校門を抜け出しそのまま外へ。
学校の出欠と友達の安否、どちらが大切かなんて聞くまでもない。
向かう先は河川敷。
あの時、何かが起こった場所。
途中、勢い余って思いっきりこける。
ポケットからスマートホンが飛び出した。
連絡?
ダメだ……!!
出会ったその日。
夜道を走る桃神さんを見かけて電話したけど繋がらなかったんだ……!!
「クソ……クソ……!! クソクソクソクソ!!」
私の口から口汚い言葉が漏れる。
何に対する文句なのか、自分でもわからなかった。
●
「桃神さーーーーん!! どこーーーー!?」
河川敷。
戦いのあった場所には何も異変がなかった。
テントがあった場所にも名もわからない雑草が生い茂るだけだ。
いくら呼んでも、何の反応もない。
いくら声を枯らしても、何も起こったりしない。
焦るな。
落ち着け。
桃神さんは魔法少女。
ちょっとやそっとのことが起こっても大丈夫なはずだ。
今ほしいのは手がかりだ。
そしてその手がかりを持っているのは――。
「どこに行ったのよ……!! あの自称妖精!!」
あいつだ。
あの胡散臭い自称妖精だ。
最初から最後まで腹に
決戦の時だっていなかったではないか!!
「クソーーーー!! 出てこい自称妖精ーーーー!!」
はちきれんばかり叫んでも何も起こらない。
まだだ。
まだ何かを見落としているはずだ。
ぐるっと辺りを見渡した私は、ある事実に気づいた。
「川……!?」
そうだ。
ここは河川敷。
目の前には川がある。
「まさか桃神さん……!! あの戦いの衝撃で川に落ちたんじゃあ……!!」
あり得る。
というかそれしか考えられない。
それぐらいしか、桃神さんが私の前に姿を現さないなんてあり得ないじゃないか!!
「待ってて桃神さん!! 今すぐ探すから……!!」
ぷっ……あは!! あははは!! あははははは!!
「え……? 何この声?」
振り向くとそこに女性がいた。
銀髪をたなびかせ、SFのような体をピッチリと覆うスーツに身を包み、一般的には魅力的とされるボディラインを持ち、そして――。
背中から羽を生やした女性が。
「妖精ぃぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃーーーーー!!」
「ハロー蒼乃さん。蒼乃さんがあんまり面白かったから出て来ちゃった。えへ」
私の拳が
よろけた勢いでタックルを試みるも手応えはなくそのまま地面に倒れてしまった。
見上げた先にはにやにやとした笑み。
「まったく、動物園から逃げ出した獣じゃないんだから。何がそんなに不満があるんだか」
「桃神さんを出してよ!! あなたが何かやったんでしょ!?」
今度は飛び蹴り。
相手は棒立ちなのに、体が透けてるみたいで全く当たらない!!
何か策を考えないと……!!
「それにしても桃神が川に……ぷくく!! どんぶらこ、どんぶらこ~ってか? いいわ。あんまり面白かったから全部教えてあげる」
「何がおかしいんだーーーー!!」
私は妖精の足元の草をむしりだした。
影が本体……あるいは周囲の草から力を得ている。
あり得なくはない。
ヘラヘラと笑みを浮かべるこいつに少しでもダメージが通る可能性があるなら、やるしかなかった。
「それよ、その攻撃性……。モンスターが目指している時空の特異点……それは
「ウソぬかしてんじゃねーーーー!! そんな……私がそんな恐ろしい何かなんて……そんな……!!」
ウソだ。
本当はうすうす気づいていた。
決戦の時、私の体からは確かに黒いモノが溢れていた。
私の体は、
「自らの認識を拡張し、滅びの願望を宇宙全体に拡大する……。そんなクソ迷惑な存在があなたなのよ。ネガティブループに陥れば宇宙が滅びる。音もなく死んだとしても何が起こるかわからない。さしずめ歩く地雷女……本当に迷惑な存在」
「ふざ……ふざけるなああああぁぁぁぁ!!」
妖精と重なり体をバタバタさせる。
自分の願望を世界に反映させる?
