衝突を通して互いの絆を深めた少女達。
蒼乃にとっても桃神以外に友達と呼べる存在ができたのは、むずがゆくも嬉しいことだった。
人と接するのが苦手だと意識していたが、何のことはない。
今までは気の合う相手がいなかっただけなのかもしれなかった。
……大人だったら誰とでも仲良くできるんだろうか?
人との接し方にも正解があって、それを正しく実行することができるんだろうか?
蒼乃実里、小学六年生。
頭に浮かんだ疑問は放り投げて、今を楽しむことにするのだった。
その日の休日も、河川敷に行く予定だった。
意気揚々と準備をする蒼乃だったが、引き止める声があった。
蒼乃の母親だ。
――最近、変な友達と付き合ってるんじゃないの?
内心、舌打ちをする。
ああ、そうだ。
桃神は変なやつだ。
そしてその変なやつと仲良くしているのが、あなたの子供だ。
遊び相手も親に決められないといけないの?
蒼乃は内心で毒づいた。
――魔法少女って何?
背筋が冷えた。
あの時のノボリだ。
桃神といっしょに魔法少女認知度アップのために街を歩いた時だ。
あの作戦にどれほどの効果があるのかはわからなかったが、ある意味で一番認知されてほしくない相手に伝わっていたのだ。
――実里がまだそういうのに興味があるって知らなかった。
――でも、もう六年生だからそういう子供じみたのは――。
「うるさい!!」
逃げるように家から飛び出す。
スマートホンで門限までには帰るとメッセージだけは残した。
家なんて面倒なだけだ。
今は少しでも長く、桃神たちと一緒にいたかった。
あの場所が、きっと自分の居場所だから。
●
「それじゃあこれから『想いの力をかき集めろ!! 魔法少女ワクワクパワーアップ大作戦!!』を始めまーす。蒼乃さん、逃げようとしても無駄よ」
「……あ、はい」
河川敷に着くなりこれである。
自称妖精の一言に柿原と苺谷はワチャワチャしている。
桃神はといえば相変わらずニコニコとお馴染みの笑みを浮かべている。
「桃神さん、魔法少女ワクワク……ええい、ナンチャラ大作戦って何?」
「うーんとね、こう……魔法少女の力をずびぃーっと伸ばしていくイメージで……!!」
「わかったわかった!! わかったからアホ毛を伸ばさないで!!」
マッターホルンと化していくアホ毛に身の危険を感じて慌てて止める。
要するに、桃神もよくわかってないのだろう。
どうも自称妖精が最近、姿を見せなかったのはこのためらしいが……。
「ふふふ、反応は上々ね。魔法少女の力の根源……それは想いの力!! その想いの力の根源は……みんなの想いが詰まった『想い出』の品なのよ!! つまり!! みんなの『想い出』の品を集めることで桃神の力をパワーアップさせることができるのよ!!」
「オモイデ……かあ」
卒業シーズンとかによく聞くやつだ。
やれ写真を撮ったり、記念の品をもらったり……。
自称妖精が準備していたのは集めたものを保管する倉庫のようなもの。
そこは魔法少女の力と結びつきが強く、魔法少女の力を恒久的に引き上げることができる……らしい。
正直なところ、それらの行為にどれほどの意味があるのか蒼乃にはわからない。
でも、今回に限っては協力したい気分だ。
「自称妖精、異空間って他の人は絶対に入ってこれないんだよね?」
「そうだけど?」と、こともなげに返事。
その事実が蒼乃にとっては何よりも嬉しかった。
他の人間に干渉されることはないということだ。
たとえば親にも。
「前みたいな本拠地さ、作ったりできないの? オモイデの品ってやつもそこに集めて」
「蒼乃さん……?」
きょとんとした顔をする桃神。
アホ毛でハテナマークでも作るかと思ったが、別に期待していたわけではない。決して。
自称妖精はといえば満面の笑みを見せている。
真昼間からお酒を飲んでいた時以上の輝くばかりの笑顔である。
