「うわああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」
少女が絶叫とともに目を覚ます。
辺りを見渡しているが、何も心配することはない。
自分は少し、怖い夢を見ただけなのだ。
今は現実だ。
何の嘘も存在しない.
目に見える物はすべて本物。
混じりっけなしの爽やかな朝だった。
「桃神さん……!? 桃神さんは!? 柿原さんに苺谷さんも!!」
少女は少し錯乱しているようだ。
友人達の名前とともに、存在しない
普段はクールなキャラで押し通す彼女にもこうした面があるようだ。
少女らしい、あどけない一面が。
「みんな!? どこ!? どこに行ったのよ!?」
パジャマのまま飛び出そうとした少女は親に捕まった。
抵抗するより着替えた方が早いとみるや、支度を済ませ朝ご飯を
慌ただしくも、希望に満ちた一日が今日も始まるのだった。
●
「柿原さん!! 苺谷さん!! いた!! いたんだ!!」
少女は一時間目が始まる前に隣のクラスに突貫。
不思議がる二人へと体当たりする勢いで突っ込んで行く。
名前を呼ばれた二人は、心底驚いた様子だ。
余程怖がったか、『苺谷さん』の方などは『柿原さん』の陰に隠れてしまった。
「ん。ミノリンじゃん。わざわざ隣のクラスからどしたの? すげー汗だけど」
「桃神!! 桃神さんは!? あなた達は怪我してない!? モンスターは!? もういなくなったの!?」
「ひ……」と柿原がのけ反るも蒼乃はおかまいなし。
一息でしゃべりすぎてついにむせ上がってしまった。
「恵……蒼乃さんどうしちゃったの……?」
「さ、さあ……。保健室案件かな、これ」
露骨に距離を取られている。
微笑ましい朝に、少女が汗を撒き散らせながらしゃべる。
「桃神さん、学校には来てなさそうだった!! 河川敷かな!? こうなったら今から行って……!!」
「そ、その~。ミノリン……まことに言いにくいことなんだけど~」
「なに!? 桃神さん、こうしてる間もどこかで倒れてるかも!! 早く行かなくちゃ!!」
「その桃神さんというのは……どこの誰で?」
「はあ!? こんな時にふざけてんじゃないわよ!!」
「……。ふざけてんのはお前だろ」
苺谷が慌てて柿原の手を引く。
蒼乃は引き下がらず、なおも必死の形相である。
「桃神さん……最後まで戦っていたの……あ、私から何か出てきてそれと戦って……」
「あ、あの……蒼乃さん」
苺谷がおそるおそる口をはさむ。
横で不機嫌な顔をしている柿原に代わってのことだ。
「その『桃神さん』っていうのはどこの誰? 他の学校の人?」
「だから……!! 私のクラスに転校してきた……!!」
「転校生なんて、最近来てませんよ」
「え……」
心底、間の抜けた顔。
「そもそもこんな中途半端な時期に転校してくる人、そんなにいないと思います」
「そんな!! アホ毛が長くて自己紹介で魔法少女って名乗っていたのよ!? あなた達だって聞いたことあるって言ってた!!」
「え、えええ!? そこで私達を巻き込むんですか……? というか魔法少女……?」
朝の他愛のないやり取り。
こうして少女達の日常は紡がれていく。
何の変哲もないけど大切な日常が――。
予鈴が鳴る。
「ほら、自分のクラス帰りな。私達の仲だから水に流すけど他のやつにはやんない方がいいぞ、そのノリ」
「大方、夢でも見てたんだろ」と柿原は付け足した。
呆然と少女は立ち尽くす。
そう、これまでのことは全て夢だったのかもしれない。
けれど夢に意味がないなんて言い切れるのだろうか。
「違う……!! 違う違う違う……!!」
現実に『魔法』なんて存在しない。
けれど物語は見たものの心の中に確かに何かを残すのだ。
「現実に立ち向かう勇気」という名の『魔法』を――。
少女は今日も日常を過ごす。
心の中に残った『魔法』とともに――。
「違う違う違う!! 桃神さんは……いる!! 確かにいた!! 変なやつだけど……好きだった……私は……好きだったんだ……あの子のことが……」
――先生!! 隣のクラスの人が情緒不安定です!! 誰か連れてってください!! (ワハハハハ!!)
日常をともす笑顔とともに。
「私は……認めない。だから……」
私は駆け出した。