そんなもの、存在するはずない。
そんなもの――。
魔法少女じゃあるまいし。
「もうわかったでしょ? 桃神司が何なのか。私が好きなアレよ。使い魔レース」
「それ以上……しゃべらないで……」
私は草むらに突っ伏した。
決して心が折れたとかではない。
体力が尽きてそうせざるをえなかっただけだ。
「桃神司は魔法少女。『魔法』は実際には存在しない認識の力。つまり――」
「ああああぁぁぁぁ!! しゃべるなああああぁぁぁぁ!!」
「桃神司は実際には存在しない
「……ま、あなたの使い魔みたいなものだったわけね。おかしいとは思わなかったの? あんなアホ毛が長くてピンク髪の女、実際に存在するわけないじゃない。Mythic Mutant(半精神生命体)……それが桃神の正体よ」
「貴様ぁぁぁぁーーーー!!」
地面に叩きつけた拳から血が溢れていた。
そうだ、桃神さんだっていっしょだ。
私と同じ血の通った人間だ。
言うことにかいて、人間じゃないだなんてそんな――。
「要するに力を持っていたのはあなたなのよ蒼乃実里。そしてそれを伝えれば精神が不安定になり一瞬でこの宇宙が滅びる可能性があった。だからあなたの体に取りついていたモンスターを少しずつ浄化するしかなかったのよ。桃神司という虚構の存在を通してね」
「違う……違う違う!!」
私は普通の少女で、桃神さんは魔法少女だ。
じゃなければ――。
あの笑顔も、自分をいたわってくれる優しい仕草も。
最初から全部、存在しなかったことになってしまう。
「あなた言ったよね? 何でこの力が魔法少女と呼ばれるのかって。順番が逆よ。この力が魔法少女と呼ばれない時空は漏れなく滅びてしまうから。考えてもみなさい。宇宙を移動したり消滅させたり、時間を巻き戻したりできる存在が無数にいるのよ? 精神的に未成熟な存在に全ての
「うるさーーーーい!!」
力いっぱいの反論は河川敷に虚しく響くだけだった。
何も起こることはない。
ここはただの現実で、何の魔法も存在しないから。
「あなたに巣くうモンスターは浄化されたし、『魔法少女桃神司』はあなたとは切り離され、この星を守る概念的存在となった。少女から切り離されたこの星を守る守護神……『魔法神』とね。それこそが究極変身よ。あの子は真の意味でこの世界を守る存在となったの。
「なに言ってんだテメ――――!! う……」
気分が悪い。
頭がクラクラしてきた。
情けない
当然、私のものだ。
これのどこが幸せだ。
今、はっきりとわかった。
私にとっての幸せは――。
桃神司が、隣にいてくれる日常だ。
「あー楽しかった。ま、魔法神になった桃神がどれくらい持つかはわからないんだけどね。いやいや、信じて待ち続ければ何万年後か何億年後か平和になったある日、桃神が帰ってくるかもしれないわよ? あ、人間の寿命はそんなにないんだっけ? あはは!!」
「お前ーーーー!!」
最後の力を振り絞ったタックルは、ほとんど芝に倒れ込むだけになってしまった。
振り返っても、何もいない。
――じゃあね。せいぜい
「お、お……おお……」
お。
おおお。
お。
「おおおおええええぇぇぇぇ!!」
不快感とともに私の口から汚いものが出てくる。
朝に食べたご飯が、悪臭を放つ嘔吐物と化して私の服に垂れていった。
やがて親がやってきて私は捕まった。
本気で心配していたのか何かを泣き叫んでいたが私の耳には入らない。
私が考えていたのは自称妖精が言っていたことだ。
このまま
これが幸せな終わりだと。
「諦めない……私は絶対に……」
スマートホンがブルブルと振動していることに、この時は気づいていなかった。