「覚えてないって……? それじゃあどこで産まれたのかも、どこで育ったのかもわからないってこと?」
「うん、そんな感じ」
そんな感じて。
物心ついた時から魔法少女をやっているのだろうとは思ったけど、もっと根深かった。
「私、魔法少女になった後のことしか覚えてなくて。だから、私にある思い出っていろんな時空を移動して戦ってたことくらいなんだ」
「……」
蒼乃は桃神が言っていたことを思い出していた。
魔法少女は想いの力で戦う。
だからこそ、街に来たばかりの桃神は蒼乃から力を得ることで魔法少女として戦うことができた。
これが何を意味するのか真剣に考えるべきだった。
桃神司には思い出と呼べるような記憶が、一切ないのである。
そんなの、辛くて当然だ。
そんなの、戦えなくなって当然だ。
蒼乃は桃神の手を握っていた。
何でそんなことをしたのか、蒼乃にもわからない。
「蒼乃さん……?」
「ごめん、こうしたくなって……」
手にはアホ毛が巻き付いてた。
これはきっと、桃神なりの照れ隠し。
だって当の本人は、顔をわずかに赤らめている。
蒼乃は考えた。
桃神のためにできることは、本当にこのまま秘密基地(仮)を作るのに協力することなんだろうか。
もっと根本的な問題がある気がした。
「あの自称妖精、そんな状態で桃神さんを戦わせてたなんて……!!」
怒りの矛先は銀髪ピチピチスーツのナイスバディへ。
どこの世界でも保護者なんて同じということだろうか。
縛り付けるだけで、こっちの気持ちなんて全く考えてくれない!!
「桃神さん、イヤだったらあの自称妖精に一言いうべきだよ!! 桃神さんが無理やり戦わされてるだけじゃん、それ!!」
「で、でもお~」
アホ毛をちょんちょんと突き合わせる。
何を悩むことがあるというのか。
「私が戦わなくちゃいろんな時空に迷惑がかかっちゃうし……それに……」
「それに?」
語気が思わず強まってしまう。
珍しく
「私が苦労するくらいでみんなが助かるなら、別に良くないかなあ……? ……ダメ?」
「……」
桃神は無理やり戦わされているのではない。
本人が納得してるのだから、それでいいのだ――。
なんてことはない。
「ダメ」
「ダメかあ~~~~」
蒼乃実里、12さい。
桃神司、推定12さい。
●
「というわけで、秘密基地(仮)に持ち込むものを探すのは止め。あの自称妖精に何て言ってやるか考えよう」
珍しく能動的に動く気になった。
そもそも、オモイデの品うんぬんも言われたままに動いていたと反省をする。
柿原と苺谷はびっくりするかもしれないが、まあ納得してくれるだろう。
これは反抗。
魔法少女の反抗期である。
「はんこーき……って何をすればいいのかな、蒼乃さん」
「人に聞くもんじゃない気がする。でもあるでしょ。大人に何か言われてその……ウザイとか」
「う、うざい!? 今、うざいって言ったの!? 蒼乃さん!?」
そんなに驚かんでも。
でも魔法少女の語彙にうざいって単語があったら確かにやだな……。
蒼乃はこほんと咳を払う。
桃神相手に指導する立場になるのは、正直まんざらでもない。
「やっぱりこう、私のこと何もわかってないくせに、わかってる感出すな的な? 自分の思い通りにしろって言っといて、いざ何か言ったら文句付けるな!! とか……」
「やけに具体的だね、蒼乃さん!!」
ちょっと楽しくなってきてしまった。
桃神の相談だったはずだが、ぶっちゃけ自分の不満を吐いているだけである。
「桃神さんもほら。あの自称妖精にガツンと」
「う、うーーーーん……。何にでも醤油をかけていると塩分を取りすぎちゃうよ……とか」
「健康面を気遣ってどうするの。ほら、使い魔レースとかいうのにおカネ使ってるんでしょ、あの人」
