「体を吹き抜ける
うわ言のように繰り返す柿原さんの無事を確認し、私は今一度自分の姿を確認する。
フリフリのドレスは見かけほど動きにくくはない。
軽く念じれば足は地面から離れていた。
「わわ!! 飛んでますよ!! すごい!! 飛べるタイプの魔法少女だ!! 体を吹き抜ける
さっきまでの震えはどこへやら。
苺谷さんが目を輝かせて私を見ている。
……さすがに照れるからあんまり騒がないでほしいんだけど。
とりあえず柿原さんの前に着地。
ケガとかはしてないようだ。
「というかさっきの爆発はなんなんだよ敵を瞬殺していったけど!? どうやったんだ体を吹き抜ける
「あー、あれは魔法少女が初めて変身した時だけ使える技っていうか……」
「ドレス!! 本物の魔法少女のドレスです!! というか蒼乃さんが魔法少女だったなんて!! 触ってもいいですか!? 体を吹き抜ける
「ちょい待って。いま緊急事態なの思い出して。とりあえずさっき空から落ちてきた敵は爆発で一掃したけど……」
「いや、あんだけ落ちてきてたら被害とか出てるんじゃないか……? どうなんだよ体を吹き抜ける
「部分的に時間を巻き戻せた感覚もあるし大丈夫よ。あと言いたいことがあるんだけど」
「手袋!! スベスベです!! ほおずりしてもいいですか体を吹き抜ける
「……その、あなた達」
「何だよ、体を吹き抜ける
「何でも言ってくださいね体を吹き抜ける
「その呼び方やめろ~~~~!!」
二人にはチョップをお見舞いした。
●
「いたた……だってあんなスラスラ名乗り上げたらツッコミたくもなるだろ……」
「だから!! それはみんなで考えたんだってば!! 追加戦士になれるようにって!!」
「私達が……」と何だか感慨深そうにしている苺谷さん。
……そんなことより、二人には伝えないといけないことがある。
「ありがとう、二人とも」
「ど、どうしたんだよ急に……助けられたのはこっちだぞ?」
「自分達も魔法少女になれないかって言い出したのは柿原さんよ。私に魔法少女の名乗りの大切さを教えてくれたのは苺谷さん。だから……ありがとう」
全然論理的じゃないかもしれない。
でも、そう思いたくなった。
あの時、四人で過ごした時間は決して無駄じゃなかったって。
そのおかげで私は魔法少女になれたんだって。
頬をかく柿原さん、はにかんでいる苺谷さん。
今ここにいる二人のおかげで。
でも、まだこれからだ。
私の、いや、私達の目的はこれからだ。
「空は……まだひび割れてるな。ってか酷くなってんぞ……!! いよいよどうにかしないと……!!」
「蒼乃さん、何か手はあるんですか……?」
「……やってみる」
ふうっと一息入れる。
『宇宙を移動したり、作ったりする存在』
魔法少女について自称妖精はそう言っていた。
そんなことができるんなら、当然異空間へ移動することだってできるはずだ。
……あの自称妖精が言っていたことを真に受けるようで
でも、切り開くのは私だ。
「はああああ!!」
空間に手を掛ける。
そのまま引き裂くように下へ――。
蒼色の光が虚空に弾ける。
「うおおお!? すげえ音!? 黒板キィーってやるみてえ!!」
「恵……!! 今いいところだから静かに……耳やば!!」
空間に入った線をこじ開けるようにのぞく。
先に広がるのは真っ白な空間だった。
「どんな感じだ?」と聞く柿原さんに返事をする。
「飛べないと無理かな……? 柿原さんと苺谷さんも抱えていけば何とか……」
「私達はここに残ります」
きっぱりと言い切ったのは苺谷さんだ。
その瞳には強い決意が溢れている。
「一般人が魔法少女の足を引っ張るわけにはいきません。……助けにいくんですよね? 桃神さんって子を」
「苺谷さん……」
「まー、そいつのことはまだ思い出せないけど……四人そろったら麻雀でも打つか。三人打ちでも一人休みでいいしな」
「柿原さん……」
……どうやら私は本当に友達に恵まれたみたいだ。
私の知らない世界から、私の世界を彩ってくれる友達たちに。
そんな二人に私は精いっぱいの所信表明をするのだった。
「絶対に桃神さんと一緒に帰ってくるから……。恵、彩、待っててね」
私は空間の裂け目へと入っていった。
「行っちまったな……なあ彩、私達がここに来た意味ってあったのか……?」
「ありましたよ。友達を一番近くで応援できます」
「はは、ちげえねえや。……桃神ってやつどんなやつなのかな。蒼乃の友達だろ? 何かやばそうだな……」
「きっと良い子ですよ。……魔法少女なんだったら、きっと」
「桃神ってやつどんな打ち筋なんだろな。天和連発したりして」
「ふふ、恵ってば麻雀のことばっかり」
「人間って怖くなると逆に落ち着くもんだなあ。……なあ彩、手、握っていいか?」
「もう握ってるじゃないですか」
「私達にできること、やるか」
「ええ。最後まで信じて応援しましょう。……魔法少女は想いの力で戦うものだもんね」
●
真っ白な空間の中に蒼い風が吹く。
感覚はつかんだ。
上へ上へ。
何かある。
そう感じる方へ。
やがて私は桃色の光に包まれた。
ここが世界と世界の境界面?
