

 

「それが、"私"のすべきこと。なんでしょうね。」

 

 

「あ、トレーナーさん!」

「もうすぐ始まるわよ。」

「こっちで~す。」

 

 

「はい、今行きます。」

 

 

皆さんの呼ぶ方へと足を進める。

 

あぁ、そうですね。悩む必要などありませんでした。今はただ、ティムサさんの勝利を信じ、祈りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タヴァティムサさん、ですか~?」

 

「あ、はい!」

 

 

レース直前のゲート前、自身の番がやって来るまで息を整えていると、後ろから声。振り返ってみればトレーナーに注意しろと言われた"メジロブライト"さんがそこに。

 

確かメジロ家特有のカラーである白と緑、だっけ? その勝負服を身に纏った見るからに"お嬢様"と言う人が挨拶してくれる。明らかに所作が私たちみたいな一般の人間とは違って、気品があってちょっと怖い。なんかほんとに住む世界が違う人だった。

 

 

「今日のレース、お互い頑張りましょうね~?」

 

「……っ! はい! よろしくお願いします!」

 

 

一瞬だけ、その瞳がこちらを射抜くように向けられる。

 

動揺を隠すために、出来るだけ普段通りの声色でそう返し、挨拶を終わらせる。にこやかに笑い軽く手を振りながら離れていく彼女を眺めながら、大きく息を吐きだして、平常心を保つ。いつの間にか私の額には冷や汗が浮かんでいて、眼前にいたあのウマ娘がやはり"私たち"とは違う存在であることを教えてくれる。

 

……終始、あの人は笑みを浮かべ、穏やかな口調で話しかけていた。けれど、確実にアレは獲物を狙う眼だった。

 

どんなに押しても、絶対に倒れない大木のような雰囲気。そして一瞬感じた視線は、立ち向かうが何も為せず疲労した者たちを後ろから涼しい顔をして抜き去っていくことを表しているのだろうか。メジロと言う家が、血がそうさせるのか、それともあの人だけのものなのかは解らない。

 

けれど。

 

 

(……少なくとも、絶対に私にはない"何か"がある!)

 

 

私では一生手に入れられないような、レースに於いて一番重要な何か。持っているだけで、結果を全部塗り替えてしまうような何かを。それこそ私たちウマ娘の間でおとぎ話のように語られる、『領域』という存在。時代を率い、変えていくような人が自然と身に着ける異能。

 

あの人はそんな"異能"を、持っていたように感じる。

 

 

(私が昔、強い人たちに感じていた絶望感。それはない、けれど……。)

 

 

トレセンの中でも上澄みの上澄み、遠目から見ても自分との実力差のせいか思わず目を背けたくなるような人たち。今の私はトレーナーさんのおかげで大丈夫になったけど、おそらくあの子も"そっち側"の人間だ。トレーナーさんのおかげで到達できた場所に、あの子は生まれながらにいる。

 

今はまだ、余地がある。勝てるという自信が、私の中にある。

 

けれどこのレースの中で、彼女が超えて来るという恐怖がある。

 

 

(気を、引締めないと。)

 

 

息を大きく吸い、吐き出し、歩き始める。

 

係員さんの指示に従い、ゲートの中に入りながら思考を回す。トレーナーさんのおかげで大分レースへの理解は深まったけれど、元々の頭が全然良くない私に展望の全てを予測して策を練るなんて不可能だ。できるのはトレーナーさんの指示を思い出して、それをなぞるだけ。

 

 

【11レース、GⅠホープフルステークス。芝、右回りの2000。天候は晴れ、馬場状態も良となっております。】

 

 

ブライトさんは4枠7番。私は7枠12番。かなり外側だから、最初は少し無理をしてでも前に出る必要がある。トレーナーさんによるとスタミナ量は私が頭一つ飛び抜けている、故にここはスタミナの使いどころ。大外を回らされて変にスタミナを削られ同時に後方から来るブライトさんに差し切られるぐらいならば、やった方がいい。

 

 

 

……もうすぐ、出走だ。

 

 

 

 

 

 

【大外テイエムケーニヒが入り、係員が離れます。】

 

 

 

 

 

 

ッ! 今!