「ええと……応援の時に叫びすぎたらノドを痛めるよ……とか?」
「気遣いから離れよう」
アホ毛を組んで本気で
どうやら素で良い子すぎるために反抗的なことを思いつかないらしいのだった。
……桃神らしいといえばそうなのだが。
ちょっとだけ、自分の小ささを思い知らされる。
「蒼乃さん、必要なのって本当に『
「……じゃなきゃ、何?」
「うーん。話し合って解決!! とか」
「それができないから……!!」
「やろうとしたの?」
「……」
やろうとは、してない。
現に今日、家から出るときだってなかば飛び出す形だった。
仕事だって両親ともに忙しいだろうし、しゃべらないことは蒼乃なりの
「蒼乃さんのお母さん、きっと優しい人じゃないかな」
「どうしてそんなことが言えるの?」
「何となくフンイキが。それに蒼乃さんのお母さんだしね!!」
「……理由になってない」
「そうかな?」と首をひねる桃神。
やがて何かに気づいたようにアホ毛が電球のごとく閃いた。
「そうだよ!! 蒼乃さんのお母さんに何を持っていたらいいか相談しようよ!!」
「え、えええ!? やだよ!! 私とお母さん、仲悪いんだよ!!」
「だからそれは蒼乃さんが思い込んでるだけだって!! 話してみれば親子のモンモンも吹っ飛んで、本拠地に持ち込むものもいい感じに見つかるって!!」
「なんて都合よい発想なの……!!」
このポジティブさが魔法少女たる証なのだろうか。
……いや、本当に親と面と向かって話すなんて。
蒼乃は苺谷に謝る時と同じことを考えていた。
「モンスターと戦うのよりも緊張するかもしれない」と。
●
話は案外すんなりといった。
友達と見せ合うから「思い出の品」がないか聞けば、蒼乃の母は驚いた顔をしたものの、腕いっぱいほどの箱を持ってきてくれた。
その中には、蒼乃が昔使っていた玩具とかが入っているらしい。
桃神が元気よくお礼を言えば、蒼乃の母は笑っていた。
心なしか安心しているように見えた。
蒼乃は何となく親に借りを作るようでバツが悪かったが、でも懐かしい心地よさもあった。
昔はこうやって親に無理なお願いをしては困らせていた。
それを忘れたいと思っていただけで。
部屋に戻って、ふうっと息を吐く。
「疲れた……。お母さん、あれもこれも出そうかってうるさいんだもん……。これだけで十分って言ったのに」
「あはは!! それだけ蒼乃さんが大事ってことだよ!!」
「もう」と軽くすねてみるも、今回は桃神に感謝しないといけないのかもしれない。
何となく気まずかった母親と話す機会ができた。
……これで全部が上手くいくとも思えないけど、ちょっとずつ思ったこと、考えたことを話していったら、案外どうにかなるかもしれない。
「ありがとう蒼乃さん!! 今回の件で私も勇気をもらえたよ!! 何かあったら妖精さんとちゃんとお話しする……!!」
「……どう考えてもお礼を言うのはこっちの方。ありがとう、桃神さん」
珍しく面と向かってお礼を言ったものだから、思わず顔が赤くなる。
「えへへ」とアホ毛で頬をかく少女から目線をそらして、蒼乃は箱を漁るのだった。
自分にとっての思い出が詰まっている箱を。
「あれ……?」
「どうしたの、蒼乃さん?」
箱の中には蒼乃が昔に使っていた玩具がある。
確か幼稚園のころからのものだろう。
だが、そんなことは問題ではない。
ふと気になったのだ。
箱の中に「魔法少女」に関するものがないことに。
「……」
「どうしたの、蒼乃さん」
「桃神さん、魔法少女って……いったい何なの?」
「え?」
蒼乃自身、意図がわからない質問。
静かな部屋の中で、アホ毛がささやくように揺れていた。