視界――正確にはそう感じているもの――が桃一色だ。
「……」
――やっとわかった?
――これが今の
――概念であり単一波長の可視光線。それが――
「違う……よね」
だってこの光は暖かいから。
桃神さんが転校してきてから今日までの
自分が信じなくて誰が信じるのだ。
決戦の時、別れ際に桃神さんは優しく背中をさすってくれた。
いったいどうやって?
決まっている、アホ毛だ。
いつだって桃神さんはそのアホ毛で感情を表してくれていたんだ。
もちろん、困ることもあったけど――だからこそそれは、私が望んでいる
私達が認識に依る存在で、感情に振り回される存在で、何かを強く想っている存在だというなら――。
アホ毛こそが、桃神さんの本体だったんだ。
だから、ここは――。
「桃神さんの……アホ毛の中……」
一面の桃色から
やがて私は一人の少女の姿を見た。
少女はうずくまっていた。
麻雀のカード、アニメのグッズ、そして落書き帳を抱え込むように。
私は一歩ずつ近づいていく。
あの時、彼女がそうしてくれたように。
「ねえ、覚えている? 昔、幼稚園で一人の子供が泣いていたこと」
……。
「私は確か先生に怒られて、それですねて泣いちゃったの。……自分が悪いのにね」
……。
「そんな私に手を差し伸べてくれた優しい子がいた。女の子は私に、魔法少女の絵を描いてくたんだけど……」
……。
「私はその絵をビリビリに引き裂いちゃった。自分はそんなにかわいくて、強い存在じゃないよって」
……。
「私は……あなたに伝えたい」
私は涙を流していた。
「本当に……本当にごめんなさい!! あなたの優しさを踏みにじって!! ビリビリに引き裂いて!! 本当に……ごめん!!」
あの時、私に魔法少女の絵を渡してくれた少女は桃神司だった。
本人ですらもともといた時空を忘れていたと言っていたが、私達がいるこの世界だったんだ。
お互いに忘れてしまっていただけで。
だから桃神司はやっぱり生きた人間であるはずで――。
――お願いだから、帰って。
「桃神さん……」
やっぱり都合の良いことを言いすぎなんだろうか。
私が来たからといって今の状況がどうにかなるわけじゃない。
あの時のことだっていまさら許してもらおうだなんて虫が良すぎる。
桃色の境界面は、今も絶えず揺らぎ続けている。
――ここは、人間のいるところじゃないから。
「あなただってそうだよ……。それにほら、私だって魔法少女になれたんだよ。あなたのおかげで……。モンスターの親玉の親玉だっていっしょに……」
――もう、遅いの。全部。
「……!!」
桃色の境界面に穴が開く。
そこから黒いモノが入ってくる。
全身凶器みたいなそれらが桃色の世界で暴れ回る。
それは、言うなれば少女がむき出しの暴力に晒されているようで――。
――う、うう……。
「桃神さん!!」
少女は今も、大切に私達の『想い出』の品を抱え込んでいる。
……おそらく私達の想いの力で今まで敵を抑え込んでいたけど、もう持たなくなってきてるんだ。
そして、この空間が崩壊したら恐らく桃神さんは――。
「させない……絶対にそんなことさせない!!」
桃色の空間を飛翔する。
全身凶器みたいな敵は私へとその鋭いモノを向けた。
私はそれに、応戦する。
大切な
そうだよね、桃神さん。
「爪!!」
私の手から伸びた数本の蒼い線。
なぎ払えば黒い敵は上下ばらばらに散っていく。
やっぱりだ。
魔法少女の武器は
強く想えば何だって武器になる。
指の先、皮膚の一部だって――。
黒い敵を私はぐちゃぐちゃに引き裂いていく。
うずくまる少女は体を震わしていた。
ごめんね。
怖いよね。
全てを斬り裂く蒼き爪は私そのものだ。
こうやって何かを傷つけるのが、私という人間の本質なのかもしれない。
それでも――。
「あなたを救いたいって気持ちにウソはない!!」
どうすれば伝わるかわからないから直接言う。
おこがましいかもしれない。
でも、ちょっとでも力になれるのなら私は何だってするだろう。
小さな頃からあなたにもらったもの、少しずつでも返していきたいと思ったから。
うずくまる少女の前に、敵が現れた。
私は周囲を取り囲む敵を一振りで切り伏せる蒼き嵐となって急降下。
少女に迫る敵を一振りでかき消していく。
「桃神さ――」
――違うの。
「え」
――怖いのは……私。
少女の体がぐねぐねと膨らみだす。
やがてそれは私を包み込んでいく。
触れていく。
それは過去の断片。
少女が何を考えていたのか。
その記憶だった。