「素晴らしい提案よ蒼乃さん!! そうしたらあなた達もずっとそこにいることができるしね!!」
「おおー」と柿原と苺谷からも歓声があがる。
蒼乃は少し誇らしげな気分である。
やっと桃神司のために役に立てた気がする。
「よし!! みんなで好きなものを持ち込んで秘密の本拠地、作っちゃおーーーー!!」
「うお、ミノリンがやる気だ。とりあえず雀卓はいるよなあ~」
「わ、私……漫画とか持ち込んでもいいですかっ!?」
蒼乃の一言に更にわちゃわちゃしだす一同。
桃神はといえば、最初と変わらない笑みでずっとニコニコしているのだった。
「じゃあ各自好きなものを持ってくる流れかー。桃神さんは?」
「え? うーん……蒼乃さん、付いていっていい?」
「え? いいけど……」
家に友達を連れ込むのは、初めてだった。
●
「ここが蒼乃さんの部屋かあ!! 何と言うか……広々してる!!」
「殺風景っていいなよ」
「あうーん」と大袈裟なリアクションを取る桃神は置いといて、机の引き出しをガサガサと漁る。
ここにいるのは桃神と二人だけ。
柿原と苺谷はそれぞれの家だ。
……桃神を家に連れてきた時、母親は少し驚いた顔をして、でも笑顔で迎え入れていた。
大人というやつは作り笑いが得意らしい。
ついさっきまで桃神のことを悪く言っていたのに。
卑怯だな、と思う。
「蒼乃さんのお母さん、優しそうな人だったね!!」
「そう? ネコかぶりなだけだよ」
「よし、お茶のお礼を言いに……!!」(アホ毛しゅるしゅる……)
「わわ!! アホ毛で扉を開けようとしないで!!」
伸びていく毛をブロック。
最初に挨拶した時はクビに巻き付けてマフラーということにしたが、こんなアホ毛を見れば卒倒確実である。
それに、蒼乃としてはこの殺風景な部屋などさっさと出たいのだ。
さっさと秘密基地(仮)に持ち込むものを――。
「……どうしよ。考えてみれば何もない」
「え」
趣味ナシ。
特技ナシ。
友達……最近できたばかり。
「蒼乃さん、ほら!! 鉛筆とか消しゴムとかノートとか……!!」
「流石に恥ずかしい!!」
それこそ学校かよ!! となってしまう。
自分で無趣味だと宣言しているようなものだ。
「本当にどうしよう……!! このままじゃ柿原さんにはいじられるし、苺谷さんには冷たい目で蔑まれちゃう……!!」
言い出しっぺがこれではカッコが付かない。
されど頭をいくら逆さに振ろうが名案など出るハズもなく。
そうだ、こういう時は――。
「桃神さんは? 何か持っていきたいものとかなかったの?」
「え……?」
困った時の神頼み……ならぬ桃神頼み。
それは、蒼乃にとっては何気ない問いかけ。
話題が広がってヒントになればいいな、程度の。
桃神は少し戸惑ったような表情をして、答えた。
「うーん、私、何にも持ってないから」
「あ……」
今度は蒼乃が戸惑う番だ。
なんでこんな質問をしてしまったのか。
桃神は河川敷のテント暮らし。
あの空間には女の子らしいものどころか、ほぼ何もない。
「ごめん!! 私また……!!」
「あはは、いいんだってば。私、魔法少女としてみんなの役に立てればそれでいいもん!!」
「いいもんって……」
あまりに屈託のない笑顔で言うものだから、心配にもなる。
自分と同い年なのに、ここまで人のために戦うなんて……。
やりたいこととかは、ないのだろうか。
好きなこととかは、ないのだろうか。
いや、そもそもだ。
「桃神さん、他の時空から来たんだよね? 家は? 両親とかは……?」
「うーん、そのことなんだけどー」
バツが悪そうな顔をしている。
「ちょっと困った顔がある」みたいな表情で信じられない一言が出てきた。
「私、どこで育ったのかも忘れちゃって、覚えてないんだー」
部屋にひんやりとした空気が流れた。