 

 

 

 ガコン

 

 

 

【スタートしました! ほぼ揃いました15人、まずはスタンド前先行争いに移ります。】

 

 

 

私は前からのレースしかできない。けど前に出過ぎてもいけない。トレーナーさんの言う通り、私は後ろから常に追われるストレスには耐えられない。誰も前にいない状態で走ることが、性格的に向いていないのだ。同時に、スタッフちゃんのように後方から全てをぶち抜けるような末脚を持っているわけではない。

 

出来るのは、少し無理をして加速、外から入り込むように内側に迫っていくことのみ。いつものように、トレーナーさんが引いてくれた線を、なぞろうとする。けれど。

 

 

(……っ! 内から上がってきた!)

 

 

 

【11番オウゴンリュウ、14番ショウナンノカゼ。内にはブレーブバーンが上がっていきます。そして外から一番人気、タヴァティムサが現在三番手から二番手。】

 

 

 

(! 今、こっちを!)

 

 

私にとっての最善、前から三番手を取ろうとした瞬間、無理矢理前に出てその道を塞がれてしまう。そして交差する視線、知らない顔だけど、此方を見る眼はひどく鋭い。……私の走り方はデビューからずっと変わってない。だからこそ、対策されてきた!

 

メイクデビューは三番人気だったけど、その後は全部一番人気。このホープフルだってそうだった。いつかは対策されるってトレーナーさんが言ってたし、今日もそうなる可能性があるって言われてたけど……!

 

トレーナーさんが書いてくれた線をなぞれなかったせいか、それともいつも通りの動きが出来なかったせいか、焦りが蓄積し、思考が鈍くなっていく。息を整え焦りを吹き飛ばそうにも上手くいかず、接触を避けるために私に残ったのは大外を走ることのみ。

 

 

 

【各バ第一コーナーを抜けまして第二コーナーへ、二番人気メジロブライトは後方から三番手といったところか。】

 

 

 

重心を傾けながら無理矢理コーナーを曲がっていく。

ペース的には許容範囲内。けれどこれまでできていた位置取りを初めて失敗してしまったせいでスタミナを予想以上に削られているような気がする。

 

結局付けたのは前から五番手ぐらい。たぶん悪くはないけれど、指示から少し外れてしまったのが、かなり嫌。このもやもやを何とかするためにも、勝利を確実にするためにも、残る時間の中で私は選択しなければならない。

 

 

(速度を下げてスタミナを保存? それとも現状維持?)

 

 

けれど、今の私には自分で判断できる能力が、ない。落ち着いて考えれば何とかなりそうな気がする、けれど今はそんな状態じゃない。結局下手に変なことは出来ないと考え、現状維持を貫く。けれどやはり不安は拭えず『少しでも勝ち筋を明確にするために』という言い訳をしながら、ほんの少しだけ目線を後方へと向かわせた。

 

ホントは、しちゃいけない。けれどあの人の大きく広がった茶色い髪を見つけたことで、ほんの少しだけ緊張が薄れる。

 

 

 

たぶんそれが、ダメだった。

 

 

 

(ブライトさんは……、かなり後ろ! ッ!!!)

 

 

 

【現在第三コーナーを目指して先頭は1番オールスリーセブン、リードは半バ身程。二番手は11番オウゴンリュウで現在第三コーナーのカーブ。】

 

 

 

ちょうど、彼女が中盤に差し掛かった瞬間。

 

 

それが、起きる。

 

 

 

彼女を中心に世界の時間が止まり、開かれるのは"メジロブライト"の心象世界。

 

 

 

『領域』

 

>【麗しき花信風】Lv3

 

 

 

ただの何でもないターフだった場所が、真っ白な銀世界に。そして空から降り落ちた彼女が手に持った傘を回すと、そのすべてが"春"へと変わっていく。遠目に見た彼女の口角がほんの少し上がった瞬間、世界がガラスのように砕け散っていき……、"加速"が始まった。

 

 

(まずいまずいまずいまずいッ!!!)

