魔法少女桃神司   作:MOPX

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夢現回想

 

夢を見ていた。

 

少女の表情はクレヨンで塗りつぶされたみたいにわからない。

 

――待って!! 行かないで!!

 

少女が振り返り、俯いて去っていく。

 

――そんなつもりじゃ、そんなつもりじゃなかった!!

 

言葉は頭の中でぐるぐると回るばかり。

どうして一言いうだけのことができなかったんだろう。

 

取り残された少女()は立ち尽くしていた。

 

どうすることもできなまま。

 

 

私は目を覚ましていた。

 

 

「……」

 

 

スマホで時計を確認すると深夜だった。

どうやら倒れ込んでそのまま眠っていたらしい。

 

見ていたのは果たして夢だったのか。

 

桃神司は私の前から去っていった。

いったいどんな表情だったんだろう。

どんな気持ちで最後の「さよなら」を言ったのだろう。

 

ここに来てやっと、そのことに思い至った。

 

「本当にバカだな……私……」

 

電気を付けて、玩具箱を取り出した。

あの時、妖精に言われるままに『想い出』の品を持っていった。

きっとあれも桃神司を私達と切り離すのに必要な儀式だったのだろう。

 

「……」

 

私は箱の中を漁った。

何でそんなことをしているのか自分でもわからなかった。

ここにあるのは特に変哲もない自分の過去だ。

 

こんなところに、桃神さんとの思い出はないはずなのに。

 

玩具箱を漁る。

その奥底へと手を伸ばす。

 

小さな箱があった。

箱を開けると紙切れが大量に入っていた。

 

ところどころ青いクレヨンで塗りたくってあるそれが。

 

 

箱を机の上に持っていき、テープを取り出す。

ひとつずつ、並べていって、ぴったりとはまる組み合わせを探す。

こんなことをやったって、意味なんてないってわかってるのに――。

 

縦横無尽な傷跡が私の前に立ちふさがる。

けれどひとつずつ、傷を塞いでいき――。

 

ついにその絵は完成した。

 

 

幼稚園の頃、私がビリビリに引き裂いた絵が。

 

「……」

 

蒼いドレスはとても雄大に。

胸のリボンはとてもかわいらしく。

 

良く描けてると思った。

自分にはもったいないくらいに――。

 

 

「まだそんなことをしていたのね。あなたは」

 

 

驚いて椅子から転げ落ちそうになる。

振り返れば自分の部屋に女性がいた。

 

流れる銀髪。

しなやかな流線形を描くボディライン。

そして、背中から生えた蝶のような羽根。

 

 

妖精がそこにいた。

 

 

「……」

 

「あら、今回は殴りかかってこないのね」

 

「どうせ通じないんでしょ。あなたこそ何をしにきたのよ」

 

さっと先ほどの絵を折りたたんでパジャマのポケットに入れる。

妖精がこのタイミングで来たのには理由があるはずだった。

もしかしたらこの絵が桃神さんを戻すために重要なのかもしれない。

 

 

「ふふふ、最後のお別れを言いに来たのよ。まあ、反省会っていうか? 私は星のインターフェース、誰かと話すことでしか思考として発露することができないのよね」

 

「ゴタクはいい……!! 何が言いたいのよ!! クソ妖精!!」

 

「いやあ~ちょっと賭けに負けたっていうか? ここぞというところで勝負弱いのよね~私」

 

「……?」

 

賭けに負けた?

レースの話か?

 

確かにいつも外したと大騒ぎしていたけど――。

 

 

「ほら、あれあれ」

 

促す先は窓の外。

警戒しつつ外に顔を出し、天を見上げた。

 

 

「は……!? 何あれ……!?」

 

 

闇深き夜。

本来は見えるはずの夜空はそこにはない。

 

空にヒビが入っていた。

このちっぽけな街を覆う巨大なヒビが。

 

「何なのよ……!! 何なのよアレは……!!」

 

「ま、完全に予想外だったわね。モンスターの親玉の親玉が来たのよ。桃神司はあなたから切り離されてこの(時空)を守る機構となった。そして、それがいつまで持つかはわからなかった……」

 

唄うように、妖精がせせら笑う。

 

「一日持たなかったわね、あの子。弱いとは思ってたけどここまで使えないとは思わなかったわ」

 

気付く。

ヒビとこの(時空)の間に桃色の光が弾けていることに。

 

「桃神さん……!!」

 

今、こうしている間も戦っているのだ。

あのアホ毛を揺らしているいつも笑顔の少女が。

 

筆記用具を妖精に投げつける。

やはりダメージを与えることはできなかった。

 

「やっぱり暴力に訴えるのね。あーあ、話相手としてあなたを選んだけど失敗だったかしら? でも柿原さんや苺谷さんに気が利いたことが言えるとは思えないのよね。手詰まりって感じだしこの時空を守るのはもう無理かしらねー」

 

「あなたは……」

 

「ん?」

 

「あなたはどうしてそんな冷静なんです!? 私達の世界が滅びそうになってて……桃神さんが頑張って戦ってくれてるのに……!!」

 

 

妖精は、こともなげに言った。

 

 

「別に。次の時空を守るのを頑張るし」

 

 

最初から、基準が違っていたのだ。

この妖精にとって、時空のひとつは拠点のひとつ程度にしかすぎない。

それがなくなっても悲しんだり怒ったりなどしないのだ。

 

いや、そもそも感情なんてものはないのかもしれなかった。

 

私に見せているそれらは、全て便宜(べんぎ)上のもの。

実態のない幻。

 

私がそこにあると、思い込んでいるだけの。

 

それでも、言わずにはいられないのだ。

 

「あなたは……間違っているわ、妖精」

 

「あら? あなただってこんな世界どうでもいいと思ってたんじゃないの? そもそも100年そこらの寿命で死ぬのと今すぐ宇宙ごと滅びるの、何が違うって言うの?」

 

答えない。

そんなわかりきったことの問答に費やす時間なんて1秒もない。

スマートホンで柿原さんと苺谷さんに電話を入れる。

出ないので、「今すぐ空を見て河川敷に行って」とだけメッセージを入れておいた。

 

私は部屋の外へと向かった。

 

 

「あら、何をするつもり? もうすぐ世界は滅びるんだけど?」

 

「そんなことやらせない。この街を……桃神さんを私は守る」

 

そうだ。

私のやりたいことはこんなにシンプルだったんだ。

 

自分を守ってくれた子を、守りたい。

妖精が言ってたことなんて知ったこっちゃない。

 

「私は……桃神さんに伝えなきゃいけないことがある」

 

それだけ言って扉を開けた。

後ろからせせら笑う声が聞こえた気がする。

 

妖精の誘いなんて、こっちから願い下げだった。

 

 

 

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