 

 

私の心にのしかかるのは、本能的な恐怖。持たざる者と、持つ者との圧倒的な違い。ダメだ、タイミングを間違えれば、差される。抜かれる。負けてしまう。

 

 

(どこ! どこで!?)

 

 

最終直線、遅すぎる。最終コーナー、まだ遅い。第3コーナー。今いる場所。……見えた。スタミナ、まだ何とかなる。残り800mはもう過ぎた、今から全力でのスパート。徐々に速度を上げ、最終直線に入るころには最高速へ。……いけるはずだ。

 

トレーナーさんの指示とは少し違う、私の独断で、スパートを掛ける。

 

不安だ。とても不安。トレーナーさんの指示に従っていれば勝てる。そう確信しているからこそ今まで頑張って来れた。それに背くというのは、私にとって生きる意味を自ら捨てるのと同じくらいのこと。……けれど頭の中のあの人が、微笑んでくれるような、背中を押してくれるような、そんな気が、そんな気がした。

 

あの人が、進めと。走り出せと言っている気がする。

 

……これなら、いける。

 

 

 

(最高速なら私の方が速いッ!)

 

 

 

【ここで一番人気タヴァティムサ加速を開始、一気に三番手、二番手、先頭に躍り出た!】

 

 

 

重心を大きく傾けながら、コーナーを曲がっていく。背後から聞こえる足音の中で、より大きなものが一つ。足が回る速度も、間隔も、他の子たちよりも格段に上。『領域』はどんなものかは解らない。けれどそれが発動した瞬間、ブライトさんの中で何かが変わった。

 

おとぎ話だと思っていた存在が、現実に、私が走るレースに、いる。

 

 

(ここを抜ければッ!)

 

 

 

【先頭タヴァティムサ、タヴァティムサが最終直線へ入った、後続からメジロブライトが上がって来る!】

 

 

 

残ったのは、最後の直線。そして坂。

 

 

(押し、切るッ!!!)

 

 

脚の回転をあげ、速度を上げていく。私に末脚、全てを切り払うような加速力はない。けれど速度さえ上げてしまえば、勝てる。最高速で、私に敵う人はいない。トレーナーさんが、そう教えてくれた。

 

 

「ッ!」

 

 

スパートを早めたせいですでに肺と足に限界が来ている。けれど後方から聞こえてくる足音、絶対に後ろは見れない。逃げ切るしかない。

 

前だけ、前だけを見る。

 

 

 

【タヴァティムサ、タヴァティムサ依然として先頭! 追い込んでくるメジロブライト! しかし差が! 差が広がっていく!】

 

 

 

脚を回せ、速度を保て! 私が! トレーナーさんが鍛えてくれた私が! 一番速いんだ!

 

 

 

 

「はあぁぁぁああああああ!!!!!」

 

 

 

 

【タヴァティムサ一着でゴールイン! 一等星の輝きを見せ、クラシックへとつながるホープフルを制しました!】

 

 

 

 

ゴール板を駆け抜け、即座に掲示板を見る。表記される、番号。一番最初に灯る、私の、12番。

 

 

 

……か、勝てたぁ。

 

 

 

 

 

 








〇着順
1 7 12 タヴァティムサ 2:02.3
2 4 7  メジロブライト 2:03.1 5
3 3 4  ブレーブバーン 2:03.4 2
4 2 2  テイエムローワ 2:03.9 3
5 5 8  ネオストレート 2:03.9 アタマ


〇ステータス

『タヴァティムサ』 ☆1

芝A ダートE
短G マB 中A 長B
逃F 先A 差C 追F

スピード B 
スタミナ D+ 
パワー  C
根性   D
賢さ   C-

スキル:なし

クラス:シルバー

主な戦績:ホープフルS

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